「都会はもう、いいかな」—。神奈川のメーカーでエンジニアとして10年働いた近藤さんは、ふとした想いから全国の島々を巡り、五島市への移住を決めました。
移住と同時に入庁した五島市役所で、前職のスキルを活かした生成AI導入や、市民に寄り添う支援に奔走する日々。移住前後の苦労から、島ならではの温かいコミュニティ、そして「パパになった」驚きのプライベートまで。等身大の言葉で語る、五島での働き方をご紹介します。
- 都会を離れ、日本中の島を巡ってたどり着いた「五島の温かさ」
- 「まずは飛び込んでみる」未知の土地で選んだ市役所という選択
- エンジニアの知見を活かしたDX推進から、島の次世代を支える窓口業務まで
- ギャップに驚いた風通しの良い職場と、移住者ならではの「方言」の壁
- 海と家族に囲まれた至福の暮らし。島ならではの「不便さ」も楽しむ覚悟
都会を離れ、日本中の島を巡ってたどり着いた「五島の温かさ」
ーまずは、五島市に入庁されるまでの経歴と、移住を決めたきっかけを教えてください。
近藤:出身は愛知県で、大学は京都の大学に通っていました。卒業後は神奈川県にあるメーカーに就職し、エンジニアとして10年ほど開発職に就いていました。
都会での生活も充実していましたが、30代を前にして「都会の暮らしはもう十分かな」とふと思ったんです。そこから「島に住もう」と決めて、日本全国の島々を巡り始めました。
ー全国にはたくさんの魅力的な島がありますが、その中でなぜ五島市だったのでしょうか?
近藤:沖縄や鹿児島の離島も検討しましたし、実際に足を運びました。どこも海は綺麗でしたが、最終的に五島を選んだ決め手は、理屈ではなく「人」でした。
移住の下見で五島に来た際、夜の街に飲みに出かけたんです。そこで出会ったおじさんたちが本当に温かくて、初対面の僕を家族のように受け入れてくれました。
その時の心地よさが忘れられず、「ここならやっていける」と直感したんです。もちろん、沖縄の離島にも引けを取らない海の美しさも大きな魅力でしたね。

「まずは飛び込んでみる」未知の土地で選んだ市役所という選択
ー移住先を決めた後、仕事として五島市役所を選んだ理由を教えてください。
近藤:正直に言うと、神奈川に住みながら離島での仕事探しをするのはかなり難しかったんです。そんな中で、市役所なら給与面でも安定していますし、生活に困ることはないだろうと考えました。
最初から「一生公務員でいよう」と気負っていたわけではなく、「もし他にやりたいことが見つかったらその時に考えればいい。まずは五島での生活をスタートさせよう」という軽やかな気持ちで受験を決めました。
ー採用試験でのエピソードで、何か印象に残っていることはありますか?
近藤:一次試験が長崎市の県庁で行われたのですが、ちょうど大きな台風が直撃した日だったんです。試験が終わって外に出たら、街中の飲食店やお店が全部閉まっていて。
コンビニかパチンコ屋くらいしか開いていない光景を見て、「長崎の台風はすごいな」と圧倒されました(笑)。
ー二次試験の面接では、どのようなやり取りがあったのでしょうか。
近藤:前職から年収が大幅に下がる予定だったので、面接官の方からは「本当に後悔しない?」「給料下がるけど大丈夫?」と何度も念押しされました。「両親や周囲の人はどう思っているのか」といった心配までしていただいて(笑)。
かなり現実的な確認をされましたが、終始ざっくばらんな雰囲気で、こちらの想いをしっかり聞いてくれる優しさを感じました。

エンジニアの知見を活かしたDX推進から、島の次世代を支える窓口業務まで
ー入庁して最初に配属された「未来創造課」では、どのようなお仕事をされていたのですか?
近藤:エンジニアとしての経験を買っていただいたのか、全庁的なシステム管理やサーバー運用を担当しました。驚いたのは入庁してわずか1ヶ月後のことです。上司から「幹部会議で生成AIについて説明する場に同席してほしい」と頼まれたんです。
ー入庁1ヶ月で幹部会議への出席とは、かなりの大役ですね。
近藤:そうなんです。当時はちょうど生成AIが話題になり始めた時期でした。当日の説明自体は上司の方がしましたが、事前に資料を準備し、市長や幹部の前でデモンストレーションを行いました。「入庁したばかりの自分に、これほど大きな裁量を与えてくれるのか」と驚くと同時に、やりがいを感じましたね。
その後も検証を重ね、2年目には全庁的な導入を実現することができました。自分の持っているスキルが、市のDX(デジタルトランスフォーメーション)に直接貢献できている実感があり、とても嬉しかったです。
ー現在は「こども未来課」に移られたとのことですが、業務内容に変化はありますか?
近藤:今はひとり親家庭への手当事務や、婚活イベントの企画、少子化対策などを担当しています。以前の部署は裏方での作業が多かったのですが、今は窓口で直接市民の方とお話しする機会が格段に増えました。少子化対策という島の未来に関わる大きな課題に取り組んでおり、前職とは全く異なる視点で仕事と向き合っています。
今の部署はパソコンに詳しい人が少ないので、業者の方より詳しいと頼りにされるのも、良い関係性作りに繋がっていると感じます。

ギャップに驚いた風通しの良い職場と、移住者ならではの「方言」の壁
ー職場の雰囲気についても教えてください。公務員の世界は堅いイメージを持たれがちですが。
近藤:僕も入庁前は「田舎の市役所だし、パワハラとかあるのかな」なんて勝手に偏見を持っていました(笑)。でも実際は全然違って、すごく風通しが良いんです。
自分の考えを率直に言いやすい環境ですし、上司にも恵まれています。今の「こども未来課」は検診に来るお子さんがいたり、職員同士のコミュニケーションも多かったりと、すごく明るくて活気がありますね。

ー仕事の中で、「移住者」だからこそ感じた苦労はありますか?
近藤:やはり一番は「方言」ですね。普段の会話なら聞き返せばいいのですが、例えば窓口で市民の方が少しヒートアップされている時などは「言葉が分かりません」とは聞きづらい場面もあるので、必死に文脈を読み取って推測するしかありません。
でも、移住者コミュニティや飲み屋で出会ったおじちゃんたちとの会話を通じて、少しずつ島の言葉に慣れていきました。酔っ払ったおっちゃんの言葉が理解できれば、大抵の市民の方の言葉は分かるようになりますよ(笑)。
海と家族に囲まれた至福の暮らし。島ならではの「不便さ」も楽しむ覚悟
ー移住してからの生活で、最も大きな変化は何でしたか?
近藤:こちらで出会った方と結婚し、パパになったことですね。神奈川にいた頃は毎晩のように飲み歩いていましたが、今は週末になると子どもと一緒によく海へ遊びに行きます。家族と過ごす時間は何物にも代えがたいですね。
ー移住して良かったと思うことは?逆に、覚悟しておいた方が良いことはありますか?
近藤:良かったことは、やはり自然の豊かさと食ですね。神奈川の海も親しみがあって素敵ですが、五島の海ならではの透き通るような美しさには、また格別の感動があります。魚も本当に美味しいです。子どもも海が大好きなので、気軽に遊びに行ける今の環境は最高だと思います。
一方で、覚悟しておくべきは「島特有の自然のリズム」です。五島はある程度栄えていて非常に生活しやすい街ですが、やはり海に囲まれている分、波が高くなると船が止まってしまうこともあります。
たまに旅行の計画を見直したり、台風の際にスーパーの品揃えが変わったりすることもありますが、それすらも「島暮らしの醍醐味」として楽しめるくらいの余裕があるといいですね。
ー最後に、五島への移住や市役所での仕事に興味を持っている方へアドバイスをお願いします。
近藤:島に移住したいけれど仕事に悩んでいるなら、とりあえず市役所で働いてみてはどうでしょうか。島の中では給与水準も高いですし、休みも普通に取れます。
イベントなどで土日出勤があることもありますが、代休や手当の制度もしっかりしているので、決してブラックな環境ではありません(笑)。
「完璧な準備」ができるのを待つのではなく、まずは飛び込んでみてください。美味しい魚と、美しい海、そして温かい人たちが、あなたの挑戦を待っています!

ー本日はありがとうございました。
10年という長いキャリアをリセットし、見知らぬ島へと飛び込んだ近藤さん。その決断の裏には、決して「安定」だけではない、人との繋がりを求める温かな好奇心がありました。
インタビュー中、ユーモアたっぷりに笑う姿からは、五島の海と、そしてそこで手に入れた「家族」を慈しむパパとしての横顔が覗き、こちらまで晴れやかな気持ちになりました。
「まずは飛び込んでみては」という言葉は、不確かな未来に踏み出そうとする多くの背中を、そっと、でも力強く押してくれるはずです。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年2月取材)



