うきは市役所で一般事務 文化財担当職として働く、重岡さんのインタビュー記事です。大学院で考古学を学んだ後、地元うきは市へUターン就職。専門知識を活かし、文化財保護の最前線で奮闘する重岡さんに、仕事の魅力ややりがい、そして「発掘」だけではない文化財保護業務の奥深さ、うきは市ならではの特徴について詳しく伺いました。
ーまず、入庁までの経緯を教えていただけますか?
重岡:今年度で入庁4年目になります。大学では文化財、特に考古学を専攻しており、もともと自治体の文化財専門職を目指していました。
ただ、なかなか希望する業務の求人は出ず、大学院に進学し勉強しながら就職活動を続けていましたが、地元うきは市で文化財担当の募集が出たため入庁し現在に至ります。
自分の専門分野や希望する地域で、タイミングよく募集があるとは限りません。地元に帰りたくても帰れない研究者仲間も多くいます。そんな中で、うきは市の募集が出たのは本当に幸運でした。専門とは少し異なりますが、地元で文化財に関わる仕事ができるなら、と挑戦することにしました。
ー募集の形式はどのようなものだったのでしょうか?
重岡:学芸員など専門職採用ではなく、「一般事務(文化財)」という括りでの募集でした。ただ、試験内容には専門試験があり、実技と筆記がありました。
実技試験は、遺跡から出土した土器の実測、つまり図面を作成する作業でした。筆記試験は、うきは市だけでなく福岡県内も含めた考古学の基礎的な知識を問うものが多かったです。うきは市の場合は、装飾古墳が非常に多い地域なので、それに関する問題は重点的に出題されました。考古学の基礎がしっかり身についているかが問われたと思います。
ー「装飾古墳」という言葉が出ましたが、うきは市は文化財、特に古墳に関して特徴的な場所なのでしょうか?
重岡:そうですね。うきは市は文化財の種類が多岐にわたりますが、一番の特徴はやはり古墳の多さです。特に「装飾古墳」と呼ばれる、内部に彩色や彫刻で文様が描かれた古墳が集中しています。全国に約700基しかないと言われている装飾古墳のうち、70基が国史跡に把握されており、そのうち7基がうきは市に存在しているんです。
これらは全て国の史跡に指定されており、保存状態も良好なものが多く、公開時には全国から多くの方が訪れるほど、学術的にも価値の高いものです。

ー全国的にも非常に貴重な古墳群があるのですね。
重岡:はい。ただ、実はまだ国や県の指定を受けていないものの、非常に重要な古墳も市内に多く存在します。それらを将来的に指定・保護していくためには、まず詳細な調査が必要ですが、まだ手が付けられていない古墳も少なくありません。
名前の付いていないものまで含めると、市内には100基以上の古墳が残っていると考えられています。つまり、調査・研究の対象となる遺跡はまだまだ豊富にあります。
例えば、若宮古墳群という場所があるのですが、まだ指定は受けていませんが極めて重要な古墳群で、もし本格的に調査するとなれば、10年単位の計画が必要になるほどの規模と価値を持っています。
―なるほど。それだけ多くの貴重な文化財がある中で、重岡さんは現在どのようなお仕事をされているのですか?
重岡:所属は教育委員会生涯学習課の文化財保護係です。仕事内容は文化財全般に関わりますが、主なものとしては、まず国指定史跡を含む古墳などの史跡の管理ですね。草刈りや清掃、標柱の管理など、日常的な維持管理を行います。
次に、資料館の管理運営です。市内の遺跡から出土した遺物の展示や、企画展の開催などを行っています。今年度は、市内の道の駅にあるギリシャ様式の円形劇場が建設100周年を迎えるので、その記念展示なども担当しました。
そして、発掘調査です。宅地開発などで遺跡が壊される恐れがある場合に行う「緊急発掘調査」と、研究目的で計画的に行う調査があります。緊急発掘調査はうきは市では年に1回程度ですが、研究目的の調査は補助金などを活用して行っています。発掘調査後は調査報告書を作成します。
また、古墳のガイド案内も重要な仕事です。秋の一般公開シーズンなどを中心に、小学生からお年寄りまで、様々な見学者の方に古墳の魅力や歴史的価値を解説しています。
さらに、現在特に力を入れている大きな仕事の一つが、古墳の整備工事です。貴重な古墳が風雨で崩れたり、内部の装飾が劣化したりしないように、保存状態を維持・向上させるための工事設計から、実際の工事監理まで行っています。
―多岐にわたるお仕事ですね。特に整備工事というのは、専門的な知識が必要そうですが。
重岡:そうですね。古墳の工事は特殊で、一般的な土木工事とは全く異なります。特に装飾古墳の場合、振動や薬剤の影響を避けるため、使用できる資材や工法が限られます。重機が使えない場所も多く、作業員さんと一緒に手作業で土を掘ることもあります。
外部業者が入る建築工事などでも、文化財に影響がないか、常に現場に立ち会って監督する役割も担っています。
ーどのように仕事は覚えていったのですか?
重岡:事務的な手続きや書類作成などは、係の先輩職員に丁寧に教えていただきました。ただ、現場での作業や対応については、当時在籍されていた同職の先輩の調査やガイドに同行して、やり方を見て学び、実際に自分でやってみる、という繰り返しでした。
ー実際に働いてみて、入庁前にイメージしていた仕事内容とのギャップはありましたか?
重岡:大学時代は、とにかく発掘調査に参加して、新しい発見をすることが考古学の仕事だと思っていました。しかし、実際に自治体職員として文化財保護に携わるようになって、発掘調査が、ある意味では遺跡の「破壊行為」にもなり得るという側面を知りました。
一度掘ってしまったら、元には戻せません。だから、やみくもに掘るのではなく、「掘らないで済むなら掘らない方がいい」という、「保存」を第一に考える視点がとても重要だと学びました。自治体職員としては、まず文化財を守り、未来へ継承していくことが最優先です。
その上で、どう活用し、その価値を伝えていくかを考えなければならないという発想の転換が一番大きいギャップです。
ー「発掘」から「保存」へ、視点が変わったのですね。では、仕事のやりがいについて教えて下さい。
重岡:もちろん、調査によって新たな事実が判明したり、貴重な遺物が出土したりした時の喜びは大きいです。特にうきは市のように、まだ調査されていない重要な古墳がある場所では、研究目的の発掘調査に携われること自体が貴重な経験ですし、市の歴史を深く理解する上で欠かせない仕事だと感じています。
一方で、地域の方々に文化財の価値や魅力を知ってもらう活動もやりがいを強く感じます。地元の方でも、すぐ近くにある古墳がどれだけすごいものか、意外と知らないことが多いんです。その価値をいろんな場面で知ってもらえるのは嬉しいですし、保存活動においての意義も感じています。

ー具体的にはどのような活動があるのですか?
重岡:昨年度から「こども古墳カルチャーガイド」という事業を始めました。これは、市内の小学生に古墳について学んでもらい、最終的には一般の見学者に対してガイドをしてもらう、という取り組みです。
他の市町村での事例を参考に始めたのですが、子供たちの吸収力や成長速度が想像以上に速くて、驚いています。定期的にガイド発表の機会を設けているのですが、回を重ねるごとに内容が深まったり、自分たちで調べたことを付け加えたり、表現を工夫したりと、どんどんレベルアップしていくんです。
ー素晴らしい取り組みですね。では、職場での他職員の方との連携についてはいかがですか?
重岡:連携は非常に多い方だと思います。特にイベント開催時などは人手が足りなくなるので、課内はもちろん、他の部署の職員の方にも応援をお願いすることがよくあります。また、開発行為に伴う文化財保護の手続きなどでは、都市整備課など関係部署との連絡調整が不可欠です。
職場の雰囲気としては、皆さんとても協力的で、相談しやすい環境だと感じています。とはいえ、正直なところまだまだ文化財に対する理解が十分に浸透しているとは言えない部分もあるかもしれません。
だからこそ、積極的に情報発信していくことが重要だと考えています。例えば、管理職の会議などで文化財保護に関する周知を行ったり、開発計画の初期段階から関わらせてもらうよう働きかけたり、庁内への啓発活動も、私たちの大切な仕事の一つです。

ーワークライフバランスについてはいかがですか?お休みは取れていますか?
重岡:休暇は比較的取りやすい環境だと思います。ただ、秋の古墳公開シーズンやイベントが集中する時期などは、どうしても土日の出勤が増えます。その場合も、もちろん代休を取得できるので、平日に休みを取ってリフレッシュするようにしています。仕事が落ち着いている時期は、定時で帰れることも多いです。
ー今後、どのようなことに挑戦していきたいですか?
重岡:やはり、もっと現場での経験を積みたいと思っています。先ほどお話ししたように、うきは市では緊急発掘調査の件数は少ないですが、研究目的の調査は行われています。しかし、発掘調査の現場経験は、数をこなさないと技術が身につきません。その機会をもっと増やし、調査技術を高めていきたいです。それが、うきは市の文化財の価値をさらに深く理解し、適切に保護・活用していくことに繋がると考えています。
ーこれからうきは市で文化財保護に携わりたいと考えている方へメッセージをお願いします。
重岡:まずは、うきは市のことを好きになってくれる人、うきは市の豊かな歴史や文化に興味を持ってくれる人と一緒に働きたいです。最も重要なのは、文化財を「守り伝える」という意識を共有できることです。
特に古墳を専門に学んできた方にとっては、国指定の重要な装飾古墳がこれだけ集中し、まだ調査の余地も多く残されているうきは市は、非常に魅力的なフィールドだと思います。古墳が好きな方、歴史が好きな方、そして何よりうきは市の文化財を守り伝えたいという熱意のある方、ぜひお待ちしています。
ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年4月取材)