長崎県の中央に位置し、豊かな自然と歴史を誇る長与町では、現在、学芸員が不在という状況にあります。(2025年11月取材時点)
そんな長与町の「学芸員」の仕事の魅力を、生涯学習課文化振興班の班長を務める浦川さんが語ってくれました。
未解明な文化財が眠る長与町で、新たな歴史を発見し、地域に貢献するやりがい。
そして、和気あいあいとした職場の雰囲気や、ワークライフバランスの充実など、学芸員としてのキャリアを考えている方にとって、大切なヒントになるはずです。
プロフィール
ー浦川さんは一般事務職でご入庁されたとお聞きしましたが、これまでのキャリアについて教えてください。
浦川:長与町役場に入庁後、まず都市整備課に5年間勤務し、都市計画や公園の管理などを担当しました。
その後、生涯学習課に2年、長崎県庁に出向して都市計画関係の部署に2年、秘書広報課に3年、介護保険課に5年勤務し、現在の生涯学習課文化振興班に異動して2年目になります。

長与町での学芸員の仕事
ー現在、浦川さんが所属されている生涯学習課文化振興班の業務内容を教えてください。
浦川:文化振興班では、学芸員1名、係員1名、班長1名の3名体制が基本となります。
学芸員の主な業務は文化財の振興ですが、文化振興班ではイベントの企画・運営も多く行っています。
例えば、毎年8月には平和コンサートを実施し、子ども向けの弦楽器講座を約3ヶ月間開催したり、11月には町民文化祭や音楽祭、芸能祭なども実施しています。
ー学芸員のお仕事としては、具体的にどのようなことをされているのでしょうか?
浦川:学芸員のメイン業務は文化財の保護と活用です。長与町には有形・無形の様々な文化財があり、有形文化財では主に発掘調査を担当します。
長与町が学芸員を募集する理由の一つに、発掘調査を進めたいという背景があります。現在、長与町では主に「長与皿山窯跡」と「長与三彩窯跡」の発掘調査を進めています。
長与皿山窯跡は江戸時代の窯跡で、登り窯の跡が見つかっています。
長与三彩窯跡では、長与三彩の破片が発掘されており、長与三彩に関わる遺構があったのではないかと考えられていますが、窯跡などはまだ見つかっていません。
近年、周辺の住宅整備事業で別の窯跡が見つかり、それが貴重な遺構であることから、今年初めて発掘調査の現地説明会を行いました。
無形文化財については、町内に9団体ある郷土芸能の保存や伝承の活動支援を行っています。
約5年おきに郷土芸能大会も実施しており、学芸員の方にはこれらの事業にも関わっていただくことになります。


ー発掘調査以外にも、学芸員の仕事には様々な業務があるようですね。事務作業や窓口対応もあるとお聞きしましたが、具体的にどのような内容なのでしょうか?
浦川:発掘調査以外にも、町内の遺跡に関するお問い合わせ対応やPR活動があります。
以前は、遺跡巡りの研修会や歴史講座なども実施していましたので、今後もこれらの企画・実施を担っていただきたいです。
また、工事の際に遺跡の近くに家を建てたいという方がいらっしゃると、支障がないか事前に調査を行い、問題ないかを判断する業務も発生します。
窓口対応としては、不動産業者さんから「この場所が遺跡に該当しないか」といったお問い合わせが多くありますし、住民の方から遺跡について尋ねられることもあります。
さらに、陶芸体験ができる「陶芸の館」という施設の管理運営も学芸員の仕事になります。
これら以外にも、文書の受付や伝票起票・決裁といった一般的な事務作業や文化振興班としてイベント運営の手伝いなども行っていただきます。専門的な業務だけでなく、庶務的な業務も公務員として必要な知識となるため、色々な業務に携わっていただきます。
仕事の「やりがい」と「厳しさ」
ー生涯学習課における仕事のやりがいや面白さは、どのような時に感じられますか?
浦川:イベントの企画・運営では、「どれくらい人が来てくれるかな」と思いながら準備を進め、実際にたくさんの人が来てくれて「今回のイベント良かったよ」という声をいただけると、すごく嬉しいですね。
発掘調査に関しても、私自身まだ携わって期間が短いのですが、調査を進めて新しい遺跡が発見された時の喜びはひとしおです。
長与町にはまだ調査・研究する余地がある遺跡がたくさん眠っていますので、学芸員の方にはそうした未開拓の文化財の調査に携わり、新しい歴史を発見するやりがいを感じていただけると思います。

ーやりがいを感じる一方で、仕事の厳しさや大変だと感じることはありますか?
浦川:そうですね。現在、学芸員が不在なので、新しく来られる学芸員の方には、学芸員の先輩がいない状況になります。
そのため、専門的な案件について分からないことがあっても、すぐに相談できる先輩がいないというのは、大変に感じる点かと思います。その都度、自分で調べたりしながら知識を深めていく必要があります。
また、住民の方から様々なご意見をいただくこともあります。
「ここに貴重な遺跡があるのに、文化財として扱っていない」「文化財の管理がちゃんとできていない」といったご指摘をいただくこともあり、そうした声に対して調整を行うのは、苦労する点だと感じています。
中には、自分たちが全く知らなかったようなことに関する情報提供もあるので、常に学び続ける姿勢が求められます。
職場の雰囲気とワークライフバランス
ー生涯学習課の職場の雰囲気や風通しはいかがですか?
浦川:生涯学習課では、イベントの際に他の班とも協力し合うことが多いので、班内の連携はもちろん、課全体の連携もかなり強い方だと思います。
普段から和気あいあいとした雰囲気で、堅苦しい感じではない職場ですね。みんなで協力し合って業務に取り組んでいます。

ーワークライフバランスについてはいかがでしょうか?土日勤務や残業、代休や有給休暇の取得状況について教えてください。
浦川:土日に出勤した場合は、その時間に応じて、1日または半日の代休を取得できます。
有給休暇についても、ある程度取得できています。上司の方からも「まだ有休が残っているよ」などと声かけをしてくれるので、代休も有休も取得しやすい職場だと感じています。
土日出勤はありますが、自分で仕事の調整をしながら、代休や有給休暇を取得していける環境だと思います。
長与町の学芸員を目指す皆さんへのメッセージ
ー最後に、今後、長与町の学芸員を目指す方へのメッセージをお願いします。
浦川:長与町には、長与皿山窯跡や長与三彩窯跡をはじめ、山城の跡などたくさんの遺跡があります。まだまだ研究の余地が大きく、やりがいのある仕事だと感じています。
有名な遺跡ばかりではありませんが、実際に私自身も触れてみて「ここはどうなっているんだろう」と探求心を刺激される場所がたくさんあり、時間があればもっと掘り下げたいと思うほどです。
研究のしがいがあり、やる気次第でいくらでも仕事を作り出せる環境だと思いますので、ぜひ前向きにチャレンジできる方に長与町の学芸員として来ていただきたいです。

ー本日はありがとうございました。
今回のインタビューを通して、長与町には未開拓の文化財が数多く眠っており、学芸員として新たな発見ができる可能性を秘めていることが強く伝わってきました。
また、住民の方々との交流や、和気あいあいとした職場の雰囲気も魅力的で、専門性を活かしながら地域に貢献したいと考える方にとって、大変やりがいのある環境だと感じました。
学芸員として働く未来の仲間が、長与町の歴史と共に、これからもずっと未来を照らし続けることを心から願っています。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年11月取材)



