長崎県島原市役所で学芸員として働く山下さんのインタビュー記事です。
大学・大学院で考古学を専門に学び、他自治体で嘱託職員として経験を積んだ後、島原市役所へ入庁した山下さん。その仕事は、遺跡の発掘調査から歴史的建造物の保存活用、さらには市民との交流イベントまで多岐にわたります。
専門知識を活かし、地域に根ざして働くことの魅力、そして島原市ならではの文化に触れるやりがいについて詳しくお伺いしました。
- 考古学への情熱を追い求めて、学芸員の道へ
- 専門性を活かせる場所を求め、島原市役所へ
- 歴史と市民をつなぐ、学芸員の幅広い仕事
- 島原市ならではの魅力と、学芸員としてのやりがい
- 未来の仲間へ。安心して働くことができる環境
考古学への情熱を追い求めて、学芸員の道へ
ーまずは、自己紹介をお願いします。
山下: 島原市教育委員会文化財課で学芸員として勤務しています。現在は入庁して6年目になります。
大学と大学院で考古学を専門に学び、卒業後は他自治体の教育委員会で嘱託職員の学芸員として4年間、文化財の保存や活用に携わってきました。その後、縁あって島原市役所に入庁しました。

ー考古学を専門にされていたとのことですが、興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
山下: もともと小学生の頃から日本史が好きで、特に考古学に興味がありました。出身は佐賀県唐津市なのですが、実家が遺跡の上にあったり、近くに埋蔵文化財を扱う資料館があったりと、歴史を身近に感じる環境で育ったことが大きいですね。
進路を考える時期になり、「自分の好きなことをもっと深く勉強したい」という気持ちが強くなり、大分県内の大学で考古学を専門に学ぶことにしました。
大学で学ぶうちに、ますますこの分野の面白さに引き込まれたため、大学院に進学し、専門知識を深めていきました。
在学中は机上の学問だけでなく、発掘作業などのフィールドワークを通して地域の歴史に直接触れる機会にも恵まれました。遺跡の調査だけでなく、民俗学や石造物の調査で山に入ったりと、文化財全般に関わる仕事の幅広さを知ることで、学芸員という仕事への憧れが一層強くなりました。
専門性を活かせる場所を求め、島原市役所へ
ー前職も学芸員として活躍されていたとのことですが、なぜ転職を考えたのでしょうか?
山下: 前職では嘱託職員として働いていましたが、1年ごとの契約だったため、将来的には正職員として、より腰を据えて地域に貢献したいという思いがありました。
転職を考える上では、自治体だけでなく文化財調査会社のような民間企業という選択肢もありましたが、私は地域に根ざして、住民の方々と文化財をつなぐ役割を担いたいと考えていました。そんな時に、ちょうど島原市で学芸員の正規職員募集をしていることを知りました。
島原市は、私が専門としていた縄文・弥生時代の遺跡が多く、北部九州の文化圏としても非常に興味深い地域でした。自分の専門性を活かしながら、地域貢献ができる絶好の機会だと感じ、採用試験に挑戦することを決めました。
ー自治体間、そして同じ学芸員としての転職ですが、不安などはありましたか?
山下: 仕事面というよりは、島原市に縁もゆかりもなかったので、新しい土地での人間関係をゼロから築いていくことに不安がありました。
しかし、実際に来てみると、地域の皆さんがとても温かく迎え入れてくれました。仕事柄、地域の方々と話す機会が多いのですが、皆さん本当に親切で、子育ての面でも助けていただいています。
今では、生活も子育てもとてもしやすい環境だと感じていますし、不安はすっかりなくなりました。
歴史と市民をつなぐ、学芸員の幅広い仕事
ー現在の仕事内容について詳しく教えてください。
山下:遺跡の調査や発掘された文化財の保存・活用といった従来の業務に加え、昨年度「文化財保存活用地域計画」が策定されたこともあり、その業務範囲は多岐にわたります。
外での発掘調査はもちろん、デスクワークも少なくありません。たとえば、遺跡調査を進めるための手続きや、市民に文化財をアピールするための広報戦略の立案なども重要な業務です。
市民に文化財をより身近に感じてもらうためのイベント企画にも力を入れています。学芸員の案内で市内の文化財を巡る「まち歩き」イベントや、発掘された土器や石器を、ショーケース越しではなく直接触ってもらう出張展示などもその一環です。
現場での調査から、市民との交流を深めるための企画まで、幅広い仕事を通じて、地域の文化を次世代へつなぐ役割を担っています。


ー本当に幅広く携わっているのですね。学生の頃イメージしていた学芸員の働き方と現実で、ギャップはありましたか?
山下: 大学の先生から「行政の職員になったら何でもしないといけないよ」と聞いていたので、ある程度なんでもやるんだろうなというイメージはしていましたので、そこまで大きな乖離はなかったですね。
ただ、学芸員としての専門業務だけでなく、市職員として通常業務のほか、全庁的なイベントや選挙事務に従事することもあります。
学芸員のイメージというよりは「市の職員はこんなことまでやるの?」と驚きましたが、市役所の一員として地域に貢献できる良い経験だと捉えています。
島原市ならではの魅力と、学芸員としてのやりがい
ー仕事のやりがいや、特に「楽しい」と感じる瞬間はどんな時ですか?
山下: やはり、一番楽しいのは発掘現場に出ている時ですね! 土器や石器が、数千年前、数百年前に置かれたであろう状態で見つかった時など、まさに歴史的瞬間に立ち会っているという興奮があります。
また、市民向けの文化財巡りイベントも大きなやりがいです。私たちが説明することで、参加者の方が「知らなかった!」「面白いね!」と興味を持ってくださり、そこから「今度は友達も誘って歩きたい」といった声が聞かれると、本当に嬉しいです。
私たちが一方的に教えるだけでなく、逆に参加者の方から地域の昔話を聞かせていただくこともあり、双方向の交流によって、地域と文化財のつながりが深まっていくことを実感できます。


ー島原市で学芸員として働く、このまちならではの面白さは何でしょうか?
山下: 島原市は、歴史的に非常に豊かな土地です。特に、市のシンボルである島原城は、江戸時代初期、城を造ることが制限されていた中で幕府の許可のもと新たに築かれた、全国的にも珍しいお城です。
このお城は、築城した松倉重政が「島原の乱」の原因を作ったとして、長く悪役のイメージが強かったのですが、近年、その政治手腕などを再評価する研究が進んでいます。このように、通説とされてきた歴史を新たな視点から見つめ直し、地域の魅力として発信していくことは、学芸員として非常にやりがいのある仕事です。
昨年は築城400年を記念してシンポジウムを開催し、こうした新しい研究成果を市民の皆さんと共有しました。
また、島原市には、まだ調査されていない遺跡も多く残されています。自分が調査することで、これまで知られていなかった歴史がまた1つ解き明かされるかもしれないんです。これは学芸員にとって、ここで働きたいと思える魅力だと思います。

未来の仲間へ。安心して働くことができる環境
ーワークライフバランスや職場環境はいかがですか?
山下: 発掘作業については、公共工事や民間の開発工事のスケジュールに大きく影響されるという特徴があります。工事が集中する年度末や、夏頃に調査が重なると忙しくなりますね。
ただ、上司や同僚と相談しながら調整できるので、休みは取りやすい環境です。残業も繁忙期だからと言って毎日夜遅くまで残るということはあまりありません。
職場は最近、20代の若手職員が増えて活気がありますね。和気あいあいとしながらも、みんなで協力して仕事を進めていく雰囲気です。先輩方も気軽に話を聞いてくださるので、とても働きやすいと感じています。
ー最後に、島原市役所を目指す方へメッセージをお願いします。
山下: 私のように、島原市に縁もゆかりもない方でも、心配はいりません。地域の方々はとても温かく、職場も和気あいあいとした雰囲気なので、すぐに馴染めるはずです。
学芸員の仕事は、専門知識を活かしながら、地域の人々と深く関わることができる、非常にやりがいのある仕事です。
数百年、数千年前の文化財を守り、その価値を未来へつないでいく、そんな壮大な役割を私たちと一緒に担いませんか。歴史や地域を愛する皆さんと一緒に働ける日を楽しみにしています!

ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年8月取材)