京都府伊根町にUターン転職し、訪問看護ステーションで看護師として働く石井亜実さんに、お話を伺いました。
—はじめに、経歴と以前の仕事について教えていただけますか?
石井:私はもともと伊根町出身で、地元の高校を卒業してから舞鶴市にある看護学校に行きました。その看護学校に付属病院があったので、そこで看護師として6年間勤務し、今年度にこちらに帰ってきたという流れです。
—Uターン転職しようと思った理由は何だったのでしょうか?
石井:当時はしばらく舞鶴にいて、のちのち京都市に行こうかなと思ったのですが、やっぱり地元が好きなので、地元に帰ろうと思ったのが理由です。
—将来的に地元に住むことを、最優先に考えていたんですね。転職の見通しはあったのですか?
石井:とりあえず看護師の職があったら、どこでも仕事は見つけられるかなと思っていました。でも伊根町は病院がないので、働くとしたら隣町の病院か、町の診療所での勤務になるだろうと考え、Uターンを視野に入れながらしばらく病院での仕事を続けていました。
—では、なぜ民間の病院ではなく、伊根町職員を選ばれたのでしょうか?
石井:公務員を意識したことはなかったのですが、きっかけがあって。伊根町で働くことを視野に入れて求人を見始めた頃、私が仕事を探していることを、うちの母が伊根町で働いている方に伝えたみたいで。「それなら一度どんなふうに仕事をしているか見に来る?」と言っていただき、訪問看護ステーションの見学に行かせてもらったんです。
訪問看護でどういうことをしているのか、どういった体制でされているのかを、実際に少し経験させていただきました。そこでリアルな現状や仕事内容を知れたことで、訪問看護に興味が湧いたんです。看護師としての今までの経験も活かしていくことができるし、試験を受けてみようと気持ちが動きました。
—選考はどのように受けられたのですか?
石井:昨年8月に試験を受けました。1次試験は他職種希望者と同じように会場で作文を書き、看護士用のマークテスト。そして2次試験の面接を経て、9月に採用が決まるという流れでしたね。
—試験の対策などはされたのですか?
石井:どう対策してよいかもわからず、していませんでした。作文を書くことは決まっていましたが当日はこのテーマで書いてください、と言われて。作文を書くなんて、それこそ学生のとき以来だったので戸惑いました。また、マークシートのテストは、看護師の国家試験のような形式でした。事前の情報収集不足もあって、そんな問題が出てくるとは知らなくて。会場で本を広げて試験の準備をしている人を見て、「これはまずいぞ」と焦りました。
—それでも今、こうして働いているということは、看護師としての経験や知見を試験でしっかり発揮できたということでしょうか?
石井:そうですね。マークシートのテストは、看護師として「この状況ではどんな行動をとりますか?この症状からどんなことが考えられますか?」といった内容でした。
なので、普段看護師として働いている人や看護を勉強した人だったら、そこまで悩む問題ではなかったです。また、作文のテーマも自分の看護の体験を活かせるようなテーマでした。なので、看護師として働いてきた経験があれば、何ヵ月も前から対策するとか、そこまで難しく考えなくても大丈夫かと思います。
実際に、働きながら勉強したり面接や選考の対策をするのは難しいですし、私もぶっつけ本番で挑んだような形です。「公務員」試験と特別に意識しなくても、民間での転職と同じように受ければ大丈夫です。
—移住する中で具体的に何かの制度や伊根町からの支援を受けましたか?
石井:伊根町の試験に合格してから、働いていた病院を辞めるまでの間に、伊根町の役場の方と連絡をとらせてもらっていました。町営住宅に住む予定だったのですが、どんな住宅があるのか、室内はどんな感じなのかが分からないので、職員の方の図らいで実際に見学もさせてもらっています。
また、3月に舞鶴から町営住宅へ徐々に荷物を運んで引越したのですが、聞きたいことがでてきたときにはいつも相談にのっていただきました。
—次に、現在の仕事について伺います。現在はどういった仕事をされていますか?
石井:今は訪問看護ステーションの看護師として働いています。職場で看護師をしているのは私を含めて4人です。病院と違って夜勤はないんですけど、24時間の電話対応があります。
緊急の電話がかかってきたときのために、誰かが電話を持っていて「ちょっと具合が悪いので、見に来てほしい」と言われたら、夜中であっても見に行くことがあります。
—電話対応はシフトがあるのでしょうか?
石井:はい。緊急電話もシフトで対応しているので、常に自分が持っていないとダメというわけではないです。街の診療所にいる看護師さんとも協力体制をとっており、事前に利用者さんに、「この期間、私はいませんが他の方が来てくれますからね」と伝えたりして、職員で交代しています。
—現在の仕事の面白味を教えていただけますか?
石井:一人ひとりの患者さんと向き合えることです。
病院でも、「個別性のある看護が必要」とよく言われます。でも、やっているつもりでも一人の人としっかり時間をとり、関わることがなかなかできませんでした。
今は訪問看護をさせていただいて、1週間に1回など限られた時間ではありますが、1時間ならばその時間に集中してその方に向き合い、悩みや困りごとなどのお話をじっくりと聞き、もっとこうしてあげたら良くなるんじゃないかと提案できています。この向き合い方だからこそ、「看護師の仕事はこれだな」と強い実感と自信を持てています。
—看護師としてのやりがいを感じられているんですね。
石井:点滴などの実務も大事な看護の業務だとは思うんですが、やっぱり人に寄り添うことが大切です。
数年前のコロナ禍では、病院に入院している患者さんはご家族に会えませんでした。そんな寂しい思いをしている患者さんの身近には、看護師しかいません。でも看護師も忙しくて、ゆっくり話を聞いたりできませんでした。
その点、今の仕事は違います。仕事での訪問でなくても、「ちょっと様子が気になったから寄ってみたよ」と利用者さんを尋ねると、すごく安心した顔で笑ってくださいます。そんなとき、やっぱりこういう看護っていいなと実感します。楽しく働けていますね。
—現在、訪問看護の仕事を始めて3ヵ月ほどですが、伊根町の職員として今後やっていきたい仕事はありますか?
石井:しっかりとは考えられていませんが、お年寄りの方々が安心して暮らせるような仕事をやっていけたらなと思っています。
今の時代の看護は、病院にいる期間をなるべく少なくして、在宅で対応する方向に向かっています。訪問看護の研修に行っても、「今後は、在宅看護が重要になる」という言葉を何度も耳にします。伊根町はお年寄りがとても多い地域なので、将来の在宅看護に向けて、対策のようなことができたらいいなと思っています。
—伊根町での暮らしについて、良いところや難しいところはありますか?
石井:コンビニなどのお店があまりなくて、気軽に買い物に行けないのは少し大変ですね。生活する上で必要なものは、隣町へ買いに行く必要があります。
でも、時々役場に地元の農家や漁協の方が野菜や魚を売りに来てくださるので、おいしい食材が食べられます。そういうところは良いですね。
あと、私は自然が大好きなタイプというほどではないのですが、季節折々の風景が見られるところは好きです。海に行ったり山を眺めたり、穏やかに過ごしたい人には伊根町は向いているんじゃないかと思います。
—ありがとうございました!