培った獣医師としてのスキルを、地域のために、そして「救えるはずの命」のために捧げたい。そんな想いを胸に、民間病院から和歌山県庁へと転身した前島さん。
自然豊かな地元で、保護犬・保護猫の新しい家族探しや、こどもたちへの命の教育に奔走する日々を送っています。臨床の現場とは異なる公務員ならではのやりがいと、命の尊厳を守り抜く最前線のストーリーを、前島さんの温かな言葉とともに届けます。
培ったスキルを活かし、地元和歌山へ
ー前職の経験や、和歌山県庁に入庁したきっかけを教えてください。
前島:前職は埼玉県内の動物病院で、小動物の臨床に携わっていました。入庁のきっかけは、これまで培ってきた獣医師としてのスキルを活かせる仕事が他にないかと探していた際、公務員という選択肢があることを知ったからです。
生まれ育った和歌山県に戻って仕事をしたいという思いもあり、和歌山県庁への入庁を決めました。
ー和歌山県での生活はいかがですか。
前島:都会ではないですが、自然が本当に豊かですよね。少し前まではよくキャンプに行っていました。昔からアウトドアが好きだったのですが、埼玉にいた時はなかなか行く機会や場所がなかったので、今の環境はとても気に入っています。

動物愛護センターでの一日
ーセンターでの午前中の業務について教えてください。
前島:朝は一部の犬たちの散歩から始まります。今散歩させているのは「スタッフ犬」のチャコちゃんといって、センターでこどもたちの相手をしてもらったりする子です。散歩の後は、犬舎と猫舎の掃除をします。これが午前中のメインの仕事になります。
ー清掃以外にはどのような管理を行っているのでしょうか。
前島:スタッフ犬だけでなく、譲渡の対象になっている犬や猫たちの健康管理も僕たちの重要な仕事の一つです。朝と夜の掃除の時間は、彼らの体調をチェックする大切な機会でもあります。

保護動物の現状と向き合う
ーこちらにはどのような経緯で動物たちがやってくるのですか。
前島:飼い主が飼えなくなった、あるいは飼い主が分からなくなってしまった動物たちが、県内8カ所の保健所からこのセンターへ集まってきます。
ー受け入れ後の状況についても教えてください。
前島:やってくるのは性格もバックグラウンドも全く分からない動物ばかりです。譲渡に向けて努力していますが、中にはどうしても譲渡が難しく、殺処分になってしまう動物もいます。そうした現実とも向き合いながら業務にあたっています。
獣医師としての役割とチームワーク
ーメインで行っている医療業務について教えてください。
前島:メインは不妊手術や去勢手術になります。犬や猫は人間と違って多頭で生まれてきますから、世話ができなくなって手放されるといった事態を防ぐためにも、繁殖を望まないのであれば手術はすべきだと考えています。
ー職場での連携についてはどう感じていますか。
前島:獣医師の仕事は一人で全部をこなせるわけではありません。
掃除を手伝ってくれたり、診療をサポートしてくれたりするスタッフがいてくれるからこそ仕事が成り立っています。
スタッフがいないと仕事が回らないので、非常に助かっています。今の職場はベテランの技術員さんも多く、みんなフランクに話せる雰囲気ですね。

殺処分ゼロへの挑戦と啓発活動
ーセンターとして取り組んでいる目標を教えてください。
前島:できる限り殺処分をゼロに近づけていくことです。センターが設立された平成12年に比べると殺処分の数は大幅に減っていますが、まだゼロではありません。そこを目指してみんなで取り組んでいます。
ー「殺処分ゼロ」のために、具体的にどのような活動をしていますか。
前島:啓発活動の一環として、小学校で「わうくらす」という授業を行っています。犬の触り方や、最後まで飼うことの大切さを伝えています。
こどもたちに啓発することで、彼らが家に帰って親御さんにその話をし、大人たちの理解も広がっていく。そうした繋がりを期待しています。
公務員獣医師としての働き方
ー働きやすさやライフワークバランスについて教えてください。
前島:センターは火曜日が休館日で、土日祝日は開館しているためシフト制になります。年末年始もお客さんは入りませんが、動物の世話のために交代で出勤しています。1月1日も誰かが来て世話をします。
ただ、以前の動物病院では休みがあるようなないような状態だったので、それに比べると今は仕事とプライベートのメリハリがあると感じます。
ー保健所など、センター以外での業務についても教えてください。
前島:公務員の獣医師は、臨床だけではなく保健所での勤務もあります。食品衛生や生活衛生といった業務があり、例えば旅館や美容室を開業する際の許可を出すといった仕事も含まれます。
初めて保健所に行った時は、動物病院の仕事とは全く違ったので正直大変でした。
ー最後に、この仕事のやりがいを教えてください。
前島:譲渡に向けた手術や管理を行い、新しい飼い主さんのところへ行って、「いい犬をもらったよ」「いい猫をもらったよ」と言ってもらえるのが一番のやりがいです。
自分の時間を大切にしながら、獣医師としてのスキルを活かしたい人にとって、公務員は非常に良い選択肢だと思います。
ー本日はありがとうございました。
和歌山県の豊かな自然の中で、一頭一頭の動物と向き合う前島さんの姿が印象的でした。民間の動物病院での経験を活かしながらも、「殺処分をゼロに近づける」という行政ならではの大きな目標に挑む姿勢には、獣医師としての強い責任感が感じられます。
現場での医療行為だけでなく、次世代への教育を通じて「不幸な命を生まない」仕組みを作ろうとする取り組みは、まさに救えるはずの命のために奔走する公務員獣医師の姿そのものでした。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年12月取材)



