2015年に奈良県三宅町の議会議員に当選し、2016年より町長として改革を進める森田浩司さんに、議員を目指したきっかけと現在のお仕事内容、今後の展望などを伺いました。
—まず、森田町長のこれまでのご経歴を簡単にご紹介ください。
森田:32歳の時に町長に就任して8年が経ちました。町長になる前は市議会議員、コープ生協配達、ゴミ収集車の臨時作業員、国会議員の支援、土方職を経験しています。
議員になったのは、もともと三宅町が行っている施策に対して町民として疑問を持ったことがきっかけです。まちおこしの施策が色々と実施されていたのですが、それで若い方々が訪れるような、少子化対策の一環にはなり得ないのではと私自身は思っておりました。
ただ、それを外から言っているだけでは何も変わらないので、自分自身が中から意見を言うというつもりで町会議員に立候補してみようと思いました。
それで町会議員になって、町のことを色々と学ぶ中で、自分から1つずつ提案も行っていました。その後、町長選挙があり議員選挙のときに応援してくれた町の方々がさらに熱心に後押ししてくださり立候補することとしました。
—三宅町で推し進めている施策について教えてください。
森田:三宅町は、自治体としては珍しく、ビジョン・ミッション・バリューを掲げてまちづくりに取組んでいます。
「自分らしくハッピーにスモール(住もうる)タウン」というビジョンを掲げて、自分らしい挑戦や選択ができるWell-beingが高い暮らしができる町を目指しています。
また、三宅町の面積は4.06 平方キロメートルと全国で2番目に小さい町です。住民との距離が近くてコミュニケーションが良くとれるというメリットがある一方で、役場がやってくれるという行政頼みになってしまうというデメリットもあります。
いいところを伸ばしていくためにも、挑戦する人を応援するために、伴走しながら一緒に共創して成長を続けることを三宅町のミッションとして掲げています。
それを叶えるために、役場として大切にしている3つのものさしがあります。対話・挑戦・失敗というバリューです。
失敗を認め、その失敗を経験に変えて挑戦し、変化をどんどん起こしていきたいです。失敗が認められないとチャレンジできないことと役場であっても失敗しうることは住民にも説明しています。少しずつですが、職員のチャレンジも増えてきています。
—ベンチャー企業のような取組みですね。何かきっかけがあるのですか。
森田:色々な年代の方にヒアリングをして、みなさんの声をわかりやすくまとめたものがビジョンになっています。ミッションバリューに関しては、10人程度の職員でワークショップをしたときにでた意見がベースになっています。
トップダウン型ではなくボトムアップ型で職員がやりたいことを言語化しているという点が三宅町のバリューの特徴です。
—役場も失敗しうるということですが、住民の皆さんには納得してもらえましたか。
森田:その点は職員からも反対意見がでたところです。職員に対しては、「住民から反対意見があったら僕が直接説明に行くから」と言っていました。
失敗を認めなかったら挑戦できない、挑戦できなかったら変化がうまれない。そうすると、硬直化して未来がシュリンクすると。
失敗がいいとは言いませんが、失敗を経験に変えることはすごく大事です。例えば、あの時の失敗があったからこそ5年後の成功に繋がる、という構図はしっかりと住民に説明しようと心掛けています。
その結果、「新しいことに挑戦したら失敗もするよね」と、失敗を許容してくれる文化が少しずつできてきています。長年の課題に同じアプローチでは解決できなくなってきているので、新しいことに挑戦して別の方法でアプローチしないと解決できないのです。
—具体的な施策の内容を教えてください。
森田:官民連携の取組みを進めています。
複業人材のプラットフォームを提供しているAnother worksさんとの取組みでは、民間の人事・広報・DXにおける各トッププレイヤーが行政に副業として入ってもらうという人証実験を行いました。
BABY JOBさんとの取組みでは、オムツの定額サービスである手ぶら登園を実現しました。全国初です。なんでオムツを持って帰らなければいけないのか、という保護者が長年抱いていた疑問を解決することができました。
三宅町に続いて渋谷区が導入し、今では半数以上の自治体が導入しているスタンダードな取組みになっています。
Kids Publicさんとの取組みでは、小児科医の無料のオンライン相談を実現しました。夜中に急に発熱したときなど、オンラインで専門家に相談できるというサービスです。
専門家からアドバイスをもらえることで不安も解消されるので、無暗に病院に行っていた診療時間を減らすことができています。
このほか、健康関係の取組みも行っています。国保のデータベースを活用して、健康リスクの高い住民を抽出のうえ個別にアプローチして住民の健康被害をいち早く減らすという取組みです。
また、職員を対象にした実証実験段階ではありますが、寝ているときに心電図をとるというサービスを行っています。寝ている間ずっと心電図をとっているので、病院では見つからないような不整脈や、交感神経も見るのでメンタル的な所も見れますし、無呼吸症候群の診断をすることもできます。
—新しい取組みに次々とチャレンジできている要因は何でしょうか。
森田:役場が小さいことが関係していると思います。全員が顔と名前を分かっている関係ですのでモノゴトを決めるスピード感が早いです。上からも下からも情報がコンパクトに繋がり、タイムラグなく話することができています。
また、従来の無駄な仕事は徹底的になくすようにしています。「これやめたら?」とよく言っています。その結果、課内で新しいことを議論するような時間を持てるようになったと思います。
—在任期間中にまちづくりセンター「MiiMo」がオープンしました。交流や町民の動きに変化はありましたか?
森田:とてもありました。役場の音が変わりました。役場は静かなイメージがありますが、夕方になると子供たちの声が鳴り響いています。
幼稚園の園児が朝お散歩に来ていたり、小学生が授業でMiiMoを活用していたり、障害者がイベントを催していたり、高齢者の方が自分たちの教室をやっていたり、多様な人たちが入り乱れる空間ができています。
これこそがMiiMoを建てる前に夢見ていた景色です。色々なバックボーンを持った方が、そこに居場所があって、そこで活動をして、それが繋がっていくというところが面白いところです。
—町民と直接接することはありますか。
森田:MiiMoにいてもスーパーにいてもイベント会場にいても声をかけてくれることが多いです。なかには、何かに切羽詰まった様子で声をかけてくれる場合もあります。そういう場合にはきちんと担当に入ってもらい迅速に状況を確認するようにしています。
声をかけてくれることはありがたいです。SNSでDMも送られてきます。そのように町民から意見を頂戴した場合は、役場の言い分と住民の言い分のバランスをとるというのが町長の仕事だと思っています。
行政のトップという認識はあまりなく、立ち位置としては住民と職員の間くらいのイメージでいます。どちらにも言い分があって、そこにハブとして入って、対話をしてもらって相互に理解をしてもらう。住民のいうことも役場のいうこともすべて正しいというわけではないのです。
—情報発信について心掛けていることはありますか。
森田:住民との認識のズレというのは、情報が正確に伝わっていないことに起因していることが往々にしてあるので発信には力を入れています。役場のやっていることをもっと知ってほしいという思いがあり、職員は復命書をnoteに投稿するといったことも行っています。
—町長は育児休暇経験もあるとお聞きしました。
森田:第一子、第二子が生まれた際にどちらも育児休暇をとりました。その際に、メディアの取材で「子育てって終わりがないですよね」とお話したのですが、それが「無期限時短育休」という言葉に変換されてセンセーショナルに報道もされたことがあります(笑)。
とはいえ、三宅町の住民からは1件もクレームがありませんでした。住民とスーパーなどで会うと、「もっと(育休)とったれー」と言ってくれます。地域で子育てするというのはこういうことだと思いました。
さらにその影響もあるのか、結果的に男性職員の育児休暇取得率は100%になりました。驚きと嬉しさがありましたが、この状態を当たり前にしたいですね。
—職員にはどういう動きをしてくれることを期待していますか。
森田:三宅町役場のDNAは「住民さんのために」なのですが、この団結力がすごいんです。そういう意味では、人のために何かしたい、役に立ちたいという思いがあることはマストだと思います。また、自分なりのチャレンジができることもすごく大事ですね。
—本日はありがとうございました。