都会へのアクセスも良く、千葉県の最南端に位置し、温暖で豊かな自然に囲まれた南房総市。そんな南房総市の魅力を発信する市役所職員、押元さんの仕事内容や、約20年のキャリアについて伺いました。
趣味のサーフィンがきっかけで市役所へ入庁したという押元さん。南房総市への就職・転職や移住を考えている方は必見です!
ー 入庁前の経歴をご紹介ください。
押元:幼稚園の時に流山市から両親の故郷の旧千倉町(現在の南房総市千倉町)に引っ越してきました。小学校4年から6年までの3年間は父の仕事の関係でインドのボンベイ(現在のムンバイ)に暮らしていましたが、帰国してから高校卒業までは千倉で過ごしました。
大学進学を機に東京の中野に4年間住みましたが、学生時代からサーフィンに夢中になり、地元に戻りたいという気持ちが強くなりました。
大学卒業後は、2年間千倉の旅館で働きながら、午前と午後の仕事の合間にサーフィンをするという生活でした。その中で、地元で長くサーフィンをしながら安定して暮らすにはどうしたらいいかと考えるうちに、公務員という選択肢が出てきました。
ー サーフィンを軸に仕事を選ばれたのですね。その中でも、公務員を選んだ理由は何でしょうか?
押元: 当時、サーフィン仲間の先輩が隣の白浜町役場(現在の南房総市白浜町)で働いており、サーフィンを楽しみながら安定した仕事に就いている姿を見て、公務員を目指すようになりました。
晴れて試験に合格し、24歳で千倉町役場に入庁しました。地元で暮らしたいという気持ちが強かったので、他の自治体は全く考えていませんでした。
ー 入庁後はどのような業務に携わってきましたか?
押元: 千倉町役場に入ってから合併まで、主に福祉部署で、窓口業務、高齢者、障がい者、母子・児童福祉と幅広く携わりました。その後、教育委員会では、体育施設の管理やスポーツイベントなどの事業にも携わりました。
合併後は、消防、福祉、農林水産、市民協働などを経験しました。農林水産部では、市域の約半分が森林であることを活かし、森林資源を活用したエネルギー利用事業の立ち上げにも携わりました。この事業は市内の施設園芸農家に薪の暖房機を普及した事業で、ゼロから立ち上げた事業だったので、色々苦労もありましたが、これまで経験した仕事の中で、特に思い出深い事業でした。
市民協働(市民課)では、NPOや市民活動、産官学連携事業を担当しました。そこでは、全長約1.5kmの海岸道路護岸に壁画アートを整備する事業を担当し、この事業も地域のアーティストさんたちと一緒に企画から完成まで協働で取り組んだ思い出深い事業でした。
そして、現在、移住定住の相談窓口とプロモーションを担当するようになって4年目です。
様々な部署を経験してきましたが、どの仕事でも勉強になるし、知らなかった世界も知れるし、全部が今に繋がってるなと思いますね。
ー 現在の業務内容についてお聞かせください。
押元: 総務部企画財政課の地域振興係に所属しています。係全体では、公共交通、ふるさと納税、移住定住の相談窓口とプロモーションを担当しています。私はその中でも移住定住の相談とプロモーションの担当です。
ー 移住定住支援や押元さんの担当業務について詳しく教えてください。
押元: 移住定住支援は、市役所全体で取り組む仕事です。例えば、住宅支援、教育、子育て、起業支援、新規就農支援など、それぞれの専門的な部分は各セクションが担当しています。
私は移住相談の総合窓口を担当しているため、市役所の支援や手続きを幅広く知っている必要があります。私ともう1人、移住コーディネーターが相談窓口の担当をしており、昨年は年間180件ほどの相談を受けました。
移住定住支援を始めた背景には、地方の人口減少、少子・高齢化問題はもちろんですが、昨今の機運として、地方移住がメディアで取り上げられるようになり、コロナ禍でさらに注目が集まったことがあります。南房総市は令和元年度から力を入れ始め、私が担当になったのは令和3年度からでした。
ー着任後はどのように進めてきたのですか?
押元:着任初年度は、移住定住サイト「七色の自然に暮らす」の立ち上げやロゴマーク、移住ガイドブック、ポスターの制作などを行いました。
事業を展開していく中で意識していることは、闇雲に情報発信したり移住イベントをするのではなく、移住定住サイトに情報を集約し、他所に無い南房総市の強みや相談者のニーズに合わせた情報発信を心がけています。
ーコンテンツが充実したサイトですよね。インタビュー記事など、市役所の方々も掲載されているのが印象的でした。
押元:南房総の自然の美しさを伝えたいという思いがあるので、サイトを開いたときに映像で魅せたり、写真にもこだわっています。サイト制作業者の方と相談しながら、1年かけて完成させました。その後も、他の自治体のサイトや相談者の声を参考にしながら改善を続けています。
ー移住相談の件数は、昨年は180件だったのですね。
押元:一昨年は約100件だったので、大幅に増えました。これは企画財政課で受けた移住相談のみなので、空き家バンク(建設課)や新規就農(地域資源再生課)、起業(商工課)の相談を含めると、さらに多くの相談があります。
ー相談が増えた要因は何だと思われますか?また、移住される方は南房総市のどのようなところに魅力を感じて移住をされるのでしょうか。
押元:移住相談に来られた方に「移住サイトをご覧になられたことはございますか?」と必ず伺っているのですが、幸いほとんどの方に見ていただいているので、市のプロモーションの効果も少しずつ現れてきていると思いますが、テレビで特集を組んでいただいたり、知人からの紹介や移住者のブログやSNSなどを参考情報に移住を決めた方も多くいます。
観光で何度か訪れているうちに、南房総市の魅力を感じて移住を決める方も多いですね。美味しいものを食べたり、ウェルビーイングな体験をしたりキーパーソンになる方とのつながりがきっかけで、ここで暮らしたいという気持ちが強くなるそうです。また、都心からの近さという立地的なメリットが大きいと思います。
房総半島の最南端ということもあり、南国のような雰囲気を感じられるのも魅力の一つです。転入者に行っているアンケートでも「南房総市の魅力は?」という質問に対して「海」と答えた方が圧倒的に多かったです。
ー移住定住支援は、市役所以外の機関などと関わることはありますか?
押元:起業する場合には商工会の窓口を紹介したり、移住の目的やライフスタイルに応じて、様々な機関と連携しています。
また、市が移住定住支援を始める前から、従来サーフショップ、釣具店、地元のレストラン、カフェなどのお店や、様々なイベントなどが移住のきっかけにもつながるコミュニティの機能を自然と担っていたと思いますし、移住サイト完成後は移住サイトの方でも移住者が週末にDIYや農作業をするコミュニティ、サイクリングのコミュニティなど、地域の情報発信を強化しています。
こちらから情報を取りに行くこともあれば、逆にコミュニティ側から情報を提供していただくこともあり、臨機応変に連携しています。
ー市役所の仕事のやりがいや面白さについて教えていただけますか。
押元: そうですね、仕事のやりがいや面白さについては本人次第ではあるのですが…自分が面白いと思えば、どんな仕事も面白いと思います(笑)。
でもやっぱり、若い頃よりも経験を積んできた今の方が、面白さを感じますね。福祉、防災、スポーツ、農業、エネルギー、移住定住プロモーション、どれも「この町の魅力をどう伝えるか」という点で繋がっていて、全てが自分の仕事に活きてくるんです。
ー 逆に、仕事で大変だったことは何でしょうか?
押元: 市民や市役所の外の方と接した際にこちらの意図を分かりやすく伝えられなかったり、それが原因で誤解を与えてしまったり、逆に叱られたりしたときは、やはり気にしていまいますね。
また、森林資源のエネルギー活用事業のように、ゼロベースで何かを始める仕事は、何からやればいいか分からず大変でした。突破口となったのは、地域の人たちとのコミュニケーションでしたね。直接話を聞いて、お互いウィンウィンになることを一緒に考えることから進めていきました。
最近はゼロベースからの企画の仕事が多く、大変なこともあります。でも「自分が良いと思ったことをやればいいんだ」と考えれば、すごく楽しい仕事ですね。
ー 南房総市役所の働き心地はいかがですか?
押元: ほぼ自分の希望通りに働けています。私はほぼ残業もしません。ワークライフバランスは、もう何十年も前から意識してやってきました。仕事もやりたいし、家のこともやりたいし、趣味もやりたいし、他にもやりたいことがたくさんあるので。単純に、私が欲張りなんだと思います(笑)。
子育て世代であれば、今はパパが子どもの送迎や家事をするのも当たり前ですし、夫婦で共働きも当たり前という雰囲気です。職場も理解がありますし、働きにくさを感じることは全くありませんね。
ー どのような方が、南房総市の行政職に向いているでしょうか?
押元: 「南房総市をより良くしたい、そのために行政の仕事を通して貢献したい」と思う方だと思います。市役所にはたくさんの部署があって、何千何万と業務があります。時には「何のためにこの仕事をしているのかわからない」と感じることもあると思います。
でも、全ての仕事は、最終的には「このまちをより良くする」という目的に繋がっているんです。例えば、きれいな街並み、快適な住環境、質の高い教育。そういったものを実現するために、自分の仕事が必ずどこかに役立っていると思うことができると、やりがいを持って働けるのではないでしょうか。
ー 今までのスキルや経験で活きたことは何でしょうか?
押元: 実は、移住サイトのギャラリー写真、ほとんど私が撮っているんです。写真を趣味とは言ってないのですが(笑)、単純に南房総の綺麗な景色が好きなので、その気持ちが活きているのかもしれません。自然と積んできた写真撮影の経験は少しは活かせているのかな。海や空や山の色が良い瞬間って、常にスタンバイしていないと撮れないので、ここは仕事とプライベートがごっちゃになってますね(笑)。
あと人脈も大きいですね。この仕事は、地域の様々な方と知り合いになれるのが魅力の一つです。例えば、市民団体の支援をしていたときは、里山整備やビーチクリーン、イベントなどを通して、たくさんの方々と知り合いになりました。正直、仕事ではその知り合いの方々のご協力や助けていただいたことばかりです。それと、プライベートのつながりや経験が仕事に活きてくることも多いです。中には、市の相談窓口ではなく海で何度か出会っているうちに移住を決めた方もいらっしゃいますよ。
ー押元さんから見た南房総市はどのようなまちですか。
押元: こんなに快適な場所はないんじゃないかと思います。それに海の色がきれいです。都心から車で1時間ほどなので、海のある東京の郊外だと思っています(笑)。アクアラインの渋滞も逆ですしね。東京に遊びに行っても、日が長い時期だと、夕方には南房総に戻って夕焼けを見ながらビールを飲むこともできますよ。
アクティブに過ごしたいなら、釣りやサーフィン、SUP、シーカヤックなども楽しめますが、やっぱり海を眺めてのんびりするのがおすすめですね。砂浜もありますし、磯もあります。内房の静かな夕日も良いですし、外房に行くと雄大な海と砂浜が広がっていて、異国情緒を感じられますよ。あと、南房総は海沿いにずっと道が続いているので、それ自体が観光資源だと思っています。
ちなみに、私は朝海に行くことが多いのですが、海に行った日の方が頭がクリアになって仕事の面でも良いアイデアが浮かんできます(笑)。
ー 最後に、就職・転職活動中の方にメッセージをお願いします。
押元: 自然豊かなところでライフスタイルを実現したい方、南房総市をより良くしたいという方にとっては、市役所はおすすめの職場です。ぜひ来ていただけるといいなと思いますね。
ーありがとうございました。
【関連サイト】
移住定住サイト「七色の自然に暮らす」
https://www.minamibosocity-iju.jp/
森林資源を活用したエネルギー利用事業に関するインタビュー記事(無印良品)
押元さんもお話されています。
https://localnippon.muji.com/1673/
全長約1.5kmの海岸壁画アート「ちくらアートな海の散歩道」
https://www.mboso-etoko.jp/feature/chikura_art/