島根県内の研究機関で歴史分野 (日本近世史) の特任研究員として勤めていましたが、任期満了が迫っていたこともあり、様々な将来を模索していたところでした。全国的に学芸員の採用は少なく、また実家の都合上、県内での就職という制限もありましたので、調査研究を続けたいと思う一方で、学芸員になることは半分以上諦めてもいました。そのような折に松江市で学芸員の募集がかかり応募しました。
主に、歴史史料の所在確認調査、整理・保存、松江市文書館設置にかかる準備作業、歴史刊行物等の執筆・編集、レファレンスなどを行っています。 歴史史料を専門的に扱う部署ですので、もちろん対象史料への深い理解は必要になりますが、それ以上に「伝える」 技術の必要を感じます。調査や活用には、史料所蔵者への丁寧な説明が必要となります。また、調査研究の成果を一般向けに解説したり、文章として発信することもありますので、「どうすれば伝わるのか」「どう伝えるか」など、表現を扱う難しさとも日々格闘しています。
とてもアットホームな、懐の深い職場です。専門とする時代も分野も異なる職員が多数在籍しているため、一人では対応困難な事も、豊富な経験を積む先輩職員の助けを借りながらやり遂げることができます。また、もともと松江城・史料調査課は、令和2年3月に全18巻の発刊をもって終了した『松江市史』編纂事業の推進課でもありましたから、今でも、県内外の研究者から地域の方まで、日々多くの方が情報や疑問をたずさえて訪ねて来られます。そうした雰囲気もあって、入庁時からあまり臆することなく、繕うこともなく、自然体で溶け込めたように思います。
行政機関に所属する文化財専門職員には、調査研究成果の地域への還元が最重要課題となります。しかし、日頃の事務作業等と並行して調査研究を進めるのは、時間的な困難も伴います。盲目的に取り組めることがあるのはとても幸せなことだと感じますが、その一方で、結果や成果がすぐに得られるものではないからこそ、焦らず、目的を見失わ ないようにしたいものです。日常の些細な物事に「推し」ポイントを見つけたり、意識的に家族や友人と過ごす時間をつくるなど、心に余裕を持たせる生活を心がけていま す。
求職者へのメッセージ
文化財専門職員の仕事は、調査研究・展示・史料の保存・ 発信(刊行 物・講座など)、それに関わる対人交渉や事務作業など、多岐にわたります。「好きなことを仕事にしている」とも言われますが、「好き」だけではどうにもならないオールマイティなスキルが求められることを痛感しています。大変なことも多々ありますが、地域との距離感が近い分「だれのため」 を意識しやすく、地域のアイデンティティの根幹に関わっているのだという実感が得られる仕事でもあります。最後に・・・色々書きましたが、何だかんだやっぱり楽しい仕事です。皆さんとこの楽しさを共有できる日を心待ちにしています。
※所属・役職等は取材当時のものです
https://www.city.matsue.lg.jp/section/saiyo/interview15.html