京都府宮津市の商工観光課に勤める伊達 大智(だて だいち)さんに、日本有数の観光スポットを有する町ならではの取り組みや課題、新しい観光資源創出の可能性についてお話を伺いました。
ー簡単な自己紹介や、入庁までのご経歴をお願いいたします。
伊達:宮津市の隣にある与謝野町出身です。大学卒業後の平成31年に宮津市役所に入庁しました。最初の3年間は教育委員会の学校教育課に配属され、令和4年に商工観光課観光係に異動して3年目です。
就職活動では公務員を考えていたので、いろいろ他の場所も受けていますが、決め手となったのが宮津市の観光資源でした。
宮津市には日本三景の一つ・天橋立があります。大学のゼミで地域振興について勉強した経験もあり、観光に携わることができれば面白いのではないかと考え、宮津市に決めました。また、就職活動前に当時の宮津市長のお話を聞く機会があり、印象に残っていたことも大きいですね。
ー最初に配属された教育委員会では、どんなお仕事をされていたのでしょうか?
伊達:宮津市立の幼稚園や小中学校の教育事務がメインです。予算について学校側と協議したり、転校や教科書に関する手続きを行っていました。その3年間で事務作業のスキルが身についたので、ありがたかったですね。
ーでは、現在の商工観光課観光係でのお仕事についてお聞かせください。
伊達:イベントの実施やオーバーツーリズム対策、水上オートバイ等の規制に携わっています。ゴールデンウィークや年末年始は観光客が大勢いらっしゃる繁忙期なので、オーバーツーリズム対策がメインです。一方で、閑散期は観光誘客を目標としたイベントを運営・開催しています。
たとえば、天橋立は京都市内や兵庫県から日帰りで行ける距離なので、どうしても観光客が他所に流れてしまうんです。夜間のイベントを実施して宿泊客を増やし、滞在時間を延ばすという施策に取り組んでいます。
具体的なイベントとして挙げられるのは、毎年8月に行われる「宮津燈籠流し花火大会」ですね。こちらは長めの準備期間が必要なので、5〜6月頃から始動します。また、7月から開催される「天橋立砂浜ライトアップ」にも携わっており、夜間観光の促進に向けた事業を展開しています。
観光誘客は限られた時期・期間に行われますので、イベントとオーバーツーリズム対策のどちらの比重が大きいかというよりは、時期によって業務内容が変わるイメージですね。
ーオーバーツーリズム対策や規制についても詳しくお聞かせください。
伊達:重要な取り組みの一つが、渋滞対策です。繁忙期には天橋立付近が大変混雑しますので、別の駐車場への誘導や臨時駐車場の開設、宮津市街地の港から天橋立をクルージングできるプランにご案内したりと、さまざまな渋滞対策を行っています。
また、天橋立周辺で現在問題となっているのが水上オートバイ。景観を損なうだけでなく、航行時の騒音や水しぶきに近隣住民が頭を悩ませていました。ただ、水面は自由航行が基本であるため規制が難しいんです。そのため、水上オートバイを取り扱うマリン事業者さんと協力し、航行自粛エリアや徐行エリアなどを定めた自主規制に取り組みました。
ー宮津市の観光客は、やはりインバウンドがメインなのでしょうか?
伊達:そうですね、平日は特にインバウンドが多いです。コロナ禍でかなり減少したのですが、令和5年度のインバウンド観光客数はコロナ禍前と同じ水準に戻っています。
ー次に、観光係の職員体制や業務の振り分けについてお聞かせください。
伊達:正規職員は3名、係長1人と係2人という構成です。くわえて、会計年度任用職員も1名います。イベント担当、オーバーツーリズム担当と分けるのではなく「このイベントのこれはあなた」という振り分け方ですね。事務もやるし観光誘客もする、という形でどの業務も幅広く対応しています。
ー観光資源の創出や、閑散期の活性化策としてはどのような取り組みを行っているのでしょうか?
伊達:民間企業との協働により、滞在時間の延長や観光消費額の向上に向けた新しい事業を始めることもあります。たとえば一昨年は、「股のぞき☆一龍万倍体験」キャンペーンを実施しました。
天橋立では、背を向けて立ち、股の間から景色を眺める「股のぞき」という楽しみ方が昔から残っています。そんな既存の文化を一つのコンテンツとして活用し、宮津市内の周遊につなげるという取り組みでした。
他にも、地元の観光協会との連携も多いですね。協議会の中で「こんな内容の補助金があるので、活用して新しいイベントを実施しましょう」という呼びかけを行うこともあります。昨年はインバウンドの誘客に対する補助金を使用しました。
ー業務の中で、役所外の方との関わりも多いのですか?また、役所側から提案することもあるのでしょうか?
伊達:そうですね。教育委員会では公務員に対する仕事がほとんどでしたが、観光係では結構な頻度で役所外の方とお会いします。気を遣うことも多いので、その部分は大変ですね。
また、協議会においては、たとえば「来年のライトアップはどうするか」といった事業の大枠の中で詳細を詰めていくのですが、そのような場では市の担当職員として円滑にいく方法等を提案しています。
ー入庁して知った宮津市の魅力をお聞かせください。
伊達:私自身もそうでしたが、多くの方々にとって、宮津市と聞いて最初に思い浮かぶのは天橋立だと思います。ですが観光の仕事に携わることで、天橋立だけではない、宮津市の観光資源の良さをたくさん知りましたね。
たとえば、宮津市の東南部に由良地区という若狭湾に面した地域があります。海水浴場があって、すぐ近くには山もあって。最盛期から考えれば観光客数は減少している状況ですが、かえって落ち着いた良い雰囲気のある町になっています。また、由良川橋梁といって由良川河口の上に架かる線路を鉄道が走る姿は、大変美しいですよ。
このように、もう少し観光として頑張りたいな、もっと観光客が来てもらえたらいいのにな、という場所が多いんです。観光需要が偏りすぎている部分がありますので、観光客の分散という意味でも、今後は他の観光スポットを盛り上げる手段を考えていきたいですね。
ー大学で地域振興について学んでいたとのことでしたが、志していた仕事ができていますか?また、どんなときにやりがいを感じますか?
伊達:採用面接でも、観光振興に携わりたいというお話はしておりました。現在は希望していた部署にも配属され、やりたいことをできていると感じます。
そして、以前までは参加者側として遊びに行ってたイベントを、現在は自分が主となって運営するというのは大きなやりがいです。もちろん自分ひとりの力ではありませんが、お客様が来てくださるとやはり嬉しいですね。
ー入庁前と後で、ギャップを感じた部分はありますか?
伊達:入庁前は、事務作業や手続きを淡々とこなす職業というイメージがありました。実際には「もっと人が来てもらうためにはどうすべきか」について考えていく必要があるというところは、想像してた公務員像とは違っていましたね。
でも、そんな仕事の形を私は面白いと思っています。観光に関わるアイディアを出していくようなクリエイティブな仕事も市役所にはあるんだな、と感じました。
ー具体的な労務環境についてお聞かせください。また、職場の雰囲気はいかがでしょうか?
伊達:観光係では、イベント開催に応じて土日の出勤がどうしても増えるため、平日に休暇を取得して対応しています。特に繁忙期ではイベントが重なることもありますので、その場合残業も発生しますが、時期によっては全く残業しないです。
現在の職場には40代、30代、20代の職員がおり、私が一番若手職員です。良い雰囲気を上司がつくってくださっているので、「こうした方が良いのではないでしょうか」「こういう方向でどうですか」といった意見も伝えやすいですね。また、課外でも20〜30代の職員同士は横の繋がりがつよいです。若手職員の多くは青年部に所属していて、定期的に飲み会も開催されています。
ー最後に、伊達さん自身の今後の展望についてお聞かせください。
伊達:教育委員会で事務仕事を勉強させてもらい、商工観光課では民間事業者さんとの連携や交流について学べました。なので、次のステップとして窓口業務の経験を積んでいきたいですね。市役所の中での仕事を一通りできるようになることが目標です。
また、宮津市役所でも職員の年齢層が高くなってきている状況。今後、宮津市の職員として入庁してくださる若い方々とは、数十年後の宮津市をより良くするような働きをともにしていきたいですね。
ー本日はありがとうございました。