採用試験を終えた喜びも束の間、ふと胸をよぎる「4月からの不安」。 「もし希望していない部署に配属されたらどうしよう?」 「上司や先輩とうまくやっていけるだろうか?」 そんな漠然とした悩みを抱えて、春を待っている方も多いのではないでしょうか。
今回お話を伺ったのは、伊勢原市役所で働く松本さんです。 かつて彼は「公園の管理がしたい」という夢を抱き、入庁の日を迎えました。しかし、手渡された辞令は、予想もしなかった「生活支援課」。 当時の衝撃を「頭が真っ白になった」と語る松本さんが、どのようにして仕事への前向きな気持ちを取り戻し、やりがいを見つけたのか。 入庁までの過ごし方や、職場の人間関係など、先輩の実体験には、これから新たな一歩を踏み出す皆さんの背中を押すヒントが詰まっていました。
既に入庁が決まっている方、これから伊勢原市役所を目指す方、どなたにも読んでいただきたい内容となっています。
配属のリアル。希望とは異なる辞令を手にした日…
ー今回は、これから入庁を控えている方々に向けて、「リアルな体験談」を聞かせてください。まずは簡単に自己紹介をお願いします。
松本:私は地元・伊勢原市の出身で、2023年に新卒で入庁しました。現在は生活支援課に所属し、生活保護のケースワーカーとして働いています。
学生時代は人間科学部で社会学を専攻していて、社会調査などを学んでいました。福祉の授業も少しありましたが、まさか自分が福祉関係の仕事に従事するとは思っていませんでした(笑)
ー入庁前、特に気になるのが「配属」ですよね。松本さんは、どのような仕事を希望していたのですか?
松本:実は、学生の頃から「公共施設の管理」に携わりたいと考えていたんです。特に公園や緑地関係に興味を持っていました。
伊勢原市には都市政策課という部署の中にみどり公園係があるので、採用試験の面接でも「そこに行きたい!」とアピールしていました。自分の中では、公共施設の管理をしている姿を勝手にイメージしていたんです。

ー希望とは全く異なる配属だったのですね。「生活支援課」と知った時は、率直にいかがでしたか?
松本:これはもう、衝撃でしたね。
配属を知ったのは、4月1日の辞令交付式、まさに「今日から働きます」という当日です。辞令の紙に「生活支援課」と書いてあるのを見て、正直頭が真っ白になりました。「公園じゃないの?」「生活保護って何をするの?」と、不安しかなかったのを覚えています。
漠然とではありますが、福祉関係は大変そうだというイメージを持っていたこともあり、余計に不安になっていました。
ー必ずしも希望通りになるわけではないということですね。その状態から、どのようにして前向きになれたのでしょうか?
松本:最初は本当に知識ゼロからのスタートで、不安でいっぱいでした。ただ、実際に働いてみると、想像していた「怖さ」よりも「やりがい」の方が大きくなっていったんです。
例えば、生活に困っている方が、適切な支援を受けて生活を立て直し、最終的に自立していく。そのプロセスに伴走できるのは、この仕事ならではのやりがいがあります。
最初は配属によって「希望と違う」と落ち込むこともあるかもしれませんが、やってみれば案外、自分に向いている仕事だったり、新しいやりがいを感じる「面白くなる瞬間」が必ず来ます。
だから、内定者の皆さんには「どこの部署になっても、きっと学びはあるから大丈夫」と伝えたいですね!
大変だけどやりがいがある。ケースワーカーの仕事とは
ー現在の仕事についても少し詳しく教えてください。やはり福祉関係は「大変そう」というイメージがありますが、実際に働いてみていかがですか?
松本:そうですね、やはり楽な仕事ではないというのが第一印象です。
業務としては、まず「生活保護費の算定」があります。これは典型的なデスクワークで、システムを使って毎月の支給額を算出します。決してミスが許されないので、細かい数字を扱うのが苦手な人は最初苦労するかもしれません。

それから生活状況確認のために「訪問業務」も行います。月に平均すると20世帯ほどのお宅を訪問するのですが、1日に5件前後まとめて回ることが多いので、大体月に5日間くらいは外に出ているようなイメージです。


ー窓口対応などで、大変だと感じる場面もありますか?
松本:もちろんあります。基本的には生活に困っている方が相手ですので、時には厳しいご意見をいただいたり、感情的になられたりすることもあります。正直言って、新人の頃はこれが一番大変だったかもしれません。
ただ、一人で抱え込む必要はないんです。困った時はすぐに先輩が助けてくれますし、「これは自分一人では解決できない」と割り切ってチームで対応することも覚えました。
不安をあおるような話ばかりしてしまいましたが、大変な仕事だからこそ、寄り添った結果「ありがとう」「おかげで生活を立て直すことができた」という言葉をいただけた時の喜びは格別です。
人のために働く、人の役に立つといった、公務員として働く醍醐味が凝縮されていて、それまでの大変さを吹き飛ばすくらいの力があります。
ー寄り添った結果が目に見えてわかるのですね。
松本:そのとおりです。単に生活保護費を渡すだけではなく、その方が抱える課題、例えば病気や障がい、就労の悩みなどを一緒に解決し、自立した生活を取り戻すお手伝いをしているんです。
「最低生活を保障する」という行政の最後の砦を守る仕事には、他では味わえない責任感と誇りがあります。もし生活支援課に配属されたとしても、最終的には不安に勝る大きなやりがいが待っていると約束できます。
入庁までの準備期間、何をすべきか?
ー話が変わりますが、松本さんは入庁までの準備期間、どのように過ごしていましたか?
松本:私はとにかく「社会人のマナー」や「人間関係」が不安だったんです。上司に失礼な態度をとってしまったらどうしよう、電話で上手く対応できなかったらどうしよう…と悪い想像ばかりしていました。
そこで、敬語の使い方や電話対応、上司への報告・連絡・相談(ホウレンソウ)の基本を学ぶために、秘書検定の勉強を始めました。私にとっては、不安を解消するための「薬」みたいなものでしたね(笑)
ー不安から「秘書検定」という行動を起こせるのはすごいですね。実際にその準備は役に立ちましたか?
松本:役に立ったと思っています。特に外部の方との電話対応や、上司への相談のタイミングを計る時など、「あ、これ勉強したやつだ」と思う場面が多々ありました。ビジネスマナーの基礎があるだけで最初の自信に繋がったので、やっておいて損はなかったと思っています。
ー逆に、これはやっておけば良かったと思うことはありますか?
松本:行政の仕組みについて、もっと幅広く知っておけば良かったと思いますね。
私は公共施設のことばかり考えていたので、いざ入庁してみると「国民健康保険って何?」「介護保険とどう違うの?」と、行政の業務について全く無知であることに気づきました。
生活支援課の仕事をする上でも、税金や年金、他部署で行っている制度の知識は不可欠なんです。専門的な勉強までは不要ですが、市役所がどんな仕事をしているのか、パンフレットや市の広報誌を見たりして、全体像を把握しておくだけでも、4月からのスタートダッシュが全然違うと思います。
ー勉強以外のところで、何かアドバイスはありますか?
松本:「とにかく遊ぶこと!」ですね(笑)
公務員に限らず、社会人になるとどうしても学生時代の友人とは予定が合いにくくなります。平日のお昼にふらっと集まったり、気の合う仲間で長期で旅行に行ったりできるのは今だけです。
実は、ケースワーカーの仕事でも一番役立っているのは、学生時代に色々なタイプの友人と遊んで、たくさん会話をした経験だと思っています。相手が何を考えているのか、どう伝えれば理解をしてもらえるのか、コミュニケーションの基礎は、机の上より遊びの中で培われるものも多いです。
だから、これから入庁を控える皆さんには、残りの時間を思いっきり楽しんでもらいたいと思っています。
上司は怖い?同期との関係性とは
ー松本さんもそうでしたが、人間関係も不安が大きいと思います。実際、職場の雰囲気はいかがですか?
松本:私も入庁前は「公務員=お堅いおじさまばかり」「ピリピリした職場」というイメージを持っていて、うまくやっていけるか心配だったのですが、実際に入ってみたら、そのイメージは完全に覆されました。
まず、思っていた以上に若い先輩が多いんです。社会に出ると「大人に囲まれる」と思っていたのですが、年の近い先輩がとても多く、何より年齢関係なく、皆さん驚くほどフレンドリーな方々でした。
仕事中はもちろん真面目ですが、休憩中や飲み会の場ではプライベートの話も聞いてくれますし、一緒にバーベキューをして盛り上がることもあります。
公務員というだけで「特殊な人」をイメージしていたのですが、いい意味で普通の人たちなんです(笑)変に気負っていた自分が恥ずかしくなるくらい、温かくて風通しの良い職場でしたね。

ーそれは安心材料ですね。同期との関係性についてはどうですか?
松本:伊勢原市は同期が15〜20人程度とそこまで多くないのですが、その分、結束が固いです。
年齢も経歴もバラバラで、社会人経験がある年上の方も多いのですが、みんな「同期」として対等に仲が良いです。仕事の愚痴を言い合ったり、プライベートの悩みを相談したりと、本当の意味での「友人」になれるような存在です。
もし職場で辛いことがあっても、同期がいれば乗り越えられます。これから出会う同期たちを、ぜひ大切にしてください。
これから一緒に働く皆さんへ
ー今では後輩もできたそうですね。先輩として、後輩にはどのように接しているのですか?
松本:正直、まだまだカッコよく教えてあげられるような立場ではないのですが、私が新人の頃に先輩にしてもらって嬉しかったことは、全部後輩にしてあげたいと思っています。
例えば、私が困っている時に、先輩は何も言わずにそっと見ていてくれて、本当にダメそうな時だけスッと手を差し伸べてくれるんです。その安心感がすごく大きかったので、私も後輩にとって「いつでも味方でいる先輩」でありたいですね。
ー最後に、この記事を読んでいる方々へメッセージをお願いします!
松本:内定者の皆さん、そしてこれからまさに採用試験を受けようとしている皆さん、今は不安と期待が入り混じっている時期だと思います。
「堅い職場だったらどうしよう」「仕事ができるかな」と心配になる気持ち、痛いほど分かります。でも、伊勢原市役所は皆さんが思っている以上に人が温かく、働きやすい場所です。
仕事とプライベートのバランスもしっかり取れますし、何より困った時に助け合う先輩や仲間がいます。
そして、私が思う伊勢原市の魅力は、市役所から見える雄大な「大山(おおやま)」です。仕事で行き詰まった時、ふと窓の外の大山を眺めると、「まあ、なんとかなるか」と心が軽くなるんです。そんな大山と、温かい先輩たちに見守られながら、一緒に働ける日を楽しみにしています!

ー本日はありがとうございました!
「内定者の皆さんの不安、痛いほど分かります」。 そう語る松本さんの言葉には、ご自身がかつて感じた戸惑いと、それを乗り越えてきた実感が込められていました。
特に印象的だったのは、「配属が希望と違っても、やってみれば面白くなる瞬間が必ず来る」という力強いメッセージです。未知の仕事への恐れを、新しい自分に出会うチャンスだと捉え直す。その柔軟な姿勢こそが、地域の方々に寄り添う現在の松本さんをつくっているのだと感じました。 4月から始まる新しい生活。不安な時は、松本さんのように窓の外の景色を眺め、深呼吸してみてください。きっとそこには、温かく迎えてくれる先輩や仲間が待っています。残りの学生生活を思い切り楽しんで、素晴らしいスタートを切れることを願っています。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年11月取材)



