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「住んでよし、訪れてよしの新潟県」  新潟県では、県民の皆様が、新潟の魅力・新潟らしさ「新潟ブランド」を意識し、新潟に住んでいることを誇りに思い、これからも住み続けたいと思える新潟県、そして、国内外の方々が新潟に魅力を感じ、訪ねてきていただける新潟県を目指し、様々な政策の推進に取り組んでいます。

現場とともに歩む「普及指導員」のやりがい。不安だった島暮らしも最高のフィールドに。

新潟県庁

2025/12/22

「公務員=デスクワーク」 そんな固定観念を持っている方にこそ、知っていただきたい仕事があります。

日本海に浮かぶ佐渡島。豊かな土壌と海洋性の気候に恵まれたこの場所で、日々、農家の方々と膝を突き合わせ、汗を流しながら地域農業を支える県職員がいます。農業技術の指導から担い手の育成まで、農家にとっての“頼れるパートナー”として奔走する専門職です。

今回お話を伺ったのは、新潟県庁に入庁し、現在は佐渡地域振興局で果樹を担当する富岡さん。 かつては人前で話すことが苦手だったという富岡さんが、なぜ多くの農家から信頼される存在となれたのか。そして、不安もあったという初めての「島暮らし」で手に入れた、公私ともに充実したライフスタイルとは。

「ル レクチエ」への憧れから始まった富岡さんのキャリアには、現場でしか味わえない感動と、自分らしく働くためのヒントが詰まっていました。

 


農家と共に歩む。「普及指導員」という仕事

ーまずは、富岡さんの現在の所属と業務内容について教えていただけますか。

 

富岡:私は現在、新潟県の佐渡市にある「佐渡地域振興局農林水産振興部普及課」という部署で農業職として働いています。

 

主な業務としては、地域農業の振興ですね。農業職と一口に言っても担当が分かれているのですが、私は果樹を専門にしており、果樹の技術指導や技術の普及を行っています。

 

また、それと並行して「担い手担当」として、地域農業の担い手の確保・育成や、就農支援といった業務も担っています。

 

ー技術指導だけでなく、人を育てる部分にも関わっていらっしゃるんですね。具体的には日々どのような動きをされているのでしょうか。

 

富岡:そうですね。担い手支援の部分では、例えば「これから佐渡で就農したい」という相談に対して、市や農協などの関係機関と連携して対応したり、就農希望者向けの研修会や交流会を開催して、円滑に就農できるようサポートしたりしています。

 

また、すでに就農されている農家さんが、組織化して技術研鑽をしたい、地域交流を深めたいという場合の活動支援も行っていますね。

若手農業者交流会の様子

ー移住や就農のイベントで「佐渡に来ませんか?」とPRするようなイメージですか?

 

富岡:誘致活動については、主に佐渡市や地元の農協が就農イベントなどに足を運んでPRされていますね。

 

私たちはそういった関係機関と定期的に集まって情報を共有し、「次はこういう取り組みをしましょう」と戦略を練ったり、連携して支援体制を整えたりしています。

 

ーまさにチームで地域農業を支えているのですね。「普及指導員」という肩書きはよく耳にしますが、農家さんにとってはどのような存在なのでしょうか。

 

富岡:何でも屋さんのようなイメージがあるかもしれませんが、さすがに何でもやっているわけではありません。

 

普及指導員は、それぞれの専門分野を持っています。私の場合は果樹の技術指導や担い手育成ですが、他にも野菜や作物(お米など)の専門家がいて、それぞれの技術指導を行っています。また、農業法人への経営指導を専門とする担当もいます。

 

一言で表すのは難しいですが、あえて言うなら「農業振興に資するためのあらゆる取り組みを行うパートナー」でしょうか。農業を継続・発展させるために必要な技術や情報を届け、農家さんと共に走る存在だと思っています。

若手女性農業者「夏季研修会」の様子

ー技術指導の面では、実際に畑に出て教えることも多いのですか?

 

富岡:多いですね。農協さんが主催する部会の研修会に講師として呼ばれて、「この時期の栽培管理はこうしましょう」と技術指導を行ったりします。

 

また、農業技術は日々進化していますから、私たち自身も調査研究を行います。新しい技術を地域に取り込めるか実証試験を行い、その結果を農家さんに波及・普及させていくことも重要な仕事です。

 

常にインプットとアウトプットの繰り返しですね。

佐渡指導農業士会「夏季研修会」の様子

まさかの島暮らし?佐渡で見つけた「公私充実」のライフスタイル

ー富岡さんは現在佐渡勤務とのことですが、それ以前はどちらにいらっしゃったのですか?

 

富岡:初任地は新潟県内の別の地域振興局でした。そこから異動で佐渡に来ることになりました。

 

ー県内異動の中でも「島」だと少し特殊な気がしますが、異動が決まった時や、実際に引っ越すにあたって、抵抗や不安はありませんでしたか?

 

富岡:業務内容自体は大きく変わらないだろうと思っていたので仕事面の不安は少なかったのですが、生活面では「島だから生活環境が変わるのかな」「馴染めるかな」という思いは正直ありましたね。

 

実際、引っ越しの時は海を渡って荷物を運ばなければならないので、物理的な大変さはありました。

 

ー実際に住んでみていかがですか?事前のイメージと変化はありましたか。

 

富岡:来てみたら、暮らしの面では何も不自由はないですね。スーパーやドラッグストアも充実していますし、買い物に困ることはありません。

 

それ以上に、自然環境が素晴らしいんです。海も山もすぐ近くにあるので、そういった環境を楽しめる人にはすごく良い場所だと思います。

 

ー富岡さんご自身は、佐渡ライフを楽しめていますか?

 

富岡:かなり楽しんでいます(笑)

 

実は佐渡に来てから釣りを始めました。それからキャンプも始めて、とにかくアウトドアを満喫しようと思っています。休日は一人でゆっくり過ごすこともありますが、外に出かけることが増えましたね。

 

ーそれは素敵ですね。もともとアウトドア派だったんですか?

 

富岡:いえ、もともとは全然アウトドアをやるタイプではなかったんです。

 

でも、せっかく佐渡に来たんだからやってみようかなと思って始めてみたら、これが結構楽しくて。今では休日も含めて非常に充実しています。

 

ー異動が新しい趣味との出会いになったわけですね。仕事の面では、本土と佐渡ではやはり農業の特徴にも違いがあるのでしょうか。

 

富岡:結構違いますね。前の職場でも多くの果樹を担当していたのですが、佐渡はさらに多品目です。

 

佐渡は海洋性の気候なので、本土に比べて「冬は少し暖かく、夏は少し涼しい」という特徴があります。そのため、非常に多様な作物が栽培しやすいんです。

 

お米はもちろんですが、私が担当する果樹で言えば、有名な「おけさ柿」をはじめ、西洋梨(ルレクチエなど)、いちじく、みかんと、本当に様々なものが栽培されています。

 

果樹栽培にはとても適した気候だと感じています。

 

ー同じ新潟県内でも、場所によって気候や作物が大きく変わるのですね。幅広い品目に触れられるのは面白いですか?

 

富岡:そうですね。その土地ごとの特性に合わせて技術を磨いていけるのは、県全域をフィールドにする県職員ならではの面白さかもしれません。

 

信頼関係が全ての鍵。現場だからこそ味わえる「達成感」

ーこれまでの業務の中で、特に印象に残っていることや、やりがいを感じたエピソードがあれば教えてください。

 

富岡:やりがいを感じるのは、やはり農家さんから頼りにされた時ですね。

 

各地域には、古くからその土地で農業を営んでいるベテランの方々がたくさんいらっしゃいます。そうした方々と関わる中で、「ここはどうしたらいい?」と相談してもらえたり、「頼りにしているよ」と言葉をかけてもらえたりすると、本当に嬉しいです。

 

それは私一人の力ではなく、過去の先輩方が築き上げてきた信頼関係のおかげだと思っています。そのバトンを受け継いで、私も誠実に対応していかなければならないと身が引き締まる思いです。

 

ー一方で、ベテラン農家さんに指導をするというのは、プレッシャーや難しさもあるのではないでしょうか。

 

富岡:そうですね。経験豊富なベテランの方もいれば、就農したばかりの方もいますし、本当に様々な方がいらっしゃいます。

 

中には長年の経験則に基づいて栽培されている方もいて、新しい技術を提案してもすぐには受け入れてもらえないこともあります。でも、経験則に基づいたお話は決して悪いことではなく、私にとっても貴重な情報源です。

大切なのは、相手の話をしっかり聞くこと。「何を求めているのか」「何を必要としているのか」を把握した上で、その方に合わせた対応を心がけるようにしています。

良い悪いではなく、お互いの情報をすり合わせながら、より良い方向を目指す感覚ですね。

 

ーまさにコミュニケーション力が問われる仕事ですね。富岡さんはもともと人前で話すのは得意だったのですか?

 

富岡:いえ、あまり得意な方ではなかったです(笑)それこそ学生時代までは、本当に親しい友人としか話さないようなタイプでした。

この業務に就いてからは初対面の人と話す機会が本当に多いので、最初は少し大変でしたね。

 

ただ、働き始めてから気づいたのは「自分から話しかけることの大切さ」です。こちらから心を開いて話せば、最初は無口な方でも、繰り返していくうちに徐々に心を開いてくれます。そうやって良い関係を築けていけているなと感じています。

 

ー農業職というと、「研究」や「分析」といったイメージもありますが、そういった業務も多いのですか?

 

富岡:確かにそういうイメージもあるかもしれませんが、普及指導員に関しては「現場」がメインです。もちろんデスクワークもありますが、研修会を企画したり、現場を回って個別に相談に乗ったりと、人と関わる時間は圧倒的に多いです。

 

自分が勉強して得た知識や技術を、どうすれば分かりやすく伝えられるか、それを実践してもらうことで、最終的に農家さんの所得向上や喜びにどう繋げるかを常に考えるようにしています。

 

植物が相手なので結果が出るまでには時間がかかりますが、毎年の積み重ねで成果が見えたり、農家さんの笑顔に直接触れられたりするのは、この仕事ならではの大きな魅力だと思います。

 

県庁職員の中でも、これほど県民の方と深く、直接的に関われる職種は珍しいのではないでしょうか。

農村女性グループ協議会「島内研修旅行」の様子

「ル レクチエ」への憧れから県庁へ。私がこの道を選んだ理由

ー少し時間を遡ってお聞きしたいのですが、富岡さんがそもそも農業職を目指したきっかけは何だったのでしょうか。

 

富岡:母方の祖父母が畜産経営をしていて、子どもの頃に帰省するたびにお手伝いをしていたのが興味をもったきっかけですね。「農業に関わる仕事っていいな」と、幼いころから思っていました。

 

大学進学時、将来何を仕事にするかと考えた時に、昔から馴染みのあった農業職を選びました。

 

ーそこからなぜ、新潟県庁を志望されたのですか?

 

富岡:市町村の職員という選択肢もありましたが、より専門的な業務に専念できる枠組みがしっかりしているのは県庁だと思い、就職活動は新潟県庁一本に決めていました。

 

実は、新潟県の特産品である西洋梨「ル レクチエ」が昔からすごく好きだったんです。農業職の中でも「果樹」をやりたい、ル レクチエに携わりたいという思いはずっと持ち続けていましたね。

西洋なし「ル レクチエ」収穫追熟研修会の様子

 

ー実際に入庁してみて、県庁という職場へのイメージは変わりましたか?

 

富岡:入る前は、やっぱり「お役所仕事」というか、堅苦しいイメージを持っていました。寡黙で、機械的に事務をこなす人が多いのかな…なんて勝手に想像していました(笑)

 

でも実際は、本当に温かい人が多いです。分からないことがあれば親切に教えてくれますし、私がそうしてもらったように、私も後輩や同僚に親切に対応したいと思えるような、良い循環がある職場だと感じています。

 

人間関係で一緒に仕事をする上で不便を感じることはないですね。これは良い意味でのギャップでした。

 

穏やかで温かい。新潟県庁の「人」と「未来」

ー富岡さんの今後のキャリアの展望について教えてください。本庁勤務や他の地域への異動など、希望はあるのでしょうか?

 

富岡:そうですね。いずれは本庁勤務も経験してみたいとは思いますが、今は現場での普及指導業務に慣れてきて、難しさも含めて「楽しい」と感じているところです。可能であれば、この業務を他の地域でも経験してみたいですね。

 

もちろん、県庁には多様なフィールドがあります。様々な経験を積むことが、将来的にまた普及指導員として戻ってきた時に役立つとも思っています。

 

ー最後に、農業職を目指す学生さんや、新潟県庁への就職を考えている方へメッセージをお願いします。

 

富岡:県庁の農業職、特に普及指導員の仕事は、本当に多くの人と関わります。自分の考えを持つことも大切ですが、農家さんや関係機関など、色々な方の考えを柔軟に受け入れ、吸収できる方が向いているのではないかと思います。

 

「柔軟な対応ができる人」にとって、新潟県庁はとてもおすすめできる環境です。

 

私自身、現場に出て農家さんの喜びに直接触れられるこの仕事に、大きなやりがいを感じています。興味のある方は、ぜひチャレンジしてほしいですね。

 

ー本日はありがとうございました。

 

「もともと人前で話すのは得意ではなかった」と笑う富岡さんですが、インタビュー中の穏やかな語り口からは、農家さんへの深い想いが滲み出ていました。 特に心に残ったのは、「こちらから心を開けば、相手も開いてくれる」という言葉です。技術指導という専門職でありながら、何より大切にしていたのは、データや理屈以前の、人と人としての温かい繋がりでした。

憧れの「ル レクチエ」をはじめ、佐渡の豊かな実りを支えているのは、こうした職員さんの誠実な眼差しなのかもしれません。仕事と暮らしの幸せな調和が、言葉の端々から伝わってくるような取材でした。

 

取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年11月取材)

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