「公務員」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか。「前例踏襲」「トップダウン」「ルールが厳しい」そんな印象を持っている人は決して少なくないはずです。
今回インタビューに応じてくれた釧路市役所の三橋さんも、入庁前はまさにそんなイメージを抱いていた一人でした。
しかし、実際に釧路市役所に飛び込んでみると、そこには若手職員でも裁量を持ってチャレンジできる、驚くほど自由でクリエイティブなフィールドが広がっていました。
入庁直後からLINEを活用した広報紙配布の改善を提案し、異動先では長年続いていたアナログな予約管理をシステム化するなど、次々と業務改善を実現してきた三橋さん。
「違和感を大切にすることが、仕事の面白さに繋がる」と語る三橋さんに、その行動力の源泉と、釧路市役所で働く「リアルな面白さ」について伺いました。
想像以上に「自分で考えていい」環境だった
ー三橋さんは釧路市出身とのことですが、昔から「市役所で地元を変えてやるぞ!」というような熱い想いをお持ちだったのですか?
三橋:いやいや、正直に言ってしまうと、最初はそこまで高い志をもって市役所に入ったわけではないんです(笑)
本音でお話しすると、もともと地元である釧路で働きたいという気持ちが強かったのと、学生時代はあまり民間のことや他業界のことを知らなかったので、なんとなく「公務員なら安定してそうだな」と考えていたのが正直なところですね。
高校生くらいの頃から「あまり転勤はしたくないな、一箇所に腰を据えて働きたいな」という思いが根底にあったので、そういった意味でも地方公務員という働き方は自分に適しているのかなと思っていました。札幌の専門学校に進学したことで、一度釧路を離れたということもあり、地元で働きたいという想いは一層強くなったと思います。

ー札幌での生活を経て「都会で働きたい」という気持ちにはならなかったですか?
三橋:結論から言うと、あまり都会への憧れや魅力は感じなかったんですよね。札幌では中心部に近いところに住んでいたのですが、逆に中心すぎて買い物くらいしかすることが思いつかなかったです。
ふと「釧路になくて、札幌でしかできないことって何だろう?」と考えた時に、自分の中では明確な答えが見つかりませんでした。釧路も極端に小さい街ではないですし、必要なものは揃っています。それであれば、住み慣れた地元の方がいいなと、迷いなく戻ってくることを前提にしていました。
ー三橋さんにとって必要なものは地元に揃っていたのですね。当時、「市役所」のイメージはどのようなものでしたか?
三橋:もう、やることがガチガチに決められていて、とにかく決まったことを毎日こなしていくような場所だと思っていました。
トップダウンの指示が絶対で、若手が主体的に何かを進めていくなんてことはないだろうという、いわゆる「お役所仕事」の典型的なイメージしか持っていませんでしたね。
ーそのイメージは、実際に働いてみてどう変わりましたか?
三橋:それが入ってみたら180度変わりました。実際は全然違ったんです。
もちろん、トップダウンで全員が統一感を持って進むべき場面もありますし、それはそれで組織として大切なことだと感じていますが、現場レベルでは、とにかく自分で考えて進めることがすごく求められるんです。
「こんなに自分で考えて動いていいんだ」という驚きは、入庁してすぐに強く感じましたね。

「とりあえずやってみよう」で実現したLINE活用
ー入庁してすぐにそのギャップを感じたとのことですが、どういった経験が大きかったのでしょうか?
三橋:私が最初に配属されたのは市民協働推進課という部署でした。主に市の広報紙である『広報くしろ』の作成やホームページの管理など、市民への情報発信を担当していました。ここでは、答えのない仕事がとても多かったです。だからこそ、入庁当初から「どうすれば情報が伝わるか」「どう進めるのがベストか」を自分で考えることが求められました。
その環境のおかげで、公務員に対する「お役所仕事」のイメージが入庁早々に砕け散りましたね。
ー具体的に、ご自身で考えて実行された取り組みなどはありますか?
三橋:『広報くしろ』の配布漏れ対策として、LINEを活用した仕組み作りを行いました。
当時、広報紙の配布は委託していたのですが、どうしても「届いていない」といった連絡が月に何件か来てしまっていて、その都度個別に再配布の手配をしていました。これが積み重なると、職員にとっても市民の方にとっても負担になります。
そこで、後輩職員と「何かいい方法はないかな?」と雑談ベースで話していた時に、LINEを活用すれば配布の周知もできるし、届いていない人へのフォローもプッシュ型でできるよね、というアイデアが生まれたんです。
ーまさにDXの第一歩という感じがしますね。周囲の反応はいかがでしたか?
三橋:それが、意外なほどスムーズに受け入れていただいたんです。
さすがに話が大きすぎるかなと思いつつ、上司に相談してみたところ「なるほど。じゃあやってみようか?」と、特に抵抗感なく受け入れてもらえました。その後も思いのほかトントン拍子で話が進んでいったので、後輩と一緒にスピード感をもって形にしていきました。
この経験があったからこそ、「とりあえずやってみよう」というマインドセットが形成された気がします。

「違和感」を大切に。アナログな慣習への挑戦
ー「とりあえずやってみよう」の精神は、その後も発揮されましたか?
三橋:今年の4月に戸籍住民課へ異動となり、そこでもまた「これ、変えてみたい」と思うことがありました。火葬場の予約のデジタル化です。
異動して仕事を教わっている時に、火葬場の予約を取るという業務があったのですが、電話やファックスを併用した、非常にアナログなリレーが行われていたんです。さらに実情を見ていくと、葬儀社の方への負担も大きいことが分かりました。火葬場を予約するためには、死亡届を出してから火葬許可証をもらわないといけないのですが、そのために葬儀社の方がかなりの頻度で市役所に届け出に来ていました。
これを電子化すれば、葬儀社の方もリアルタイムで空き状況が見られるし、予約もスムーズになるはずだと思い、システム化の検討を始めました。
ー長年続いてきた業務フローを変えるというのは、ハードルが高かったのではないでしょうか?
三橋:おっしゃるとおりです。こちらはかなり難航しました(笑)
何しろ10年以上もこの運用でやってきていたので、不便であることにも「慣れ」てしまっていたんです。変えることへの労力の方が大きいという空気感がとても強かったですね。違和感を感じているのは自分だけという状況からのスタートでした。
ー「変える方が大変」という考えもわかりますね。そこからどのように周囲を巻き込んでいったのですか?
三橋:周囲の人へ少しずつ相談し、理解を深めていくしかなかったのですが、大きな変革ポイントとなったのは葬儀社の方からの声でした。「予約手続きが大変」という現場からの切実な要望が上がってきたことで、それなら変えた方がいいという流れに変わってきました。
年度途中の動き出しということもあり、予算はかけられないという前提だったのですが、もともと庁内に導入されていた既存のシステムを応用できないかと模索し、あるものを工夫して使うことでコストもかけずに実現することができました。
疑問を持ち、変えていく楽しさ
ー変えることの楽しさが伝わってきますね。既に運用は始まっているのですか?
三橋:まだ運用を開始して1週間程度ですが、「よかった」「便利になった」という声を多くいただいています。出だしは大変だったものの、結果的にやってよかったなと実感しています。
ーここまで何かを「変えたい」と思える原動力は、どこから湧いてくるのでしょうか?
三橋:自分が動いたことで無駄な作業がなくなり、実際に業務が楽になった時、「自分が変えた」という実感が湧いてきて、すごく達成感があるんです。
これまで行った業務改善のように、自分の取り組みが市民の方や庁内の同僚など、誰かの役に立っていると実感できた時が、今の自分の中では公務員として一番やりがいを感じる瞬間ですね。
それと、性格的に「なんでこのやり方なんだろう?」と深掘りしてしまうところがあるので、理由を突き詰めて「だったら変えた方がいい」という結論が出たら、もう何もせずにはいられなくなってしまうんですよね(笑)

ー常に新しい視点を持っているのですね。これまでの経験の中で、成長を感じる部分はありますか?
三橋:成長と言えるか分かりませんが、資料作りはだいぶ精度が上がってきたと思います。
最初の頃は、何の根拠もない作文のようなレベルだったのですが、上司や関係者を説得するために数字や根拠を入れるようになり、視覚的にも工夫をしたりと、最近では少しずつ説得力のある資料が作れるようになってきました。
何より「市役所の仕事は変えられない」という思い込みが消えたことが、自分の中では一番の変化であり成長かもしれませんね。
釧路市役所は、互いに「仲間」と呼べる場所
ー三橋さんの率直な思いとして、釧路市役所の職場環境や人間関係はいかがですか?
三橋:職場の雰囲気は、一言で言うと「仲間」という感じですね。組織全体が一つの塊のような印象です。新しいことに挑戦して、もし失敗したとしても、決して責められたり個人の責任にされたりすることはありません。「次また頑張ろう」と温かく迎えてくれる土壌があります。
トップダウン一辺倒ではなく、下からの意見もしっかり汲み取ってくれるので、若手にとっては非常に働きやすい環境だと思います。

ー入庁前の「お堅い」イメージとは大違いですね。
三橋:もちろん、仕事の進め方としてはとても慎重だと感じることも多いです。
ただ、それは前例踏襲で頭が固いという意味ではなく、ミスがないようにしっかりと基礎を固めるという意味での慎重さです。そこさえしっかり押さえておけば、新しいことにも寛容な職場ですね。
ーこれからの釧路市役所には、どんな人に来てほしいですか?
三橋:思ったことを素直に言い合える人がいいですね。
自分の中に良いアイデアや疑問があっても、秘めているだけでは何も変わりません。多少進めづらいことがあっても、周りをどんどん巻き込んで、「やってみましょう」と発信できる人と一緒に働きたいです。
あとは、やはり公務員ですので、市民の方や仕事に対して「誠実」であることは一番大切だと思います。
ー最後に、釧路市役所に興味を持っている方へメッセージをお願いします。
三橋:私自身がそうだったように、公務員に対して「お堅い」というイメージを持っている方は多いと思います。でも、まずはそのイメージを一旦すべて取り払ってみてください。
釧路市役所は、あなたが思っているよりもずっと自由で、自分のやり方次第でいくらでも仕事が面白くなる場所です。
「お役所仕事」という固定観念を捨てて、もっとラフな気持ちで、気楽に飛び込んできてほしいなと思います。一緒に「当たり前」を変えていける仲間をお待ちしています!

ー本日はありがとうございました。
「なんでこのやり方なんだろう?」 三橋さんが業務の中で抱いたその小さな問いの先には、常に「誰かの負担を減らしたい」という静かな優しさがありました。 火葬場予約のデジタル化も、単なる効率化という言葉だけでは片付けられません。役所へ足を運ぶ葬儀社の方への配慮こそが、変革の本当のスイッチだったのです。
「ここは仲間と呼べる場所」 そう笑顔で語る三橋さんの表情からは、失敗を許容し、互いの挑戦を称え合う釧路市役所の温かな体温が伝わってきました。 「安定」のその先にある、自らの手で仕事や街を良くしていく確かな手応え。その熱量は、これからキャリアを考える多くの人の背中を押してくれるはずです。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年12月取材)



