大阪府泉南市の「なるにっこ認定こども園」で保育士を務める大源 理絵(だいげん りえ)さんと坂上 ななほ(さかうえ ななほ)さん。人権を大切にする園の教育方針や、ベテラン・若手だからこそ感じる保育士の仕事の魅力についてお話を伺いました。
ー入庁までのお二人のご経歴についてお聞かせください。
坂上:4年制大学で保育士の資格を取得しました。卒業後は公立施設で保育士をしたいと考え、就職活動では11の市町村を受験した経験があります。泉南市に入庁して4年目です。
大源:短大卒業後に入庁して28年目です。最初は嘱託職員でしたが、先輩職員の後押しもあり22歳からは正規職員として働いています。なるにっこ認定こども園の前身である保育所や子ども総合支援センター、地域子育て支援センターへの異動を経て、現在のなるにっこ認定こども園に戻ってきました。
ー泉南市への入庁を決めたきっかけはなんだったのでしょうか?
坂上:就職活動当時は一次試験で落ちてしまうことも多かったのですが、福利厚生が良くて長く働けるという理由からどうしても公立施設での就職を希望していたんです。募集時期が最後であった泉南市に望みをかけて受験しました。
泉南市は地元ではないのですが、学生時代に泉南市の放課後等デイサービスで陸上コーチのアルバイトをしており、元々馴染みがあったこともきっかけの一つです。
大源:結婚してからは隣の市に引っ越しましたが、泉南生まれの泉南育ちです。就職に悩んでいたとき、教育実習でお世話になった主任の先生が「アルバイトに来たら?」と声をかけてくれたことがきっかけでした。
ーお二人がお勤めのなるにっこ認定こども園では、クラス数や職員の配置はどのようになっていますか?
坂上:子どもが約170名、職員を含めると約220名です。全体で10クラスあり、私は現在5歳児クラスに加配担当で入っています。昨年は初めて主担任も務めました。配属されるクラスや役割はその年によって変化します。
大源:私は1歳児クラスの主担任を務めています。職員配置に関しては国の基準が設けられており、発達の遅れや障がいなど、子どもの程度に応じて加配担当職員が割り振られる形です。
ーなるにっこ認定こども園の保育方針や、園の魅力についてお聞かせください。
大源:子どもの人権や自主性を大切にしており、「生きぬく力」「心ひらく力」「共に育つ力」を育てる保育・教育という教育方針を掲げています。変化の激しい社会の中、「大事にせなあかんこと」は何なのかを、地域の小中学校と連携して話し合う環境ができています。
坂上:園内外の先生や市役所職員が見に来てくださる公開保育では、子どもに対する声かけの仕方、自分ひとりでは見きれない部分に気づいて共有してくださいました。保育を客観的に学ぶことで、一人ひとりを取りこぼすことなくしっかり見るという基盤がつくられています。
ー子どもたちも人権を学んでいるのでしょうか?
大源:そうですね。職員が子どもの人権を大事にすることはもちろん、子どもたち自身にも人権的な意識を学んでもらう考えが根付いています。
坂上:4~5歳クラスでは、日常生活における「参加する権利」「育つ権利」「生きる権利」「守られる権利」について劇を作り、子どもたちに披露しています。「こんなときはどうしたらいい?」「どんな言い方をしたらいいかな」など、子どもの権利を理解できるよう工夫しています。
ー人権教育に力をいれているのですね。
大源:人権教育の推進に力を入れています。だからこそ市の人権推進課や教育委員会の人権国際教育課、学校との連携が多い。さまざまな環境の方々と一緒に学ぶことができるのは公立施設ならではのメリットですね。
泉南市では、「できた」の喜びを大事にするという保育の基本方針があります。生活や遊びの中で新しくできるようになったことに対し、しっかりと褒め、認める。そのためにも、子どもたちにいろいろな環境を整えることを大切にしています。
ー他機関との連携は、保育施設としては珍しい取り組みですね。具体的にどんなことを行っているのでしょうか?
坂上:年2回ほど、人権教育に関する研修に参加しています。
泉南市内の保幼こ小中の教職員でつくられる団体主催の研修に参加することが多いですね。他にも、地域の団体との交流や就学前施設との連携など、さまざまな形で人権に関する知識を深めています。
ー入庁後の配属はどのような形で行われますか?
大源:幼稚園は教育委員会管轄となるため、保育士として入庁した場合は基本的になるにっこ認定こども園やこども総合支援センター、地域子育て支援センターへの配属となります。
これまでに全ての施設を経験してきましたが、人権に対する視点や意識は同じでしたね。
ー大源さんは多くの異動を経て、複合的な知見を得てきたんですね。坂上さんは今後のキャリアについてどのようにお考えですか?
坂上:ゆくゆくは子ども総合支援センターで、より療育に特化した保育を学んでいきたいですね。さらには、地域子育て支援センターで親子ともに支えられるような存在になることが理想です。そのためにも、まずはなるにっこ認定こども園で保育の経験を積みたいと思っています。
ー園や職員の雰囲気についてお聞かせください。
坂上:実習でどんなにいろいろな保育園を見てきたとしても、実際に保育士になってからはわからないことが沢山ありました。書類の書き方はもちろん、子どもの対応方法も一人ひとり異なる。悩むことが多かったのですが、誰かが必ず声をかけてくださるんです。
1個聞いたら20個返ってくるくらいで、困ったときにひとりで抱え込まなくてもいい安心感があります。私自身が助けてもらった分、これからは後輩の様子を気にかけることができるようになりたいと思います。
大源:14年ぶりになるにっこ認定こども園に戻り、後輩職員に教える立場ではありますが、逆に刺激をもらいっぱなしなんです。現在なるにっこ認定こども園の職員は、男女問わず幅広い年齢層で構成されています。
若手だからできること、ベテランだからわかることを保育に活かすことができる。この園ならではの良さが生まれていると思います。
ー幅広い年代の職員同士、円滑なコミュニケーションをとることはできていますか?
坂上:初めて主担任を務めた際、大ベテランの先生と組ませてもらったのですが、制作ひとつに関しても「こうしようと思っているんだけどどうかな?」と対等に聞いてくださいました。意見を言いにくいということはなかったですね。
大源:園長先生も、「失敗をしても私が助けるよ」という太っ腹な方なんです。若手はどんどんチャレンジしなさい、中堅層も怖がらずに自分の経験を活かしてみなさい、と言ってくださる。なので私もやりたいと思ったことはどんどん挑戦するようにしていますし、若手職員にも「一緒にやろう」と声をかけています。
ー次に、園での働き方についてお聞かせください。
大源:通常保育の前後には保育準備や書き物があるほか、土曜出勤や延長保育のお手伝いが発生する場合もありますね。今後、正規職員の方が増えていけば作業の分担が可能となり、より働きやすくなると思います。また、休暇はきちんと取得できる環境です。
ー泉南市で保育士を続けることの面白み、やりがいについてお聞かせください。
坂上:一番は、子どもたちの成長を身近で見守れるところです。また、加配担当としては保護者支援という側面も大きく、ときにはこちらの意図がうまく伝わらないこともあります。それでも一緒に過ごしていく中で相談し合える間柄となり、子どもの成長をともに喜び合えることが本当に嬉しいです。
さらに、子どもたちとは毎日何かしらのできごとで笑い合っています。しんどいこともありますが、「今日も疲れたけど楽しかったな」と思えるんです。子どもたちや保護者、先生同士との他愛ない会話があるからこそ、元気になれるんです。こんなに楽しんでいていいのかなと思う時もあるくらい笑っています。
大源:先日の帰り際、かつての教え子が声をかけてくれたんです。私が初めて担任した1歳児クラスの男の子でした。当時の可愛い顔が思い浮かんで嬉しかったですね。「今度飲みに行こうよ」「結婚相手に悩んでんねん」など、近況をいろいろと話してくれました。
何十年経っても、子どもがどう生きているかがみえる。子育て支援に携わるからこそのやりがいですね。子どもはつくらなくてもいいという雰囲気が生まれている世の中で、それでも「生んでよかった、育ててよかった」「園に通って、先生に出会うことができてよかった」と思ってもらえることが私の喜びです。
ー最後に、求職者に向けてお伝えしたいことはありますか?
大源:保育士を志望する若い方々には、保育士という仕事を盛り上げ、保護者も子どもも笑顔にする保育を目指していただきたいです。
坂上:泉南市は、採用時に重視するポイントとして「人柄」を挙げています。他の自治体に落ち自信を失っていた私にとって、「泉南市であれば得意なことが見つかるかも」と思えるきっかけになりました。面接でも、私のデイサービスでの経験に興味を持ってじっくりと話を聞いてくださったんです。
そこで、「坂上さんは人に恵まれて、楽しく生きてきたんだね」と言っていただけて。私自身の人柄があったからこそいろいろな人に助けられてきたんだ、ということを伝えてもらい嬉しかったですね。その人自身をしっかりと見つめてくれる、泉南市の大きな魅力です。
ー本日はありがとうございました。