福井県坂井市役所の子ども福祉課で社会福祉士として働く林田さんのインタビュー記事です。民間施設での経験を経て公務員へ。病院勤務から現在の児童福祉分野まで、多様な現場で培った視点と、多職種連携で困難ケースに向き合うやりがい、そして坂井市で働く魅力について伺いました。
ー林田さんのこれまでのご経歴について教えていただけますか?
林田:元々、福祉系の大学に進学し、卒業後県外の福祉施設で介護業務に3年間従事しました。その後、私生活での転機もあり、地元である福井県に戻ることにしました。そのタイミングで社会福祉士の資格を取得し、精神疾患のある方の就労支援施設で生活支援員として3年間勤務しました。
そこから、30歳手前で坂井市役所へ転職して9年目となります。
ーきっかけは何だったのでしょうか?
林田:それまでは介護の現場では夜勤がありましたし、施設も365日稼働している現場でしたので、年末年始や週末も仕事ということが多かったです。そこで、ワークライフバランスをより良くするため公務員を選びました。
ー坂井市役所に入庁されてからの配属はどのようでしたか?
林田:社会福祉士としての採用だったのですが、最初の配属は坂井市立の病院でした。ちょうど病院の社会福祉士に欠員が出たタイミングだったようです。そこで約6年間勤務し、3年前に現在の部署である子ども福祉課に異動してきました。
―病院での社会福祉士業務はどのようなものだったのでしょうか?
林田:病院での業務は、大きく分けて前方支援と後方支援の二つがありました。前方支援では、例えば救急搬送された高齢者の方が、手術後にリハビリ目的で他の病院へ転院する際の手続き調整などを行います。後方支援は、入院患者さんが自宅に戻る際に必要な介護サービスに繋いだり、自宅での生活が難しい方には施設入所の手続きをケアマネジャーさんと連携しながら進めたりといった業務が中心でした。
ー病院での6年間のご経験を経て、現在の部署、子ども福祉課に異動されたのですね。現在はどのようなお仕事を担当されていますか?
林田:子ども福祉課で児童福祉分野の相談業務に携わっています。これまで高齢者福祉、障がい者福祉、そして病院と様々な福祉分野を経験してきましたが、児童福祉は初めての分野でしたので、最初は戸惑いや葛藤がありました。
特に、高齢者や障がい者の分野では介護保険サービスや障がい福祉サービスといった、ある程度確立されたサービスがあり、ケアマネジャーや相談支援専門員といった専門職も確立されています。しかし、児童福祉の分野では、保育園の先生や学校の先生が相談を受けることはあっても、「福祉」としてのサービスに繋ぐという点では、まだこれから整備していく部分が多いと感じています。
ーなるほど。児童福祉ならではの難しさがあるのですね。
林田:そうですね。子ども自身が相談に来るというよりは、保護者からの相談が中心になるため、対応の難しさを感じることもあります。また、不登校の相談や子どもの精神的な不安定さに関する相談など、多岐にわたるのですが、それを直接的なサービスに繋ぐのが難しいケースも少なくありません。
ただ、例えば不登校であれば学校との連携など、連携先は変わりますが、お子さんの課題解決に向けてどのようにアプローチするかという点では、これまでの経験が活きていると感じます。最初は知識不足で大変でしたが、3年目になり、だいぶ知識も増え、関わり方も身についてきたと感じています。

―子ども福祉課の体制について教えていただけますか?
林田:現在、子ども福祉課の児童家庭相談は、私(社会福祉士)の他に保健師が2名、保育士が1名の合計4名体制で行っています。去年から「子ども家庭センター」が設置され、元々別部署だった母子保健部門と児童家庭福祉部門が一緒になりました。これにより、妊娠期から出産、乳幼児期、学童期、思春期と、切れ目なく相談支援ができる体制になっています。最初は母子保健の保健師が関わり、継続的な支援が必要なケースはこちらに引き継がれ、伴走型の支援を行っています。
ー多職種で連携してケースに対応されているのですね。
林田:はい。保健師さん、保育士さん、そして私、社会福祉士と、それぞれの専門的な視点があります。一つのケースに対して、それぞれの意見を聞きながら、どのように関わっていくのが最善かを相談し合って進めています。担当地区で主担当は決まっていますが、複雑化・複合化した課題を抱えるご家庭も多いので、課内での情報共有や相談は欠かせません。
もちろん、課内だけでは対応しきれない場合は、庁内の福祉総合相談課(生活困窮や生活保護を担当)や、ご家族に高齢者が関わる場合は高齢福祉課と連携して対応することもあります。
―庁内だけでなく、外部機関との連携もあるのでしょうか?
林田:はい、坂井市では「さかまる会議」という連携体制があります。これは国の「重層的支援体制整備事業」の一環で、困難ケースに対して、関係機関が集まって支援方法を協議する会議体です。
守秘義務が課された中で、保健、医療、福祉、教育、就労支援など、様々な分野の専門家が10名程度集まり、一つのケースについて多角的に検討し、連携して支援にあたることができます。このような体制があることで、より包括的で専門的な支援が可能になり、私自身の学びや刺激にもなっています。

ー様々な分野を経験され、多職種と連携する中で、社会福祉士としてのやりがいはどのような点に感じますか?
林田:市役所では定期的な異動があるので、一つの分野に留まらず、多様な福祉分野に社会福祉士として関わっていける可能性があるのは大きな魅力です。例えば、同じ「子どもの問題」であっても、子ども福祉の立場と、障がい福祉の立場では視点やアプローチが異なります。そうした多様な視点を持つことは、結果的に関わり方の幅を広げ、自身の成長に繋がると感じています。
また、相談業務ですので、全てが解決できるわけではありませんが、私たちが関わることで、少しでも良い方向に向かったり、ご家族の負担が軽減されたりした時には、大きなやりがいを感じます。こども家庭庁も発足し、児童福祉分野は今まさに体制整備が進んでいるところです。新しい事業の立ち上げなどに携われることも、やりがいの一つですね。
ー民間から市役所に入られて、ギャップを感じたことはありましたか?
林田:市役所は業務で関わる人が非常に多いと感じました。子ども福祉課の業務だけでなく、他の課と連携して進めなければならない仕事もたくさんあります。病院勤務時代は比較的閉鎖的な環境だったので、市役所に来てからは、連携やコミュニケーションの取り方が大きく変わりましたね。
また、職員組合の活動などを通じて、地域の行事に参加する機会も増えました。最初は「面倒だな」と感じることも正直ありましたが、実際に参加してみると、地域の方々と触れ合う中で新しい発見があったり、お祭りなどを一緒に楽しめたりと、地域との繋がりを感じられる良い機会になっています。
ー職場の雰囲気はいかがですか?
林田:私の部署は女性が多いですが、非常に話しやすい雰囲気です。普段の雑談はもちろん、ケースについてもすぐに相談できる風通しの良さがあります。扱う内容が重いからこそ、お互いに支え合い、和気あいあいと仕事をしている部分もあるのかもしれません。
「こうしたらどうかな?」「そうだね、やってみよう」といった感じで、前向きに意見を出し合える環境です。様々な職種の人がいるので、多様な意見が飛び交うのは、以前の職場とは違う刺激があります。
ーワークライフバランスについてはいかがですか?転職のきっかけの一つでもあったと思いますが。
林田:土日は基本的にお休みなので、子どもが3人いるのですが、週末の学校行事や家族との時間にしっかり参加できるようになりました。これは本当に助かっています。
残業は時期によって波がありますが、4月や年度末などは忙しくなることもあります。ただ、普段は定時で帰れますし、子どもの予定などで早く帰りたい時や、平日に学校行事などで休みを取りたい時も、比較的柔軟に休暇を取得できています。この点は、以前の職場と比べて大きく改善されたと感じています。

ー今後、取り組んでいきたいことや目標はありますか?
林田:現在の子ども福祉分野で言えば、新しい事業が増えてきているので、それらを軌道に乗せていきたいです。例えば、今年度から「児童育成支援拠点」という、子どもの居場所づくりの事業が坂井市でも始まりました。こういった事業に携わり、うまく運営していけるように貢献したいです。それが結果的に、居場所のない子どもたちの支援に繋がればと思っています。市役所の社会福祉士は、相談業務だけでなく、こういった事業の企画・運営や事務作業も多いです。大変な部分もありますが、幅広い業務に携われるのは、ある意味で息抜きにもなりますし、多角的なスキルが身につくと感じています。
ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年5月取材)