奈良市役所では、多様な経歴を持つ人材が活躍しています。
今回は、職務経験者として採用され、現在は管理職として働く秘書広報課の川畑課長にお話を伺いました。
―入庁までの経歴を教えてください。
大学院では、歴史に関する分野を専攻していました。学芸員の資格も取得しており、もともとは美術館や博物館で働きたいという思いがありました。しかし、当時は採用が非常に少なく、現実的な進路を考える必要がありました。
そこで最初に正社員で就職したのは大阪のフリーペーパーの会社で、そこで広告営業を担当し、約5年半勤務しました。
その後、自分の好きな分野でアルバイトをしようと思い、発掘補助の仕事に1年半ほど携わりました。現場で出土した遺物を扱うなど、学生時代に学んだことに近い分野に関われたのは貴重な経験でした。
「そろそろ正社員としてしっかり働きたい」と思っていた頃に、奈良市の広報紙に職員募集の記事を見かけたのが、応募のきっかけでした。
市役所の仕事は、自分の興味がある分野とぴったり一致するわけではありませんでしたが、奈良市役所は広報や観光など、他の自治体とは少し違う分野で活躍できる印象がありました。
「自分でもこういう仕事ができるかもしれない」「なんだか面白そうだな」と感じて、挑戦してみようと思いました。

―どんな業務に携わってきましたか。
最初の配属先はリニア推進課でした。当初は希望していた分野とは少し違う部署への配属かと思いましたが、実際にはPR部門で、業務の多くが広報予算に関わるものでした。
「どの媒体に広告を出すか」「どんなターゲットに情報を届けるか」などを考える仕事で、前職の広告営業の経験を活かすことができたと思います。
最初は分野が違うかもと思いましたが、結果的にはとても入りやすく、自分の経験を活かせるスタートになりました。
―その後、観光や広報部門を経験されていますが、印象に残っている仕事はありますか。
印象に残っている業務はいくつかありますが、やはり一番は、広報紙「しみんだより」に関わったことですね。
もともと前職でフリーペーパーの制作に携わっていたので、紙媒体であるしみんだよりを携わってみたいという気持ちがずっとありましたし、実際にしみんだよりの制作に関わることができたのは、自分にとってとても大きな経験でした。
さらに言うと、しみんだよりは奈良市の全ての市民の方が目にするものなので、とてもやりがいがある一方で、大きな責任も感じました。
1文字たりとも間違えられないという緊張感の中での作業でしたが、全員に届く広報というのは、本当にやりがいのある仕事だと思います。
今は課長になり、しみんだよりの制作には直接関わっていませんが、やっぱりあの仕事は特別で、またつくってみたいなと思うこともあります。

―奈良市のしみんだよりの特徴やこだわりはありますか。
今は、いわゆる“ハイブリッド型”の体制で制作しています。
職員が自分で取材に出て、実際に街を歩きながらインタビューをしたり、記事の文章をまとめたりしています。そのうえで、デザイン面はデザイナーさんにお願いするなど、役割を分担して進めています。
職員自身が取材することで、市の政策や課題、そして職員のリアルな目線を記事に盛り込むことができるので、より市政の現状を反映した内容になっていると思います。そこが奈良市の広報の大きな特徴だと感じています。
―川畑課長ご自身も、実際に取材に出られていたんですか?
はい。表紙の写真を撮ったり、インタビューをしたり、過去の新聞記事を調べたりと、いろいろなことをしていました。
―印象に残っている記事や、思い入れのある仕事はありますか?
そうですね…やはり「しみんだより」のアーカイブ化の仕事ですね。
今のしみんだよりは、昭和25年に創刊されたんですが、それまでのすべての号をWebで公開するプロジェクトを担当しました。
自分が中心となって手がけた仕事で、とても思い出深いです。奈良市の歴史や歩みを振り返りながら整理していく作業は、本当にやりがいがありました。
印象に残っている記事でいうと、水害をテーマにした特集ですね。
奈良市は災害が少ないと言われていますが、実際には佐保川などの周辺では過去に水位が上がって被害が出たこともあります。
「奈良市にもこうした災害の歴史がある」ということを、ビジュアルを通してしっかり伝えたいと思い、当時の新聞記事を調べて特集を組みました。
過去の記録を掘り起こして、見える形にしたことで、「災害は遠い話ではない」というメッセージを市民の皆さんに届けられたと思います。
やっぱり、しみんだよりは“全世帯配布”なので、全員に確実に届くという意味でも、この防災特集は自分の中でとても印象深い仕事でした。

―これまでで「大変だったけれど、やりがいがあった」と感じた仕事はありますか?
直近で言うと、「英語スローガン」のプロジェクトですね。
一条高等学校附属中学校の生徒さんが考えてくださった “Old History, New Discovery.” というスローガンを、市の総合政策課が中心となって完成させ、それを広報的にどう発信していくかを担当しました。
発表にあたっては、記者会見の準備やコーディネート、学校側への調整、デザイナーさんとの打ち合わせなど、全方位的に関係者との連携が必要でした。
ただ発表するだけでなく、「どう見せるか」「どう届けるか」を考え抜く仕事で、本当に多くの調整を伴いました。その時は期日も決まっており、タイトなスケジュールで大変でしたが、成長を実感できました。
―管理職として心掛けていることはありますか?
管理職は技術的なスキルよりも、「ほんのちょっとの勇気を出すこと」だと思います。
係員のころは、少し勇気を出さなくても何とかなる場面が多かったんですが、管理職になるとたとえば、「少し勇気を出してこの人と調整してみる」「勇気を出して決断する」「勇気を出して提案してみる」――。
そういう場面が本当に多いんです。だから私は、「勇気を出すこと」こそが、管理職の使命なのかなと思っています。

―もともと、そうした調整やコミュニケーションは得意だったんですか?
いえ、まったく逆です(笑)。
実はもともと、人に強く指示を出したり、積極的にコミュニケーションを取ったりするのは苦手なほうです。
20年以上働いてきて、自分の弱点はもうよくわかっていますが、管理職になると“苦手だからやらない”では済まされない。だからこそ、少しだけ勇気を出してみることを大事にしています。
そして、苦手な部分は周りに助けてもらったり、相談したりしながら折り合いをつけていく。それが今の自分のスタイルです。
―その姿勢が、部下の方にも伝わっていそうですね。
そうだと嬉しいですね。私自身、もともと人前に出るタイプでもなかったですし、課長に話しかけにくいと感じる職員の気持ちもよくわかります。
秘書広報課では、情報共有ツールを活用して、日々の業務内容を可視化できる仕組みを整えています。
私もその情報活用ツールを活用し、職員がどんな業務を進めているのか、細かなことから大きな案件まで把握できるようになっています。
わざわざ報告してもらわなくても、リモート勤務の職員を含めて、誰がどの仕事をしているかがすぐにわかるようになっています。
こうした情報共有の仕組みがあることで、職員も管理職もお互いに相談しやすくなり、業務がスムーズになります。
管理職が忙しそうだと、声をかけにくいこともありますが、メッセージで送っておいてもらえれば、私のほうも時間を見つけて確認できます。
今はツールが発達しているので、「直接話さなきゃ伝わらない」ということもなくなり、ちょっとした確認や相談もオンライン上でできるのは本当に助かります。
そういう意味で、秘書広報課の職員は本当によく報告・相談してくれます。私はそれを支えるだけでも十分というくらい、頼もしいチームです。本当にありがたいですね。
それと、部下や同僚だけでなく、わたしは上司にも本当に恵まれています。自分では解決できないこと、行き詰っていることをいつでも相談できますし、アドバイスをいただくこともよくあり、本当にありがたいです。こういう職場環境が、私に「ほんの少しの勇気」を授けてくれている、そのように思っています。

―最後に、奈良市役所への入庁を検討している職務経験者の方へメッセージをお願いします。
私が入庁したのは10年ほど前ですが、そのときにまず驚いたのが「市役所って、これまで思っていた役所のイメージとは全然違う」ということでした。
いわゆる“お役所仕事”という言葉がありますが、実際の現場はそんなことはまったくなく、みんな本当に一生懸命に働いていて、スピード感もあります。
いろんな価値観や経験を持った職員がそれぞれの立場から意見を出し合いながら仕事をしていて、「こんなに活気のある組織なんだ」と感じました。

今はその傾向がさらに進んでいると思います。
行政の仕事といっても、民間との協働や新しい分野への挑戦など、本当に多岐にわたっています。
「新しいことにチャレンジしたい」「自分の経験をまちづくりに活かしたい」と思う方には、とても面白いフィールドだと思います。
もし「市役所は堅い」「閉じた組織」というイメージを持っている方がいたら、それはもう昔の話です。
今の奈良市役所は、風通しがよく、若手もベテランも一緒に挑戦できる、すごく前向きな組織になってきています。
職員数は2,000人を超える大きな組織ですが、その中で自分の力を発揮できる場がきっと見つかると思います。
行政の現場で、新しいことに挑戦してみたい方に、ぜひ仲間になってもらいたいです。
―ありがとうございました。



