「転職は35歳まで」―そんな既成概念を鮮やかに塗り替える挑戦が、茨城県かすみがうら市で形になっています。今回お話を伺ったのは、建設コンサルタントとして20年以上のキャリアを積み、かすみがうら市役所へと入庁した石井さんです。
高速道路やインターチェンジの設計、大規模プロジェクトの調整役として第一線で活躍してきた石井さんが、なぜ民間企業の管理職という立場を離れ、公務員としての道を歩み始めたのか。そこには、父親としての切実な願いと、妻のふるさとでもあるこのまちへの恩返し、そして経験者の価値を正当に評価して迎え入れる、かすみがうら市の懐の深さがありました。「前職を活かして自分らしく働ける場所がある」と語る石井さんの言葉は、キャリアの岐路に立つ多くのベテラン層に、新たな勇気と希望を届けてくれるはずです。
- 20年以上のキャリアを武器に。建設コンサルタントから「公務員」への転身
- 父として、住民として。転職を決意させた「家族との時間」と「恩返し」
- 「専門性」を高く評価する試験制度。ベテランだからこそ感じた“チャンス”
- 入庁して実現した「理想の働き方」。仕事と家庭の調和がもたらした変化
- 経験は裏切らない。かすみがうら市で「次のキャリア」を始める仲間へ
20年以上のキャリアを武器に。建設コンサルタントから「公務員」への転身
ーまずは、石井さんのこれまでのキャリアについて簡単に教えていただけますか?
石井:はい、私は土木系の大学・大学院を卒業してから、24歳で建設コンサルタントの会社に就職しました。それから約20年以上にわたって、一貫して道路を中心とした社会インフラの計画・設計に携わってきました。
具体的には、高速道路本線・インターチェンジ・SAの設計から、駅前広場や生活道路まで、非常に幅広いプロジェクトを経験してきましたね。
そして今年の1月、かすみがうら市役所に転職をしました。
ー20年以上!まさに道路設計のスペシャリストですね。民間企業ではかなり責任のある立場だったのではないでしょうか。
石井:そうですね、前職では最終的に道路部の課長という管理職のポジションを務めていました。設計の実務だけでなく、高速道路関係の会社へ3年半ほど出向し、発注者側の立場で新規路線の建設プロジェクトに携わったこともあります。
そこでは地元の町役場や警察といった関係機関との調整役も担っていたので、今思えば、あの時の経験が現在の市役所での仕事にも繋がっていると感じます。

父として、住民として。転職を決意させた「家族との時間」と「恩返し」
ー前職でも順風満帆なキャリアを歩まれていた中で、なぜ「転職」という選択肢が浮かんだのですか?
石井:転職と聞くとネガティブな理由を思い浮かべるかもしれませんが、実は前職に不満があったわけでは全くないんです。ただ、高校生から保育園児までの子どもたちのことを考えると、まだまだ手がかかる時期が続きます。
以前は、かすみがうら市の自宅から都内まで片道2時間、往復4時間かけて通勤していたのですが、そうすると、どうしても家族と過ごす時間が限られてしまいます。「もう少し、子どもたちとの時間を持ちたい」という思いが、心のどこかにずっとありました。
ー往復4時間の通勤は、確かに家族との時間を考えると大きいですね。
石井:また、私がかすみがうら市に住み始めて今年で10年目になります。ここは妻の故郷なのですが、子どもたちにとっては、まさにここが「故郷」になるんですよね。
私自身も、日々の暮らしの中で、行政のサポートにお世話になることが多く、「いつか、このまちに恩返しがしたい」という気持ちが、自然と芽生えていったんです。
そんな時に、たまたま市のホームページで専門職採用の募集を見つけました。「申し込み期限まであと数日」というタイミングだったということもあり、運命的なものを感じて思い切って飛び込むことにしました。
「専門性」を高く評価する試験制度。ベテランだからこそ感じた“チャンス”
ーこのタイミングでの転職となると、試験内容や周囲の反応など、不安も大きかったのではないでしょうか?
石井:正直なところ、一般的な「公務員試験」のイメージだと難しいかなと思っていました。
ですが、今回の採用枠は筆記試験ではなく、プレゼンテーションと面接による選考だったんです。プレゼンは建設コンサルタントの仕事では日常茶飯事ですし、自分の培ってきた技術や経験を直接伝えられる形式だったので、むしろ「これは自分にとって大きなチャンスだ」とポジティブに捉えることができました。
ー経験を積んできた社会人だからこそ、これまでの歩みが武器になったのですね。
石井:そうですね。面接の際には、面接官を務めていた職員の方から「市の現状」や「専門職への期待」などの話があり、市としても土木技術の専門知識を持つ人材が不足しており、外からの新しい風を求めているという切実なニーズを感じ取ることができました。そのため、入庁前から自分が活躍するイメージが湧き、志望度がさらに高まりました。
ー転職後の働き方や処遇面などの不安はいかがでしたか?
石井:これから先も家族を養う必要があったので、正直なところ処遇面、特に給料についてはずっと気にかけていました。民間企業とは異なり、事前に処遇が提示されているわけではなかったので、入庁するまでこの不安はすごく大きかったですね(笑)
ただ、これまでの経験やポジションを考慮した上での給料決定ということを聞いていましたし、最終的には自身のキャリアを正当に評価してもらえたと思っています。

入庁して実現した「理想の働き方」。仕事と家庭の調和がもたらした変化
ー現在は、市役所でどのような役割を担っているのでしょうか?
石井:道路課の副参事という役職を担っています。課長と課長補佐の中間に位置するような立場で、課全体の技術的なサポートをメインに行っています。
まだまだ入庁して数ヶ月ですが、早速設計図のチェックや積算(工事費の算出)の場面で、「前職の視点」を頼りにしていただけているという実感があります。
設計図が正しく描けているか、より効率的な手法はないかなど、これまで当たり前にやってきたことが、組織にとっての新しい価値になっていると感じられるのは、非常に嬉しいことです。

ー生活面での変化は、当初の目的通り叶えられましたか?
石井:これはもう、劇的に変わりましたね。以前は通勤に時間がかかっていたこともあり、家族と夕食を囲むということはほとんどなかったですし、帰宅が深夜になってしまうことも少なくありませんでした。
今は夕食はもちろんのこと、子どもとお風呂に入る時間もしっかり確保できています。通勤時間がなくなった分、朝と夕方の時間に関しては本当にゆとりを持って家族と過ごすことができていると思っています。
これまでは通勤時間が長く、仕事がメインの生活となってしまっていたので、妻にも負担をかけていたと思います。口には出しませんが、少し「安心」をしてもらえたのではないかと思っています。
経験は裏切らない。かすみがうら市で「次のキャリア」を始める仲間へ
ー最後に、同じようにベテラン層で転職を迷っている方へメッセージをお願いします。
石井:私たちの世代は、現職での職責や家族のことなど、守るべきものが多くてどうしても保守的になりがちです。でも、かすみがうら市には、積み重ねてきた年数や保有資格、そして何よりその人が歩んできた「経験」という無形の財産を、正当に評価して迎え入れてくれる体制が整っています。
ー「今さら転職なんて…」と諦める必要はない、ということですね。
石井:その通りです。むしろ、荒波に揉まれてきた経験こそが、行政という新しいフィールドでは最大の武器になります。若手からベテランまで、お互いに敬意を持って接するこの職場は、自分のスキルを新たなフィールドで試したい「経験者」にとって、とても良い舞台です。
私も振り返ってみて、この転職は間違いなく「正解」だったと確信しています。ぜひ、勇気を持って飛び込んできてください。
皆さんと一緒に、このまちの未来を創っていけるのを楽しみにしています。

ー本日はありがとうございました。
「家族と暮らしているまちに、恩返しがしたい」
そう語る石井さんの瞳には、確かな誇りと自信が宿っていました。20年という長い歳月、首都圏を中心に大規模なインフラを支えてきた石井さんが辿り着いたのは、子どもたちが毎日通る「地元の道路」をつくり、守る仕事でした。
取材を通じて感じたのは、かすみがうら市役所の「柔軟な包容力」です。管理職としての経験も、親としての視点も、すべてを組織の力に変えていこうとする温かな空気。石井さんの存在は、キャリアの後半戦をどう生きるか悩むすべての方に、挑戦する素晴らしさを教えてくれている気がします。「経験を活かす」とは、単に知識を使うことではなく、その人にしか出せない“味”を地域に還元することなのだと実感した取材でした。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年5月取材)



