‐矢板市では、職員からの提案を歓迎し、身近な業務の効率化など、小規模な試行から速やかに実装につなげる運用を重視しています。
‐今回は、若手職員の提案をきっかけに、ボトムアップで施策の実現に至った取組事例をご紹介します! 矢板市役所で皆さんの発想力や企画力を発揮してみませんか?
‐職員向け生成AIの導入を提案し、実現させた総合政策課デジタル戦略推進室のOさんにお話を伺いました。

●どんな課題を解決したいと思い、職員向け生成AIの導入を提案したのですか?
職員数は減少し、予算も限られる一方で、業務量は増加し、内容はより複雑化し、さらに社会全体の情勢も不確実で先が読みにくい状況になっています。
そんな中で「限られた人員と予算の中でも、市民サービスの質を落とさず、むしろ高めていく」という難しい課題を解決したいと考え、導入を提案しました。
これまでも庁内における生成AIの活用推進を図ってはいましたが、無料版ChatGPTの利用にとどまっており、なかなか普及が進まない状況にあったので、そういった状況を打破したいという思いもありました。
●職員向け生成AIを導入したら、なぜ課題が解決できると考えたのですか?
生成AIを導入すれば、限られた人員と予算でも業務の初動を速め、成果の質を保ちながら市民サービスを高められると考え、次のように分析と仮説立てを行いました。
⑴現状整理
職員減少や予算縮小に反して業務は増加・複雑化し、従来のやり方では限界が見えていた。
⑵業務分解
調査、情報整理、文書作成、議会対応及び窓口対応に特に負担が集中していると整理した。
⑶AIの得意分野
調査、情報整理、文書作成、議会答弁案の作成等の定型的で繰り返しの多い作業は生成AIが得意で、短時間で“たたき台”を作れると見込んだ。
⑷仮説
生成AIで初動を効率化すれば、職員は企画や判断、窓口対応に専念でき、生産性の向上と市民サービスの充実を両立できると考えた。
●市役所内の合意形成など、導入に至るまで様々なステップがあると思いますが、どのような手順で職員向け生成AIの導入を進めていったのですか?
職員向け生成AIの導入にあたっては、次のようなステップを踏みました。
⑴情報収集と庁内共有
他自治体の職員から職員向け生成AIの情報を得て、デジタル戦略推進室内で共有しました。
⑵提供会社との面談
職員向け生成AIを提供する会社とオンラインで面談し、
- 各自治体100アカウント無料
- 議会議事録など行政特化ナレッジを活用可能
- トークン数の制限なし、かつ入力データは学習に使われない
- ChatGPTやClaude、Gemini、PLaMoなど複数LLM(大規模言語モデル)が利用でき、用途に応じた使い分けが可能といった特徴を確認しました。
⑶上司への提案と試行決定
上司に情報を共有し、導入コストや行政特化型の生成AIである点、学習機能がない点などが評価され、無料の100アカウントについて試してみることになりました。
⑷庁内募集と利用申請
先着で100名の職員を対象に利用希望を募ったところ、わずか3日で枠が埋まりました。その後、利用申し込みの起案を行い、課長決裁を経て正式申請しました。
⑸アカウント配布と利用ガイドライン整備
職員100名にID・パスワードを配布。あわせてログイン方法や使い方及び「矢板市生成AI利用ガイドライン」を通知しました。
●導入後はどのような運用をしているのですか?
導入後は、職員が日常的に生成AIを活用できるよう、次のような運用を行っています。
⑴導入サポート研修実施
導入サポートとして、職員向け研修を2回実施し、基本操作や活用事例について説明を行いました。
⑵情報発信「生成AIのススメ」
職員向けのお知らせにて、9月10日から毎週水曜日にブログ形式で業務での活用ヒントを継続的に発信しています。

●生成AIを導入した結果、変化を感じる点はありますか?
生成AIを導入したことで、次のような変化が見えてきました。
⑴これまであまり関心のなかった職員も、AIに興味を持つようになった。
⑵自分でAIについて調べたり、実践的に工夫して活用する職員が出てきた。
⑶アンケートの作成や他自治体での事例収集、文書の作成・要約・校正、統計データの分析などに活用されており、「業務が楽になった」「文書の下書きが短時間でできて助かる」といった肯定的な声が寄せられている。
⑷少しずつ庁内全体でAI活用の手応えを感じ始めている。
⑸生成AIのアカウント申請を追加で希望する職員が増え、利用の広がりを実感している。
●上手くいった点は何ですか?また、逆に上手くいかなかった点についてはこれからどのように改善していきたいと考えていますか?
上手くいった点としては、無料版から始められたことで初期コストが抑えられ、導入のハードルが下がり、スムーズに生成AI導入が進んだ点かなと思います。
また、他自治体との情報交換や、以前から研修を通じてAIに関心を持つ職員が多かったことも追い風になりました。
上司の理解と後押しもあり、庁内で自然に受け入れられ、短期間で実際の業務活用につなげることができました。
課題としては、まだまだ「AIを使う第1歩」を踏み出すのが重いと感じています。今後は研修や活用事例の共有を重ね、誰でもすぐ試せる使い方の工夫を発信することで、より多くの職員が日常業務で活用できる環境づくりを進めていきたいです。



