隠岐の島町役場で土木技術職として働く西森さんのインタビュー記事です。祖父母が暮らすこの島へIターン就職し、9年目。道路や水道など、島のインフラを最前線で支えています。大規模工事から町民の小さな困りごとまで、自ら汗を流す現場主義の仕事のやりがい、そして離島ならではの豊かな暮らしとは。
- 祖父母のいる島へ。公務員という選択
- 草刈りから大規模工事まで。島のインフラを支える現場主義
- 「ありがとう」が原動力。住民との距離がやりがいになる
- 想像以上に「コミュニケーション能力」が問われる仕事
- 面倒見の良い先輩たちと、技術職ならではのチーム感
- オンもオフも自然を満喫。離島暮らしのリアル
祖父母のいる島へ。公務員という選択
ーまずは、隠岐の島町役場で働こうと思われた経緯について教えていただけますか。
西森:もともと隠岐の島の出身ではなく、父親の仕事の関係で中国地方を転々とする転勤族でした。ただ、祖父母の家が隠岐の島町にあったので、年に一度は帰省していて、その度に海で泳いだり山で遊んだり、この島の豊かな自然に親しんできました。
大学では土木工学を専攻しており、就職活動では、ゼネコンや建設コンサルタントといった民間企業ももちろん考えていました。ただ、周りの話を聞いていると、どうしても働き方が大変だなとは思っておりまして。
それで、将来を考えたときに、自治体の土木技術職の仕事があることを知りました。ワークライフバランスや福利厚生が整っているという魅力もありましたので、子どもの頃から慣れ親しんだ隠岐の島町で働きたいと思い、隠岐の島町役場を第一志望として受験しました。
草刈りから大規模工事まで。島のインフラを支える現場主義
ー入庁されてから現在までのキャリアと、具体的なお仕事内容について教えてください。
西森:最初の4年間は上下水道課に配属され、主に下水道の配管工事を担当していました。そこで異動し、現在は建設課に所属して5年になります。業務の根本は変わらず、今は担当する工事が道路になったというイメージですね。
ー建設課や上下水道課の他に、どのような配属先があるのでしょうか。
西森:農林水産課です。農道や林道の整備、農地関係の補助金に伴う工事などが主な業務になります。あと、建設課の中ですが、港湾関係を担当する場合もあります。
ー現在担当されている道路整備のお仕事について、詳しく教えて下さい。
西森:日中は現場に出て、夕方役場に帰ってきてからデスクワーク、という仕事の流れが多いです。年間で計画している大きな工事としては、今年度でいえば5,000万円規模の半年から1年近くかかるようなものを3本ほど担当しています。
ただ、それにあわせて町民の方々からの問い合わせに応じた突発的な対応が非常に多いです。年間スケジュールの大きな工事を、外部業者との工程会議や仕様変更の協議、現場の指導などを行いつつ、町民の方から呼ばれたらすぐに現場へ出ていという形式です。

ー問い合わせはどういったものがあるのですか?
西森:町道の草刈りや、緊急で対応が必要な道路の陥没対応などですね。「できることは職員でやろう」という方針なので、草刈り機を持って現場に行ったり、アスファルトの材料を買ってきて自分で補修したりすることもあります。実は、この取材の後も側溝に溜まった落ち葉を取りに行く予定です。
ーご自身でそこまで対応されるとは驚きました。
西森:役場から一番遠い現場でも車で30分以内には着きます。すぐに現場には駆けつけてできることならその場で対応する。フットワークの軽さも、私たちの仕事では重要ですね。
「ありがとう」が原動力。町民との距離がやりがいになる
ー地域に密着したお仕事だからこそのやりがいも大きいのではないでしょうか。
西森:それはすごく感じますね。自分が関わった道や水道が、町民の皆さんの生活を支えていると実感できることが一番のやりがいです。特に道路整備は目に見える形で町に残っていきますし、完成したときに「ありがとう」と直接声をかけていただけると、大きな達成感があります。
ー島というコミュニティだからこそ、町民の方との関係性も密接になりそうですね。
西森:そうですね。こっちに来た当初は知り合いなんてほとんどいませんでしたが、9年も住んでいると、「あの時の工事をやっていた人だよね」と声をかけていただくことが多いです。
だんだん顔見知りになっていって、役場の職員というより「西森さん」として個人で見てもらえるような関係になっていく。そこが隠岐の島町で働く面白い点だと思います。
ー逆に大変な点はありますか?
西森:大変な経験としては災害対応が挙げられます。突発的な対応の中でも、災害対応は特にウェイトが大きいです。通常の業務を進めながら、災害への対応にベクトルを向けなければならないので、本当に大変です。
ー技術職にとって、災害対応は重要な使命ですよね。
西森:はい。他の職員は避難所の開設など、災害が過ぎ去るまでが主な仕事かもしれませんが、私たち技術職は、そこからインフラを「直すところまで」が仕事です。道路が一本なくなるだけで、地域の方々の生活にもろに影響が出ますから、「早く復旧してあげないと」という一心で対応にあたります。
大雨で大きな被害が出た際には、夜通し現場を巡回し、寝ずに作業をしたこともありました。身を削るような思いをした分、復旧が完了した時の安堵感と達成感は、得がたい経験になりました。


想像以上に「コミュニケーション能力」が問われる仕事
ー実際に入庁されてみて、働く前に抱いていたイメージとのギャップはありましたか。
西森:想像以上に「コミュニケーション能力」が大事だと感じたことです。例えば、住民の方が本当に困っていることは何なのかを上手に聞き出す力や、言いづらいことでも相手の気持ちを汲み取りながら上手に伝える技術は強く求められます。
きっちり事務的なことをこなしていれば良いというわけではなくて、円滑なコミュニケーション能力が必要です。先輩方のうまいコミュニケーションを見て学ばせてもらうことばかりです。
面倒見の良い先輩たちと、技術職ならではのチーム感
ー職場の雰囲気についても教えてください。
西森:すごく風通しが良くて雰囲気が良いです。一人ひとりに仕事が割り振られていますが、決して個人プレーというわけではありません。
西森:それぞれが自分の仕事はやりとげるという責任感がありますが、その上でチームとしての団結力もすごくあり、いざという時は協力し合います。例えば、国の補助金事業が適正に行われているかを確認する会計検査があるのですが、忙しい中全員で取り組みます。それが無事に終わると「お疲れ様!じゃあ焼肉行くぞ!」と皆で打ち上げにも行きますね(笑)。技術職ならではのチーム感、団結力があります。

オンもオフも自然を満喫。離島暮らしのリアル
ーワークライフバランスについてはいかがですか。
西森:災害があればもちろん残業等も発生しますし、年度末の3月や12月頃はやはり忙しくなります。しかし、何もない平時は、18時までには家に帰れている日が多いです。
休日も土日祝できっちりと休むので、趣味のキャンプや釣りを楽しんでいます。隠岐の島に来てから、どっぷりハマりました。釣りが好きな人なら、絶対に隠岐の島に来た方がいいですよ。
ー実際に移住されてみて、暮らしやすさはいかがですか。
西森:思ったよりも住みやすいです。夜11時まで開いている個人商店のコンビニもありますし、ドラッグストアもあります。日常生活で特に困ることはないです。ただ、車だけは絶対に必要です。車さえあれば、本当に快適に暮らせる場所だと思います。
ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年6月取材)