隠岐の島町役場で社会福祉士として働く松井さんと、所属する保健福祉課の広江課長のインタビュー記事です。高齢化が進む離島で、住民一人ひとりの人生に寄り添い、時には地域全体の仕組みを変えるほどの大きな影響力を持つ社会福祉士の仕事。
なぜ現在隠岐の島町役場で募集しているのか、その背景や仕事、そして試験についてなど赤裸々に語っていただきました。
体制強化を目指して。隠岐の島町が社会福祉士を求める理由
ーまず、社会福祉士を募集される経緯について教えていただけますか。
広江:隠岐の島町の介護福祉分野における対応力を強化するためです。現在、正規職員の社会福祉士は2名ですが、専門職を増員し、より手厚い体制を構築したいと考えています。
松井:私が入庁した14年前は、専門職が私一人だけでした。それに比べれば増えましたが、まだまだ増員は必要です。隠岐の島町の高齢化率は約4割に達し、年々上昇しています。暮らしに困って相談に来られる高齢者の方も増え続けており、相談業務を担う社会福祉士の必要性を現場でひしひしと感じていますね。まずは今回の募集で1名を採用し、3名体制をとりたいと考えています。

相談支援から制度づくりまで。地域包括支援センターでの多様な業務
ー社会福祉士の方は、どのような部署でどんな業務をされているのでしょうか。
広江:2名とも保健福祉課の「地域包括支援センター」で勤務しています。センターには他に保健師2名、主任ケアマネジャー1名が配置されており、計5名で連携しながら業務にあたっています。
ーその中で、社会福祉士の主な役割とは何ですか?
松井:主な業務は、高齢者の「総合相談」と「権利擁護事業」です。総合相談では、生活上の困りごとなど、様々な相談を受け、適切な制度や関係機関に繋ぐ役割を担います。権利擁護事業では、高齢者虐待への対応や防止のための啓発活動、そして判断能力が低下した方の生活を法的に支援する「成年後見制度」の利用促進などを担当しています。
このほか、要支援認定を受けた方のケアプランを作成する「介護予防ケアマネジメント」業務もあり、これはセンターの職員全員で分担しています。

ー業務はどのように進めているのでしょうか。
松井:相談の一次対応は、役場1階の事務所にいる職員が行い、その後、案件に応じて担当を決めます。私たちは対象者の方のお宅へ訪問することが多いので、事務所にずっといるわけではありません。事業についても、介護予防、医療介護連携、認知症、生活支援などをそれぞれ担当し、係内で協力しながら取り組んでいます。
「ゼロから地域を知る」から始まる。新メンバーに期待すること
ー新しく入職された方には、どのような業務を期待していますか?
松井:高齢者の相談件数は増え続けているので、まずは総合相談や権利擁護業務を一緒に行ってもらいたいです。既存の業務を3人で分担できるよう、介護予防ケアマネジメントの担当ケースを少しずつ持っていただき、個別事業の副担当などから始めてもらうイメージです。将来的には、制度改正で生まれる新しい事業なども担っていただきたいですね。
ー入職後の教育はどのように考えていますか?
松井:何よりもまず、担当する地区を知ってもらうことが大切です。どんな方が暮らし、どんな社会資源や関係者がいるのか。地域を知ることから始めていただき、並行して社会福祉士の業務を一緒に対応しながら覚えていってもらう流れを考えています。
ー将来的には、センター以外の部署で活躍する可能性もありますか?
広江:大いにあります。役場には地域福祉や障がい者福祉など、社会福祉士のスキルが活かせる部署が他にもたくさんあります。組織の人材育成という観点からも、将来的に様々な分野で活躍してもらえるよう、まずは専門職の人員的な基盤を強化したいと考えています。

経験よりも「信頼関係」を築ける人。住民に寄り添う姿勢を重視
ーどういった方に仲間になってほしいですか?
松井:社会福祉士の仕事は、相談に来られた方のこれからの人生を一緒に考える仕事です。そこで最も大切なのは、相手の方との信頼関係を築くこと。制度の知識をただ提示するのではなく、まず相手の話を親身に聞き、コミュニケーションを通じて心を開いてもらう。そういった姿勢をお持ちの方であれば、経験の有無は問いません。
広江:募集は40歳未満で社会福祉士の資格をお持ち(取得見込みを含む)の方であれば、新卒・既卒問わず広く門戸を開いています。選考は人物重視の面接と作文のみで、公務員試験のような筆記試験はありません。
出身地などの地縁も全く関係なく、現在も島外出身の職員が数多く活躍しています。業務を通じて隠岐の島町の暮らしを知り、町民の皆さんのために主体的に行動できる方をお待ちしています。
自分の仕事が地域を変える。コンパクトな島だからこそ感じられる大きなやりがい
ー隠岐の島町で社会福祉士として働く魅力ややりがいは何でしょうか。
松井:小さい島なので、医療機関や福祉施設など、関係機関の方々との「顔の見える関係」が既に出来上がっている点は大きな魅力です。日頃からコミュニケーションが取れているので、困った時にすぐに相談できる体制が整っており、都市部ではなかなか得られない働きやすさだと思います。
広江:隠岐の島町は、車で30分もあれば主要な集落に行けるコンパクトな町です。人口約1万2000人という規模だからこそ、職員一人ひとりの働きかけが、地域社会にすごく大きな影響を与える可能性があります。自分の専門性を活かして、より良い地域社会を直接的につくっていく面白さを感じていただけるはずです。
ー松井さんも、そういった「影響力の大きさ」を実感された経験はありますか?
松井:はい、日々実感しています。以前、身寄りのない高齢者の方を担当した際、入院先の確保が困難な状況に直面しました。当時、病院には身元保証人がいない方の受け入れ体制が整っていなかったのです。しかし、私たちが粘り強く調整を重ねた結果、無事に入院でき、この一件がきっかけで、病院でも同様のケースへの対応が検討されることになりました。
たった一つのケースに真剣に向き合ったことが、病院全体の仕組みを変えるきっかけになった。自分の行動で組織が変わるのを目の当たりにした時、この仕事の大きなやりがいを感じました。担当した方が安心して暮らせるようになった時、それまでの苦労はすべて報われます。

ワークライフバランスとキャリア。安心して働ける環境
ー働き方についてもお伺いします。残業や休暇の取りやすさはどうでしょうか。
松井:ケースによっては業務時間外に対応することもありますが、普段はほぼ定時で帰れています。業務の進め方を自分のペースで調整しやすいのが大きいですね。また、役場全体で休暇取得を推奨しているので、休みの取りにくさを感じることはありません。
ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年9月取材)