管理栄養士として、もっと直接的に、地域の人々の人生に寄り添いたい。そう考えたことはありませんか。
病院や施設での現場経験を経て、地元・上天草市役所へと入庁した池邊さん。行政の管理栄養士という仕事は、単なる栄養指導に留まらず、市民一人ひとりの生活や想いに深く触れるものでした。
今回は、二度の育休を経て、現在は時短勤務で活躍する池邊さんに、仕事のやりがいや働きやすさ、そして街への愛着について伺いました。
- 挑戦の始まり — 地元・上天草市で管理栄養士として働く道を選ぶまで
- 意外な配属先 — 「総務課」での経験が教えてくれた市役所の仕組み
- 現場の最前線へ — 赤ちゃんから高齢者まで、全世代の「食」と「健康」に寄り添う
- 寄り添う姿勢 — 住民一人ひとりの「不安」を「安心」に変えるために大切にしていること
- 支え合う仲間と未来 — 豊かな自然と温かい人に囲まれて、一歩ずつ成長できる場所
挑戦の始まり — 地元・上天草市で管理栄養士として働く道を選ぶまで
ーまずは、池邊さんが管理栄養士を志したきっかけから教えてください。
池邊:きっかけは高校生の頃ですね。進路を考える時期に、何か一つ強みになるような「国家資格」を取得したいという思いがありました。親戚に、栄養士として働いている叔母がいたことも大きかったです。
幼い頃から料理をすることも好きでしたし、身近に専門職として活躍する叔母の姿を見て、「楽しそうだな、自分も食を通じて人を支えたい」と自然にこの道を選びました!
ー大学卒業後は、すぐに公務員を目指されたのですか?
池邊:いえ、まずは現場を知りたいと思い、民間の給食委託会社に就職しました。そこで4年間、病院や高齢者施設、障がい者施設など、さまざまな現場を回らせていただきました。
調理はもちろんですが、献立作成や食材の発注業務など、管理栄養士としての基礎を一通り叩き込んでいただいた時期です。現場で実際に食事が作られ、提供されるまでの流れを肌で感じられたことは、今の私の大きな財産になっています。
ーそこから、なぜ上天草市役所へ転職しようと思われたのでしょうか?
池邊:実は、学生時代に上天草市役所の保健センターで実習をさせていただいたことがあったんです。わずか1週間でしたが、行政の管理栄養士が市民の方々と対話しながら健康を支える姿がとても印象に残っていました。
それから数年経ち、前職で一通りの経験を積んだと感じていた頃、祖父から「市の広報に栄養士の募集が出ているよ!」と連絡があったんです。
行政の募集は毎年あるわけではないので、これは運命かもしれない、大好きな地元のために自分のスキルを活かす【絶好のチャンスだ】と思って挑戦を決めました!

意外な配属先 — 「総務課」での経験が教えてくれた市役所の仕組み
ー入庁して最初の配属先は、専門職としては少し意外な場所だったと伺いました。
池邊:そうなんです、最初の配属は「総務課」でした。管理栄養士として採用されたのに総務課、というのは非常に珍しいケースだと思います。正直に言うと、辞令を受けたときは「えっ、総務課!?」と驚きを隠せませんでした(笑)。
でも、祖父が「総務課にいれば市役所全体のことが全部わかるようになるから、いい経験になるぞ」と背中を押してくれたんです。
ー総務課ではどのような業務を担当されていたのですか?
池邊:人事研修係というところで、主に市役所で働く職員の健康管理や安全衛生を担当しました。職員の健康診断の調整や健康相談の実施、安全衛生委員会の運営などが主な仕事です。
今振り返ると、この経験は本当に貴重でした。市役所がどのような組織で、どのように動いているのかを俯瞰して見ることができましたし、事務作業の基礎もしっかり学ぶことができました。
専門部署に配属される前に、市役所の「中の仕組み」を知ることができたのは、その後の異動先でも大いに役立っています。

現場の最前線へ — 赤ちゃんから高齢者まで、全世代の「食」と「健康」に寄り添う
ー現在は「健康づくり推進課」で、本来の専門性をフルに活かされていますね。
池邊:はい。一度目の育休から復帰した後は、母子保健係で妊婦さんや赤ちゃん、小さなお子さんを持つ保護者の方たちのサポートをさせていただきました。
離乳食教室を開催したり、乳幼児健診で栄養指導を行ったり。二度目の育休を経た現在は、成人・高齢者保健を中心とした業務に携わっています。
ー具体的には、どのような毎日を過ごされているのでしょうか?
池邊:今は時短勤務制度(育児時間休暇)を利用させていただいているので、業務量は調整していただいています。住民健診の結果をもとにした「結果説明会」での個別指導や、特定保健指導、さらに高齢者の方への訪問指導などが主な内容です。
病院での勤務と決定的に違うのは、対象者の幅広さです。病院であれば特定の疾患を持つ方が中心ですが、市役所では「赤ちゃんからお年寄りまで」すべての市民の方が対象です。
その方の人生のあらゆるステージに、「食」という切り口から関わることができるのが、行政ならではの魅力だと思います。
寄り添う姿勢 — 住民一人ひとりの「不安」を「安心」に変えるために大切にしていること
ー住民の方と直接接する中で、特にやりがいを感じる瞬間はありますか?
池邊:やはり、相談に来られた方の表情が変わる瞬間ですね。例えば母子保健の業務をしていたとき、離乳食がうまく進まずに強い不安を抱えていたお母さんがいらっしゃいました。
個別にお話を伺い、具体的な進め方やちょっとしたコツをお伝えしたところ、「少し気持ちが楽になりました、頑張ってみます」と、最後にはパッと明るい笑顔で帰られたんです。その姿を見たときは、この仕事のやりがいを心から実感しました。
ー一方で、対人業務ならではの難しさもあるのではないでしょうか?
池邊:もちろんです。成人保健ではアポイントなしでご自宅を訪問することもあるのですが、時には「何しに来たの!」と厳しいお言葉をいただくこともあります。「病院なんて嫌いだ、行く必要はない」と頑なな方もいらっしゃいます。
そんな時に私が大切にしているのは、まず「聴く」ことです。こちらから指導を押し付けるのではなく、なぜその方がそう思うのか、どんな不安があるのかをしっかり聴く(傾聴する)。そして、その想いに共感することから始めるようにしています。
どんなに正しい知識を伝えても、相手の心に届かなければ、本当の意味でのサポートにはなりません。一歩ずつ、信頼関係を築いていくプロセスも、この仕事の大切な一部だと思っています。

支え合う仲間と未来 — 豊かな自然と温かい人に囲まれて、一歩ずつ成長できる場所
ー仕事と家庭の両立についても伺いたいのですが、上天草市役所の働きやすさはいかがですか?
池邊:一言で言うと、本当に恵まれていると思います。前職の病院勤務などは、土日も関係なく朝昼晩の食事提供があり、常に時間に追われている感覚がありました。今は規則正しい生活が送れていますし、何より職場の皆さんの理解が深いんです。
子どもが急に熱を出したときなども、先輩や上司が「いいよいいよ、こっちは大丈夫だから早く帰ってあげて」と、当たり前のように声をかけてくださいます。
私の代わりに業務を引き受けてくださることもあり、感謝の気持ちでいっぱいです。「子の看護休暇」などの制度も気兼ねなく利用できています。
ー職場の雰囲気や、他の職員の方との関係性についても教えてください。
池邊:とても温かい職場です!専門職の先輩方もたくさんいらっしゃって、迷ったときはすぐに相談できる環境があります。
また、事務職の方々も管理栄養士の視点を尊重してくださり、一緒に「どうすれば市民の皆さんがもっと健康になれるか」を考えてくれます。
隣のデスクの保健師さんから「訪問先で低栄養が気になる方がいたから、今度一緒に栄養相談に行ってくれない?」と声をかけられることもあります。部署の垣根を越えたチームプレーができるのは、上天草市役所ならではの良さだと感じています。

ー最後に、これから上天草市で管理栄養士として働きたいと考えている方へメッセージをお願いします。
池邊:上天草市は自然が豊かで、何より住民の方々がとても温かい街です。行政の管理栄養士という仕事は、一人ひとりの人生に深く関わる責任の重い仕事ですが、その分、感謝の言葉を直接いただける大きな喜びがあります。
私自身、まだまだ勉強中の身ですが、優しい先輩たちに囲まれ、市民の皆さんに元気をいただきながら、毎日楽しく働いています。
地元が好きな方はもちろん、専門性を活かして地域を元気にしたいという志を持つ方と一緒に働けるのを楽しみにしています。ぜひ、私たちと一緒に上天草市の健康な未来をつくっていきましょう!
ー本日はありがとうございました。
インタビュー中、池邊さんが何度も口にされていた「地元が好き」という言葉。その想いは、言葉だけでなく、住民の方々へ向ける眼差しや、真摯に業務に向き合う姿勢そのものに滲み出ているように感じました。
病院という「点」の関わりから、地域という「線」で市民の人生を支える行政の仕事。難しさに直面しながらも、周囲のサポートを力に変えて笑顔で語る彼女の姿は、これからキャリアを積む専門職の方にとって、一つの理想的な「働き方」の形を示してくれているのではないでしょうか。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年3月取材)



