「社会福祉士」と一口に言っても、その活躍のフィールドは医療、介護、福祉に限らず司法分野など多岐にわたります。その中で、あえて「市役所」という行政機関を選び、働くことの魅力とは何なのでしょうか?
今回お話を伺ったのは、伊勢崎市役所の障害者センターで活躍するIさん。もともとは保育士を目指していたそうですが、なぜ社会福祉士という道を選んだのか。
高齢者福祉から障害者福祉へと渡り歩く中で見えてきた「行政ならではの支援の面白さ」や、正解のない問いに向き合う葛藤、そしてそれを支える「チーム伊勢崎」の温かい風土について、たっぷりと語っていただきました。
福祉の仕事を目指す方はもちろん、自分自身のキャリアに迷っている方にとっても、きっと背中を押してくれるヒントが見つかるはずです。
- 虐待対応からコミュニケーション支援まで。多角的に支える「障害者センター」の最前線
- 「正解」のない支援。悩みながらも見つけ出した、チームで向き合うことの大切さ
- 点ではなく「面」で支える面白さ。行政だからこそできる仕組みづくり
- 風通しの良さが成長につながる。伊勢崎市役所の「人」の魅力
- 未来の仲間へのメッセージ
虐待対応からコミュニケーション支援まで。多角的に支える「障害者センター」の最前線
ーまずは、Iさんが現在所属されている部署と、そこで担当されている具体的な業務内容について教えていただけますか。
Iさん:私は現在、障害者センターという部署に所属しています。ここには私の他にもう1名、社会福祉士の資格を持つ先輩がおり、事務職や会計年度任用職員の方を含めて6名体制で業務にあたっています。
私が主に担当している業務は、大きく分けて3つあります。
1つ目は障害者虐待への対応です。これは通報や相談を受けて、心身に危険が及んでいる可能性がある方の事実確認を行ったり、非常にセンシティブな問題に対応したりするものです。
ご本人を取り巻く環境が複雑なケースも多く、非常に多岐にわたる対応が求められますが、最終的には障害のある方が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、再発防止を含めた支援を行っています。
ー通報や相談ということは、現場に駆けつけるようなこともあるのでしょうか?
Iさん:そういったケースもあります。虐待の通報が入った際は、まず「虐待の事実があるのか」を確認しなければなりません。そのため、事業所やご自宅へ直接訪問し、調査に入らせていただくこともあります。現場の空気を肌で感じ、事実を見極める重要なプロセスですね。

ー迅速な行動力と冷静さが求められる現場なのですね。他の2つの業務についてはいかがでしょう。
Iさん:2つ目は障害者自立支援給付認定審査会の運営です。障害のある方が福祉サービスを利用するためには障害支援区分という認定が必要になるのですが、その審査を行う委員会の事務局を務めています。
直接窓口で申請を受け付けるというよりは、医師や専門職である委員の方々が適正かつ円滑に審査を行えるよう、資料を作成したり説明を行ったりする「裏方」としての役割が中心ですね。
そして3つ目が意思疎通支援事業です。聴覚や言語、視覚などに障害のある方が、安心して日常生活や社会参加する中でコミュニケーションを取れるよう、手話通訳者や要約筆記者の派遣、手話通訳者の登録管理など、事業の運営を行っています。設置手話通訳者と協力しながら、安心して利用できる環境づくりに努めています。
障害者センターの隣には「基幹相談支援センター」があり、そこにコーディネーター役の設置手話通訳者の方が常駐しています。「病院に行きたいけれど、医師とうまく話せない」といった依頼に対し、その方が実際の派遣調整を行ってくれるのですが、私はその周知啓発や、聴覚障害のある方に講師を依頼して市民向けの手話講座を開催するなど、事業全体の事務方を担当しています。
誰もが安心して暮らせる地域づくりの一環として、非常にやりがいを感じています。
「正解」のない支援。悩みながらも見つけ出した、チームで向き合うことの大切さ
ー虐待対応など、非常に重い決断を迫られる場面も多いかと思いますが、日々、心がけているようなことはありますか?
Iさん:当たり前のことかもしれませんが、「相手に寄り添って話を聞く」ということを常に心がけています。
相談に来られる方の多くは、人にはなかなか話せない深い不安や悩みを抱えています。最初の声かけ一つ、表情一つで、その後の信頼関係が変わることもあります。
そのため、まずは穏やかな雰囲気を作り、相手の目を見て、じっくりと耳を傾けることを意識し、「この人なら話を聞いてくれる」という安心感を持っていただくことが、支援の第一歩だと思っています。
ー相手方によって、コミュニケーションの取り方も変わるものなのでしょうか。
Iさん:そうですね。今年の4月に異動してくるまでは高齢分野にいたのですが、やはり相手がご高齢の方だと、配慮すべきポイントは少し異なります。
ご高齢の方であれば、ゆっくり、はっきりとお話しすることを意識します。障害のある方であれば、ゆっくりと丁寧に、分かりやすい言葉で簡潔にお伝えすることを意識します。相手のペースに寄り添い、安心して話せる環境をつくることが大切かと思います。
ー今までで「これは難しかった」と感じた経験や、逆に壁を乗り越えたエピソードがあれば教えてください。
Iさん:障害者虐待の対応においては、想像もつかないようなつらい状況に向き合うことがあります。一つひとつの事例で状況も背景も全く異なりますし、何より「これが絶対に正解だ」という答えがあるわけではありません。
「本当にこの対応でよかったのか」「もっと別の方法があったのではないか」と悩み、支援の難しさを痛感することが、正直多々あります。
ある時、判断に非常に迷う困難な事例があったのですが、その際、基幹相談支援センターの方々に相談しました。そこで専門的な視点で助言をもらうことで、最終的に的確な支援方針を導き出すことができたんです。その時、自分一人で考え込むことの限界と、多職種それぞれの専門性を生かしてチームで課題解決を図ることの大切さを、身をもって実感しましたね。
ー一人で抱え込まず、プロフェッショナル同士で連携できる環境があるのは心強いですね。
Iさん:本当におっしゃる通りです。職場には相談しやすい先輩や上司がいますし、課内でも頻繁に話し合います。
虐待対応は、その場が収まれば終わりではありません。再発防止のため、ご本人やご家族、事業所を含めた関係者と必要な支援や見守りを続けていく必要があります。
そうした「次につながる支援」が形になり、状況が改善された時には、この仕事をしていて本当によかったという大きなやりがいを感じます。

点ではなく「面」で支える面白さ。行政だからこそできる仕組みづくり
ー社会福祉士として働く場所として、Iさんが市役所を選んだ理由は何だったのでしょうか?
Iさん:実は私、もともとは保育士や幼稚園教諭を目指していたんです。小さい頃からの夢で、大学も保育関係の学科を卒業しました。
ただ、学生時代に社会福祉士の資格も取れることを知り、実習に行った先で、相談援助を通じて支援につなげていく先輩方の姿を見て、「こういう関わり方で人を支える仕事があるんだ」と興味を持ちました。そこから、同じ福祉分野でも社会福祉士を目指すようになりました。
就職活動の際は、病院の医療ソーシャルワーカーや施設職員など、様々な選択肢があり迷いました。
最終的に市役所を選んだのは、その幅広さに魅力を感じたからです。

ー「幅広さ」とは、具体的にどのようなことでしょうか?
Iさん:市役所には、高齢、障害、児童、生活困窮など、あらゆる福祉分野の部署があります。そして、一人の市民が抱える課題は、一つの分野だけで完結しないことが多々あるんです。
例えば、障害のあるお子さんの支援をする場合、児童福祉の視点だけでなく、将来的な障害福祉サービスの知識も必要になりますし、ご家族に高齢の方がいれば介護の知識も必要になります。
保健センターが行う乳幼児健診の情報が、その後の就学支援や障害福祉サービスにつながっていくこともあります。このように、分野を超えて重層的に支援ができるのは、行政ならではの特徴です。
実際に私も高齢分野から障害分野へ異動しましたが、前の部署での知識が今の業務に生きていますし、逆に今の知識が将来また別の部署で生きることもあるはずです。点ではなく「面」で、そして「人生という長い時間軸」で市民を支えられるのが、行政の社会福祉士の醍醐味だと思います。
ー個別の支援だけでなく、もっと大きな視点で関われるということですね。
Iさん:そうですね。個別のケース支援はもちろん大切ですが、そこから見えてきた地域の課題をキャッチアップして、新たな「仕組みづくり」に関われるのも行政ならではの魅力です。
現場で感じた「ここが足りない」という声を、制度の運用改善や新たな事業の構築につなげていける。もちろん、すぐに制度を変えることは簡単ではありませんが、地域全体の福祉の底上げにダイレクトに関われるというのは、他の現場ではなかなか味わえないスケールの大きさだと思います。
風通しの良さが成長につながる。伊勢崎市役所の「人」の魅力
ー入庁されてから感じる、伊勢崎市役所の雰囲気や職場環境について教えてください。
Iさん:一言で言うと、本当に「風通しの良い職場」ですね。
入庁前は、公務員やお役所の仕事に対してかしこまっていて近寄りがたいといったイメージを持っていたのですが、実際に入ってみると全く違いました。
私が右も左も分からなかった新人時代、先輩方は忙しい中でも手を止めて、本当に丁寧に仕事を教えてくれました。その優しさや温かさは、今も変わらず感じています。
また、スキルアップのための環境も充実しています。特に「事例検討会」などの研修では、他市の職員とグループワークを行い、自分にはない視点や支援の工夫を学ぶことができます。職場全体として研修参加への理解が深く、積極的に学びに行ける空気があるのはありがたいですね。
ー社会福祉士として、今後はどのようなスキルアップを目指していますか?
Iさん:やはり「連携力」と「知識の幅」を広げていきたいですね。
この仕事をしていると、自分一人の力ではどうにもならないことに直面します。その時、どれだけ適切な関係機関やサービスを知っていて、そこへスムーズにつなげられるかが、支援の質を左右します。
障害福祉分野だけでも、毎年のように新しい取り組みが導入されています。まずはそれらを貪欲に吸収すること、そして、障害分野にとどまらず、児童や高齢など関連する分野の知識も深めていきたいです。
そうやって自分の中の「引き出し」を増やしていくことが、結果として目の前の市民の方への最適な支援につながると信じています。
未来の仲間へのメッセージ
ー最後に、社会福祉士を目指している方へメッセージをお願いします。
Iさん:福祉の仕事は、その人の「思い」に寄り添いながら、一緒により良い暮らしを考えていく、とても尊い仕事です。
時には正解が見つからず、悩んだり迷ったりすることもあります。でも、伊勢崎市役所には、そんな時に相談できる同僚や、親身になって支えてくれる先輩方がたくさんいます。決して一人ではありません。
多職種と協力しながら一人ひとりに合った支援を考え、それが形になった時の喜び。そして、支援を通じて感じる人との温かいつながり。これらは、何にも代えがたいやりがいです。
「人の笑顔を支えたい」「安心して暮らせる地域を作りたい」、そんな熱い思いを持った方と一緒に働ける日を、心から楽しみにしています。
私たちと一緒に、伊勢崎市の福祉を支えていきましょう。

ー本日はありがとうございました。
虐待対応という、時には厳しく、張り詰めた空気が漂う現場。しかし、インタビューに応じるIさんの語り口は、終始穏やかで温かいものでした。 その安心感の源にあるのは、お話の中で何度も強調されていた「チーム」の存在なのかもしれません。一人で抱え込まず、仲間と共に悩み、答えを導き出す。その風通しの良さが、職員の心を支え、ひいては市民への手厚い支援へと繋がっているのだと感じました。 「点ではなく面で支える」。その言葉通り、伊勢崎市役所には、専門職が互いに手を取り合い、人生という長い時間軸で人に寄り添えるフィールドが広がっています。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年11月取材)



