「この仕事を、生涯続けていきたい」
民間保育園で確信したその強い想いを胸に、公務員への転職を決意した中村さん。袋井市の公立園で保育士として経験を重ね、現在は指導主事として市全体の保育の質向上を支えています。
保育士が安心してキャリアを積める環境とは?民間園と公立園、それぞれの魅力と違いとは?そして、中村さんが「全国に誇れる」と語る、袋井市の保育の強み「架け橋教育」とは一体どのような取り組みなのでしょうか。
子どもたちのまっすぐな成長の瞬間に「すごいな!」と感動する日々、そして現場から行政へと視点を移したからこそ見えるようになった景色。
保育という仕事の尽きない魅力と、キャリアに悩むすべての人へのヒントが詰まったインタビューです。
- 安定と挑戦。民間から公立へ、異動で得た成長
- 「すごいな!」の連続。子どもたちから教わった保育の神髄
- 市で取り組む「架け橋教育」。袋井市の保育が誇る強みとは
- 現場から行政の立場へ。
- 未来の仲間へ。子育てのまち袋井市で、一緒に子どもたちの未来を育む
安定と挑戦。民間から公立へ、異動で得た成長
ーまずは自己紹介と、これまでの経歴について簡単に教えていただけますか?
中村:元々は市外の民間園で勤めていたのですが、平成25年に保育士として袋井市に転職しました。現在は指導主事(※)として教育保育課に勤務しています。
※都道府県や市町村の教育委員会に所属する専門職。主に教員や保育士の指導・助言を行い、学校や保育施設の教育・保育の質の向上に努める。
ー転職を考えたのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
中村:私はもともと愛知県の豊橋市出身で、民間の保育園で2年間勤務しました。保育の仕事は魅力を感じる日々でしたが、一方で、待遇面では将来に対する不安を抱いていたんです。「この仕事をずっと続けていけるのだろうか」と正直に感じていました。
民間園で2年間働いたことで、「生涯この仕事に携わりたい!」という思いが確固たるものになったからこそ、安定して長く保育の仕事に関わっていきたいという思いが強くなりました。そこで、公立園への転職を決意しました。

ー転職先として「袋井市」を選んだ決め手はどういった点でしたか?
中村:地理的に学生時代から馴染みがあったことと、公立園がたくさんあったことが大きかったですね。いくつかの市を検討していましたが、最終的にご縁があって袋井市に採用していただきました。
ー民間園と公立園、実際に働いてみて違いを感じるところはありますか?
中村:民間園には、理事長の考えを基にグループ全体で同じ保育観を貫いていくという、魅力というか一体感のようなものがありました。
一方で、公立園に来て、幼稚園や保育所など様々な施設で働く機会をいただき、子どもを取り巻く環境をより知ることができたと考えています。
さらには教育保育課という立場も経験させてもらったことで、国や行政の仕組み、方向性といった、現場にいただけでは全く気にすることのなかった部分まで知ることができました。この点は民間では経験することができなかった、新たな発見ですね。
また、市内にはいくつも公立園がありますので、異動もあります。自分の性格的にも1つの所にずっと留まるのは向いていないと思うので、異動があるというのも公立園で働く魅力かもしれないですね(笑)
これまで5つの園を経験しましたが、それぞれ規模も違えば、幼稚園、保育所といった種別も違います。一つひとつの園が自分にとってのターニングポイントで、それぞれの場所で新しい学びがありました。
「すごいな!」の連続。子どもたちから教わった保育の神髄
ーこれまでの保育経験の中で、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
中村:うーん、たくさんありすぎて選ぶのが難しいですね…。
例えば、袋井市で初めて勤務した園が大規模園でしたが、戸外遊びではクラス関係なくたくさんの子どもたちと集団遊びや運動遊びをしたことを覚えています。年長児が100以上の大規模園でしたので、卒園式の歌は圧巻で子どもたちのパワーを感じました。
その後、保育所に3年間勤務し、3歳の時に担任した子たちを、もう一度5歳、つまり年長クラスで担任をさせていただく機会があり、3歳の頃は、食事や排泄の介助も手厚くしていましたし、お昼寝の時間には寝かしつけもして…もう本当に、家族や親のように慕ってくれる、たまらなく可愛い子どもたちでした。
その子たちの成長した姿を年長クラスでまた見ることができて、無事に卒園させてあげられたという経験は、何か特定の場面というわけではないですが、自分の中でとても大きな出来事として心に残っています。
その後、幼稚園で5年間勤務をさせていただきましたが、段々、幼児主体保育の面白さも感じるようになっていった時期だと思っています。例えば運動会!例年通り開催するのでなく、子どもたちと相談をしてカラフルハートフェスティバルとして開催をしました。「カラフルだから虹色にしよう。」「リレーコースも丸じゃなくてハートの形にしよう!」「みんなが好きな色が集まったら虹色になるね。」子どもたちの思いを集めていくと、遊びが学びに繋がっていくんだと実感する機会となりました。
ーそのご経験は、今の中村さんの保育観にも影響していますか?
中村:まさに、その経験を通じて自分の保育観が固まってきた気がします。
保育所での経験は、幼稚園では味わえなかった感情でしたし、保育の現場で働く上で一番大事なことは、何かが「できる」ようになることだけじゃない。子どもたちが「安心して園に通える」ようにしてあげることが、何よりもまず大前提なんだと、その3年間で強く、深く感じましたね。

ー子どもたちが「安心できる場所」を作ることが大切なのですね。ちなみに、中村さんが保育者として「やりがい」を感じるのはどんな瞬間ですか?
中村:やっぱり、子どもたちの姿を見て「すごいな!」って思う場面に日々立ち会えることですね。子どもたちって、大人と違って忖度しないですし、裏表もない。嬉しいときは笑うし、嫌なときは泣いたり怒ったりする。本当にまっすぐなんです。
風に舞う葉っぱを見つけて「風がダンスしてるよ!こんな感じ♪」なんて素敵な表現もしてくれます。言葉以外でもお散歩で手を繋いでいる子の、手の握る力が少し強くなったとか、そういう些細な変化から「あ、今この子ドキドキしてるのかな?」とか「あの虫に興味があるのかな?」とか、私たちは日々感じ取ろうとするんですけど、その予測が当たった時にはやっぱり嬉しいです。これがなかなか当たらないんですけどね(笑)
そして、ありきたりかもしれませんが、卒園していく子どもたちから「先生ありがとう」って言ってもらえる時です。私たち保育者は、子どもたちが家庭から出て初めて密に関わる大人です。私たちの性格や色が、子どもたちにダイレクトに影響を与える。
だからこそ、子どもたちが友達を好きになって、毎日「幼稚園行くの楽しい!」って言ってくれて、最後は「学校に行くの楽しみだよ!」って前向きに卒園していってくれる姿を見るのは、何物にも代えがたいやりがいです。


ーちなみに「男性保育教諭ならでは」と思うようなことありますか?
中村:それについては、結論から言うと、私は男性も女性も「一緒だ」と思っています。やるべきことは同じだと。
ただ、採用されたての若い頃は、「男性保育教諭として、元気に体を使って子どもたちと遊ぶのが自分の役割だ!」みたいに意気込んでいた時期もありましたが、年数を重ねる中で、角が取れてきたというか、「一緒だな」と思うようになりました。
周りの先生方からは、男性職員が1人いるだけで防犯面で安心だとか、力仕事をお願いしやすいとか、そういった風に言ってもらえるのは素直に嬉しいですね。
一方で、保育の中では着替えやトイレの補助を行う必要がありますので、男性保育教諭としては、子どもたちや保護者に誤解を与えることが無いよう、より一層配慮も必要になる部分だと思っています。
市で取り組む「架け橋教育」。袋井市の保育が誇る強みとは
ー働く環境として、現場のサポート体制や職場の雰囲気はいかがですか?
中村:公立園なので、まず給与面なども含めて安定して働かせてもらえている、という安心感が土台にあります。
長く働くことができる環境ということもあり、ベテランの先生方も多くいらっしゃるので、園内研修などを通して自分の保育の力を高めていくことができます。また、私たち教育保育課が主催する研修もあるので、本人が希望すればどんどん学んでいける環境があるというのは、魅力的かもしれないですね。
職場の風通しも良い方だと思いますが、最近は新たな連絡手段としてチャットが導入されたこともあって、若い先生たちも気軽に問い合わせをしてくれるようになり、より一層コミュニケーションが活発になっていると感じますね。
ー保育の取り組みについても、何か力を入れているものはありますか?
中村:保育の取り組みについては、大きな柱が2つあります。
1つは、外国籍の子どもや個別の配慮が必要な子どもが増えている中で、多様性を尊重するインクルーシブな教育・保育です。もう1つは、子どもたちが「自分でやってみよう」とする主体性を育む教育・保育です。これは、いわゆる非認知能力を育てることを大切にしている、ということです。
何かを「できる・できない」という結果で判断するのではなく、その子自身の育ちを見極めて、一人ひとりに合った援助を行い、過程を尊重しています。
決まった道筋がない分、保育者の腕が試される保育ですが、これこそが袋井市の保育の面白さであり、特徴だと考えています。

ーでは、中村さんが思う袋井市の「強み」は何でしょうか?
中村:教育保育課に来て改めて感じたことなのですが、袋井市は幼小中一貫教育の取り組みが最大の強みだと思っています。
これは、市内の4つの中学校区ごとに「学園」を構成し、そのエリアにある民間園も含めた全ての園と小中学校が定期的に集まって、発達段階に応じたカリキュラムを作成し、実践を積み重ねているんです。
特定のモデル園だけでなく、市内全域でこれだけの規模の取り組みをしているのは、全国的に見ても本当に誇れることだと感じています。
現場から行政の立場へ。
ー現場から指導主事だと業務内容も大きく変わる印象ですが、中村さんは、園で勤務していた時から「指導主事」としての業務を知っていたのですか?
中村:いや、もう「わかったつもり」だったと思います。外から見えている部分は本当にごく一部だったなと改めて痛感しました。正直、転職したような気分です。
そもそも、園では一日中座って仕事が終わるなんてことがあり得なかったので、体が全然慣れないんですね。使う脳の部分も全く違うと言いますか、本当に事務職1年目の職員が教わるようなことから、私たちも教えてもらわないと何もわからない、という状態でした。

ーまさに新たな世界への挑戦だったのですね。これまでの現場経験は、指導主事としても活かされていますか?
中村:正直言って「これが活きています」と胸を張って言えるようなものはないかもしれないですね。
ただ、私の場合、直前の園で園長先生の次の立場として、園の運営や事務処理、予算管理といった部分を学ばせてもらえたので、そこを経験してから今の立場になったことは大きいかもしれないです。
その経験があったからこそ、ただ自分のクラスのことだけを考えるのではなく、園全体を見るという視点が身につきました。そして今、教育保育課に来て、その視点がさらに「市内の全園」へと広がった、という感覚です。あの経験がなければ、今の仕事はもっともっと大変だったと思います。
未来の仲間へ。子育てのまち袋井市で、一緒に子どもたちの未来を育む
ー少し視点を変えて、中村さんが思う袋井市の「街の魅力」を教えてください。
中村:まず、気候がすごく良いです!とても穏やかで過ごしやすい。それから、イメージがつきにくいかもしれませんが、芝生が綺麗な公園がすごく多いんです。子どもができてから、改めてその良さを感じますね。
山も海も近くて、休みの日にどこに行こうかという選択に困らない。お店も一通り揃っていますし、道も広くて、本当に子育てしやすい街だなと思います。

ーでは、袋井市で「保育教諭として働く魅力」はどんなところにあると思いますか?
中村:他の市町のことを詳しく知っているわけではないですが、袋井市は公立園が多い分、職員数も多いです。若い先生からベテランの先生まで年齢層も幅広く、男性職員もたくさんいます。
周りの先輩の姿を見ながら学び、そして後輩の指導をしながら、自分自身も成長していける環境があります。しっかりとした体制の中で、安心してキャリアを積んでいけるというのは、袋井市で働く大きな魅力だと思います。
ー最後に、保育教諭を目指す方や、働き先に悩んでいる保育者の方へメッセージをお願いします。
中村:幼児教育というのは、子どもたちが家庭という安心できる場所から初めて外に出て、まっさらな状態で出会う教育の現場です。良くも悪くも、私たち保育者が与える影響は計り知れません。
十数年経って、大きく成長した卒園生が「先生!」って声をかけてくれることもあるんです。それだけ、子どもたちの心に深く、永く残る仕事なんだなと、その責任とやりがいを日々感じています。
本当に魅力的な仕事ですよ、と心から伝えたいですね。
また、私自身、家庭的な事情もあり人に誇れるような学歴や経歴ではなかったのですが、袋井市は過去の経歴だけで判断するのではなく、「私」という人物を見て採用してくれました。こんな多様な背景を受け入れてくれる土壌があるというのも、袋井市の魅力なのかなと個人的には感じています。
皆さんと一緒に働けることを、心から楽しみにしています!

ー本日はありがとうございました。
取材中、中村さんは「子どもたちって、すごいんですよ」と、本当に嬉しそうにお話しされていました。
手の握る力が少し強くなった、そんな些細な変化から子どもたちの心の揺らぎを感じ取ろうとする、その温かな姿勢に胸を打たれました。
「安心して園に通えること」が何よりも大切だと語る言葉には、これまで中村さんがいかに深く、真摯に子どもたち一人ひとりと向き合ってきたかが表れていました。こんな先生たちがいる袋井市の子どもたちは、きっと幸せだろうな。取材を終えて、そんな温かい気持ちに包まれました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年9月取材)



