「公務員」という言葉から、あなたは何を連想しますか?窓口での相談受付、あるいはデスクに向かって書類を作成する姿でしょうか。
青森県八戸市。昔から「水産の街」として知られるこの街の市役所には、そんな固定観念を鮮やかに裏切るチームがあります。それは、水産事務所の「調査研究グループ」。
メンバーは、リーダーのNさん、JR東日本(以下「JR」)派遣経験も持つ現場派のCさん、そして「飽き性」を自称しながらも変化を楽しむ若手のFさんです。
年齢もキャリアもバラバラな3人が、なぜ今、八戸の海に情熱を注いでいるのか。
時には漁船に乗り込み、時には県外へ営業に飛び出す。そんな「行政の枠」を超えた働き方と、立場を超えて支え合う素敵な関係性について伺いました。
「市役所」へのイメージが、大きく変わるような内容となっています。
- 地元への愛着か安定か。働く理由は人それぞれ
- 異動は「転職」?多様な現場を渡り歩く公務員の醍醐味
- 伝統をアップデート。「獲る漁業」から「育てる漁業」へ
- 上司と部下の心地よい距離感。挑戦を支えるチームの絆
- 未来の仲間に伝えたい、八戸市役所で働く本当の面白さ
地元への愛着か安定か。働く理由は人それぞれ
ー始まる前からとても和やかな雰囲気ですね。まずは簡単に皆さんの自己紹介をお願いできますか?
N:じゃあ、一番年上の私からお話ししますね(笑)
私は生まれも育ちもずっと八戸市です。高校を卒業して、平成2年度に新卒で八戸市役所に入りました。当時は普通科の高校に通っていて、周囲はみんな大学進学を目指していたのですが、自分は「大学で何を学びたいか」が具体的に描けなかったんです。
都会への憧れも特になくて、とりあえず地元に残りたいという思いが強かったので、この先何をしようかと、立ち止まっていた時期でした。そんな時、担任の先生から「公務員を受けてみたらどうだ」と勧められたのがきっかけですね。
正直、当時は「民間より安定しているかな」というくらいの気持ちで選んでしまいました。
C:私も八戸市出身で、県内の大学を卒業した後、平成16年に入庁しました。私の場合は長男だということもあり、働くのなら地元という意識がずっとあったんです。
就職氷河期に近い時代だったということもあり、「安定」を念頭に就職活動をしていたため、選択肢として公務員や銀行などを中心に受けていました。
F:私も八戸生まれ、八戸育ちです。大学は北海道へ進学して経済学を学んだのですが、就職は地元ですると決めていました。
母親が一人で八戸に住んでいたということもありますし、私自身、東北を拠点に就職活動したかったということが大きいですね。私もCさんと同じく、安定に魅力を感じていたため、銀行などの民間企業と並行して市役所を受験しました。
ただ、私の中での「安定」の定義は少し異なっていて、金銭面というよりは、業務の急激な起伏や、民間のような営業ノルマがない、という働き方の安定を求めていました。

ー皆さん、同じグループの上司と部下ということでしょうか?
N:そのとおりです。私達は八戸市水産事務所調査研究グループに勤務しています。
このグループができてから現在で3年になります。私とCさんは立ち上げ当初からですが、Fさんは今年の4月に隣のグループから移ってきたばかりです。
年代も経歴もバラバラですが、今は3名体制で一丸となって動いています。

ー冒頭からとても雰囲気のいいメンバーだと感じておりますが、普段からとても仲が良いのですか?
N:そう見えますか?頑張って仲の良さを見せているだけかもしれません(笑)
F:こんな取材を受ける機会なんて初めてなので、緊張を伝えないために皆必死なんです(笑)
異動は「転職」?多様な現場を渡り歩く公務員の醍醐味
ー皆さんは、これまではどのような部署を経験されてきたのでしょうか?
N:人により本当に様々ですね。私は最初は税務関係の部署から始まり、福祉関係、市民病院、そして東日本大震災の復興に取り組む部署も経験しました。今の水産事務所は、実は若い頃にも一度経験しているので、今回が2回目の配属なんです。
新しい部署に行く時は毎回緊張しますし、人も仕事もガラッと変わるのでストレスに感じることも少なくありません。でも、年数を重ねると「そういうもんだ」と慣れてしまいますね。特に、八戸市くらいの規模であれば、どこへ行っても誰かしら知っている人がいたりするので、職場に馴染むのは自然と早くなります。
C:私は最初、福祉の現場で生活保護の担当などを経験しました。その後、保険証の窓口業務を経て…なぜか急に「JRに派遣研修に行ってみないか」と打診をいただきました(笑)断るような理由も無かったので、実習生として盛岡にあるJRに勤務しました。
ー自治体職員としてJRに派遣とは、とても特殊な経験だったのではないでしょうか?
C:自分でも驚きました。市職員の身分で民間企業を経験する機会なんて滅多にないので、派遣自体はとても楽しかったです。市役所に戻ってからは観光課を経て、今の部署にいます。
F:私は最初、スポーツ振興課で施設の管理や大会の補助金業務に携わりました。その後、市民連携推進課でNPOの支援などを経験して水産事務所に来ました。今のグループに来る前は、魚市場の施設管理を2年間担当していました。
正直に言うと、私は本当に異動が嫌でしたね(笑)最初に配属されたスポーツ振興課の雰囲気が大好きだったということもあり、異動によって全然知らない人ばかりのフロアに、しかも全く新しい業務をするということはきつかったです…。
N:Fさんが経験した市民連携推進課は、市の重要施策を担う部署が並ぶフロアにあったので、スポーツ振興課と比べると、全体の雰囲気や業務内容にはかなり差があったかもしれないですね。
ただ、そこでの経験は、Fさんにとっても大きな糧になっていると思いますよ。
伝統をアップデート。「獲る漁業」から「育てる漁業」へ
ー皆さん、入庁後の経験も様々だったのですね。水産事務所と聞くと、港の管理などのイメージがありますが、皆さんは実際にどのようなお仕事をされているのですか?
N:八戸は古くから漁船漁業で栄えた街ですが、最近は魚が獲れなくなってきているという現実があります。これまでの「獲る漁業」だけに頼るのではなく、新しく「育てる漁業」—つまり養殖業を八戸で確立できないか、という新たな産業にも目を向ける必要があります。
その可能性を調査・研究し、実践していくのが私たちのミッションです。

C:私の主な仕事はまさに現場=漁場です。漁業者さんのところへ足を運んで話を聞いたり、実際に船に乗って作業をすることもあります。
ー市職員として漁船に乗るということですか?
C:そのとおりです。養殖用のロープを設置したり、試験的に育てている魚の様子を見たりと、漁師さんと一緒になって作業の一部を手伝わせていただいています。入庁前は、まさか自分が仕事で船に乗るなんて想像もしていませんでした。

でも、やってみるとやはり現場が一番面白いですね。現場に出てみないとわからないことが沢山あるので、普段から「連れて行ってください!」ってお願いして積極的に乗せてもらうようにしています。今はカキや、マツカワという高級なカレイなどの養殖を進めているところです。
昨年度から着手して、今年の春夏ごろにいよいよ最初の出荷ができる予定なんです。漁師さんと一緒に育てたものを、実際に自分で味わうことができるかもしれない。その瞬間に、本当の意味での「やりがい」を改めて実感できるんじゃないかと、今からワクワクしています。

ーほかにはどのような業務があるのでしょうか?
F:私は、水産加工業者さんが新しい商品を作る際の補助金支援や、ブランド認定の事務を担当しています。それから漁船の誘致活動なども行っています。
ー誘致活動というと、営業に近いイメージなのでしょうか?
F:そうですね。県外の船が「八戸港で水揚げしよう」と思ってくれるように、卸売業者さんと協力して、船主さんの会社へ「営業」に行っています。正しくは、八戸を選んでもらうためのPR活動ですね。
例えば、船上での生活は過酷ですから、少しでもリフレッシュしていただけるように、八戸で水揚げしてくれた乗組員さんに、市内の銭湯に入れる「入浴券」を配ったりもしています。
水揚げしやすい環境を整えることはもちろんですが、そこで従事する方々にとっても、選んでもらえるような取り組みを検討しています。

上司と部下の心地よい距離感。挑戦を支えるチームの絆
ーお話を伺っていると、皆さんがそれぞれ主体的に動いている印象を受けますね。リーダーから見て、お二人はどのような存在なのでしょうか?
N:本人たちを前にして話すのは少々恥ずかしいですね(笑)
正直に言って、2人とも自分で考えて動ける本当に優秀なメンバーです。だから、私は信頼して仕事を任せています。私が意識しているのは、彼らが一生懸命考えてくれた仕事が、無駄になったり頓挫したりしないようにサポートすることくらいですね。
あとは、一人で抱え込まないようにコミュニケーションを取りやすい雰囲気を作ることですね。とはいえ、仕事のできる2人なので、私は気になってもあまり口を出しすぎないように気をつけています。
F:Nさんは、本当に相談しやすいですね。業務で煮詰まって相談する時も、否定から入るのではなく、私の案をベースに「もっと良くするにはどうすればいいか」という視点で的確なアドバイスをいただけます。
実は、先程も業務の件で助けていただいたばかりなんです(笑)
C:Nさんはもちろん、所長や副所長も「信頼して任せるから、自由にやっていいよ」と言ってくれる職場ですね。この裁量の大きさが、今の仕事の楽しさに直結しているんだと思っています。
市役所って「前例踏襲」で堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、実際は「どうすればもっと面白くなるか」を自分たちで工夫できる風土があるんです。
F:本当にそう思います。4月に私がこのグループに入ったばかりの時も、業務が立て込んで多忙だったにもかかわらず、Cさんは私に対して業務指示をするわけではなく、「さあ何をしようか」と、考えることを促していただきました。
先輩方が作ってくれるこの風通しの良さが、モチベーションを支えてくれているのだと常々感じています。

未来の仲間に伝えたい、八戸市役所で働く本当の面白さ
ーとても素敵な関係性なのですね。最後に、求職者の方にそれぞれメッセージをいただけないでしょうか?
N:市役所で働こうと思った際、スキルやコミュニケーションに不安を感じる人もいるかもしれませんが、そんなのは後からいくらでも身につきます。なので、受験する前から不安を感じる必要はありません。
市役所は市民の方と直接触れ合い、街の未来をダイレクトに作っていける場所です。人が好きな人、そして何より八戸という街が好きな人と、一緒に働けることを楽しみにしています。
C:市役所というのは窓口で書類を受け付けるだけが仕事ではありません。船に乗ったり、民間の考えを取り入れたり、想像以上に幅広くてクリエイティブな経験ができる仕事です。
「お堅い公務員」という先入観を持たずに、ぜひこの刺激的な現場に飛び込んできてほしいですね。
F:私からは、パソコンが苦手でも、私のように「飽き性」でも大丈夫だということを伝えたいです(笑)
私は入庁当時、パソコンの電源の場所すら分からないくらいデジタル機器が苦手でしたが、今では抵抗なく使えるようになりました。それに、飽き性な私でも、定期的な異動があるからこそ、数年ごとにリフレッシュして新しい気持ちで挑戦できるんです。
変化を楽しめる人にとって、市役所はまさに最高の選択だと思いますよ!

ー皆さんの八戸市への愛と、仕事への誇りがひしひしと伝わってきました。本当にありがとうございました。
取材中、一番心に残ったのは、3人の間に流れる素敵な余韻でした。 「飽き性なんです」と笑うFさんに、先輩であるCさんが「何をしようか」と問いかけ、それをNさんが温かい眼差しで見守る。 「前例踏襲」という言葉とは無縁の、自分たちで面白がりながら港をアップデートしていく姿は、まるで一つのプロジェクトチームのようでもありました。
3人から伝わってくる情熱は、決して押し付けがましいものではありません。けれど、「自分たちの手で街の未来を育てる」という静かな自負が、その笑顔の端々から伝わってきました。 「完璧な答えを持っていなくても、変化を楽しめれば大丈夫」。その力強い言葉は、新しい一歩を踏み出そうとする誰かの背中を押してくれるはずです。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年1月取材)



