新潟県のほぼ中央に位置する小千谷市。このまちで保健師として働く西方さんと伊藤さんにインタビューしました。
お二人が所属するのは、健康・子育て応援課の子育て応援係。市のまちづくりプロジェクト「みんなの一歩で、未来づくり大作戦」の一環である「『子育てするならダンゼン小千谷!』声かけ作戦2025」において、妊娠期から子育て期に至るまで、切れ目のない支援を行う保健師の役割、そして仕事にかける想いを伺いました。
「切れ目のない支援」で母子と家族に寄り添う
―まずはじめに、市全体で進めている「まちづくりプロジェクト『みんなの一歩で、未来づくり大作戦』」とはどのような取り組みなのでしょうか?
西方:このプロジェクトは、小千谷市が市制施行70周年を迎えたことを「再スタートの年」と位置づけ、10年、20年先の未来を見据えて始まった持続可能なまちづくりのための取り組みです。
小千谷市は大幅な人口減少に直面しており、「消滅可能性自治体」にも挙げられています。このままでは、担い手不足が産業の縮小や市民生活への影響を招く「悪循環」に陥ってしまう恐れがあります。
そこで、この流れを「好循環」へと転換させるために、市民、企業、行政など、小千谷に関わるすべての人が主役となり、それぞれができる「一歩=ワンアクション」を踏み出すことで、まちの未来をみんなでつくっていこう、というのがプロジェクトの趣旨です。

―お二人は保健師として、このプロジェクトのどのあたりを担っているのですか?
伊藤:プロジェクトでは現在、2つの作戦が展開されており、その1つに「『子育てするならダンゼン小千谷!』声かけ作戦2025」という取り組みがあります。
その中でも、私たちは主に妊娠期の「うぶごえ教室」、出産期の「産後ケア」、そして「子育てサロン」といった事業を担当しています。
これらの事業を企画・運営するとともに、妊産婦さんに様々な事業や制度を紹介し、情報提供しながら、必要な方に必要な支援を「つなぐ」活動をしています。
―保健師として、具体的にどのように事業を進めているのでしょうか?
伊藤:私たち保健師には、母子保健事業を通じて、「妊娠」「出産」「子育て」というライフステージにいる妊産婦さんや赤ちゃんを中心に、ご家族に寄り添い伴走しながら支援していく役割があります。

その出会いは、妊娠届出と母子健康手帳の交付から始まります。小千谷市では、この時点で妊婦さんの全数把握を行っています。
妊娠届出の際には、保健師が「マタニティ面談」を行い、妊婦さん一人ひとりの妊娠に対する想いや、抱えている不安、困り事などを丁寧にお伺いします。その中で、妊娠中や産後に必要となりそうな支援や制度を紹介しながら、不安の解消に努めています。
このマタニティ面談後も、妊婦訪問、産婦・新生児訪問、乳幼児健診といった様々な機会を通じて母子やご家族とつながりを持ちながら、必要な支援・情報を届けられるよう、「伴走型相談支援」を行っています。

小千谷市では、地区担当の保健師が中心となってこの支援を担っており、健康・子育て応援課に所属する13人の保健師が市内の各町内を分担し、赤ちゃんからお年寄りまで、地域住民の健康づくりをサポートしています。
「ぜひ使ってみて!」届けたい想いと、事業のこれから
―事業を進める上で、課題に感じていることはありますか?
西方:妊娠・出産・子育てをとりまく様々な支援制度は充実してきましたが、それが認知されていないことが課題です。
すべての方に情報が行き届くための周知の方法は、今後も考えていかなければなりません。特に、外国籍の方や障害がある方など、情報が行き届きにくい方をきちんと把握し、関係機関と連携しながら支援制度につなげる役割を、今後も私たち保健師が担っていきたいと思っています。

―課題解決のために、改善を加えたエピソードがあれば教えてください。
伊藤:例えば、出産期の「産後ケア」事業については、令和7年度から利用料をすべて無償化し、サービス内容の充実や委託先の産院の拡大など、事業の見直しを行いました。
これまで自己負担額を気にして利用を躊躇されていた方もいらっしゃったので、利用のしやすさにつながったと感じていますし、実際に今年度の利用実績も伸びています。
また、無償化されたことで、私たち保健師も「ぜひ使ってみて!」と、産婦さんに心からお勧めしやすくなったことも、本当に良かった点です。
すべての親子が「小千谷で子育てしてよかった」と思えるまちへ
―こうした事業を通じて、小千谷市にどのような効果がもたらされるとお考えですか?
西方:妊産婦さんが様々な事業や制度を利用することで、安心して妊娠・出産・子育て期を過ごしてもらうことにつながると考えています。
特に、忙しい子育て期は、なかなか心に余裕が持てない産婦さんやご家族が多いのが現実です。様々なサポートを利用したり、大変な子育てを誰かに相談したりすることで、心の余裕が生まれてくると思います。
その余裕が、健やかに子どもを育てる温かな家庭づくりにつながると信じています。そのために、私たち保健師がいつでも相談できる、家庭に寄り添える「伴走者」でありたいです。
伊藤:子育て支援事業に「完成」はないと思っています。時代や社会情勢とともに、家庭や子育てを取り巻く環境・課題も変わっていきます。
「伴走型相談支援」で母子やご家族とつながる中で思いやニーズをキャッチし、柔軟に子育て支援を考え、提供できる保健師でありたいです。
―最後に、今後の抱負やチャレンジしたいことがあれば教えてください。
西方:壮大な話になりますが、小千谷市で子育てをしている皆さんが、「子育てをする人生を選んでよかった」「小千谷で子育てできてよかった」と心から思えるよう、今後も支援していけたらと思っています。
伊藤:子育てで悩んでいるお母さんから、「保健師さんに相談してみてよかった」「このサービスを使ってみてよかった」と言われると、本当に仕事のやりがいを感じます。
そういったお声を私たちのパワーに変え、今後も関係機関と連携、協力しながら、母子保健や子育て支援の充実に力を入れていきたいです。
ーどうもありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年8月取材)