大阪府和泉市役所は、2024年度より初任給を全国トップに引き上げるなど、職員の給与制度を大きく改革することで全国から注目を集めています。
そこで今回、そのような改革を先導した和泉市長の辻宏康さんに、和泉市制度改革を実施した背景や職員についてお話を伺いました。
—和泉市について教えてください。
辻:和泉市は旧石器時代から人が定住している地域です。池上曽根史跡という日本でも有数の規模を誇る弥生時代からの集落があり、昔から様々な文化や商業の交流があった地域なんです。
奈良時代には和泉国と呼ばれ、その名前を市の名前として引き継いでいます。
大きく分けると市の中央から海側が市街化区域で、山側が市街化調整区域です。大型の商業施設や工業団地を核にして、住宅の開発を行う一方、大阪府内で3番目の農作物の出荷量を誇る自治体でもあります。
都会の便利さと、田舎の自然の豊かさを両方あわせもつ「トカイナカ」な町、それが和泉市です。
ちょうど大阪市と関西国際空港の間ぐらいにありますので両方に車で20分余りでアクセスできる非常に便利な立地でもあります。
—初任給が全国の自治体最高額という制度改革は非常に話題になりましたね。
辻:実は、以前は初任給の額が大阪府の平均以下だったんですよ。せめて平均までは持っていきたいという案を人事職員が持ってきたんですけども、そんな中途半端なことやめて、大阪でNo.1に目指そうよということになりました。
ところが、大阪でトップっていうのは日本でトップだったんです。それで全国一と注目されましたね。
初任給が注目されているのですが、実はそれ以外に改革したものの方が、本当に職員の能力を磨いていくっていう点では大きいと考えています。初任給以外の給与、昇格、研修制度、評価制度、副業許可なども改革していますよ。
—なぜ人事制度改革を実施しようと思われたのですか?
辻:私には、和泉市だけでなく、社会全体が変わってもらいたいという思いがありました。例えば給料が上がらないことは、国の成長面でブレーキがかかりますよね。
国から民間企業に対して給料を上げましょうよと言っている、その国が給料を上げてない、そんなことおかしいじゃないかと私は思うんですよね。
やっぱり行政がまず率先して給料を上げて、国力をつけていく。一生懸命頑張ってる人間が、海外に出て行かないで日本でしっかり頑張れるような、そういう職場をたくさん作っていって日本を発展させたい。
そういう思いがあって制度改革を実施しました。
私は現在4期目ですが、この改革自体は市長に就任したころから計画し続けていました。給与制度を変えるためには、組合の交渉、議会を通す、等の非常に高いハードルがありましたが、やっとこの3年でできたんですよ。
和泉市では、行財政改革の「プラン」がありまして「再生プラン」「躍進プラン」「創発プラン」と段階的にまちづくりに取り組んできました。それぞれのプランの中に3本柱がありましたが、「人事制度改革」はすべてのプランの柱でしたね。
新しい人事制度を組み立てるにあたり、現状把握のため、職員へアンケートをとったのですが、その結果をみると、頑張る人が報われるような制度になっていないと改めて感じましたね。
昇格や給与の面では改革前の制度だったら昇格していく意欲がわかないという意見すらありました。
部長になったとしても非管理職のままでも年功序列によって同じように給料が上がるので、責任が重くなるだけの管理職にならずに、非管理者の職員でいたいという考えを持ってしまうんですね。
そして部下は残業代がでるにも関わらず、一緒に仕事をしている管理職は勤務時間外手当がつかないので、給料の逆転が起こったりするんです。そういった現象が起こらないようにしたいと思いました。
やる気のある職員がどんどん成長していけるような研修制度も整えたいと思いましたし、評価制度は一人の上司が一方的に評価するのではなくて、複数の上司で評価の整合性をチェックする機能を設け、部下が上司を評価するなど多面的に人物を評価できるような制度にしようと思いました。
また、公務員は基本副業は禁止なんですけども、地域に貢献できるものであったりとか、自分のスキルをアップしていけるようなものだったら、認めていくようにしたいと考えました。
ーそうして様々な制度を変えていったんですよね。この人事制度を利用して、どんな人に頑張ってほしいですか?
辻:どんな職員にも頑張ってほしいです(笑)。しいていうなら、失敗を恐れない、チャレンジ精神があり、自分を成長させていこうという意欲のある職員に頑張ってほしいですね。
そういう人が報われる、満足できる制度を目指してます。
ー新しい人事制度をつくっていく過程はどのように工夫されたのですか?
辻:庁内の優秀な職員を人事に配置してたんですけど、内部の職員が制度を作るので、大胆なことはやりづらかったんです。そこで、外部の方3名に制度改革の委員として協力していただきました。
1人目は、私の恩師で日本の公務員人事給与制度の第一人者と言われている早稲田大学大学院教授の稲継 裕昭さんです。国のいろいろな人事制度、公務員制度の座長なんかも務めておられる方でお忙しいのにも関わらずご快諾いただけました。
2人目は、前箕面市長の倉田 哲郎さんです。先んじて箕面市は大胆な制度改正をしたので、私たちは箕面市の制度を和泉市に落としこもうとしていたんです。実は、もともと彼とは友人で、ずっと昔から制度について意見交換をしていました。
3人目は、前滋賀県湖南市長の谷畑英吾さんです。非常に幅広く知見を持っておられる方で、場の流れを変えていただいたり、エッセンス的な意見をくださる方です。
和泉市役所は未知の制度を作ろうとしていたので、不安な部分が多かったんです。ほとんどの市役所が、国が示す制度をコピーして採用しているので、それを違うものに変えようと思ったら、大変ですから。
未経験なりに自分たちで試行錯誤しつつ、それに対して外部の、知見がある方や経験をお持ちの方にアドバイスいただけるので、とても心強かったです。そしてスピーディーにすすめることができましたね。
「頑張る職員が報われる制度にする」という目標だけはぶれさせずに、自分たちでまとめた案を、委員の方々に叩いてもらう、を繰り返しながら制度を作っていきました。12回も会議を実施しましたね。私も委員の方々も毎回全員出席です。
ーどういった人材を求めていますか?
辻:失敗を恐れずチャレンジ精神があり、自分を磨きたいという方ですね。和泉市役所に入庁後、ずっと働いてもらったらうれしいと思いますが、違うステージへいってもらうことも良いと思っているんですよ。
和泉市が関わるかどうかにかかわらず、社会全体、他の市町村役場や民間企業にも変わってもらいたい。そういう思いを含めた制度改革だったので、この思いに共感してくださる方が入ってこられるといいですね。
あとは、和泉市のことが大好きな人に来てほしいです。いままで和泉市に住んだことがない方でも、和泉市が好きであれば問題ないです。募集要項に年齢制限はありますが、応募できる方はぜひご応募いただきたいです。
—和泉市役所のアピールポイントはありますか?
辻:和泉市では、和泉市100周年構想というものがあります。和泉市ができて67年経つんですけども、33年後に100周年を迎えるんですね。そのときにどんな町にしたいかという夢を描いてます。
テーマパークを作りたいとか、スポーツ総合施設を作りたいとか様々な案があります。
それを実現するために、今のこの10年をどう使おうかと。何年も先の予算取りはできませんが、例えば保有している土地を売却するかどうかを検討するときに、100周年でグラウンドを作るプランがあるから残しておこう、と判断することもあります。
長期的なビジョンでまち作りをしていけるんですよ。現状維持ではなくて、発展させていく、それが和泉市役所の風土ですね。
行政っていうと、維持管理や保守の仕事が多くて、お堅く面白みがなさそうと敬遠される方もいるかと思います。和泉市役所は、ただ与えられた仕事をこなしていくのではなくて、発想豊かにいろんなことに取り組める、そんな職場にしたいと思っています。
—本日はありがとうございました!