高知県庁で獣医師として働く髙野さんのインタビュー記事です。
アメリカ留学の経験やCA(キャビンアテンダント)を夢見たこともあるという髙野さんに、
獣医師を志したきっかけや、高知県庁で働く魅力、そして今後の展望についてお伺いしまし
た。
県の獣医師という選択、そして高知県庁だからこそ感じることができるやりがいや農家の方々との関係性など、専門知識を活かして地域に貢献したいと考えている方にとって、とても参考になる内容となっています。
きっかけは身近な動物の死、獣医師という選択
ーまず、髙野さんが獣医師を目指したきっかけや、これまでの経歴について教えていただけますか?
髙野:私が獣医師を目指したのは幼稚園の頃からです。祖父が、趣味で色々な動物を飼っていて、毎週末祖父の山で動物たちと過ごしていました。
ある時、お腹の大きなヤギがいて、妊娠しているのかなと思っていたら、ガスが溜まって死んでしまったんです。その時、異変に気づいていたのに助けてあげられなかったことにすごくショックを受け、しばらく頭から離れませんでした。それ以来、漠然とではありますが、動物を助ける仕事がしたいと思うようになりました。
高校時代にはアメリカに1年間留学し、その後、神奈川県にある大学の獣医学部に進学しました。大学卒業後は獣医師として高知県庁に入庁し、現在に至ります。
ー獣医師であれば、動物病院などの選択肢もあったかと思いますが、進路を考える上で迷いはなかったですか?
髙野:実は、獣医師に憧れていた傍ら、アメリカ留学を経験した際にCA(キャビンアテンダント)になりたいと思った時期もありました。
最終的には獣医師の勉強に集中することにしたのですが、大学時代海外旅行によく行っていたということもあり、本気でCAを目指そうかと考えたこともあります(笑)
公務員を選んだのは、留学から帰国した際に、父から「これからはペットも少子高齢化で減っていく。儲からない仕事はダメだ」と言われたことがきっかけです。単純に「じゃあ公務員なら大丈夫か!」と思い、次の日には情報収集のため直接県庁に行きました。
そこで、「動物に関わる仕事はありますか?」と尋ねたところ、畜産振興課に案内され、今の課長や所長に出会いました。その時、奨学金制度や公務員としての獣医師の仕事、特に高知県の食を支える畜産の獣医という仕事があることを知り、「これだ!」と思いました。
奨学金については、大学時代に借りていた奨学金が、高知県から補填されるという制度があり、卒業後、獣医師として9年間高知県庁で勤務することにより、その返済が免除されるというものでした。奨学金を利用していた私にとって、この制度があることはすごく大きかったですね。
高知県に帰ることは決めていたので、それならばしっかりと地域に貢献できる仕事をしたいと思いました。
高知県庁で働く「獣医師」としての仕事
ー現在、髙野さんはどのようなお仕事をされているのですか?
髙野:今は家畜保健衛生所に所属していて、仕事内容は大きく分けて3つあります。家畜の診療、家畜の衛生管理、そして畜産振興です。
高知県は獣医師の人数に余裕があるわけではないので、家畜保健衛生所の職員であっても、家畜の診療を行うことがあります。人で言うところの産婦人科系や小児科系の病気が多く、季節の変わり目には風邪や下痢などの治療をします。
また、母牛がコンスタントに子牛を産めるように、不妊治療のようなことも行うこともあれば、時には骨折した牛の整形外科的な処置をすることもありますね。まさにオールマイティな対応が求められます。

衛生管理としては、伝染病から家畜を守るためのワクチン接種や検査が主な業務です。農場ごとに発生しやすい病気や時期が異なるので、農家さんと相談しながら、最適なワクチンプログラムを組んでいきます。
豚や鶏の衛生管理も担当しており、イノシシを対象とした豚熱ワクチンの散布のために山に入ることだってありますし、養鶏場に立ち入って検査をすることもあります。

畜産振興では、地鶏やブランド牛といった高知県の特産品をPRする仕事もしています。「獣医師」という職からはイメージがつかないかもしれませんが、フェスなどのイベントに出展して売り込んだり、英語が話せるので、海外からの視察団の通訳兼案内をしたこともありました。
ちなみに、私が売り込みをした時、かなり売り上げがよかったんです。現場を知ってる職員ならではの売り込みができたのかな、と嬉しかったです。

ー非常に多岐にわたるお仕事ですね!これまでで、特に印象に残っているエピソードなどはありますか?
髙野:難産で苦しんでいた子牛を帝王切開で取り上げたことや、関節炎で立てなくなってしまった子牛の治療をしたことは特に印象に残っています。
関節炎の子牛は、通常であれば安楽死の対象となるケースが多いのですが、農家さんの「なんとか助けたい」という強い思いに応えたい一心で、必死に治療法を調べ、県外の先生や大学の先生にも助言を請いながら手術を行いました。幸い手術は成功し、その子牛は元気に育っています。あの子が食肉になるまでを見届けられたら、本当に嬉しいですね。
また、衛生管理の仕事では、ある養鶏場でなかなか改善が見られなかった状況を、農家さんと何度も話し合い、一緒に取り組むことで改善につなげることもできました。最初は「また髙野が文句を言いに来た」というような雰囲気でした(笑)
ただ、根気強くコミュニケーションを取ることで信頼関係を築くことができ、今では「髙野さん、次はどんなことができるかな?」と積極的に相談してくれるようになりました。
働く本音、仕事のやりがいと魅力、苦労した経験
ー獣医師として働くやりがいや魅力はどのようなところだと思いますか?
髙野:やはり、農家さんから「ありがとう」と感謝の言葉をいただけることが一番のやりがいですね。診療やコンサルティングを通して、直接的に人の役に立てていると実感することができます。
高知県庁の獣医師は、他県の公務員獣医師と比べて診療業務が多いのが特徴です。
県によっては、検査業務が中心で農家さんとの間に距離ができてしまうこともあると聞きますが、高知県では診療を通して農家さんと深く関わることができるので、より強い信頼関係を築くことができます。これは高知県庁で働く大きな魅力だと思います。
また、高知県庁は研修制度が非常に充実している点も魅力です。新人研修はもちろん、定期的に様々な研修があり、獣医師としての専門知識だけでなく、コーチングやタイムマネジメントといった幅広いスキルも学ぶことができます。これは、自己成長に繋がる大きなメリットだと感じています。
ー逆にお仕事の中で大変だったことや、それをどのように乗り越えてこられたか教えていただけますか?
髙野:誰もが経験することだと思いますが、経験の浅いうちは苦労することが多かったですね。
1年目の頃は、注射一つとっても経験が浅く、なかなか上手くいかないこともありました。農家さんからすれば、時間もかかるし、心配そうに手技をしている私を見て、「本当にこの人に任せて大丈夫?」と不安に思われたこともあったと思います。
そういった苦労も、職場の上司や先輩、そして農家さんたちとのコミュニケーションを重ねる中で乗り越えてきました。真面目に取り組む姿勢を見せることで、徐々に信頼を得ることができ、今では「獣医師の髙野さん」として一人の専門家として接してもらえるようになりました。
経験を積むことで乗り越えられるものも多いのですが、特に農家さんとの関係構築においては、話を聞くことを大切にしています。相手が何を求めているのかを理解し、味方であることを伝えた上で、こちらが提案したいこと、取り組んでほしいことを話すようにしています。そうすることで、最初は少し壁を作っていた農家さんとも、徐々に和気あいあいとした雰囲気で仕事ができるようになりました。
今後に向けた想いと獣医師を目指す方へのメッセージ
ー髙野さんの今後の展望についてお聞かせください。
髙野:どこに異動となっても、その場所で自分だからこそできること、新しい視点をもって、地域に貢献していきたいです。
そして、将来的には生産現場だけでなく、インバウンド誘致なども含めた、高知県の畜産業全体の出口戦略に関わるような仕事にも挑戦してみたいと思っています。そのためにも、今は目の前の仕事に真摯に取り組み、実績を積み重ねていきたいですね!
ー最後に、獣医師を目指す方や、高知県庁で働くことに興味を持っている方へメッセージをお願いします。
髙野:高知県庁の獣医師の仕事は、診療、衛生管理、畜産振興と本当に多岐にわたります。
だからこそ、面白い仕事を探している人にとっては、自分の新たな可能性や適性を見つけら
れる絶好の機会だと思います。
公務員というと、堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、高知県庁はオンオフの切り替えがしやすく、土日もしっかり休めるので、プライベートも充実させながら働くことができます。
そして何より、人と人との繋がりを大切にしながら、地域のために働けるという大きなやりがいがあります。もし少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ高知県庁の扉を叩いてみてください。一緒に働ける日を楽しみにしています!

ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年6月取材)