民間企業で培った経験やスキルを、もっと直接的に、顔の見える誰かのために活かしたい。そう考えたことはありませんか。
「安定」だけではない、地域に深く貢献し、自らの手で地域を動かしていく実感。
福島県の中央に位置する、福島県須賀川市。
ウルトラマンの生みの親である円谷英二監督の故郷としても知られる須賀川市では、民間企業での多様な経験を持つ社会人を採用し、その新しい視点を地域づくりに活かしています。
今回は、出版社など、2社の民間企業でのキャリアを経て須賀川市役所に転職した、須賀川市健康づくり課の小笠原さんにお話を伺いました。
なぜ公務員という道を選んだのか? 民間企業とは異なるやりがい、そして須賀川市で働く魅力など、これから新たなキャリアを考えるすべての方に、ヒントとなるお話を聞くことができました。
- 「市民のため」に。民間企業での経験が導いた公務員という選択肢
- 「ルーティンワーク」のイメージを覆す、裁量と工夫の余地
- 「早く帰ってくるようになったね」と妻も喜ぶ。ワークライフバランスの変化
- 民間企業経験者は「改革の担い手」。多様な経験こそが力になる
- 「地元愛」が強い地域。市民との近さが魅力
「市民のため」に。民間企業での経験が導いた公務員という選択肢
ー単刀直入にお聞きします。民間企業でキャリアを積んでこられた小笠原さんが、公務員になろうと思われたのはなぜだったのでしょうか?
小笠原:理由はいくつかありますが、一番大きかったのは、民間企業で営業をするなかで、もどかしさを感じていたことですね。営業職として働いていたので、会社の売上への貢献が第一。お客様が本当に困っていることがあっても、それが直接的な売上に結びつかなければ、会社として手助けすることが難しい場面がありました。
難しいことは分かりつつ、利益を度外視してお客様を助けることができない状況に、ずっともどかしさを感じていたんです。
そんなとき、須賀川市役所で働いている友人から社会人採用の募集があることを聞き、初めて公務員という選択肢が具体的に見えてきました。それまでは、一度民間に出たらもう公務員にはなれないものだと思い込んでいたので、自分にとっては大きな転機でしたね。
ーそれまで、ご自身のキャリアの選択肢として「公務員」が浮かんだことは一度もなかったのですか?
小笠原:全くなかったです。公務員は新卒でなるイメージを持っていたので、もう自分には無理だろうと。年齢制限もありますし、働きながら試験勉強をするのはハードルが高いと感じていました。友人の一言がなければ、今ここにいなかったかもしれません。

「ルーティンワーク」のイメージを覆す、裁量と工夫の余地
ー実際に入庁されてみて、それまで抱いていた公務員のイメージとギャップはありましたか?
小笠原:入庁前は、公務員の仕事は決まりきったルーティンワークで、自分で工夫する余地はあまりないのだろう、というイメージをもっていました。しかし、実際に入ってみると、そうではなかったですね。
もちろん予算などの制約はありますが、私が担当している事業については、本人の工夫次第でやり方を変えていくことができます。必ずしも前年度と同じやり方を踏襲しなければならないわけではなく、自分の裁量でより良くしていける部分があるというのは、嬉しい発見でした。
ー職場の人間関係はいかがですか?
小笠原:入庁前は、やはり真面目で少し堅い方が多いのかなというイメージはありました。でも、入ってみると皆さんとてもフレンドリーですし、おもしろい方もたくさんいます。「本当に公務員の方なのかな?」と思うような個性的な方もいて(笑)。本当にいろいろな人がいて、多様性のある職場だなと感じています。

「早く帰ってくるようになったね」と妻も喜ぶ。ワークライフバランスの変化
ー働き方、特にワークライフバランスの面で変化はありましたか?
小笠原:それは大きく変わりましたね。民間企業にいた頃と比べると、妻からは「すごく早く帰ってくるようになったね」と喜ばれています(笑)。
土日もしっかり休めますし、自分次第で早く帰ることもできるので、非常に働きやすい環境だと日々感じています。家族との時間が増えたのは、なにより嬉しい変化です。
ーこれまでのお仕事の中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?
小笠原:乳幼児健診のお手伝いをしたことですね。看護師の資格は有していないので、受付や視力検査の補助でしたが、月に何回か健診の現場に行っていました。市民の方、特に子どもたちと直接触れ合える機会は、市役所の仕事のなかではなかなかないだろうと思っていたので、非常に貴重な経験でした。
赤ちゃんの泣き声を聞いたり、泣きそうな子をなだめながら検査をしたりと、大変なこともありましたが、とても楽しかった思い出として心に残っています。やはり、ずっと机で事務仕事をするよりも、外に出て人と関わる方が自分の性には合っているのかもしれません。

民間企業経験者は「改革の担い手」。多様な経験こそが力になる
ー民間企業を経て入庁された小笠原さんから見て、どのような方に仲間になってほしいと思いますか?
小笠原:もちろん、安定を求めて公務員を考えられる方も多いと思います。ですが、市の財政状況などを考えると、これからはどんどん改革していかなければならない時期です。現状維持ではなく、自ら新しいことにチャレンジしたり、行動を起こしたりできる人が求められていると感じますね。
特に、民間企業での経験など、外部の新しい知識や視点を取り入れて、市をより良くしていこうという意欲のある方に、ぜひ仲間になってもらいたいです。そういった方々と一緒に働けることは、私自身の成長にも繋がると思っています。
ー現在入庁3年目。今後、チャレンジしてみたいことはありますか?
小笠原:3年目になって、ようやく仕事の全体像が見えてきたように思います。まだまだ学ぶべきことは多いですが、これまで自分が経験してきたことを活かし、民間企業でのノウハウや営業的な視点を積極的に取り入れていきたいと思っています。
良い意味で、公務員らしくない異質な存在でいたいですね。
「地元愛」が強い地域。市民との近さが魅力
ー小笠原さんにとって、須賀川市はどんな地域ですか?
小笠原:須賀川市は地元への愛着、「地元愛」が非常に強い人が多いように感じます。須賀川には「この地域が好きだ」という気持ちが根付いている人が多い印象ですね。だからこそ、市民の方々との距離も近く感じます。それが須賀川市の大きな魅力だと思います。

ー最後に、小笠原さんにとって「須賀川市役所の職員」とは、どのような仕事でしょうか。
小笠原:公務員は「市民のために何ができるか」を第一に考えて行動する仕事です。常に根本にあるのは市民の皆さんの存在です。それが、公務員という仕事の本質なんじゃないかなと感じています。
ー本日はありがとうございました。
「目の前の誰かのために働きたい」という純粋な想い。
小笠原さんが民間企業から公務員へと転職したきっかけは、とても温かく、心に響くものでした。 お話のなかで特に印象的だったのは、公務員のイメージを覆すほど、ご自身の裁量や工夫の余地があるという言葉です。
安定志向と捉えられがちな公務員という仕事に、チャレンジ精神や創造性を見出しているその姿は、公務員のイメージを大きく変えるものでした。
きっと、小笠原さんが歩んできたこれまでの道のりや、そのなかで培った多様な経験が、市民一人ひとりの心に寄り添う「地域づくり」の力になっているのだと感じました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年8月取材)