京都府京田辺市役所で働く大屋さんのインタビュー記事です。大学時代を過ごした京田辺市へ就職し、現在は文化財活用係長と市史編さん室担当係長を兼務しています。人権啓発や選挙など幅広い部署を経験後、現在は学芸員などの専門職をマネジメントする立場で活躍中。
市役所の仕事の面白さや、短歌の執筆活動(副業)と文化財行政が見事にリンクする働き方について、ざっくばらんに語っていただきました。
人生相談から個人情報保護まで。少人数部署で培った「市役所の総合力」
ーまずはご経歴からお伺いいたします。
大屋:入庁16年目になります。大学を卒業して、東京の民間企業で働きはじめたのですが、東京になじめなかったこともあり、母親が役場職員だったので、身近だった公務員になろうと考えました。京田辺市を選んだのは、大学時代に京田辺のキャンパスに通っており、京都に戻りたいという気持ちがあったためです。地元ではありませんでしたが、まずは受けてみようと思い、そこから気がつけば16年経っていました。
ー入庁されてから、どのような部署を経験されてきたのでしょうか?
大屋:最初は「人権啓発推進課」という部署に5年間いました。その後、京都府に1年間出向して「自治振興課」で行政法関係や選挙の仕事をし、市役所に帰ってきてからは「選挙管理委員会」に配属になり、総務室職員も兼ねていたので、選挙の仕事と個人情報保護、情報公開などの仕事を4年間やっていました。
ー最初の「人権啓発推進課」ではどのようなお仕事をされていたのですか?
大屋:人権の啓発を目的とした部署で、職員や市民向けの啓発講座やイベントなどを担当していました。課長がいて係員が私を含め3人の小さな課だったので、1、2年目から予算を組んだり庁内調整をしたりと、かなり幅広く仕事をすることができました。
また、家族と喧嘩した、ご近所さんとのトラブル、のような悩み事相談にも対応していました。制度で割り切れるものなら担当課に引き継ぎますが、そうでない人生相談のような内容にも対応していて、難しい部分はありましたね。
ーこれまでの様々な部署での経験が、現在に活きていると感じる部分はありますか?
大屋:かなり活きていると思います。予算を立てたり庁内調整をしたりと、部署は変わっても一貫して庶務的な業務をやってきたので、市役所の中で働くスキルが全般的についたと思います。 特に、総務にいた時に担当した「個人情報保護」の知識は、個人に関わる過去の出来事を書籍に掲載するか否かを考える時に必要になるので、現在の京田辺市史を編さんする業務で活きていますね。

編集者のような市史編さんと、学芸員の想いを形にする文化財行政
ー現在の仕事について詳しく教えてください。
大屋:市史編さん室の係長と、その元の課にある文化財保存活用係の係長を兼務しています。
「市史編さん」は、市制20周年を契機に始まった事業で、大学教員や博物館の研究員など専門家の先生たちに集まってもらい、古代から現代に至る全7巻の歴史の本を作る仕事です。先生方の原稿を集めて印刷会社と構成のやり取りをするなど、ある意味では編集者のような仕事ですし、時には自分で文章を書くこともあります。現在3冊刊行していて、この春に4冊目が出る予定です。
文化財保存活用係の業務は、古墳や遺跡の発掘調査や、開発工事の際の埋蔵文化財への対応、市有地にある古墳の維持管理、古い寺社の修繕事業の補助金相談、市域の文化財を伝えるイベントの開催など、幅広く行っています。 現在、私の係には考古学を専門とする学芸員の専門職が3人いて、市史編さん室にも文献史を専門とする職員がいます。部下はみんな専門職という状況です。
ー専門職の方々をマネジメントする立場として、難しさや面白さはありますか?
大屋:私自身、歴史が好きなので、楽しく勉強しながら仕事ができています。 専門職の皆さんが持っている守備範囲はそれぞれ決まっていて、それを徐々に広げながら業務を行っているので、全ての分野を完璧にカバーできるわけではありません。
不足している部分を大学の先生や地域の方に助けてもうこともありますし、私が部分的にカバーすることもあります。もちろん、専門職から教えてもらうことも本当に多いです。インプットとアウトプットを繰り返す仕事は、知識が身についていく実感があってとても面白いものです。
また、私自身がプライベートで文章を書いて発表したり、本を作ったりした経験もあるので、本を作る時の工程を他の職員よりもイメージしやすいという強みもあります。専門職との相性はある意味ではとても良いと思います。
ー若手の提案を形にしていくことも多いのでしょうか?
大屋:はい。本市の文化財行政は過渡期で、新しいことがしやすい状況です。例えば最近も、奈良文化財研究所から本市にゆかりのある「隼人の盾」という1300年以上前の出土遺物を借りてきて展示会や講演会をしましたが、これも担当の職員が「やりたい」と提案してくれたものです。
若手職員がやりたいことを、どういうプロセスを踏めば実現できるのかを考えるのが私の役割だと思っています。そうやって実際に事業が進んでいくプロセスを見るのはとても面白いですね。

「16年目で今が一番楽しい」裁量を持って働く面白さと、市役所のリアル
ー「前例踏襲」を変えていく難しさは感じませんか?
大屋:もちろん前例には「それで上手く回っている」という利点があります。それを理由もなく変えるのではなく、メリット・デメリットを明確にすることができれば、変えられる部分も多いです。また、既存とは別の仕組みを作ることで、結果的に前例を変えてしまうことも多くあります。
ー大屋さんご自身も、今のお仕事をとても楽しまれているのが伝わってきます。
大屋:そうですね。色々な部署を経験してきましたが、文化財の係長になってからのここ2年くらいは、本当に仕事が楽しいと感じています。新規の仕事に向き合いながら、どうやって仕組みを作っていくかを考えるのがとても面白いです。
例えば、市内の史跡をこれからどう保存・活用していくかについて、計画を策定し検討を進めているのですが、10年、15年先を見据えたプロジェクトになります。「10年後のために今何ができるか」を考えるのは非常にやりがいがあります。
ー残業やワークライフバランスについてはいかがですか?
大屋:忙しい時期や会議の前などは残業することもあります。ただ、文化財について調べて資料を作るといった作業自体が嫌いではないので、残業していてもそんなに苦ではないですね。
有給休暇もかなり取りやすい環境で、係のメンバーも含め、繁忙期以外は自分のタイミングで休めています。
本業の歴史知識が「副業の短歌」にも活きる。相性抜群の働き方
ー大屋さんはご趣味として、短歌の活動もされていると伺いました。
大屋:はい。基本的に締め切りを抱えている状態なので、土日も本を読んだり原稿を書いたりして過ごしています。原稿料をもらったり、依頼を受けて人前で喋る場に登壇することもあるため、必要に応じて職員課に「営利企業等従事許可申請書」を出しています。
ー副業の許可はスムーズにおりるものなのですか?
大屋:かなりスムーズに許可をいただいています。京田辺市はとても理解があって優しい環境だと思います。課長や係員にも理解していただいているように感じます。職場に隠してコソコソやらなければいけないということもなく、続けやすい環境ですね。
必要な時にはしっかり休みを取って国会図書館などに調べ物をしに行くこともできますし、公務員の仕事としっかり両立できています。
ー今の文化財のお仕事と短歌の活動には、何か相乗効果はありますか?
大屋:めちゃくちゃ相性がいいですね!例えば出版社から文章を依頼されて、明治生まれで大正に亡くなった歌人について文章を書く際、その時代の空気感や背景を想像するのは普通に生きていたらなかなか難しいんです。
でも、市史編さんの仕事でその時代の資料を読んだり文章を書いたりしているので、その人が生きた時代をすごく想像しやすくなっています。私の執筆活動をやる上でも、今の仕事で得た経験は貴重なものだと感じています。

利便性と歴史が交差する街。京田辺市で働く魅力
ー最後に、京田辺市のまちとしての魅力を教えてください。
大屋:とても交通の便が良くて利便性が高く、住みやすいまちだと思います。それに加えて、文化財の仕事をしていると、その利便性に歴史的な要素が重なってくるのが面白いですね。 例えば、平城京から北に向かって最初の駅である山本駅が京田辺市内にかつてあったなど、昔から交通の便が良かったのだと感じます。利便性が高くて、緑も残っている、落ち着いた良いまちだと思いますよ。ぜひ、京田辺市役所に興味を持っていただけたら嬉しいです。
ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年11月取材)
「16年目で今が一番楽しいです」。そう語る大屋さんの表情からは、専門職を支え、文化財の未来を創る仕事への確かな充実感が伝わってきました。様々な部署を渡り歩いてきたからこそ培われた「市役所の総合力」。それが今、専門的な業務で花開いています。



