市役所の「電気職」と聞いて、どんな仕事を想像しますか?民間企業から横須賀市役所に転職した水野さんの仕事は、私たちの想像を遥かに超えるダイナミックなものでした。
施設の更新計画・設計という「上流」から、日々の安定稼働を守る「下流」まで。入庁3年目で「日本初」のプロジェクトを任され、10年越しの巨大施設の「幕引き」という大役も担います。
なぜ公務員へ? 若手に挑戦を託す横須賀市の魅力とは?社会インフラを支える仕事の、知られざるリアルとやりがいに迫ります。
- 上流から下流まで。市民生活の「当たり前」を支える電気職の仕事
- 民間から公務員へ。横須賀市を選んだ理由
- 若手が挑んだ2大プロジェクト!仕事の達成感とやりがい
- 働きやすさと成長できる環境
- 未来の仲間へのメッセージ
上流から下流まで。市民生活の「当たり前」を支える電気職の仕事
ーまずは自己紹介と、現在の業務内容について教えてください。
水野:横須賀市上下水道局の技術部水再生課に所属している水野です。2018年に横須賀市役所に入庁し、今年で8年目になります。大学院卒業後に民間企業で2年間電気設計の仕事をした後、転職で入庁しました。
市役所に入ってからのキャリアは2つの部署に分かれていて、それぞれでインフラの異なる側面に関わってきました。最初の5年間は下水道施設課という部署で、下水処理場に必要な電気設備の更新工事を担当していました。ここでは、工事の「設計」から、費用を計算する「積算」、そして実際に工事が始まってからの「現場監督」まで、ものづくりの一連の流れを担当しました。
そして現在は水再生課に所属し、主に施設の「維持管理」を担当しています。今度は設備を実際に「使う側」として、日々の運用や故障時の修繕などを通じて、市民生活を支えるインフラが24時間365日、安定して稼働するように努めています。

ー「電気職」とだけ聞くと、なかなか業務イメージが湧かないのですが、具体的にどのような役割を担っているのでしょうか?
水野:確かに土木職や建築職と異なり、具体的な業務内容がイメージしにくいですよね。
私たちの仕事は、市民の皆さんの生活に欠かせないライフラインを「電気」という側面から支える、まさに縁の下の力持ちのようなものです。
技術職の中でも、特に電気職と機械職の違いは分かりにくいかもしれません。維持管理の現場ではその線引きが曖昧になることもありますが、分かりやすく言うと、ポンプやモーターといった「機械」設備を作るのが機械職、それを動かすための動力、つまり人間の体に「血を巡らせる」役割を担うのが電気職の仕事です。

電気職というと、配電盤の前で回路図とにらめっこしているイメージがあるかもしれませんが、それはあくまでほんの一部です。故障が起きた際には、設備の仕組みや回路を深く理解していないと原因を特定できないので、もちろん配電のことを知っておく必要はありますが、我々が扱うのは高電圧の受変電設備から、施設の運転を自動で制御するシーケンス回路、さらにはデータをやり取りする通信設備まで、非常に幅広い分野です。
先程、機械職との線引きが曖昧になるという話をしましたが、電気を扱う上では、そもそもの機械自体に関する知識も求められます。思っているよりも、何でも屋さんである必要があるんです。
ー思っていたよりもずっと幅広く携わる仕事なんですね。やはり、基本的には現場に出ていることの方が多いのですか?
水野:工事の監督や進捗管理をするために現場に行くことも多いですが、常に現場にいるわけではなく、業者の方への工事の発注や点検業務の委託、予算管理など、デスクワークも思っている以上に多いです。
自分が受け持った工事については、業者の方との調整を含め、全体を管理していくこととなるため、電気職としての専門知識を活かしながら、プロジェクト全体をマネジメントしていく能力も必要になります。

ー電気職の仕事は、具体的に市民の生活にどのように関わっているのでしょうか?
水野:現在の私の業務であれば、市民生活との関わりが最もわかりやすいのは、大雨が降ったときの対応ですね。集中豪雨などで大量の雨水が市内に流れ込んだ際に、私たちが管理しているポンプなどの機械設備や電気設備が正常に機能しないと、街が浸水してしまう可能性があります。
普段から点検や修繕をしっかり行い、いざというときに設備を確実に動かして市民の安全を守る。これは市民生活に直結する、非常に責任の大きい仕事だと感じています。
実は、下水道関連の予算では、私たち電気職や機械職が関わる設備の費用割合が非常に大きいんです。それだけ、市民生活を支えるインフラの中で、私たちの仕事が重要な役割を担っているということだと思っています
民間から公務員へ。横須賀市を選んだ理由
ー水野さんは民間企業から転職されたとのことですが、転職の経緯を教えていただけますか?
水野:学生時代、東日本大震災を経験したことで「生活に欠かせない電気を守る仕事がしたい」と強く思うようになり、大学院を卒業後は電力インフラに関わる民間企業に就職しました。
ただ、実際に働いてみるとやりがいは大きいものの働き方はとてもハードで、10年以上先輩の方々が同じ働き方をしているのを見る中で、果たしてこの働き方をどのくらい続けられるだろうか、と将来に不安を感じるようになったのが転職を考えたきっかけです。
転職活動でも「社会インフラに関わりたい」という軸は変わりませんでした。その中で公務員という選択肢が浮上してきたんです。
民間企業では製品を設計して納品すれば役割は終わりでしたが、公務員ならそれを実際に「使う側」の立場になれる。ものづくりの川上(計画・発注)から川下(運用)まで、両方の視点からインフラに関われることに大きな魅力を感じました。
ー数ある自治体の中から、横須賀市を選んだ決め手は何だったのでしょうか?
水野:たまたまと言ったら聞こえが悪いのですが、転職を考えたタイミングで募集があったのが、県内では横須賀市を含め2自治体だけでした。共に内定をいただくことができたのですが、最終的に横須賀市を選んだ一番の決め手は、「電気職を毎年、採用していた」という点です。
自治体の規模によっては、そもそも電気職の採用がなかったり、数年に一度しか採用がなかったりするケースも珍しくありません。そうなると、入庁しても身近に相談できる先輩がおらず、スキルアップの面で苦労するかもしれないと考えました。
その点、横須賀市は事業規模が大きく、継続的に技術職を採用していたので、若手でも成長できる環境が整っていると感じました。ここでなら、専門性を高めながら長く働けるだろうという思いが強かったですね。
若手が挑んだ2大プロジェクト!仕事の達成感とやりがい
ーこれまでで最も印象に残っている仕事や、達成感を感じたエピソードを教えてください。
水野:特に印象深いプロジェクトが2つあります。どちらも若手のうちに任せてもらった大きな仕事で、自分の成長に繋がったと感じています。
1つ目は、入庁3年目に担当した、高度処理施設の導入工事です。横須賀市が面している東京湾は、全国でも特に厳しい水質基準が定められており、それに対応するための新しい汚水処理施設を導入するプロジェクトでした。しかも、その処理方式は「日本で初めて採用される技術」だったんです!
ー日本初ですか!それはすごいですね。
水野:市役所内にも前例がなく、右も左も分からない状態からのスタートでした。業者の方に一つひとつ教わりながら、手探りで進めていくのは本当に大変でしたが、それ以上に楽しかったですね。
数億円という規模の、しかも日本初のプロジェクトを3年目の若手に任せてもらえたこと、そしてそれを無事にやり遂げられたことは、大きな自信になりました。

もう1つは、4年目に担当した計画~施工完了まで16年に及ぶ巨大プロジェクトの最終章です。当時市内に4つあった下水処理場のうち、最も歴史の古い1つを停止させ、その機能を他の処理場に集約するという計画でした。私が任されたのは、その計画の最後、実際に施設を停止させるという「クローザー」の役割です。
ー整備や維持管理とは全く異なり、「終わらせる」事業ということですか?
水野:そのとおりです。一度動かし始めたインフラを止めるというのは、なかなか経験できるものではありません。「施設を一度止めたらもう後戻りはできない」というプレッシャーは相当なものでした。
複数の課をまたいで、それこそ何十人もの職員に協力してもらい、考えうる限りの試験と確認を重ねて、無事に停止させることができた時の達成感は、今でも忘れられないですね。
働きやすさと成長できる環境
ー職場の雰囲気や、先輩・後輩との関係はいかがですか?
水野:すごく良いです!年代の近い職員が多く、何でも親身に相談に乗ってくれるので、とても働きやすいです。
最初に入った部署では、1年目の私のすぐ上に2年目、3年目の先輩がいて、分からないことがあっても気軽に聞ける環境でした。技術的なバックアップはもちろんですが、人間関係の面でも本当に恵まれていると感じます。

ーワークライフバランスの面では、前職と比べていかがでしょうか?
水野:これはもう劇的に改善されました。転職の最大の理由でもあったので、本当に嬉しいです(笑)
前職は休日もあってないような生活でしたが、今は定時で帰れる日も多く、休日以外にも有給休暇や夏季休暇など、プライベートを充実させるための休みが年間20日以上取得できています。
子どもが生まれたときも1ヶ月の育休を取得しましたし、子どもの急な発熱で早退するときも、周りの皆さんが「大丈夫だよ、こっちはやっておくから」と快く送り出してくれるんです
仕事と子育てを両立できる環境が整っているのは、本当にありがたいですね。
未来の仲間へのメッセージ
ー水野さんは現場経験を経て転職されましたが、例えば新卒で現場経験が無い方でも技術職として活躍できるのでしょうか?
水野:それは全く心配いりません。私はたまたま前職での経験がありましたが、同期にも大学から直接入庁した職員はたくさんいますし、横須賀市では新人一人ひとりに先輩が指導員としてついてくれる制度があるので、バックアップ体制は万全です。
もちろん、自ら学ぶ姿勢は必要ですが、それはどんな仕事でも同じだと思います。現場経験がなくても、意欲さえあれば十分に活躍できます。
また、電気の分野は非常に幅広いですから、大学で学んだ分野が少し違っていても大丈夫です。情報技術や通信技術などの専攻で、電気の専門でないといった場合でも、
お互いに知識を共有しながら成長していける、そんな職場なので、ぜひ安心して飛び込んできてください。
ー最後に、受験を考えている方へのメッセージをお願いします。
水野:横須賀市で働く魅力は、若手にも大きな裁量権を与えてくれるところです。
私自身、3年目や4年目で大きなプロジェクトを任せてもらえました。やる気さえあれば、年齢に関係なく挑戦させてもらえるこの環境は、他の自治体にはなかなかない魅力ではないでしょうか。
また、何より横須賀市は海が近くて景色を含めた環境が素晴らしいです。仕事で疲れたときに、ふと海岸沿いを車で走るだけで、リフレッシュすることができます。
公共インフラを支えるという大きなやりがいと、充実したプライベートを両立できる横須賀市で、皆さんと一緒に働ける日を楽しみにしています!

ー本日はありがとうございました。
「日本初の技術」「10年越しのプロジェクト」…これほど大きな話を、本当に楽しそうに語っていただく水野さんの表情が印象的でした。
電気職として働く魅力を、終始明るく説明してくれるその姿からは、やりたいことを実現できている、という思いがひしひしと伝わってきました。
苦労よりも「できなかったことができるようになる」という純粋な喜びや、仲間と課題を乗り越えた達成感など、市民生活を支えるという使命と、技術者としての探究心。その両方を心から楽しむ姿に、電気職という仕事の奥深い魅力を改めて教えられた気がします。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年9月取材)



