岡山県の真庭市消防本部で救急救命士として働く高野さんのインタビュー記事です。地元・真庭市で人の役に立ちたいという想いを胸に入署。救急現場の最前線で活躍する一方、市民と共に「救命の連鎖」を創る啓発活動に力を注いでいます。仕事のやりがいや、1ヶ月の育休を取得して感じた職場の魅力について、詳しくお話を伺いました。
ーご経歴を教えて下さい。
高野:真庭市の出身で、高校卒業後救急救命士の資格が取れる専門学校に3年間通い、資格を取得した後に真庭市消防本部に入庁しました。
この仕事を選んだのは、二つの大きな理由があります。一つは、地元である真庭市に帰ってきたいという強い思いがあったこと。もう一つは、人の役に立つ仕事がしたかったことです。この二つが合致したのが、消防の仕事でした。
ー高校生の時点で、救急救命士という具体的な目標を持たれていたのですね。
高野:実は、いとこが先に同じ専門学校を卒業して、別の市で救急救命士として働いていたんです。その姿を見て、純粋に「かっこいいな」と思ったのがきっかけです。専門学校に入る前にも、実際に話しは聞いていました。
就職活動時は、県庁なども受けましたが地元で働きたく真庭市を選びました。
ー入署してからは、すぐに救急救命士として活動されたのですか?
高野:いえ、一定の現場経験は必要となりますので、消防学校の卒業後は救急隊員として経験を積みました。救急隊員は他の方よりも早く活動していたかと思います。それで3年目に病院での実習を経て、正式に救急救命士として務めています。
ーお仕事についても教えて下さい。
高野:真庭市消防本部は全国的に見ると小規模な組織なので、いわゆる「救急隊専門」という働き方は難しいのが実情です。救急救命士の資格を持っていても、火災が発生すればもちろん消火活動に行きますし、事業所などを訪問して火災予防の指導を行う「査察」の業務も担当します。
救急車に乗るだけではなく、消防士としてあらゆる業務を幅広く担っています。
ー実際に入署してから、ギャップはありましたか?
高野:いとこから話は聞いていたので、大きなギャップはありませんでした。
ただ、一つ意外だったのは、想像以上に病院との繋がりが深いことでした。入る前は、消防は消防、病院は病院で、それぞれ独立して活動しているイメージだったのですが、実際は全く違います。連携が非常に重要であり、傷病者対応において医師と直接話す機会が非常に多く、日頃から「顔の見える関係」を築いておくことが大切です。
救急救命士としての活動前の研修も病院で1ヶ月間務めていましたし、現在も年に数日間は病院での実習を行っています。それだけ密接に関わっているということは意外でした。
ー病院実習では具体的にどのようなことをされるのでしょうか。
高野:基本的には、私たちが搬送した患者さんが病院でどのような処置を受け、どのような経過をたどるのかを学びます。医師の診断や見解を聞いたり、手術や処置の様子を見学させていただいたり、医学的な講義も受けます。この実習を通して、医療知識を深めると同時に、医療関係者の皆さんとの連携を強化していくんです。
ーまさに医療チームの一員という意識が求められるのですね。では、お仕事のなかでやりがいを感じるのはどんな瞬間ですか?
高野:やはり、救急搬送した方が元気になられた姿を見た時ですね。後日、退院されたご本人やご家族がお礼を言いに来てくださることがあるんです。その言葉を聞くと、本当に嬉しくて、「この仕事をしていて良かったな」と心から思います。
ーこれまでのご経験で、特に印象に残っている現場はありますか?
高野:今でも覚えている現場としては、ゴルフ場で男性が心停止で倒れたという通報でした。
私たちが現場に到着した時、驚いたことに、その男性の心臓はすでに動き出していたんです。詳しく聞くと、近くに居合わせた方々がすぐに心臓マッサージを開始し、ゴルフ場に設置されていたAEDを使って電気ショックを行ってくれていた、と。
ー自身が誰かを助けた、という経験より印象に残っているんですね。
高野:そうですね。救助活動について、特に真庭市のような中山間地域では、通報を受けてから救急車が到着するまでに時間がかかってしまうケースも少なくありません。そうなると、救急隊が到着してから処置を始めるのでは手遅れになってしまう可能性が高まります。そうなると、居合わせた人の対応が非常に大切になります。
ですから、私たちは現場での救命処置と同じくらい、市民の皆さんへ救命方法をお伝えする「啓発活動」に力を入れています。先ほどのゴルフ場の事例は、その方々が啓発活動に参加されているかどうかはわかりませんが、改めてそういった活動が重要だと痛感した現場でした。
ー啓発活動は、具体的にどのようなことをされているのですか?
高野:心臓マッサージやAEDの使い方を指導する「救急法講習」を、ご依頼に応じて実施したり、消防署に来ていただいたりしています。また、毎月1回、より詳しい内容を学べる「普通救命講習」の開催日を設けて、参加者を募集しています。その他にも、地元のケーブルテレビや、消防本部の公式Instagramなどを通じて、情報を発信しています。
ーそうなんですね。確かに非常に重要な業務ですね。では次に、お話が変わりますが職場の雰囲気も教えて下さい。
高野:職場は、みんな優しい人ばかりでとても楽しいです。もちろん、訓練や出動の際はピリッとしますが、24時間ずっと緊張しているわけではありません。休憩時間には冗談を言い合ったりして、オンとオフをしっかり切り替えながらやっています。
先輩方は皆さん尊敬できる方々ですし、後輩たちも本当に優秀です。むしろ、私が教えてもらうことも多くて助けられていますね。
私自身がコミュニケーションで意識しているのは、後輩に対しては威圧的にならないように、でも言うべきことはしっかり伝えること。先輩に対しては、失礼にならない範囲で積極的に関わっていくことです。救急現場など、自分の専門分野で「こうした方が良い」と思うことがあれば、相手が先輩でも後輩でも、しっかり意見を言えるような関係性を築いていきたいと思っています。
ー働き方やワークライフバランスについてはいかがですか?最近、育児休業を取得されたと伺いました。
高野:はい、今年の5月に1ヶ月間、育休を取得しました。ワークライフバランスについては、私は今の24時間交替制の勤務が自分に合っていると感じています。もちろん、夜間に出動が続くと疲労も溜まりますが、指令がない日は仮眠もしっかり取れます。出動の有無で疲労度は大きく変わりますね。たまに日中だけの研修などに行くと、むしろそっちの方が疲れるなと感じるくらいです(笑)。
ー1ヶ月の育休取得は、職場ではスムーズに進みましたか?
高野:はい。最近、真庭市消防本部では男性職員の育休取得がすごく増えているんです。私が知る限りでも、これまで5人くらいが取得しています。数年前に先陣を切って取得してくれた先輩がいたおかげで、「自分も取りたい」と言いやすい雰囲気ができていました。
私の場合は、年度の切り替わりはずらしましたが、異動後にすぐ上司にお願いしたところ、快く調整していただくことができました。
もちろん、私が休む分、同僚の勤務負担も増えたとは思うので、その点は非常に周囲に感謝しています。ただ、私たちの仕事は特定の個人に業務が紐づいているわけではなく、チームで対応するシフト制です。
ですから、事前に勤務を調整する担当者としっかり話をして、署全体の業務が回るように段取りできれば、比較的休みは取りやすいのかもしれません。
育休中は、妻も本当に喜んでくれました。「一番大変な時期にいてくれて助かった。もし二人目ができたら、もっと長く取ってほしい」と言われたくらいです(笑)。
ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年6月取材)