「今までお世話になった人たちに、今度は頼られる立場になりたかった」
そう静かに、しかし力強く語るのは、真庭市消防本部 蒜山分署で働く入署2年目の金平尚悟さん(25歳)。救急救命士の資格を大学で取得し、採用試験に挑み続けて真庭市消防本部に入署した。
そして尚悟さんより1年早く入署していたのが、弟の金平啓志さん(24歳)。同じ地元の高校で硬式野球部に所属し、それぞれが消防士を目指してきた。啓志さんは兄の思いを知りながらも、尚悟さんは弟が消防士を志していたことをこの取材当日まで知らなかったという。現在は湯原分署に勤務し、救助隊員の資格取得を目指している。
今回は、真庭市消防本部への入署を考えている方に向けて、入署のきっかけから日々の勤務体制、仕事のやりがいまで、お二人にたっぷりとお話を伺いました。
兄弟そろって目指した、夢の舞台。消防士への道はそれぞれ違った
ーまず、消防士を目指したきっかけからお聞きできますか。
尚悟:小さい頃からずっと消防士に憧れがあって。地元で野球やスポーツをしながら色々な方と関わってきた中で、身近な地域の人の、身近な存在でいられる仕事に就きたいという気持ちが高校の頃には固まっていました。消防士もかっこいいなと思って、高校時代には消防士になりたいと決めていましたね。
啓志:僕も同じ高校で硬式野球をやっていて、その頃には消防士になろうと決めていました。高校卒業時に一度真庭市消防を受験したんですが、そこは縁がなくて。消防は諦めないけれど、もし駄目だったときのためにもう一つ武器を持っておきたいと思って、保健体育の教師も目指せる大学に進学しました。
ーお互いに消防士を目指していたことは知っていたんですか。
尚悟:弟が消防士を目指していたことも、高校卒業時に受験していたことも、今日初めて知りました。弟は話してくれていたと思うんですが、僕が忘れていたみたいで(笑)。
啓志:僕は兄が消防を目指しているのは知っていたんですけど、兄は全然知らなかったみたいで。今でもちょっとびっくりしています(笑)。

ーそれぞれ、大学はどのような学校に進まれたんですか。
啓志:岡山県倉敷市の四年制大学で、消防士と保健体育の先生、どちらも目指せる大学だったのでそこに進みました。卒業時には教員採用試験も受けたんですが、やはり消防士への思いが強くて。真庭消防一本で受け続けて、卒業と同時に入署できました。
尚悟:僕は京都府の大学の救急救命学科に進みました。最初から消防士になることを決めた上で、救急救命士の資格が取れる学校を選んだんです。在学中も真庭消防を受け続けて、卒業の3年後にようやく入署できました。もう真庭消防しか考えていなかったので、それ以外は就職浪人でもいいぐらいの気持ちでした。
ーそこまで真庭にこだわった理由は何ですか。
啓志:倉敷消防さんも受けようか迷ったこともあるんですが、消防士になるなら地域のことを知っている真庭の方がいいという思いが強くて。真庭消防一本でやりました。
尚悟:4年間大学にいる間も、真庭で働きたいという気持ちは全く変わらなかったですね。

消防学校8か月、現場は想像の上をいく。三連はしごのロープ結びにも、本部ごとの流儀があった
ー入署後はどのような流れで現場に出るようになるんですか。
尚悟:4月に入署してまず消防学校に入ります。9月に一度戻ってきて1か月ほど日勤で勤務した後、また消防学校に戻って救急に特化した勉強を2か月ほど。24時間勤務として現場に出始めたのは1月からなので、それまでの約8か月は消防学校で過ごしていました。
ー1月に配属されてから、すぐに戦力として動くんですか。
尚悟:最初は「プラス1」という形で、救急出動の際も通常3名のところを4人目として乗せてもらっていました。年度末の3月まではその見習い期間で、4月から正式に蒜山分署に配属されました。
ー実際に現場に出てみて、学校で学んだこととのギャップはありましたか。
尚悟:やっぱり現場で感じることと机の上で学ぶことには違いがあるなと思いました。机の上では決まった手順があっても、現場は臨機応変に対応しないといけないので。たとえば火災のときに使う三連はしごのロープの結び方も、消防学校で習う基本とは別に、各本部で現場に即した結び方が積み上げられていて。他の本部の同期と話すと、うちも違うよってなるぐらい、それぞれに工夫があるんです。
啓志:パソコンを使う仕事が多いことは最初驚きました。もっと体を動かすイメージが漠然とあったんですけど、避難訓練の届出処理や出動後の記録作成など、事務的な作業が日常的にあって。大きな災害があった後は全分署をZoomで繋いで振り返りをすることもあって、もっとちゃんと頭を使う仕事なんだなと思いましたね。

24時間勤務の中身は自炊、事務、訓練。「体を動かす仕事」だけじゃない消防の日常
ー1日の勤務の流れを教えてください。
啓志:8時半に勤務交代をして、午前中は事務作業が中心です。お昼ご飯を食べてから午後に訓練をして、3時から4時ごろには終わります。そこから夕食の準備に入るんですが、分署では当番制で自炊をしていて、僕が一番年下なので作ることが多くて(笑)。5時ごろにみんなで食べて、6時以降は各自トレーニングやランニングをされています。10時には仮眠に入って、翌朝5時に起床、6時半から掃除をして朝食を食べて、8時半に勤務交代という流れです。
ー休みのサイクルはどんな感じですか。
尚悟:分署は10名プラス分署長の11名で、5名ずつ2チームに分かれています。奇数日・偶数日で交互に出勤する形で、1チームの中でも1〜2名休む日があるので、最低3名は確保しながら回しています。2〜3回勤務したらその後に週休が入る流れで、月に4〜5回の週休があるので、月の出勤は約10日ほどになります。
ー今の時期は大会に向けた訓練もされているとのことですが。
尚悟:6月25日に岡山県の消防本部が集まる救助の県大会があって、4月から3か月間その訓練を積んでいます。9時から11時まで本署で訓練してから分署に出勤したり、明けの日に訓練に向かったりするので、今は毎日訓練がある感じで結構詰まっています。真庭消防は大会に力を入れていて、県内でも熱心な本部だと思います。今年が初めての出場なので気合いが入っています。
啓志:僕は昨年度は補欠だったので、選手として出るのは今年が初めてです。

地元を守る消防士だから感じる、感謝の重み。ホタルが飛ぶ蒜山で、今日も走る
ー職場の雰囲気はどうですか。
啓志:入った当初から、なんかすごいワイワイしてるなという印象で。真庭市外から来られている方もいるんですが、何の隔たりもなくフレンドリーで、馴染みやすかったです。受け入れてもらいやすかったなというイメージがあります。
尚悟:皆さんすごく優しくて、何事にも寄り添って見守ってくださる温かさを感じています。訓練中に厳しいことを言われることはありますが、それは命に直結する仕事だから当然で、終わったあとはすごく寄り添った対応をしてくださる方が本当に多いです。

ー働く環境として、他に良いと感じる点はありますか。
啓志:年の近い先輩でも育児休暇をしっかり取られている方が多いことには驚きました。20代の若い方でも当たり前のように取っていて、職場の皆さんも「取ってあげなよ」と声をかけているのを見て、プライベートを大事にしようという空気があるんだなと感じています。
ーこれまでで、消防士になって良かったと感じた瞬間を教えてください。
啓志:救急で対応した方に、仕事以外の場所でばったり会った時に「この前ありがとうね」と声をかけてもらった時です。真庭は人口が少ないので顔を覚えてもらいやすくて、その分感謝の言葉がより身近に届く気がします。
尚悟:数日後に、対応した方が元気に車を運転している姿を見かけた時には良かったなと思いましたし、身内や近所の人から「よろしく頼むよ」と声をかけてもらえることも増えてきて。消防士を目指した動機が、今までお世話になった人に頼られる立場になりたいということだったので、それが現実になってきていると感じる時には、もっと頑張ろうという励みになっています。
ー最後に、真庭市消防本部への入署を考えている方へメッセージをお願いします。
啓志:入ってみて、本当に温かい職場だと感じています。消防士という仕事は体を動かすだけでなく、頭も使うし、地域との繋がりも深い仕事です。地元を守りたいという気持ちがある方に、ぜひ来てほしいです。
尚悟:通勤途中の景色がすごく良くて、蒜山は緑が多くて気持ちいいですし、夜に分署の周りをランニングするとホタルが飛んでいたりして、自然の豊かさを毎日感じています。仕事のやりがいはもちろん、真庭という場所で暮らして働くことそのものが、僕は好きです。地域に根ざした消防士を目指したい方、一緒に働きましょう。

ー本日はありがとうございました。
弟は兄が消防を目指していることを知りながら、兄は弟の思いをこの取材当日まで知らなかった。それでも2人は今、同じ制服を着て同じ地域を守っている。取材中、2人が交わす言葉には、家族ならではの自然な遠慮のなさと、同じ職場の同僚としての敬意が混ざり合っているように感じられた。
「今までお世話になった人に、今度は頼られる立場になりたかった」という尚悟さんの言葉は、消防士という職業の原点をまっすぐに言い表していると思う。真庭の自然の中で、2人はこれからも地域の誰かのために走り続ける。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年6月取材)



