川西市役所で働く楠さんのインタビュー記事です。ホテル業界での充実したキャリアから一転、子育てとの両立を目指して公務員への転職を決意。未経験の分野への挑戦、民間企業とのギャップに戸惑いながらも、温かい同僚や上司、そして多くの同期に支えられ成長していく姿、そして川西市で働く魅力ややりがいについて、語っていただきました。
ー楠さんのこれまでのご経歴について教えていただけますか?
楠:大学卒業後にホテル業界に就職しました。ホテルのフロントスタッフや、ブライダルのお仕事もしていましたね。新卒からずっとサービス業に8年ほど携わってきました。そこから、川西市役所に令和4年に入庁いたしました。
ーサービス業から公務員へ転職されたきっかけは何だったのでしょうか?
楠:サービス業はどうしても、土日祝日が主な勤務日になってしまいます。当時、子どもが2人とも小さく、土日は保育園に預けることができず、両親や夫に負担をかけてしまう状況が続いていました。
そんな時に、川西市の採用情報を見つけて、「受けてみようかな」と思ったのが転職のきっかけです。
ーなるほど。なぜ川西市を選ばれたのですか?
楠:地元も川西市に近く、母がずっと川西市役所で会計年度任用職員として働いていて、「良い職場だよ」と勧めてくれたのが大きかったです。

ー市役所職員の仕事内容は知っていたのですか?
楠:全然知らなかったですね。大学時代も公務員試験を受けようとは全く思いませんでしたし、サービス業界に入ったので、公務員はお堅いんだろうな、というイメージが強かったです。
母に勧められた時も、「私には無理だよ」なんて言っていたくらいです。ただ、よくよく考えてみると、行政の仕事といっても、市民の方々と直接関わる窓口業務もたくさんあります。自分のスキルも活かせるかもしれないと思って、挑戦してみることにしました。
ー試験対策は大変でしたか?
楠:私が受けた川西市の採用試験は、いわゆる公務員試験の筆記試験があるものではなかったんです。経験者採用枠で、エントリーシートでアピールポイントなどを書いて提出し、一次選考の後に面接、という流れでした。このため、いわゆる公務員試験対策といった勉強が不要だったのもありがたかったです。
「私でも受けられるかも」と思えましたし、この採用方法はすごく良いなと感じました。実際、同期に聞いても「あのテストがあったら受けていなかったかも」なんて声も聞きます。「面接でアピールできるなら行ってみようか」という感じで受けた人も多いみたいです。それにより同世代の仲間がたくさんできたのも心強かったです。
ー最初の配属先について教えてください。
楠:福祉部の地域福祉課に配属されました。主に民生委員さんの担当や、地域福祉市民フォーラムといったイベントの企画・運営、あとは戦没者追悼式の担当などをしていました。
地域福祉課は様々な事業を抱えていて、それぞれ担当が一人ずつつくのですが、基本的には複数の業務を並行して進めていく形でした。窓口業務もありますし、民生委員さんとの定例会議などで外部に出ることも多かったです。
ー民生委員さんとの連携というのは、具体的にどのようなことをされるのですか?
楠:民生委員さんはいわゆる地域のボランティアの方々で、市民の方と行政との「つなぎ役」を担ってくださっています。市民の方が抱えている困りごとを民生委員さんが聞き取り、行政に繋いでくださる。そして、私たち行政はそのお悩みをどの部署に繋げば解決できるかを考え、対応していく、という流れです。
ーどのような相談が寄せられることが多いのでしょうか?
楠:本当に様々ですね。「一人暮らしの高齢者の方と最近連絡が取れないから、様子を確認してほしい」といった緊急性の高いご連絡をいただくこともありました。ですから、常に予定している業務と、突発的に発生する業務の両方に対応していく必要がありました。相談を受けた際は、まずしっかりお話を聞いて、その困りごとに対してどう対応していくべきか、課をまたいで色々な部署に相談しながら進めていました。

ー前職とは全く異なる分野のお仕事で、最初は戸惑うことも多かったのではないでしょうか? 大変だったこと、悩まれたことなどがあれば教えてください。
楠:やはり、民間企業と行政とでは仕事の進め方に違いがあると感じました。特に「決裁」のプロセスですね。行政では、何かを始めるにも上司の承認を得てからスタート、という流れが基本ですが、民間、特に私がいたサービス業では、ある程度のスピード感が求められ、「思い立ったらまず行動」という側面もありました。そこのギャップには少し戸惑いました。
ー研修や教育制度についてはいかがでしたか?
楠:入庁前に数回、Webでの研修がありました。コロナ禍だったのでZoom開催でしたが、職員課の方から「行政とは何か」といった基本的なことを教えていただきました。配属されてからは、OJT担当の先輩職員が一人ついてくださって、丁寧に指導していただきました。
業務のマニュアルも整備されていますし、過去の決裁書類などを見て「こういう風に進めるんだな」という流れを掴んでいきました。上司の方々も皆さん優しくて、質問しやすい雰囲気を作ってくださるので、とても聞きやすい環境だったと思います。
ー未経験の福祉分野で、市民対応など、一人で業務をこなせるようになるまでには、どれくらいの期間がかかりましたか?
楠:市民対応は本当に一件一件内容が異なるので、一概には言えませんが、完全に独り立ちするまでには半年くらいはかかったかなという感覚です。ただ、すぐに窓口対応は行っていきますし、「知らない」では済まされないというプレッシャーもあり、必死で勉強しました。
ただ、分からないことがあればすぐに先輩や上司に聞ける環境だったので、一人で悩むということはなかったです。すぐに相談できる人が周りにいるというのは、本当にありがたかったですね。
ー前職のホテル業界での経験が、現在の業務に活きていると感じる場面はありますか?
楠:人と関わる仕事という点では前職とも共通しています。ホテルではお客様に対してホスピタリティを持って接することを常に意識していましたので、その経験は電話対応や窓口対応に活きていると感じます。市民の方のお話にじっくり耳を傾け、寄り添う姿勢を心がけていたことで、「楠さんに話を聞いてもらえて良かったわ」と直接お声がけいただいたり、お電話をいただいたりした時は、嬉しいですし、その点が自分のモチベーションにつながっています。
ただ、逆の難しさもあります。ホテルでは、お客様のご要望には可能な限り応えようとしますが、行政では法律や条例にもとづき「できること」と「できないこと」を明確に線引きし、それをきちんと伝えることも重要になります。
ー働きやすさ、ワークライフバランスについてもお聞きします。
楠:働きやすさの面では、本当に恵まれていると感じます。子どもが保育園で急に熱を出してお迎えに行かなければならない時など、「早く行ってあげて!」「お互い様だから気にしないで」と、周りの皆さんが快く送り出してくれるんです。
この「お互い様」という感覚が職場全体に浸透しているのは、本当にありがたいですね。もちろん、休んでしまった分、他の日に頑張ろうとは思いますが、「無理しないで大丈夫だよ」と言ってくれる環境に、日々支えられています。
ー残業時間についてはいかがですか?
楠:部署や時期によって差はあると思いますが、市全体として「残業を減らそう」という動きがあります。市長もその方針を打ち出していますし、課長級の職員が率先して声かけをしており、全体として残業をなくそうとしている雰囲気があります。
私自身も、基本的には定時で退勤できていました。それと、入庁当初から時短勤務制度を利用させてもらっていて、通常より30分早い、16時45分までの勤務にしてもらっています。そうやって制度を利用しながら子育てと両立できているので、本当に良い環境だと思います。

ー職場の雰囲気や人間関係についても教えて下さい。
楠:地域福祉課で課長も何回か変わっていますが、どの方も本当に部下のことをよく見てくださる方ばかりでした。上司の方から気にかけて声をかけてくれることが多く、とても相談しやすい雰囲気を作ってくださっていると感じます。トップダウンで指示が下りてくるだけでなく、「こういうのはどうでしょうか?」と、現場から意見を言いやすい環境だとも思います。
同僚の先輩方も、本当に明るくて優しい方ばかりです。私は結構積極的に話しかけに行くタイプなので、最初は「ぐいぐい来るな」と思われていたかもしれませんが(笑)、話しかければ気さくに応じてくれますし、仕事以外の飲み会などもあって、コミュニケーションは活発だと思います。
地域福祉課は、生活に困窮されている方の相談を受けるなど、仕事内容としてはハードな面もありますが、だからこそチームで協力し、お互いを支え合う文化が根付いているのだと感じました。
ー中途採用で入庁された方が馴染みやすい環境だと感じますか?
楠:そうですね。もちろん、新卒からずっと公務員として働いてこられた方が多いので、考え方の違いを感じる場面がないわけではありません。少し「堅い」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。でも、私のように中途採用で入ってきた職員も各部署にいますし、多様なバックグラウンドを持つ人材を受け入れる土壌はあると思います。
私自身は積極的にコミュニケーションを取りに行った方ですが、比較的スムーズに職場に馴染むことができたと感じています。
ー川西市という街自体について、働く中で何か印象は変わりましたか?
楠:川西市は、緑豊かな山々がある一方で、大阪や神戸へのアクセスも良く、とても恵まれた立地にある街だと、働いてみて改めて感じています。そして、市民の皆さんが自分たちの街が好きな方が多いとも感じます。特に民生委員の皆さんと関わる中で、「川西っていいよね」という言葉をよく耳にしました。
だからこそ、私たち行政職員は、市民の皆さんが「川西市に住んでいて良かった」と心から思えるような街づくりをしていく責任があると感じています。もっともっと良い街にしていくためのお手伝いができたら、と思いながら働いています。
ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年4月取材)