福岡県直方市役所 商工観光課で働く甲斐さんのインタビュー記事です。
民間企業であるリゾートホテルから公務員へ。全く異なる世界へ飛び込んだ甲斐さんは、現在「中心市街地の活性化」という大きなミッションに取り組んでいます。
前職での経験を活かし、自ら仕事を作り出す面白さや、多くの人を巻き込みながら街の未来を創るやりがい、そしてプライベートではバドミントンに熱中する充実した日々について、ざっくばらんにお話しいただきました。
- 会員制ホテルのフロントから、直方市役所へ。
- 「中心市街地の活性化」がミッション。答えのない課題に挑む日々。
- 自分で仕事をつくる面白さ。この手で、街の未来を創るやりがい。
- 仕事もプライベートも全力スマッシュ。ワークライフバランスのリアル。
- 民間企業から公務員へ。転職を考えているあなたへ。
会員制ホテルのフロントから、直方市役所へ。
ーまずは自己紹介と、これまでの経歴について教えてください。
甲斐:大分市の出身で、大学進学を機に福岡市へ来ました。大学卒業後は、京都にある会員制のリゾートホテルに就職し、フロント業務を担当していました。
具体的には、接客はもちろん、夜間の責任者として1日の売上管理や客室の調整など、全体を管理するような仕事をしていましたね。
ーホテル業界から、なぜ公務員を目指そうと思われたのでしょうか?
甲斐:実は、もともとは航空業界を目指していて、1本に絞って就職活動をしていたんです。でも、最終的にはうまくいかなくて…。そんな時に会員制リゾートホテルの求人を見つけ、「航空業界は『空のサービス』だけど、ホテル業界は『地上のサービス』だな」と。自分の知らない世界が見れるかもしれないと思って飛び込みました。
実際に働いてみると、お客様に顔を覚えていただいたり、リピートしてくださるお客様に指名をいただいたり、とても楽しかったです。ただ、会員制ホテルなので、どうしても関わるお客様の範囲が限られてしまいます。それに、ホテルにいらっしゃる間の限られた時間しか接することができない。
次第に「もっと広い範囲で、色々な人の支えになるような仕事がしたい」と思うようになり、それなら公務員しかないな、と考えるようになりました。
ー数ある自治体の中で、直方市を選んだ理由は何だったのでしょうか?
甲斐:ぶっちゃけると、第一志望ではなかったんです(笑)。ただ、漠然と人口5万人くらいの規模の自治体がいいなと思っていました。それくらいの規模なら、市民の方々との距離も近いのかなという勝手なイメージがあって。
福岡県か、地元の⼤分県の⾃治体を中⼼にいくつか受けている中で、ご縁があったのが直方市でした。
僕は大分市の出身で、直方市に親戚がいるわけでもなく、縁もゆかりもありませんでした。でも、入庁してみると、僕のように市外出身の職員がちょこちょこいるので、すんなり馴染むことができました。市役所の職員は地元の方だけという勝手なイメージを持っていたので、これはすごく良かったなと思います。

「中心市街地の活性化」がミッション。答えのない課題に挑む日々。
ー現在の業務内容について教えてください。
甲斐:商工観光課の商業観光係に所属して、今年で3年目になります。課に配属されてからは5年目ですね。今の僕のミッションは「中心市街地の活性化」です。
大きな業務としては2つあって、1つは複合施設の管理。施設内には子育て支援センターや一時託児施設、民間の飲食物販店などが入っていて、それぞれ事業者さんが違うので、その調整役を担っています。もう1つは「エリアマネジメント事業」です。
ーエリアマネジメント事業とは、具体的にどのようなお仕事なのでしょうか?
甲斐:直方市の商店街も、全国の多くの商店街と同じように、シャッターが閉まっているお店が目立つようになってきています。ただ、アーケードがあるのでイベントは盛んに行われていて、その時は多くの人で賑わうんです。その賑わいをイベントの時だけでなく、「日常的」なものにしていこう、というのがこの事業の目的です。
市役所だけで進めるのではなく、民間の方たちも巻き込んで、官民一体となってまちづくりの動きを活発にしていく。そのための制度設計をしたり、財政的な支援を考えたりと、民間の方たちが持続的に動きやすいように環境を整えていくことが僕の役割です。

ーとても難しそうなお仕事ですが、苦労されていることはありますか?
甲斐:苦労しかないですね・・・ (笑)。この仕事は、例えば「空き店舗を30件埋めます」といったような、分かりやすい数値目標があるわけではありません。もちろん、補助金を出せば空き店舗を埋めること自体は簡単かもしれませんが、それでは意味がないんです。
「街にどういう機能を持った施設・お店があってほしいか」「どんなまちの姿を目指すのか」といった、街の将来ビジョンを、そこに住む人や関わる人たちと一緒に作り上げて実行に移す。これが本当に難しくて。
色々な人が、色々な思いや考えを持っているので、それを調整して一つの方向にまとめていくのは、すごく大変ですね。あっちを立てればこっちが立たない、なんてことの連続です。
自分で仕事をつくる面白さ。この手で、街の未来を創るやりがい。
ー大変なことも多い中で、仕事のやりがいや面白さはどんなところに感じますか?
甲斐:まさに今、この瞬間にしかできない仕事をしているという実感がありますね。ちょっとかっこよく言うと、「直方市の未来をつくる仕事」をしているんだと思っています。
もちろん、どの部署の仕事も未来に繋がっていますが、この仕事は特に、街に関わる皆さんと「一緒に未来を描いていく」仕事。そこに大きなやりがいを感じています。
ーこれまでで、特に印象に残っている成功体験はありますか?
甲斐:商店街でイベントをされている団体さんから、「活動を市の広報誌に載せてほしい」と相談されたことがありました。ただ、一つのイベントを載せてしまうと「うちも載せてほしい」となってキリがなくなってしまうので、最初は悩みました。
何とか力になりたいと考え、思いついたのが、「中心市街地で活躍している人や団体」という括りで特集記事を作ることでした。これなら特定の誰かを特別扱いすることなく、中心市街地の活性化をテーマに頑張っている人たちを広く紹介できるなと。
上司に相談したら「いいね!」と言ってもらえて、結果的にA3見開きの大きな特集記事として掲載することができました。これは僕が初めて自分で仕事を生み出して、形にした経験だったので、本当に嬉しかったですね。
記事を読んだ方からの反響も大きかったですし、何より相談してくれた団体の方に「ありがとう」と言ってもらえた時は、いい仕事ができたなと心から思いました。

ー現在の仕事に大きなやりがいを感じていらっしゃるようですが、入庁当初からこの仕事がしたかったのでしょうか?
甲斐:いえ、それが全くそんなことはなくて。実は、面接の時には「後期高齢者対策がしたいです」なんて、いかにも“ザ・公務員面接”というようなことを話していましたが、正直に言うと、入庁当時は「市役所でこれがしたい」という明確なものはなかったんです。
でも、実際に配属されて、思ってもみなかった「中心市街地の活性化」という仕事に取り組む中で、後からやりがいや面白さが見つかっていきましたね。色々な方と関わらせていただいて、自分の考え方や視野が広がったと思います。
仕事もプライベートも全力スマッシュ。ワークライフバランスのリアル。
ー職場の雰囲気はいかがですか?
甲斐:すごく風通しがいいです。上司にも気軽に相談できますし、同僚や先輩に「これどう思う?」って雑談ベースで企画の相談をしたりもします。シーンと静まり返っているような雰囲気は全くないですね。
毎朝、みんなでお弁当の注文でワイワイしているくらいなので(笑)。

ーワークライフバランスについてはいかがですか?残業や休暇の取りやすさについて教えてください。
甲斐:ワークライフバランスは非常に良好だと思います。僕のいる商工観光課は、窓口業務がメインではないので、自分の仕事の進捗に合わせて比較的自由に休みを取ることができます。残業もほとんどないですね。
ただ、課の性質上、土日にイベントが入ることはあります。最近だと、夏祭りの花火大会でスタッフをしたり、春には市で一番大きなイベントの「チューリップフェア」を手伝ったり。
もちろん、その分の代休は取れますし、夏季休暇は100%消化できています。
ーアフター5など、プライベートはどのように過ごされていますか?
甲斐:市役所のバドミントン部に所属していて、週3回は練習に行っています!
ー週3回はすごいですね!もともと経験者だったんですか?
甲斐:いえ、全くの未経験です。社会人になってから、しかも直方市役所に入ってから始めて、どっぷりハマりました。バドミントン部に入ったおかげで商工観光課以外の職員と仲良くなれましたし、外部の顔見知りもできました。
九州大会や県大会の際は旅行も兼ねて行くので、競技を通して素敵な思い出を作ることができています。バドミントン部に入っていなかったら、知り合いも居ない土地なのですごく寂しかったと思います(笑)。
本当に、人生で初めて「趣味」と胸を張って言えるものに出会えた感じです。
ありがたいことに草野球やバスケ、フットサル等にも声をかけていただくこともあるので、仕事もプライベートもすごく充実していますね。

民間企業から公務員へ。転職を考えているあなたへ。
ー前職のホテルでの経験が、今の仕事に生きていると感じることはありますか?
甲斐:「現場に足を運ぶ姿勢」ですね。ホテルの時は、お客様に何かあったらすぐに駆けつけられるように「すぐ行くので何かあれば呼んでください」と常に伝えて些細なことでも行っていましたし、他の部署との連携でも、電話で済むようなことでも直接顔を見て話すようにしていました。
その習慣は今も同じで、用がなくても商店街を歩いてみたり、お店の方と話をしたりしています。やっぱり、直接会って同じものを見ながら話すことで、問題意識も共有できますし、相手も安心してくれると思うんです。
ー最後に、民間企業から公務員への転職を考えている方へメッセージをお願いします。
甲斐:正直に言うと、戸惑うことと大変なことは色々あると思います。僕も最初は、民間企業との文化の違いにかなり戸惑いました。
でも、民間企業で培ってきた経験や、自分の中に一本芯として持っているものは、必ず役所の仕事でも活かせます。その芯をうまく活かせれば、きっと前向きに仕事に取り組んでいける瞬間に出会えるはずです。
直方市役所で一緒に働ける日を楽しみにしています。

ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年8月取材)