民間メーカーで10年間、全国を舞台に活躍されてきたうえで、滋賀県長浜市役所で働く職員のインタビュー記事です。お子さんの誕生を機に、家族との時間を大切にできる働き方を模索し、長浜市役所への転職をされました。民間での豊富な経験をどのように活かし、市役所の仕事にどんな魅力とやりがいを見出しているのか。公務員への転職を考えるすべての方に読んでいただきたい、リアルな声をお届けします。
- 10年間の民間経験を経て、長浜市役所へ
- 決め手は「チャレンジ」の風土と、家族との未来
- 民間経験が活きる配属。法律と向き合った都市計画課での2年間
- 驚きと発見の連続。市役所職員のリアルな日常
- 個々のキャリアに寄り添う、長浜市の柔軟な人事制度
- 「読解力」と「傾聴力」。市役所の仕事で本当に求められるスキルとは
- 仕事と子育てを両立。ワークライフバランスの劇的な改善
- 未来の仲間へ。長浜市で働くということ
10年間の民間経験を経て、長浜市役所へ
ーまずは、これまでのご経歴と現在のお仕事について教えてください。
職員:大学卒業後、情報機器メーカーで10年間、営業と営業企画を担当しました。東京や大阪での勤務が中心で、全国転勤がある働き方でした。その後、長浜市役所に入庁し、今年で3年目になります。
ー市役所への転職を考えたきっかけは何だったのでしょうか。
職員:一番のきっかけは、子どもの誕生です。家族ができたことで今後のライフプランを考え直し、生活の拠点を固めたいという気持ちが強くなりました。妻の地元である長浜市に長く滞在するうちに、この街に魅力を感じ、ここで腰を据えて働きたいと考えるようになったんです。
近隣の民間企業も調べましたが、希望に合う条件はなかなか見つかりませんでした。そんな中で市役所という選択肢が浮かんだのは、民間時代に培った調整力や企画力が活かせると考えたからです。友人に市役所職員がいたので、良い面だけでなく大変な面もリアルに聞いた上で、働くイメージを固めていきました。

決め手は「チャレンジ」の風土と、家族との未来
ー数ある自治体の中で、長浜市役所を選んだ決め手は何だったのでしょうか。
職員:一番の決め手は、長浜市が「チャレンジアンドクリエイション」というスローガンを前面に押し出していたことです。他の自治体の募集要項なども見ましたが、長浜市の前向きな姿勢は特に際立っていました。私自身、前職でも熱い思いを持って仕事に取り組んできた自負があったので、ここならその情熱を活かせるかもしれない、と感じたんです。
ー採用試験の準備はどのように進めましたか?
職員:私が受けたのは社会人経験者採用の「キャリアチャレンジ枠」で、筆記試験はありませんでした。そのため、市の総合計画などを読み込み、市外出身の自分がどうこの街を良くしていきたいか、そして自分の経験をどう活かせるかを言語化する作業に多くの時間を費やしました。
民間での経験を市政の課題解決にどう結びつけるか、そのロジックを組み立てることが面接でのアピールに繋がると考えました。
民間経験が活きる配属。法律と向き合った都市計画課での2年間
ー入庁後、最初に配属されたのが都市計画課とのことですが、どのようなお仕事でしたか。
職員:都市計画課(開発調整室)では、市内で行われる開発事業に関する調整や関係法令への適合確認を行う部署で、都市計画や各種条例・法令の知識が求められる仕事でした。民間での営業とは全く違う世界だったので、最初は戸惑いましたが、大学時代に法学部で学び、宅建の資格を持っていたため、スムーズに業務に入ることができました。人事の方が私の経歴を考慮して配属先を決めてくださったのだと感じています。
ー現在の商工振興課への異動はいかがでしたか。
職員:今年の4月から、市内の企業や商店街と連携しながら、商業を盛り上げる業務を担当しています。こちらも、前職で企業とのやり取りが中心だった私の希望が反映されたものだと感じています。もちろん、すべての希望が通るわけではありませんが、これまでのキャリアを尊重し、適材適所の配置を考えてくれる組織だと感じています。

驚きと発見の連続。市役所職員のリアルな日常
ー入庁してみて、「これは意外だった」と感じたことはありますか。
職員:良い意味で驚いたのは、思っていた以上に電子化やDXが進んでいたことです。入庁前は紙文化が中心だと聞いていたので驚きました。電子決裁システムなども導入されていて、効率的に働ける環境が整っています。
一方で、大変だと感じたのは、風水害や大雪時の災害対応です。長浜市は冬に雪が多く、大雨や大雪の際は深夜に出動することもあります。市民の安全を守るという仕事の責任の重さを実感しました。
ー仕事内容の面で、民間時代との違いや難しさを感じることはありますか。
職員:部署が異動するたびに、新しい業務やシステムをゼロから覚える必要がある点です。これは「市役所内での転職」が数年おきに起こる感覚に近いですね。周りの先輩方が丁寧に教えてくれるので、一つひとつ着実に乗り越えられています。

個々のキャリアに寄り添う、長浜市の柔軟な人事制度
ー市役所は数年での異動が基本ですが、そのキャリアの歩み方についてどう感じていますか。
職員:今は新しい部署で新しい知識を得る楽しみが大きいです。市役所は部署数が非常に多く、様々な仕事に挑戦できるのが大きな魅力だと思います。また、人事異動についてもこちらの意見や適性を考えてくれていると感じています。民間では短期間での異動は特別なケースと見られがちですが、市役所では柔軟な人事が行われており、別の場所で活躍できる可能性があるというのは、精神的な安心感にも繋がっています。
「読解力」と「傾聴力」。市役所の仕事で本当に求められるスキルとは
ー民間でのご経験が、今の仕事に活きていると感じる瞬間はありますか。
職員:たくさんあります。前職で鍛えた調整力、言語化能力、プレゼンテーション能力は、日々の業務に不可欠です。市民や事業者、国や県など、様々な立場の人との調整の連続ですから。また、損益管理の経験も、予算要求など数字と向き合う業務で役立っています。
ーこれから市役所で働く上で、特に重要だと感じるスキルは何でしょうか。
職員:二つあると考えています。一つは「読解力」です。国や県から様々な調査依頼が来るのですが、全く知らない分野の資料を読み解き、内容を理解して回答を作成する必要があります。慣れないうちは大変ですが、文章を読むことに抵抗がなく、書かれている内容を正確に把握する力があれば、仕事のスピードは格段に上がります。
もう一つは「傾聴力」です。市民の方からのご意見や、時には厳しいご要望をお聞きすることもあります。そういった場面で大切なのは、まず相手のお話に真摯に耳を傾ける姿勢です。相手が何を求め、何に困っているのかを徹底的に理解することで、初めてこちらの言葉も相手に届きます。感情的にならず、冷静に話を聞き、落ち着いて説明する。この繰り返しが、市民との信頼関係を築く上で最も重要だと感じています。

仕事と子育てを両立。ワークライフバランスの劇的な改善
ー働き方はどのように変わりましたか?ワークライフバランスについてお聞かせください。
職員:劇的に改善されました。転職して一番良かったことの一つです。15分単位で取得できる「時間休」という制度もあり、子どものお迎えなどで柔軟に働けます。今の部署は子育て世代が多いので、お互い助け合う文化が根付いています。
残業が全くないわけではありませんが、やらされている感覚ではなく、将来のための自己投資だと捉えています。
ー育児への関わり方も変わりましたか。
職員:はい。実はこの秋から3ヶ月間、育児休業を取得する予定です。周りには半年や1年取得する男性職員もいて、もっと長くとればと声をかけてくれるほど、育休取得に理解のある職場です。
期間を短縮して復帰し、その分を時短勤務に充てるなど、柔軟な制度も用意されていると聞いています。家族との時間を大切にしたい、という転職の目的が、しっかりと叶えられています。
未来の仲間へ。長浜市で働くということ
ー最後に、長浜市役所への入庁を考えている方へメッセージをお願いします。
職員:長浜市は「チャレンジ」を大切にするまちです。それは仕事においても同じで、新しい計画の策定など、前向きな事業に携わる機会がたくさんあります。もちろん、部署によっては地道な作業や規制を守るための厳しい判断が求められることもありますが、市全体としては、より良い未来のために新しいことに挑戦していこうという気風に満ちています。
市役所の仕事は、本当に多岐にわたります。だからこそ、どんな経験も必ずどこかで活かせるはずです。民間から転職すると、最初は「主事」という立場からスタートし、文書の整理など泥臭い仕事も経験します。そうした中でもプライドは一旦横に置いて、新しいことを学ぶ姿勢さえあれば、周りの皆さんは本当に優しくサポートしてくれます。

ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年8月取材)