石川県津幡町で消防士として15年のキャリアを積む皆川さん。救急救命士としての専門性を軸に、災害派遣から全国規模の救助大会出場まで、多岐にわたる経験を重ねてきました。津幡町消防本部ならではの「全員でカバーし合う」一体感と、若手もベテランも挑戦し続けられる風土、そして仕事の奥深い魅力について、語っていただきました。
ーまず、皆川さんの自己紹介をお願いします。
皆川:消防士を拝命して15年になります。出身は隣の金沢市で、高校卒業後、救急救命士の資格を取得するために専門学校へ進学しました。卒業と同時に津幡町消防本部に採用され、現在に至ります。
ー救急救命士の資格をお持ちなのですね。津幡町消防本部の体制や特徴について教えていただけますか?
皆川:現在、津幡町消防本部の職員数は44名です。勤務体制は3交代制で、1班あたり11名から12名で編成されています。残りの職員は日勤の幹部や、外部機関への出向者です。例えば、119番通報を受ける指令センターは近隣市町と共同運用しており、その本体が金沢市にあるため、そちらへ数名が出向しています。これもキャリアを積む上で貴重な経験になります。
津幡町消防本部は「一本部一署」体制で、一つの拠点で町内全域をカバーしています。
津幡町の構成で特徴的なのは、救急救命士の資格を持つ職員が非常に多いことです。職員の半数以上が有資格者で、これは全国的に見ても高い割合だと思います。救急車は2台あり、それぞれに救急救命士が2名ずつ乗車できる体制を目指しています。資格を持つ職員が多いのは、採用だけでなく、入庁後に資格取得を積極的に支援し、養成校へ派遣するなど計画的に育成してきた結果です。現在も1名が研修に参加しています。
また、私たちは小規模な組織なので、警防、救急、救助といった特定の業務だけを担当するのではなく、全員が全ての業務に対応できるスキルを求められます。事案に応じて臨機応変に役割を変え、皆でカバーし合う体制です。
広く知識を身につけた上で、各自が興味のある分野や得意な分野を深掘りしていくイメージです。
私自身でいうと、救急救命士として入庁したので、救急分野には特に力を入れています。一方で、火災対応など経験が浅い分野については、経験豊富な先輩に教わったり、頼ったりしながらスキルアップを図っています。少人数だからこそ、一人ひとりが多様なスキルを磨き、協力し合うことが不可欠です。
ー年齢構成についてはいかがでしょうか。
皆川:年齢構成は、私のような30代後半から40代手前の職員が多く、若い世代がやや少ない状況です。今後は若い職員の採用にも力を入れていく必要があると感じています。女性職員については、今年度初めて1名が入庁し、現在は消防学校で初期教育を受けています。
ー勤務体制について、もう少し具体的に教えていただけますか?
皆川:朝8時半から翌朝8時半までの24時間勤務が基本です。勤務明けの日が「非番」、その翌日が「週休」となり、この「勤務・非番・週休」の3日間サイクルを繰り返します。非番や週休は基本的には休日ですが、災害時など人手が不足する際には「非常招集」がかかることもあります。
また、事前に旅行などで申請しておけば配慮してもらえますし、私たち自身も大きな行事が分かっている日に無理な予定を入れることは少ないですね。
ー新人職員の教育はどのように行われるのでしょうか。
皆川:消防学校卒業後、新人職員はすぐに各班に配属され、私たちと同じ24時間交代勤務に就きます。明確な「教育担当」が指名されるわけではありませんが、基本的には配属された班の先輩、特に年齢の近い先輩が中心となって指導にあたります。もちろん、班全体で新人を育てていこうという意識は皆が持っています。私自身が新人に教える際は、専門用語を避け、たとえ話を使うなど、分かりやすさを心がけています。
ー消防士として働く上でのやりがいはなんでますか?
皆川:消防という仕事は、人を助け、感謝されることが多い職務だと実感しています。全ての業務が「人助け」に繋がっているという手応えは、何よりのやりがいです。救急搬送した方の命が助かったり、交通事故現場で要救助者を救出したりと、15年間で多くの経験をしました。派手なことばかりではありませんが、日々の活動の中で「誰かの役に立っている」と強く感じられる瞬間が、この仕事の醍醐味だと思います。
ー消防士としてのキャリアで印象に残っている出来事はありますか?
皆川:災害で言えば、能登半島地震もそうですが、入庁間もない頃に経験した東日本大震災での緊急消防援助隊としての派遣は強く記憶に残っています。
災害以外では、個人的なことですが、数年前に石川県消防救助技術訓練大会で「ほふく救出」という種目で県内1位となり、全国大会に出場できたことです。岡山県で開催され、あの舞台に立てたことは大きな自信と誇りになりました。
この救助大会は、消防の技術を競い合う、いわば「消防の運動会」のようなもので、当本部では主に若手から30代前半の職員が中心となって訓練に参加しています。私自身はもう指導する立場ですが、当時は目標を持って取り組みましたし、今は後輩たちの技術指導やサポートを署全体で行っています。
ー職場の雰囲気はいかがでしょうか。先輩後輩の上下関係なども含めて教えてください。
皆川:現場活動では階級に基づいた指揮命令系統が重要であり、その規律はしっかりしています。しかし、普段の職場はアットホームな雰囲気です。災害時以外の勤務時間中は、皆で談笑したり、プライベートな話をしたりすることも多く、和気あいあいとしています。常に緊張感を張り詰めているわけではなく、リラックスするところはする、そのメリハリを皆が意識しているからこそ、良い雰囲気が保たれているのだと思います。
消防というと体育会系で上下関係が厳しいイメージがあるかもしれませんが、確かにそういう側面はあります。しかし、時代背景もあってか、昔に比べると良い意味で緩やかになってきていると感じます。特に私たちより少し上の世代の中堅職員が、フラットな雰囲気を作ってくれているように思います。
ーこれから消防士を目指す方へ、どのような方に来てほしいと思われますか?
皆川:消防の仕事には、ある程度の体力が必要な場面は確かに多いです。しかし、体力がないからといって諦める必要はありません。入庁後にトレーニングを積めますし、活動を補助する資機材も充実しています。
熱意があれば、どんな方でも挑戦していただきたいです。そして、できれば長く一緒に働いてくれる方が来てくれると嬉しいですね。
ー他の自治体の消防と比較して、津幡町消防本部で働く魅力やおすすめできる点は何でしょうか。
皆川:大きな消防組織にはまた違った魅力があると思いますが、津幡町のような規模の消防では、あらゆる業務を経験できるという点が大きな特徴であり、魅力です。一つの業務に特化するのではなく、幅広く経験を積みたいという方にとっては、非常にやりがいのある環境だと思います。これは大変な面もありますが、多様なスキルを身につけられるという大きなメリットでもあります。
そして、何より職場の雰囲気の良さですね。アットホームで、新しく入ってきた方も馴染みやすい環境だと自信を持って言えます。
また、令和4年度には新たに女性用仮眠室やシャワー室を整備したので、女性の方が安心して勤務できる環境も整っています。
ーワークライフバランスについてはいかがでしょうか。育児休業を取得されたとも伺いましたが。
皆川:24時間勤務の後、非番と週休で実質2日間休めるので、平日に休みが取りやすいです。趣味の時間も確保しやすいですし、私自身も子供が二人いますが、家族と過ごす時間を比較的作りやすいと感じています。
そして、昨年第二子が生まれた際に、約1ヶ月間の育児休業を取得しました。消防という職場で男性が本格的な育休を取得するのは、当本部では私が初めてだったかもしれませんが、これをきっかけに後に続く職員も出てきており、良い前例になれたかなと思っています。組織としても、職員のライフワークバランスを支援する動きが進んでいると感じています。
ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年05月取材)