島根県大田市役所の産業企画課で働く岡田さんのインタビュー記事です。民間企業の営業職から公務員へ転職した岡田さん。当初は選択肢になかったという公務員の仕事ですが、実際に働いてみると、そこには良い意味でのギャップがありました。
前例踏襲のイメージを覆す、大田市役所の挑戦的な風土や仕事のやりがい、そして民間での経験がどう活かされているのか、詳しくお話を伺いました。
- 「前例がない?なら作ればいい」入庁1年目から全庁を巻き込む大改革に挑戦
- 県庁への出向で得られた新たな視点
- 「大田市の営業担当」として。改めて知る地元の魅力とこれからの挑戦
- ワークライフバランスも、職場の人間関係も。安心して働ける環境がある
働き方を見つめ直し、公務員への道へ
ーまずは、これまでのご経歴を含めて自己紹介をお願いします。
岡田:京都の大学を卒業後、島根県に戻り、OA機器販売店で営業職として働いていました。当時は全く公務員のことは考えていませんでした。そこで2年7ヶ月ほど勤めた後、令和2年度採用で大田市役所に入庁しました。
最初の配属は情報企画課で、庁内のITインフラ整備などを3年間担当しました。その後、市の出向制度を利用して島根県庁の産業振興課へ。そこでは地場産業である石州瓦の振興支援に携わりました。そして今年の4月に大田市役所に戻り、現在は産業企画課で企業誘致をメインに担当しています。
ー転職を考え始めたきっかけは何だったのでしょうか。
岡田:営業の仕事自体は好きでしたし、仕事内容に不満があったわけではありません。ただ、働き方を考えたときに、早朝から夜までといった働き方を続けていて自分の体は持つのだろうか、と体力的な不安を感じたのが正直なところです。
もう少し安定した環境で、働いた分がきちんと保障される働き方をしたいと考えるようになり、転職を決意しました。
民間への転職も考えましたが、公務員であった両親から勧められたのが直接のきっかけです。
ー試験に向けて、準備をされたのですか?
岡田:いえ、それが全くで(笑)。試験の数日前まで予定があり、ダメ元で受けてみよう、という軽い気持ちでした。
合格の通知をいただいたからには、もう腹を括って大田市で頑張ろうと決めました。もちろん迷いがゼロではありませんでしたが、ここで働く縁をいただいたのだから、それが自分の進むべき道なのだと思いました。

「前例がない?なら作ればいい」入庁1年目から全庁を巻き込む大改革に挑戦
ー入庁後、最初に配属された情報企画課ではどのようなお仕事を?
岡田:私が採用されたのは、ちょうどコロナ禍が本格化した時期でした。行政でもオンライン化が強く叫ばれ始めた頃で、まさに市役所が大きく変わろうとしているタイミングだったんです。
Web会議ツールを導入するのも初めての試みでしたし、有線LANのデスクトップパソコンを、Wi-Fi接続のノートパソコンに切り替えてどこでも仕事ができるようにするなど、庁内のITインフラを根底から見直すプロジェクトに携わりました。
ーまさに変革の真っ只中だったのですね。新しいことを進める上で、ご苦労もあったのではないでしょうか。
岡田:私自身、民間で物販の営業はしていましたが、自治体のICTに関する知識は全くありませんでした。専門用語が飛び交うとついていけなくて。そこはもう、現場で先輩の動きを見ながら体で覚えるしかありませんでした。
ただ、職場環境には非常に恵まれていたと思います。情報企画課は当時6名ほどの小さなチームで、課長や係長が的確な指示を出し、私たち担当職員がアイデアを出し合う。会議というより、雑談に近いようなアットホームな雰囲気の中で、どうすれば良くなるかを常に話し合える環境でした。
前向きな会話が活発に交わされ、もちろん、出したアイデアが全て通るわけではありませんが、挑戦させてもらえる土壌があったのは大きかったですね。特に情報システムのような部署は、セキュリティの観点からも保守的だろうと思っていたので、意外でした。
ー実際に提案は通ったのですか?
岡田:全職員が使う端末をモバイルノートPCにリプレイスする際、モニターや外付けキーボードなど、全ての職員にあった環境にすべく3点セットの提案をいたしました。
結果的にコストは上がりましたが、ペーパーレス化による印刷コストの削減効果などを説明し、導入が認められました。今では職員がノートパソコンを持って会議に出席するのが当たり前の光景になっています。自分が提案し、実現に関わった仕組みが市役所のスタンダードとして根付いている。これは、私にとって大きな成果であり、やりがいを感じる瞬間です。

県庁への出向で得られた新たな視点
ー情報企画課で3年間勤務された後、島根県庁へ出向されています。これはご自身で希望されたのですか?
岡田:はい、自ら手を挙げて希望しました。市役所で働きながら、より大きな組織である県が何を考え、どのように仕事を進めているのかを知りたいという思いがありました。
実際に経験すると、県庁の仕事は確認するプロセスが更に多いと感じました。一つの物事を進めるにも、政治的な観点など、より多くの要素を考慮に入れる必要があります。企画を立て、係長や課長とやり取りを重ね、ようやく部長に説明する。場合によっては知事の判断を仰ぐこともあります。
外から見ているとスムーズに進んでいるように見える県の施策ですが、その裏側ではこれほど多くの調整と検討が重ねられているのかと、その大変さを痛感しました。市の仕事とはまた違う難しさがありましたが、県全体の動きや考え方を肌で感じられたのは、貴重な経験でした。
「大田市の営業担当」として。改めて知る地元の魅力とこれからの挑戦
ー県庁での出向を終え、この4月からは産業企画課で企業誘致を担当されているのですね。
岡田:はい、今は「大田市の営業担当」として、以前から行っていたIT企業の誘致に加え、市外の企業に大田市へ進出してもらうための仕事をしています。ただ、製造業などを誘致するための大きな工業団地は既に空きがない状況で、近年力を入れてきたIT企業の誘致も、近隣の市との競争が激しくなっています。
そこで現在私たちが重視しているのが、いわゆる大企業だけでなく、フリーランスや夫婦で合同会社を経営されているような、個人事業主に近い方々の「人材誘致」です。定住促進にも繋がるこの取り組みに、今は特に力を入れています。
ー大田市の魅力をPRする上で、大切にしていることは何ですか?
岡田:市の魅力をPRする立場になって初めて、自分がいかに地元のことを知らなかったかを痛感している毎日です。「大田市の強みは何ですか?」と聞かれた時に、自信を持って答えられるようにならなければいけません。
大田市には、世界遺産の石見銀山や国立公園の三瓶山があり、豊かな海と山、そして歴史があります。こうした資源が揃っている自治体は、全国的に見ても珍しいと思います。
さらに、市内の隅々まで光回線が整備されているので、「秘境のような場所でも快適にリモートワークができる」という強みもあります。豊かな自然に囲まれた暮らしと、現代的な働き方を両立できる。それが大田市の大きな魅力だと考えています。

ワークライフバランスも、職場の人間関係も。安心して働ける環境がある
ー働き方についてお伺いします。転職のきっかけでもあったワークライフバランスの面はいかがですか?
岡田:劇的に改善されました。今は残業もほとんどなく、自分の時間をしっかり確保できています。土日に出勤した場合はきちんと振替休日が取得できますし、残業代も当然支払われます。
そして、休みの計画が格段に立てやすくなりました。先の予定を見通しやすいので、プライベートの計画も安心して立てられます。
ー職場の雰囲気についてはいかがですか。転職者として、新しい環境に馴染むのは大変ではありませんでしたか?
岡田:最初は大変でした。同じ課のメンバーはすぐに打ち解けられたのですが、他の部署の職員と関わる時は、やはり緊張しました。
ですが、いざ関わってみると、周りの職員さんの方から「新しく来た岡田君だよね」「この部署は大変だろうけど、頑張ってね」と気さくに声をかけてくれることが多くて。本当に人に助けられました。この温かい雰囲気は、今も市役所全体にあると感じます。

ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年7月取材)