「社会のためになる仕事がしたい。でも、その『社会』とは一体何か?」 そんな問いを胸に、慣れ親しんだ関西の地を離れ、新天地へと飛び込んだ一人の男性がいます。
今回お話を聞いたのは、関西の県庁で7年間、財政や人事といった組織の根幹を支える業務に携わってきた谷口さん。2024年春、家族と共に愛媛県松山市へと移住し、松山市役所での新たな一歩を踏み出しました。広域自治体の都道府県から、基礎自治体へ。 一見すると同じ「公務員」という職業ですが、そこには「市役所=市民に近い」からこそ感じる、「ありがとう」という言葉の重みとやりがいがありました。
直感を信じて選んだ松山での暮らし、そして窓口業務を通じて見えてきた「やりがい」とは。移住や転職という大きな「変化」を楽しむ谷口さんの視点には、これからのキャリアを考えるためのヒントが詰まっています。
- 関西から新天地、松山へ。広域自治体から松山市役所へ転職した理由
- 「なんとなく、いい感じ」が移住の決め手。松山市で見つけた、家族との豊かな暮らし
- 中核市だからこその醍醐味。窓口業務で受け取る「ありがとう」の重み
- 「変化」を楽しみ、未来を創る。これまでの経験を武器に、さらなる成長を
関西から新天地、松山へ。広域自治体から松山市役所へ転職した理由
ー本日はよろしくお願いいたします。まずは谷口さんが松山市役所に入庁するまでの経緯を教えていただけますか?
谷口:よろしくお願いします。私自身、生まれも育ちも関西で、根っからの関西人です。前職は関西の県庁で7年間、公務員として働いていました。実は、愛媛県にはもともと知り合いがいたわけでも、親戚がいたわけでもありませんでした。
ただ、30代を迎え、「関西という土地しか知らない」「新しい土地でチャレンジしたい」という思いが自分の中にありました。そこで家族と話し合い、「思い切って移住してみようか」となったのがすべての始まりです。2024年の4月に松山市に採用され、今は家族と一緒にこちらで暮らしています。

ー純粋に「移住」という選択だったんですね。前職の県庁では、どのようなお仕事をされていたのですか?
谷口:前職では主に地方債の発行などの財政的な業務や職員の人事に関する業務など、主に自治体運営に関する業務に携わっていました。また、独立行政法人化した自治体病院にも派遣され、民間的視点を取り入れた病院経営や病院運営にも携わっていました。
ー常に幅広く、かつ専門性の高いキャリアですね。そんな中、なぜ次のステージとして再び自治体を、しかも都道府県ではなく市役所を選ばれたのでしょうか?
谷口:転職を考えた際、前職とは違うアプローチで仕事がしたいと考えたのが大きな理由です。もともと「社会のためになる仕事をしたい」という想いで働いていますが、その中で「社会」とは何かと考えたとき、やはり、その地域に住んでいる「人」そのものだという答えに行き着きました。
県庁という組織は予算規模も事業規模も大きく、域内全体に関する業務や域外を超えて広域的な仕組み作りといった業務も多くあります。そこでは、どうしても自分の仕事の先にいる「人」の顔や生活が見えづらいという感覚を持っていました。
だからこそ、次はもっと「人」が見える基礎自治体、つまり市町村で働きたいと強く思いました。
「なんとなく、いい感じ」が移住の決め手。松山市で見つけた、家族との豊かな暮らし
ー「自分の仕事の先にいる人」を求めて市役所を選んだのですね。移住先を検討される中で、松山以外にも候補があったのでしょうか?
谷口:そうですね。当初は美味しい魚が食べられる北陸地方なども候補に入れていたのですが、家族から「毎日雪かきするのはイヤ」と却下されてしまいました。それなら雪の少ないところがいいなという話になりました。
そんなとき、たまたま松山市の「オーダーメイド型移住体感ツアー」を見つけ、参加することにしたんです。
ー移住体感ツアーですか。実際に参加してみていかがでしたか?
谷口:直感的に「あ、ここ悪くないな」と感じたんです。
移住において、「あれもほしい」「これもほしい」と求めすぎてしまうこともありますが、松山市には「なんとなく、いい感じ」という漠然とした、でも何か惹かれる印象がありました。
中核市という自治体としての規模感があり、生活の利便性と自然のバランスが自分には合っているなと思い、ここなら住んでみたいなと思いました。

ー「なんとなく」は大切な感覚かもしれないですね。実際、松山での暮らしはいかがですか?
谷口:毎日がとても穏やかで、満足しています。前職では通勤に1時間以上かかっていましたが、今はその半分くらい。それでも、周囲の人からは「遠いね」と言われることもありますが、私からすれば格段に短くなりました(笑)
休日は、子どもを連れて公園へ遊びに行ったり、野菜や果物を目当てに産直市を巡ったりと、松山市、そして愛媛県の生活を満喫しています。関西では移動手段といえば公共交通機関がメインでしたが、今は車であちこち出かけるのが楽しみの一つになっています。

中核市だからこその醍醐味。窓口業務で受け取る「ありがとう」の重み
ー現在は障がい福祉課にいらっしゃるとのことですが、具体的な業務内容を教えてください。
谷口:主に身体障害者手帳の発行や療育手帳の受付、障がいがある方への手当の支給に関する業務などを行っています。
申請の受付や説明など、一日の業務の大半は窓口での対応で、毎日多くの市民の方と対面でお話しします。
ーまさに「人の顔」が見える業務ですね。前職との違いをどう感じていますか?
谷口:バックオフィスがメインだったということもあり、前職の7年間は、直接、住民と顔を突き合わせて窓口で対応するという経験はほとんどなく、住民の顔や生活を直接、感じる機会はあまりありませんでした。
でも今は違います。窓口で一対一で向き合い、丁寧に説明して納得いただけたとき、ダイレクトに「よくわかった」「ありがとう」という言葉をもらうことがあります。自分の仕事との先に、目の前にいる住民の生活があるということをよく実感できます。
もちろん、時には厳しい意見をいただくこともありますが、その反応を直接受け止め、改善に繋げていけること自体が、今の私にとっては大きなやりがいです。

ー市役所ならではの魅力かもしれないですね。中核市である松山市の規模感についてはどう感じていますか?
谷口:県庁時代に比べると組織としての規模はコンパクトになりましたが、障がい福祉課は50人ほど職員が所属しています。実は県庁時代に経験したどの部署よりも人数が多いので、規模感が大きく変わったという実感はないですね(笑)
これまでと異なり、対象となるのが「市内」となりましたが、一般市と異なり、中核市だからできる業務があったり、組織としての厚みがあったりと、松山市は非常に働きがいのあるところだと感じています。
「変化」を楽しみ、未来を創る。これまでの経験を武器に、さらなる成長を
ー自治体間で転職経験のある谷口さんから見て、公務員に向いているのはどんな人だと思いますか?
谷口:公務員には数年ごとの異動がつきものですが、その「変化」を楽しめる人ではないでしょうか。私自身も、これまですべての配属が希望通りだったわけではありません。でも、どの部署でも必ず「この仕事の面白さ」を探すようにしてきました。
松山市役所では、障がい福祉といった窓口業務だけでなく、避難所対応や選挙、国勢調査など、本来の担当業務を超えて多様な経験も積むことができています。それを「大変だ」と捉えるのではなく、「新しいことにチャレンジできるチャンスだ」と思える人なら、楽しく働けるはずだと思います。
ーこれまでのキャリアを活かして、今後挑戦したいことなどはありますか?
谷口:まずは、自分自身が移住者であるという当事者目線を忘れないうちに、「いいな」と思った松山市への移住促進の業務に関わってみたいという思いがあります。また、県庁時代やこれから松山市で働いていく中での経験・知識を通じて、将来的には松山市の未来を創る企画関係の仕事にも挑戦したいです。
ー最後に、松山市役所を目指す方や、移住を考えている方にメッセージをお願いします。
谷口:「移住」と聞くとハードルが高いと感じるかもしれませんが、もし外の世界を見てみたいという気持ちがあるのなら、迷わずチャレンジしていただきたいですね。私自身、一歩踏み出してチャレンジしたことで、仕事のやりがいも人生の豊かさも大きく広がりました。
松山市役所は今、採用枠を増やしたり年齢制限を緩和したりと、多様なバックグラウンドを持つ人が挑戦しやすい環境を整えていると思います。
「公務員は堅い」というイメージがあるかもしれませんが、実際はもっと自由で、チャレンジに満ちた職場です。あまり難しく考えすぎず、まずはその一歩を踏み出してみてください。

ー本日はありがとうございました。
「なんとなく、いい感じ」。笑顔で移住の決め手をそう語った谷口さんの表情は、何とも言えない自信に満ちているように見えました。 堅実なキャリアを歩んでこられた一方で、人生の大きな決断を「直感」に委ねられる柔軟さ。そのバランスこそが、未知の土地での暮らしを豊かにしているのだと感じます。 特に印象的だったのは、窓口で届く「ありがとう」の重みについてのお話しです。県庁時代に培ったマクロな視点を持ちながら、目の前の一人に徹底して寄り添う。やりがいとはこういうことなんだろうなと、改めて感じさせてもらったような気がしました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年12月取材)



