石川県志賀町役場で人事採用を担当されている黒萩さんのインタビュー記事です。能登半島地震から1年半、復旧・復興に向けて動き出している志賀町。大変な今だからこそ、役場の仕事にはどんなやりがいがあるのか。どんな人に仲間になってほしいのか。町の現状から採用のことまで、お伺いいたしました。
ーまずはじめに、志賀町がどのような町なのか、基本的な情報から教えていただけますでしょうか。
黒萩:志賀町は石川県の能登半島の西側に位置する、人口17,000人強の小さな町です。もともと旧志賀町と旧富来町(とぎまち)が平成17年9月1日に合併して、新しい志賀町が誕生しました。

産業としては観光がメインになっておりまして、「能登金剛(のとこんごう)」に代表されるような、景色のきれいな場所がたくさんあり、自然豊かな町です。特産品では「ころ柿」が有名です。あとは「赤土すいか」もあって、これから旬を迎えますね。「加能ガニ」や「甘エビ」など魚介類も有名でとても美味しいです。


ーありがとうございます。その志賀町ですが、令和6年1月1日に発生した能登半島地震で大きな影響を受けたと伺っております。現在の町の状況や復興・復旧の進捗についても教えてください。
黒萩:地震発生から1年半が経ちました(2025年6月取材時点)。ライフラインについては、生活に使用できる状況にはなっています。ただ、これはあくまで応急的な復旧で、道路にしても、とりあえず通れるようにはなりましたが、まだ凸凹な場所も多いです。
家屋の公費解体もだいぶ進んでおり、被災された方々も仮設住宅に入居されています。上下水道の配管なども、これから本格的な工事に入っていく「本復旧」はこれからという段階です。
ー町を離れて避難されている方もいらっしゃるとのことですが、その点についてはいかがでしょうか。
黒萩:はい。町外でアパートを借りて避難されている「みなし仮設」の方々も多くいらっしゃいます。正直に申しますと、この地震によって人口の流出という課題も顕在化しています。
仮設やみなし仮設で生活されている方々の恒久的な住まいとなる復興公営住宅の建設を行っていきますが、一度町を離れた方々が「志賀町に帰ってきやすいように」するにはどうすればいいか、どのような施策を立てていくかが非常に重要になってきます。
町内には10か所の仮設住宅団地がありますが、そのうちのいくつかはそのまま復興公営住宅に転用される見込みです。しかし、それだけでは足りず、今仮設住宅に入居されている方々のご意見をしっかりと伺いながら、必要戸数の把握や建設場所の選定を進めていくことになります。
元の生活していた場所から近いところを希望される方もたくさんおられますので、皆さんの想いに寄り添いながら、丁寧に進めていく必要があります。

ーインフラの本格復旧や住宅再建など、多様な課題がある中で、役場の職員の方々はどのような役割を担っているのでしょうか。
黒萩:道路や河川そして復興公営住宅であれば「まち整備課」、上下水道であれば「上下水道課」、農地等や漁港であれば「農林水産課」、公費解体については「環境安全課」が担当しています。これらの部署は、震災発生以来、多忙な業務が続いています。
ー職員の方々の体制も重要になってきますね。
黒萩:その通りです。発災当初は全国の自治体から短期の応援職員の方々に助けていただきましたが、令和6年度からは年単位で来ていただく「中長期派遣」の職員の方々に力を貸していただいています。
現在も、全国から25名派遣いただいております。特に技術職の方が多く、設計業務などで大きな力となってくれています。
ただ、長期戦となる震災対応において、職員の心身のケアも重要です。発災から3年度目に入りますので、職員の健康管理、メンタルケアには特に注意を払っていかなければならないと考えています。少しずつでも通常業務のペースを取り戻していくことも、喫緊の課題です。
ーありがとうございます。それでは、そうした状況を踏まえた上で、今年度の採用活動についてお伺いできますか?
黒萩:はい。募集期間は7月中旬から8月中旬までを予定しています。その後、9月21日に一次試験、10月中旬に二次試験を実施し、11月上旬に合格発表という流れです。採用予定人数に満たない場合は、追加で募集を行う可能性もあります。
ーどのような職種を募集されるご予定でしょうか。
黒萩:まず、役場で働く「一般事務職」「土木・建築技術職」をあわせて5名程度、「保健師」を2名程度募集します。それから、町立富来病院で勤務する「看護師」を3名程度、「理学療法士または作業療法士」を1名程度、「薬剤師」を1名程度募集します。

ー特に今、志賀町にとって重要となる「土木・建築」の知識を持つ人材について、もう少し詳しく教えてください。
黒萩:募集の際は「一般事務職」と「土木・建築」という形で分かりやすく分けていますが、採用後の身分は同じ「主事」という一般事務職になります。工業系の大学を卒業された方や、民間企業で関連業務を経験された方などを想定していますが、必須の要件を厳しく設けているわけではありません。新卒の方でも、民間からの転職の方でも大歓迎です。
採用後は、まち整備課などで道路や公営住宅建設といった専門性を活かした業務に携わっていただきます。もちろん、震災対応等は非常に重要な業務です。
ただ、小さな町ですので、政令指定都市のように「土木職はずっと土木の仕事だけ」というわけにはいきません。将来的には、農林分野の農業土木や、全く違う分野の部署へ異動する可能性もあります。幅広い視野を持って、町の行政全般に貢献していただきたいと考えています。

ーなるほど。専門性を活かしつつも、ゼネラリストとしての活躍も期待されるということですね。今回の採用全体を通して、どのような人物像を求めていらっしゃいますか?
黒萩:どの職種にも共通して言えることですが、まずは元気でやる気のある方が一番です。課題が多く、仕事のプレッシャーを感じることもあるかもしれません。その中では、心身ともに健康で前向きに仕事ができることは非常に重要です。
ー選考過程はどのようにされるのでしょうか?
黒萩:一次試験は教養試験と作文試験ですので、ここは点数で合否が決まります。しかし、そこで合格した方を対象に行う二次試験の面接では、面接での人物評価等を参考に最終的な合否を決定します。
この面接が非常に重要で、人柄やポテンシャル、ストレス耐性などを見極めたいと考えています。面接官は3名で、オブザーバーも同席し人物を見ています。私たち総務課の職員も事務局として2名入りますので、受験者1名に対して、多くの目で多角的に評価する形になります。
ー今、志賀町が置かれている状況は、ある意味で非常に大変だと思います。そうした中で、あえて志賀町役場を選ぶ魅力ややりがいは、どこにあるとお考えですか。
黒萩:そこが一番難しい点であり、我々が最も伝えたい点でもあります。正直なところ、都市部と比べれば、アクセスも良くはありません。「自然が豊か」「食べ物が美味しい」といった魅力も、それだけではなかなか決め手にはならないでしょう。地元出身の若者でさえ、県庁や別の市を選ぶ時代です。
ですが、だからこそ私は逆の発想もできるのではないかと思っています。

ー逆の発想、ですか。
黒萩:そうです。人口が減っている、少子高齢化が進んでいる、そして今回の震災で大きな被害を受けた。この課題がたくさんある状況だからこそ、生まれる『やりがい』があると思うんです。
昨年7月に、町として『志賀町 令和6年能登半島地震 復興計画』を策定しました。これは、ただ元通りにするのではなく、この経験をバネにして、もっと災害に強くて魅力的な新しい町を創っていこう、という計画です。

大変なことも多いですが、自分たちの仕事が少しずつ町の形になっていくのを実感できるのは、この状況だからこその大きなやりがいになるのではないしょうか。道路がきれいになった、公園ができた、イベントが再開できた。そんな一つひとつが、町民の皆さんの笑顔に直接つながっていく。それを間近で見られるのが、今の志賀町で働く一番の魅力かもしれません。
これからの志賀町役場にとって職員一人ひとりの力がとても重要になっています。少しでも志賀町に興味を持っていただけたなら、ぜひ一度、採用試験にチャレンジしてみてほしいです。

ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年7月取材)