通学電車から見た、佐倉ののどかな田園風景。その景色に惚れ込んで入庁した生活環境課の中村さんは今、その風景を守る最前線にいます。
「自然や生き物が好きなんです」と語る中村さん。長靴を履いて印旛沼や里山に入り、自らの提案で、環境省の新しい認定制度「自然共生サイト」への登録も実現させました。
佐倉市ならではの現場主義と、公務員だからこそ味わえる仕事の醍醐味について、たっぷりとお話を伺いました。

【目次】
- 車窓の風景に惚れ込み、法学部から「自然を守る仕事」へ
- 「一緒に汗を流す」のが佐倉市流。デスクワークだけじゃない、市民との温かい交流も
- 「やりましょう」の一言から始まった。入庁3年目で挑んだ、国認定プロジェクトへの道のり
- 倉庫ひとつで、現場が沸いた。公務員という「黒子」のやりがい
- ある1日のスケジュールと、未来への展望
車窓の風景に惚れ込み、法学部から「自然を守る仕事」へ
ーまずは、中村さんのご経歴と、佐倉市へ入庁されたきっかけを教えていただけますか。
中村:新卒で、2022年に事務職として入庁して4年目です。大学では法学部で学び、就職活動をする中で地方公務員を目指すようになりました。
出身は千葉市ですが、高校時代に佐倉市内の高校に通っていたんです。その時に「佐倉の雰囲気」がすごくいいなと思っていて、佐倉市役所を志望しました。

ー佐倉市のどんな雰囲気に惹かれたのでしょうか?
中村:もともと、自然や生き物がすごく好きなんです。通学の電車に乗っていると、車窓の風景がガラッと変わる瞬間があるんです。
住宅街を抜けた瞬間に、急に田園風景が広がって……あの一気にのどかな雰囲気になる感じが好きで。「ふるさと広場」があるような、緑豊かな風景です。
面接では、「自然が好きです!」「生き物が好きです!」とアピールしました。その熱意を汲み取ってもらえたのか、今の生活環境課に配属していただけました。
「一緒に汗を流す」のが佐倉市流。デスクワークだけじゃない、市民との温かい交流も
ー実際に自然に関わるお仕事をされてみて、入庁前のイメージとのギャップはありましたか?
中村:いい意味でのギャップがありましたね。行政職なので、基本的にはデスクワークや、業者さんへの発注・管理といった事務仕事がメインだと思っていたんです。現場作業などは自分ではやらないのかな、と。
でも実際は、業者さんに委託する部分もありつつ、自分の手で草刈りをしたり、長靴を履いて池の中に入って泥をかき出したりと、現場でガッツリ作業する機会も多いです。

ー草刈りや、池の泥をかき出したりもされるんですね!
中村:他の自治体ではあまり見られない、珍しいスタイルだと思います。多くの自治体では、市民団体の活動に対して協定を結んで「自治体は補助金で支援して、作業をするのは団体の方」というケースが一般的だと聞いています。
ですが、佐倉市は職員も現場に出て、市民ボランティアの方々と一緒に汗を流して、里山の保全活動をします。そこが大きな特徴であり、楽しいと感じている部分です。

ー中村さんは、生活環境課でどのような業務を担当されているのでしょうか?
中村:自然環境の保全、生物多様性、地球温暖化対策を担当しています。
地球温暖化対策では、市民の方が太陽光パネルや蓄電池などの省エネ設備を導入する際の補助金交付事務を行っています。
自然環境保全では、「谷津(やつ)」や、印旛沼の水質改善に力を入れています。
ー「谷津」というのは、どういう場所ですか?
中村:谷状の地形で、両側が斜面になっていて、そこに雨水が集まってくる場所のことです。水が集まるので湿地帯になり、多様な生き物が集まりやすい環境なんです。

佐倉市には、昔の川が削った地形の名残である「谷津」がたくさん残っていて、かつては田んぼとして耕作されていました。そのような「人の営み」との関わりのある環境を「里山」と呼びます。里山は、宅地開発や耕作放棄によって年々減少しています。
この貴重な環境を守るために、市民ボランティアの方と協働で保全活動を行っています。その関係で、私も現場に出て一緒に作業をしているんです。
ー印旛沼の保全というのは、どのようなことを行うのですか?
中村:印旛沼の水質改善は一朝一夕ではできません。沼はとても広いですし、工事を一回やれば綺麗になるものではない。周辺でのゴミ捨てを減らすことや、生活排水への意識を高めることが重要なんです。
例えば洗車をした水を側溝に流すと、巡り巡って沼に流れ着きますよね。そういったことを市民の方に知ってもらうための啓発活動が中心です。
印旛沼の保全のために、具体的には市民の方と一緒にゴミ拾いをする「印旛沼クリーンウォーク」を開催したり、子供向けに「生き物観察会」を行ったりしています。

ー生き物観察会、楽しそうですね!
中村:楽しいです! 印旛沼のほとりで網を使って魚を捕って、子供たちと一緒に観察するんです。「こんな魚がいるんだ!」と目を輝かせる子供たちと触れ合えたり、生き物にも詳しくなれるので、役得だと思ってます(笑)


ー生物多様性の分野は、どのような業務がありますか?
中村:ちょっと驚かれるかもしれませんが、外来種の対策を行っています。例えば「カミツキガメ」ってご存知ですか?ゴツゴツした見た目のいかついカメなのですが、もともとペットだったものが放されて繁殖してしまっています。

市内で見つかった場合、農家さんや市民の方から連絡を受けて、我々職員が現場に向かって捕獲・回収することもあります。他にもアライグマによる住環境被害などの対策も担当しています。
回収した外来種は、県の計画等に基づいて適切に駆除を行うのですが、佐倉にもともと住んでいる生き物や生態系を守るために、厳しい現実に向き合うのも、私たちの仕事の一つです。
「やりましょう」の一言から始まった。入庁3年目で挑んだ、国認定プロジェクトへの道のり
ー業務の中で、特に印象に残っているプロジェクトはありますか?
中村:環境省が推進する「自然共生サイト」への登録事務ですね。これは、「民間の取り組み等によって生物多様性の保全が図られている区域」を国が認定する新しい制度です。
佐倉市内で市民ボランティアの方々が里山保全活動を行っている「畔田谷津(あぜたやつ)」という場所があるのですが、そこをこの制度に登録するための業務を昨年度から今年にかけて、1年間行いました。

ー登録を目指したのは、どなたかからの指示だったのですか?
中村:いえ、実は私が「やりましょう」と提案したんです。担当として生物多様性に関する勉強会や会議に出ているのですが、そこでこの制度ができることを知って。「これ、今ボランティアさんと一緒にやっている畔田谷津の活動なら認定されるんじゃないか?」「面白そうだな」と直感的に思ったんです。
ーご自身で見つけて提案されたんですね!
中村:たまたま運良く情報が入ってきただけです(笑)。でも「ここならいける」と思って、上司や関係部署に提案しました。
ただ、いざ進めるとなるとかなり苦労しました。制度自体が始まったばかりで、今年の4月から制度の内容に変化もあったりと、動きが激しかったんです。新しい情報を常にキャッチアップしながら進める必要がありました。
何より大変だったのは、「なぜこれをやるのか」を庁内で説明することでした。

ーやはり、新しいことを始めるには周囲の理解が必要なんですね。
中村:新しい事業をやるということは、事務量も増えます。ただでさえ忙しい中で「なぜ新しい仕事を増やすのか」という反応が全くないわけではありません。
ただ、「諦めたくない」という思いで、生物多様性を守るという国際的な流れや、佐倉市の自然を守る意義を、上司や関係部署に粘り強く説明しました。
自分ひとりでは心が折れそうな時もありましたが、今の仕事が好きだから頑張れました。「一緒にやろうよ」と言ってくれる同僚もいてくれて、とても心強かったです。
その結果、今年の9月に、無事に登録が決まった時は本当にホッとしましたね。達成感も大きかったです。
ー登録後の展開はあるのでしょうか。
中村:はい。登録を記念して来年1月に市民向けのシンポジウムを開催予定です。これも「新しい仕事」なんですが(笑)、もっと市民の方に生物多様性の大切さを知ってもらいたいので、今まさに企画・準備を進めています。
倉庫ひとつで、現場が沸いた。公務員という「黒子」のやりがい
ー仕事のやりがいや、嬉しかった瞬間について教えてください。
中村:一番は、市民の方々と深く関われることです。
里山保全のボランティア活動では、月に数回現場に出るのですが、休憩時間にはみんなでお菓子を食べながらおしゃべりをするんです。まるでピクニックみたいな雰囲気で(笑)。
仕事中にそんな時間が持てるなんて、他の部署ではなかなかないことだと思います。市民の方々の素の表情に触れられるのがすごく嬉しいです。
また、今まで「できなかったこと」を「できる」ようにして、喜んでいただけるのも嬉しいです。
ー「できなかった」を「できる」ようにしたエピソードをお聞きしたいです。
中村:以前、ボランティア活動で使う道具を入れる倉庫が雨ざらしでボロボロになっていたのを、新しく建て替えたことがありました。
私たち事務局としては、予算を確保して倉庫を買って置いただけのことなんですが、ボランティアの皆さんが「やったね!」「綺麗になった!」と、想像以上に盛り上がって喜んでくれたんです。
そうやって環境を整えることで皆さんのモチベーションが上がり、活動がより良くなっていくのを見ると、「やってよかったな」と心から思います。

ある1日のスケジュールと、未来への展望
ー現場とデスクワーク、両方ある中村さんの1日のスケジュールを教えてください。
中村:現場作業がある日は、例えばこんな感じです。
【ある1日の流れ】
- 8:30 出勤・準備
出勤後、現場へ向かう準備をします。


9:00 現場へ出発・活動開始
市民ボランティアの方々と合流。草刈り、池の清掃、畦(あぜ)の補修などを行います。畦の補修は、昔ながらの手作業による米作りにも似た作業です。

- 11:30 現場撤収・帰庁
現場から戻ります。 - 12:00 お昼休憩
1時間しっかり休みます。 - 13:00 事務処理
現場に出ている間もメールや電話は来るので、戻ってからは集中して対応します。

15:00 補助金交付事務
省エネ設備の補助金申請書類の審査、伝票の作成などを行います。窓口にお客様がいらっしゃれば窓口対応も行います。17:15 退庁
定時で帰ることが多いです。現場に出ることが続いて事務処理が溜まっている時は、1〜2時間ほど残業することもあります。
ー午後はしっかりデスクワークもこなされていますね。
中村:現場で体を動かすのと、中で頭を使って事務処理をするのと、バランス良く働けているので、個人的にはとても充実しています。
ー最後に、今後の目標と、公務員を目指す方へのメッセージをお願いします。
中村:本当は、今の課の仕事が好きなのでずっと続けたいのですが…(笑)異動するとしたら、佐倉市の魅力を発信するような広報の仕事や、現場仕事もある公園の活用を考える仕事にも挑戦してみたいです。
これから公務員を目指す皆さんには、「自分のやりたいこと」のビジョンを持っていてほしいなと思います。
漠然と「安定しているから」だけでなく、「この街でこれがしたい!」という思いがあれば、きっとそれに合った部署や仕事が見つかります。ぜひ、自分の「好き」を大切にして、チャレンジしてください!

ーありがとうございました!
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年12月取材)



