千葉県佐倉市役所、佐倉の魅力推進課で働く向後貴大さんのインタビュー記事です。大学で観光を学び、佐倉市へ入庁。福祉業務で行政の基礎を学んだ後、念願の観光分野へ。観光消費額の向上を目指すグランドデザインの策定から、民間と協働した古民家レストランのオープンまで、前例のない事業を切り拓いてきたリアルな裏側と、若手の挑戦を後押しする風土について語っていただきました。
福祉の現場で学んだ行政の基礎
ーまずは簡単な自己紹介と、ご経歴を教えてください。
向後:大学では観光学部で学び、卒業後の平成25年度に佐倉市役所へ入庁しました。最初は高齢者福祉課に配属され、介護給付や介護認定調査の仕事を4年間担当しました。 その後、現在の部署の前身である産業振興課の観光班に異動し、公園緑地課との兼務なども経て、現在まで約9年間、ずっと観光や魅力推進の業務に携わっています。
ー最初は観光ではなく福祉の部署だったんですね。
向後:観光の仕事がしたくて入庁したのですが、今振り返ってみると、最初の4年間で福祉の仕事を経験できて本当に良かったと思っています。行政のサービスの核であり、市民の方と直接話し、法律がしっかりと定められている中で行政としてどう動くべきかといった、公務員としての基礎的な部分をしっかりと勉強できた有意義な4年間でした。

「となりの観光地 佐倉」へ。消費額の課題に向き合うグランドデザイン
ーそして念願の観光部門へ異動されます。最初はどのような業務からスタートしたのですか?
向後:当時は市の主催イベントが多く、まずは「フラワーフェスタ」という、チューリップやひまわり、コスモスといった年間を通した花のイベント運営から担当業務を始めました。その後、花火大会や時代まつりといった大きなイベントにもメインで関わるようになりました。
そしてそこから、観光班のメンバーと協力しながら将来に向けた新たな観光施策を検討し、根本のコンテンツや観光資源を磨いていくために、令和2年に「佐倉市観光グランドデザイン」という10年間の構想を策定しました。
ーどのような構想だったのですか?
向後:「となりの観光地 佐倉」です。
佐倉市には、江戸時代に栄えた佐倉城の城址公園や武家屋敷、美術館、そして印旛沼の豊かな自然といった素晴らしい歴史・文化資源がたくさんあります。しかし、例えば京都のように遠方から一生に一度訪れるような場所というよりは、気軽に、それこそ週に1回でも繰り返し来て楽しんでもらえる「リピーター」の多い観光地を目指そうという方針を立てました。
ーなるほど。その上で、解決すべき課題は何だったのでしょうか?
向後: 最も大きな課題として認識していたのは、「地域経済循環率」が低い、つまり、「観光の消費額が低い」ことです。市外から来た人も、そして、市民も佐倉市内でなかなかお金を使ってくれない、という状況がありました。
歴史的な武家屋敷を見学してそのまま帰ってしまうのではなく、繰り返し訪れてもらい、滞在してお金を落としてもらえるようなコンテンツや場所を作っていく。それが、このグランドデザインの大きな軸となっています。

民間と共に描く「エリアビジョン」と古民家活用
ーその課題解決に向けて、具体的にどのようなプロジェクトが動き出したのですか?
向後: 大きな柱として自然の中心である印旛沼周辺の「ふるさと広場」の拡張と、歴史の中心である城下町側の「古民家の活用」のダブルコア構想を掲げました。
古民家については、旧今井家住宅など歴史的な建物を活用し、民間事業者さんのノウハウや資金も取り入れながら、集客と収益を生み出す施設に生まれ変わらせようと考えました。
ー行政の所有物を民間と連携して活用していくのは、難易度が高そうですね。
向後:難しかったですね。行政が計画を作って民間に運用を任せる、だと持続性も無いし民間のノウハウも活かせないので、事業者や地元住民と「エリアビジョン」を作り一緒に進めていくという手法を活用しましたが、佐倉市では誰もやったことがない手法だったので、まず市役所内で理解を得るのにも時間がかかりました。
しかし、民間事業者のアイデアや対話を通じて市場調査を行う「トライアルサウンディング」を実施し、無事に「エリアビジョン」も作り上げることができ、様々な効果が出てきているので、結果的にはこの方法をとって大正解だったと思っています。

「現実が理想を超えた」。古民家レストランのオープンと広がる波及効果
ーそしてついに、今年の2月18日に古民家を活用したレストランがオープンしたそうですね!おめでとうございます。
向後: ありがとうございます!2棟ある古民家のうちの1棟が、ついにオープンを迎えました。 ここは、佐倉市内に自社の農場を持っている民間事業者さんが、「地元のために」と会社を立ち上げ、素晴らしい飲食店を作り上げてくれました。
古民家という歴史的な空間の見事な使い方、提供される料理の美しさやストーリー性など、すべてにおいて私の想像を遥かに超え、本当に感動しましたね。
ー長い時間をかけて取り組んできたからこそ、喜びもひとしおですね。
向後: はい。構想からオープンまで6〜8年ほどかかり、色々な苦労がありましたが、諦めずにやってきて本当に良かったと心から思えました。イベントのように短期間でバーンと完成して得られる達成感も素晴らしいですが、こうして長期にわたって取り組み、地域に長く残る形として実現できたことは、私自身の大きなやりがいになっています。
(参照:古民家を活用してオープンした「むぎとろ 寿るがや」)

ー今後の展望について教えてください。
向後: 今年度(令和7年度)は、もう1棟の古民家の耐震補強工事を行っており、来年度(令和8年度)には事業者を募集して、再来年頃にもう1店舗オープンさせる予定です。 そして、これらが成功の「モデルケース」となることで、今度は民間の方が所有している空き店舗などの活用にも波及していくと考えています。行政の物件から民間の物件へと動きを広げ、最終的には商店街やまち全体の活性化に繋げていくのが目標です。
外の世界を知り、クリエイティブに。佐倉市役所で叶える「やりたいこと」
ー前例のない新しいプロジェクトを進める上で、向後さんが大切にしていることは何ですか?
向後: 「外の世界に出て、色々な人と話すこと」です。行政の中の人たちだけで話し合っていても、どうしても行政の発想しか出ず、前例踏襲になってしまいます。地域や民間の方、外部の専門家とどんどん出会い、意見交換をしながら新しいものを生み出していく姿勢が、これからの公務員には絶対に必要なポイントだと思っています。
ーそうした新しい挑戦を受け入れてくれる風土が、佐倉市役所にはあるのでしょうか?
向後: はい、あります。佐倉市は近隣市に比べて少子高齢化が進んでおり、組織全体として「このままではいけない」という強い危機感を持っています。だからこそ、市長も含めて、若手からの提案や新しいチャレンジを歓迎し、採用しやすい環境が整っています。 実際に、私の同期や20代後半から30代の若手職員たちが、環境や子育てなど様々な分野で「新しいことをやっていこう」とどんどん動き始めていますよ。

ー最後に、これから佐倉市役所を受験する方へメッセージをお願いします。
向後: これからのまちづくりは、行政だけでできることには限界があり、民間の事業者さんといかに連携していくかが全ての分野で求められます。だからこそ、固定観念にとらわれず、クリエイティブに物事を考えられる方に来ていただきたいです。
公務員=安定や定型業務、と思っている方もいるかもしれませんが、「市役所でも自分のやりたいことができるんだ」「挑戦できるんだ」ということを知ってほしいですね。時間はかかるかもしれませんが、熱意を持って取り組めば必ず形にできる環境がここにはあります。皆さんと一緒に、新しい佐倉市を創っていける日を楽しみにしています!

ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年3月取材)
「現実が理想を超えていく瞬間を見た」。向後さんのその言葉には、前例のない古民家活用プロジェクトをゼロから推し進め、見事に形にした若手行政マンとしての誇りと感動が詰まっていました。
佐倉市役所には、そんな熱い想いを受け入れ、若手の挑戦を後押しする風通しの良い環境が整っていることがよくわかるインタビューでした。



