「大好きな場所で、誰かの挑戦を支えたい」。そう語るのは、JTBや商工会でのキャリアを経て、熊本県芦北町役場へと転職した山本さん。
旅行会社での地域づくりや、震災復興支援の現場で培った「現場主義」の視点を、現在は芦北町のSNS広報やイベント運営に注いでいます。
「公務員らしくない」フットワークの軽さと、新しいアイデアを歓迎する町の空気感。
Uターンで戻った故郷で見つけた、自分らしい公務員の在り方とは。
地域づくりの最前線から、公務員の道へ
ーまずは、山本さんのこれまでのキャリアと、入庁までの経緯を教えてください。
山本:私の地元は熊本県の宇土市なのですが、キャリアのスタートは民間企業でした。専門学校を卒業後、旅行会社に5年間勤務し、旅行商品の販売や、自治体の方々と共に地域を盛り上げる「DMO」といった地域づくりの業務に携わっていました。
その後、熊本県商工会連合会に転職し、益城町商工会で3年間、熊本地震からの復興支援にあたりました。
被災された事業者さんのもとへ足を運び、再建に向けた相談や補助金の申請支援を行う中で、「地域の経済を支える方々の力になりたい、もっと深く地域に関わりたい」という想いが確かなものになっていったんです。
その後、福岡県内の役場での勤務を経て、芦北町に入庁しました。
ーその後、再び熊本に戻り、芦北町を選んだ決め手は何だったのですか?
山本:福岡での仕事も充実していましたが、将来的に家族が増えることなどを考えた時、やはり夫婦共通の地元である熊本で根を張りたいと考えるようになりました。
芦北町を選んだのは、高校時代を隣の八代市で過ごした馴染みがあったことに加え、何より「海」が大好きだったからです。私は旅行会社時代から「住むなら絶対に海がある場所」と決めていました(笑)。
芦北町の美しい海岸線と、穏やかな町の雰囲気に惹かれ、募集を見つけた瞬間に「ここだ!」と直感しました。

緊張をほぐした「温かさ」と、念願の配属
ー採用試験でのエピソードや、印象に残っていることはありますか?
山本:試験は1次がSPI、2次が個別面接だったのですが、面接当日のことは今でも鮮明に覚えています。ものすごく緊張して役場の廊下で待機していたら、採用担当の職員の方が「緊張してる?大丈夫、リラックスしてね」と、とても気さくに声をかけてくださって、その瞬間に心がスッと軽くなったんです。
実際の面接もラフな雰囲気で、自分のこれまでの経験や、芦北町で何をしたいのかを、ありのままの言葉で伝えることができました。
ー入庁後、希望していた商工観光課に配属された時の心境はいかがでしたか?
山本:4月1日に辞令を受けた時は、本当に飛び上がるほど嬉しかったです。旅行会社や商工会で培ってきた「観光」と「商工支援」のスキルを、そのままダイレクトに活かせる場所ですから。
自分のこれまでの歩みが、全てこの場所につながっていたんだと感じて、すぐに「よし、全力で駆け抜けよう!」と気合が入りましたね。

事業者と伴走し、町の「今」を発信する
ー現在の具体的な業務内容について教えてください。
山本:商工振興係として、主に二つの軸で動いています。一つは事業者さんへの伴走支援です。町の持続化補助金や創業支援の窓口として、新しいお店を出したい方や事業を拡大したい方の相談に乗っています。
もう一つは、広報活動です。芦北町には魅力的な企業や個人商店がたくさんありますが、その良さが十分に伝わりきっていない部分もありました。
そこで、私が実際に一軒一軒取材に伺い、SNSを通して町の「今」を発信しています。時には私自身が動画に出演して商品をPRすることもあります(笑)。
ーSNSでの発信は、具体的にどのような反響があるのでしょうか?
山本:取材を重ねて投稿を続けていると、事業者さんから「SNSを見てお客さんが来てくれたよ!」とか「商品の売上が伸びたよ!」といった嬉しい声を直接いただけるようになりました。
町を歩いていても、住民の方から「いつもSNS見てるよ、頑張ってね」と声をかけていただくことが増え、「自分たちの発信が、誰かの力になり、町を動かしているんだ」という確かな手応えを感じています。
ー年間の業務スケジュールも多忙そうですね。
山本:そうですね。4月は伝統的な「赤ちゃん土俵入り」の準備、夏は道の駅のPRや観光スポットの紹介、11月には「あしきた未来フェス」や花火大会という大きなイベントが控えています。
昨年は入庁1年目ながら「あしきた未来フェス」の主担当を任せていただき、集客や企画に奔走しました。大変ではありますが、自分のアイデアが形になり、町が活気に包まれる瞬間を間近で見られるのは、この仕事ならではの醍醐味だと思います。

「とりあえずやってみよう」が合言葉のチーム
ー職場の雰囲気や、チームの体制について教えてください。
山本:私の係は、係長、先輩、私の3名という少数精鋭のチームです。40代の先輩はいつも私を気にかけてくださり、現場にも同行して何でも相談に乗ってくれます。
前々職の商工会時代にお世話になった方々とも仕事で連携することが多く、組織の壁を感じずにスムーズに業務を進められています。
ー芦北町役場の「組織としての魅力」はどこにあると感じますか?
山本:一番の魅力は、フットワークの軽さですね。「これをやってみたい」という提案に対して、上司や周囲が「いいじゃん、とりあえずやってみよう!」と背中を押してくれる空気があります。
良い意味で、これまでの公務員の常識に縛られない、クリエイティブな挑戦ができる環境だと感じています。
SNSでの新しいPR手法や、これまでにないイベントの集客方法など、私の民間での経験を尊重して取り入れてくれるので、毎日が本当に刺激的です。

芦北町の魅力を、次世代に繋いでいく
ー山本さんから見た、芦北町の魅力とは?
山本:やはり、圧倒的な「人の温かさ」です。子どもたちが道で会うと元気に挨拶をしてくれたり、信号のない横断歩道で止まってくれたドライバーにお辞儀をしたりする光景をよく目にします。当たり前のことのようですが、そんな礼儀正しくて優しい人々が暮らすこの町が大好きです。
そして、食の豊かさ!海鮮はもちろんのこと、自慢できる美味しいものがたくさんあります。今は町外から通勤していますが、週末にはわざわざ夫と芦北に遊びに来て、ランチを楽しんだり海を眺めたりしてリフレッシュしているんですよ(笑)。
ーワークライフバランスについてはどうお考えですか?
山本:イベント時期は多少忙しくなり残業も発生しますが、基本的には自分の裁量で業務を調整できますし、休みも取りやすい環境です。
仕事に熱中しすぎて、1年目の夏季休暇をどう過ごしたか記憶が曖昧なほどですが(笑)、それくらい没頭できる仕事に出会えたことは幸せなことだと思っています。
ー最後に、芦北町役場を目指す方へメッセージをお願いします。
山本:芦北町は、自分の「やりたい」を形にできる町です。公務員という枠にとらわれず、地域のために汗をかき、新しいことに挑戦したいという意欲のある方には、これ以上ない舞台だと思います。
民間企業での経験や、他の場所で培った視点は、この町にとって大きな財産になります。「大好きな場所を、もっと良くしたい」という熱い想いを持った方と、一緒に働ける日を楽しみにしています。

ー本日はありがとうございました。
山本さんとお話しして感じたのは、芦北町の「青い海」のような、爽やかで力強いエネルギーでした。「海が好き」という純粋な想いから始まった彼女の挑戦は、今、SNSという窓を通して、町の事業者さん一人ひとりの笑顔を輝かせています。
「とりあえずやってみよう」。その温かな一言が、どれほど多くの可能性を育んでいることか。組織の枠を超え、町全体が家族のように寄り添い合う芦北町役場。
そこには、新しいキャリアの一歩を踏み出すのにふさわしい、優しい光が満ちていました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年2月取材)



