東京都新宿区役所で働く、アオヤマさん、イチノセさん、ウエダさんのインタビュー記事です。
都庁を擁し、多様な人々が集まる街、新宿区。現在、同区では職員が生き生きと働き続けるための「職員エンゲージメント向上プロジェクト」という新たな取り組みが進行しています。
今回は、このプロジェクトの責任者である人材育成等担当課長のアオヤマさん、そしてプロジェクトメンバーとして現場から参加しているイチノセさん(事務職)とウエダさん(福祉職)の3名にインタビュー。プロジェクトの全容から、データで裏付けられた「新宿区役所の人の良さ」、そして3人が感じるリアルな働きがいについて語っていただきました。
- 離職と価値観の多様化。組織としての「危機感」から始まったプロジェクト
- 「やらされる」のではなく「応えたい」。信頼関係から始まったプロジェクト参加
- データで証明された新宿区役所の「人の良さ」と「助け合う文化」
- 職種や年次を超えたチーム活動。「変えられること」と「変えられないこと」の狭間で
- これから働く人へ。「新宿区役所」は自分を成長させてくれる場所
離職と価値観の多様化。組織としての「危機感」から始まったプロジェクト
ーまずは、今回の「職員エンゲージメント向上プロジェクト」の概要と、発足に至った経緯について教えてください。
アオヤマ:この事業は、職員の中から有志を募って「プロジェクトチーム(PT)」を結成し、彼らが中心となって組織のエンゲージメント※向上に取り組むものです。
※ エンゲージメントとは、「仕事に対してのポジティブで充実した心理状態」のことです。
今年4月にPTを結成し、メンバーも検討に関わりながら、8月に全職員対象の「エンゲージメント調査」を実施しました。現在はその結果を参考にしながら、PT内で「働きやすい職場づくり」について検討を進めており、年度末に区長へ提言を行う予定です。
発足の背景には、近年、離職者が増えているという危機感があります。これは新宿区役所だけの課題ではなく、労働市場の流動化や、仕事に対する価値観が多様化しているという社会的な背景も大きな要因です。
どうすれば長くやりがいを持って働いてもらえるのか。それを解き明かすために、20代から50代まで、係員から課長級まで幅広い層の職員17名が集まり、議論を重ねています。
ーこのプロジェクトは、長期的な計画なのでしょうか。
アオヤマ:はい、まずは3か年の計画で動いています。1年目となる今年度は、調査と提言。2年目は対策の実行、3年目には再度調査を行い効果測定をする流れです。
最終的な目標は離職者を減らすことですが、これは一朝一夕で変わるものではありません。まずは短期的な目標として、エンゲージメント調査のスコアを向上させることを目指しています。
働きづらさを取り除くことが第一段階で、次に「この組織のために頑張ろう」という意欲、つまりエンゲージメントを高めていくという流れです。
「やらされる」のではなく「応えたい」。信頼関係から始まったプロジェクト参加
ーここからはPTメンバーであるイチノセさんとウエダさんにお話を伺います。まず、お二人がこのプロジェクトに参加した理由を教えてください。
イチノセ:募集要項を見て興味を持っていたところ、直属の課長から「やってみたらどう?」と声をかけていただいたのがきっかけです。私は民間企業からの転職組で入区3年目なのですが、民間での経験と公務員としての視点の両方を活かして役に立てればと思い、手を挙げました。
ウエダ:私も上司からの声かけがきっかけです。福祉職として働く中で、同世代の離職が続いていることに寂しさを感じていました。
信頼している上司から声をかけてもらえたので、「やらされる」義務感ではなく、その思いに応えたい、そして福祉職の立場から何か変えられるなら役に立ちたいと思い、参加を決めました。

データで証明された新宿区役所の「人の良さ」と「助け合う文化」
ー実際にプロジェクトに参加されて、どのような活動をされてきたのですか?
ウエダ:上半期は、エンゲージメントに関する研修や、新宿区役所の良さや改善点に関するディスカッションを行い、それに基づき調査内容の検討を実施しました。 そして下半期に入った現在は、調査結果を踏まえて改善したいポイントを5つに分類し、分科会ごとに具体的な施策を検討しています。
ー調査の結果を見た時の率直な感想を教えてください。
ウエダ:調査の結果、改善の余地が見られる項目もありましたが、それ以上に驚いたのは、これまで肌感覚で感じていた組織の良さがデータとしてもしっかりと現れていたことです。
「私の上司との人間関係は良いと思う」「上司は的確なアドバイスをしている」「職場の同僚はお互いに思いやりを持って接している」といった、人間関係についてのスコアが軒並み高い数値となりました。
イチノセ:これは、自分の実感値とも非常に近いです。私の部署は区民が抱える生活上の困難への相談対応など難しい業務を求められることも多いのですが、上司も同僚も、困っているときは当たり前のようにサポートに入ってくれます。
職層や立場に関係なく助け合う環境が整っていることは、仕事をする上で本当に大切だと感じています。調査結果を見て、改めて「点数通り、良い環境で働けているな」と再確認しました。
ウエダ:そうなんです。あと、「この仕事は住民にとって意味がある」という項目への肯定的な回答も非常に多かったです。みんな誇りを持って働いているんだなと嬉しくなりました。
ーそうした「良さ」を今後どう発信していくのでしょうか。
イチノセ:現在、私とウエダさんは「新宿区役所の長所の発信不足」という課題に対して、どうすれば新宿区役所の良さを内外に伝えられるか、3月の区長への提言に向けてアイデアを出し合っている段階です。今日のようなインタビューも、その一つの形なのかなと思っています。

職種や年次を超えたチーム活動。「変えられること」と「変えられないこと」の狭間で
ー通常業務との両立は大変ではありませんか?
ウエダ:思ったほどではありません。それよりも、普段出会えない他職種の方や、目的意識を持った熱量のあるメンバーと議論できることが楽しくて、刺激になっています。
イチノセ:私も負担は大きくありません。ただ、最初は私が一番年次が下だったので発言に勇気がいりましたが、皆さんの人柄もわかり、今では年次関係なく意見を言えるようになりました。
ー逆に、プロジェクトを進める中で感じる難しさはありますか?
イチノセ:やはり組織の規模が大きいので、自分たちが「こう変えたらいい」と思っても、様々なハードルがあって簡単には変えられない現実に直面することですね。「内情を知らなかったからこそ言えた理想」と「現実的な運用」のギャップに悩むこともあります。
ウエダ:言いたい放題言うだけなら簡単ですが、それを3,000人規模の組織で実現可能な形に落とし込むのは本当に難しいです。また、庁内からの厳しい目もある中で、結果を出していかなければならないプレッシャーは感じますね。
ーそうしたメンバーの奮闘を、事務局のアオヤマさんはどう見ていらっしゃいますか?
アオヤマ:本当にやる気に溢れたメンバーが集まってくれていて、頼もしい限りです。ただ、イチノセさんが言うように、熱意があるからこそ「なぜ変わらないんだ」ともどかしく感じることもあると思います。
しかし、現状には必ず理由があります。その理由を理解した上で、どうすれば提言が通るのか、どうすれば組織が良い方向に動くのかを学ぶ機会にもなっているはずです。彼らの熱意を成果に繋げられるよう、調整するのが私の役目だと思っています。
これから働く人へ。「新宿区役所」は自分を成長させてくれる場所
ー最後に、お二人が感じる「新宿区で働く魅力」について教えてください。
ウエダ:私は、この新宿区役所に育ててもらったという思いがすごく強いんです。先輩方に引っ張ってもらい、助けてもらいながら、結婚や出産といったライフステージの変化も乗り越えてこられました。
新宿区は多様性のある街ですが、職員もまた多様で、懐が深い人が多い。私がしてもらったように、今度は私が後輩たちを支えていきたい。そう思える場所であることが、一番の魅力だと思います。
イチノセ:私は全く違う業界から飛び込みましたが、入ってみて改めて「人の良さ」と「ワークライフバランスの良さ」に驚きました。子育て中の方も働きやすいですし、お互い様という精神が根付いています。
新宿区というと「アクセスが良い」「大都会」というイメージが先行しがちですが、実際に働いてみると、それ以上に「人」や「環境」の良さが際立っています。このプロジェクトを通じて、そうした目に見えにくい魅力も伝えていきたいですね。
アオヤマ:二人の話を聞いていて改めて思ったのは、彼らがプロジェクト参加を上司から推薦されたのは、日々の仕事を一生懸命頑張っている姿を、誰かが見ていてくれたからだということです。
新宿区役所は、努力していれば誰かがきちんと見ていてくれる、評価してくれる組織です。これから入区される方にも、そんな温かさとやりがいを感じてもらえたら嬉しいですね。
ー本日はありがとうございました。

イチノセさんとウエダさんが非常に楽しそうにプロジェクトについて話す様子から、業務での風通しの良い関係性と、やりがいがひしひしと伝わってきました。「新宿区」という都会的なイメージの裏側にある、温かい「人のつながり」。それこそが、新宿区役所の一番の魅力なのかもしれません。プロジェクトの今後の成果に期待が高まります。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年11月取材)



