新宮市文化振興課で学芸員として働く小林さんのインタビュー記事です。
中世の港町から近代の木材の町まで、豊かな歴史と自然に育まれた新宮市で、文化財保護に情熱を注ぐ小林さん。学芸員としてのやりがい、仕事の厳しさ、そしてまちの魅力まで、その情熱の源を探ります。学芸員を目指す方、必見です!
- 歴史への情熱を仕事に!学芸員を目指した道のり
- 文化財保護の最前線!多岐にわたる学芸員の仕事
- 歴史を未来へ繋ぐやりがいと課題
- 協力と理解で支える働きやすい環境
- 歴史と自然が織りなす新宮市の魅力
- 未来の仲間へのメッセージ
歴史への情熱を仕事に!学芸員を目指した道のり
ーまずは、新宮市に入庁するまでの経緯をお聞かせいただけますでしょうか?
小林:私は新宮市のお隣、那智勝浦町の出身で、地元の高校を卒業しました。その後、県外の大学に進学し、大学院の修士課程まで修了しています。大学・大学院では考古学を専攻していました。
大学院修了後は、大学が所在する市の埋蔵文化財センターで嘱託職員として3年間、遺跡の発掘調査などに携わりました。その後、ご縁があって地元新宮市へUターンし、現在に至ります。
ー幼い頃から考古学や歴史に興味があったのでしょうか?また、学芸員という職業を選んだきっかけは?
小林:実は小学生の頃から歴史が好きでした。特に新宮や那智勝浦のような歴史が豊かな場所で育ったので、身近に歴史を感じる機会が多かったのが大きいかもしれません。
考古学に具体的に興味を持ったのは高校生の頃ですね。旅行先で訪れた史跡やテレビで見た発掘調査に魅力やロマンを感じ、自分もこういう学問を学びたいと思いました。
大学で考古学を専門に学ぶ中で、卒業論文や修士論文の執筆のために、色々な市町村が所蔵する出土品の調査をしました。その際、自治体の文化財専門職員の方々と話す機会が多く、文化財行政の業務に興味を持つようになりました。

ー新宮市へのUターンを決めたのは、どのような理由があったのでしょうか?
小林:県外の埋蔵文化財センターでとても貴重な経験をさせてもらっていましたが、「いつかは地元に帰ってきたい」という思いがありました。
そのような中、新宮市で学芸員の募集があり、ちょうど応募できるタイミングだったため受験し、戻ってきました。
また、私は、考古学のなかでも鎌倉時代から室町時代にかけての中世の時代を専門にしていたことから、中世の文化財が多く残る新宮市とマッチしていると感じたのも大きいです。
新宮市には熊野三山のひとつである熊野速玉大社という中世に多くの人々から信仰を集めた場所があり、現在はその境内地が世界遺産にも登録されています。新宮の市街地はその門前町として発展してきた歴史から、中世の遺跡が多く残っており、自分の専門性を活かせる場所だと感じました。
文化財保護の最前線!多岐にわたる学芸員の仕事
ー新宮市役所の学芸員として、普段どのような業務に携わっていらっしゃるのでしょうか?
小林:新宮市は小さな町ですので、専門職員の数も限られています。そのため、遺跡の発掘調査はもちろんですが、文化財保護全般にわたる様々な業務に携わっています。
具体的には、世界遺産の保全新宮城跡などの史跡の整備、重要文化財の近代建築物や美術工芸品の保存修理事業など、文化財の種類や事業内容も多岐にわたります。
また、社会教育として歴史講座などを開催したり、新宮市立歴史民俗資料館の管理・運営、特別展の企画・展示なども行っています。

ー現在、文化振興課はどのような体制で業務を行っているのでしょうか?
小林:文化振興課は、文化財係と文化事業係の2つの係で構成されています。文化財係は、私を含め学芸員が2名と、事務職員が1名の計3名体制です。文化事業係は、課長補佐と係長がそれぞれ1名の2名体制です。
これに課長と主幹が1名ずつと、さらに会計年度の職員が両係合わせて3名加わり、総勢10名で業務を行っています。
歴史を未来へ繋ぐやりがいと課題
ー学芸員というお仕事のやりがいや魅力について教えてください。
小林:学芸員の仕事は、本当に多岐にわたる業務に携われることが魅力だと感じています。自分の専門である考古学だけでなく、様々な種類の文化財に関わる機会があります。
文化財の調査や研究を通じて、大学の先生方や地域の研究者の方々との交流もあるため、常に新しい学びや発見があるのも、この仕事の魅力ですね。
また、歴史講座などを通じて市民の方に文化財の魅力を伝え、理解を深めてもらう活動もやりがいがあります。
発掘調査が行われた際には、現地で説明会などを開催し、実際に確認された遺構や土器・石器といった出土品に触れてもらいながら、歴史を肌で感じてもらうことを大切にしています。
私自身、言葉で伝えるのが苦手な分、市民の方々が熱心に話を聞いてくださったり、じっくりと文化財を見てくださる姿を見ると、この活動に力を入れていきたいと強く感じます。

ーこれまでの学芸員としてのお仕事の中で、特に印象に残っている出来事はありますか?
小林:これまでの業務で最も印象に残っているのは、新宮下本町遺跡が国指定文化財(史跡)に指定されたことです。
発掘調査では、かつての港の倉庫街を彷彿とさせる地下式倉庫の跡が多数見つかりました。これは、中世に多くの参拝者が訪れたことにより栄えた熊野速玉大社の門前町として、当時の新宮が経済的にいかに発展していたかを示す、貴重な実物資料です。
この遺跡が発見されたのは、文化施設(ホール・図書館)の建設に伴う事前調査の時でした。
文化施設の建設という公共事業を進める中で、この重要な遺跡が見つかったため、建設推進と文化財保護をいかに両立させるかという、非常に大変な調整が必要でした。
保護を求める声や、早期の施設建設を望む声、様々なご意見がある中で、文化庁などとも協議を重ね、施設の設計変更を行い、遺跡をできる限り壊さない形で残しました。
最終的には、保存した遺跡の部分が国の指定文化財として保護されることになり、このプロセス全体に携わったことは、私にとって非常に貴重な経験となり、今でも鮮明に心に残っています。

ー学芸員の仕事には、やりがいだけでなく厳しさもあると思います。大変なことや苦労することについて教えていただけますでしょうか?
小林:やはり、開発との調整は大変です。発掘調査は開発に伴って実施されることが多いため、開発事業者の方々との調整が必要になります。
開発側としては効率性や低費用を求めるため、文化財保護との両立を図ることは、時に非常に難しい調整となります。
また、現場での作業も厳しいです。特に夏場の暑い時期には、屋外での作業が体力的にきついと感じることもあります。
さらに、新宮市民の皆様は歴史や文化への関心が高い方が多いですが、持続的に文化財を保護していくため、全く興味のない方々に理解を得る難しさも感じます。
また限られた予算の中で、いかに効率的かつ最大限の成果を出せるかを常に考えながら業務に取り組む必要があります。
協力と理解で支える働きやすい環境
ーワークライフバランスについてお伺いします。残業時間や休日の取りやすさはいかがでしょうか?
小林:現在、文化振興課の事務所は文化施設内にあります。
文化施設が月曜休館で、土日は開館しているため、私たちも月曜を休みにし、土日のどちらかが出勤となるシフト制の勤務です。
そのため、一般的な公務員の「月~金」の勤務形態とは少し異なります。
文化関連のイベントや歴史講座などは土日に開催されることが多いため、休日出勤をすることもありますが、代休取得についてはある程度融通が利きます。
発掘調査を実施する際は、日中現場に出て、帰ってきてから事務作業をするため、残業が増えることもあります。また専門性の高く、業務が集中するため残業がないとは言えませんが、普段の業務で長時間残業が常態化しているということはありません。

ー職場の雰囲気について教えてください。上司や同僚との関係性、風通しの良さなどはいかがですか?
小林:私たち文化財係は、文化施設内の小さな一室で、上司である主幹と課長補佐の学芸員、そして事務職員1名と会計年度職員2名の計6名で働いています。
みんな気さくな人が多く、先輩方も話しかけやすい雰囲気です。お互いの業務内容を把握し、協力しながら仕事を進める、風通しの良い職場だと感じています。
他部署との交流については、新宮市は世界遺産があり、近年は観光振興に力を入れているため、観光部局との連携が大切となっています。また開発に関わる建設部局とは情報共有するなど、協力しながら業務を進めています。
歴史と自然が織りなす新宮市の魅力
ー学芸員の小林さんだからこそ伝えられる新宮市の魅力について教えていただけますでしょうか?
小林:新宮市を含む熊野地域は、本当に歴史と自然が豊かな場所です。
特に新宮には熊野三山のひとつ、熊野速玉大社があり、その門前町として発展してきた歴史があります。中世には、上皇をはじめ多くの人々が熊野詣に訪れました。
また、江戸時代には新宮城が築かれ城下町としても栄え、近代以降は木材業が発展し、非常に活気のある地域でした。現在もこの地域の商業の中心地として機能しています。
このように歴史が豊かで、学芸員として働く上で文化財が豊富にあるのは大きな魅力です。これらの文化財の保護や活用に携われることは、この仕事の醍醐味だと感じています。

未来の仲間へのメッセージ
ー最後に、新宮市役所の学芸員を目指す方へのメッセージをお願いします。
小林:新宮市は歴史や文化が豊かな場所であり、この地域の住民の方々も、歴史や文化に深い興味を持っている方が多く、文化財保護の仕事を応援してくださる方が多いです。
学芸員の仕事は、専門的な知識を活かしながら地域の人々と深く関わり、協働していくことができる、やりがいのある仕事だと感じています。
先人たちが大切に守り伝えてきてくれた文化財を、後世に繋いでいくのが私たちの使命です。
ぜひ、その使命を一緒に担っていただける方に、新宮市に来ていただけたら嬉しいです。

ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年9月取材)