前例ゼロ。それでも国へ─つながりから始まった出向の裏話。
ーどのような経緯で文部科学省への出向が決まったのですか。
春日市はコミュニティ・スクールを全国に先駆けて進めてきたという背景があります。文部科学省のコミュニティ・スクールを担当する部署や教育委員会制度を担当する部署の方々が、春日市に視察や挨拶に来られたり、国会の説明資料として春日市の事例をあげたいと資料提供を求められることもあり、日常的に”つながり”がある中で、文部科学省で働いてみないかと声をかけていただきました。

ーもともと文部科学省とのつながりがあったのですね。
平成24年に全国コミュニティ・スクール研究大会in春日市を文部科学省と一緒に開催できたことも大きかったですね。全国から1,400人を超える方々が春日市に来てくださいました。
私の中では、文部科学省は、他の省庁等と異なり、行政職ではなく、教職員が出向する場所という認識だったので、話を聞いたときは、私のような行政職でも行けるんだということに大変驚きました。文部科学省という教育の方向性を大きく決めていく機関に、地方自治体の行政職である私が身を置くことで、もしかしたらできることがあるのかもしれないと、正直ワクワクしました。

しかし、当時春日市から省庁への派遣・出向や割愛人事(一旦退職して省庁の職員になる制度)の前例はなく、すぐには実現しませんでした。そんな中で、私が挑戦できるように、当時の教育長や元部長などが積極的に動いてくださり、さらには、春日市の地域住民や保護者、教職員の皆さんが私の背中を押してくださったおかげで、1年間我慢することにはなりましたが、無事に文部科学省に行くことになりました。
締切は15分後!?国で働いて初めて知った“仕事のスケール”
ー実際に働いてみて、国と市の働き方に違いはありましたか?
国では、様々な施策が絡み合っています。例えば、コミュニティ・スクールは教職員の働き方改革など教育全般と関連していますし、厚生労働省の放課後子ども教室や学童保育、総務省の地方交付税算定なども関わってきます。省庁間、省内部署間の連携が不可欠で、仕事のスケールも大きく、情報量も膨大です。インプット、アウトプットの量が全く違いました。

また、国では仕事の切迫感が違うというのが正直な印象です。仕事はメールベースで様々なやりとりをしていましたが、依頼が来てから締切りが15分後なんていうこともありました。様々な部署や他省庁と絡むので調整も多く、当事者意識を持って、一つ一つこなしていかないと仕事が終わりません。組織の中で自分たちの部署だけが良ければよいといった考えをしていては、全体が動かなくなるということを痛感しました。それはプレッシャーでもありますが、それとともに頭フル稼働でやりがいもすごく感じました。
ープレッシャーが大きい分、達成感も大きいのですね。
市役所が緩いというわけではなく、仕事の質が全然違うのかなと思いました。市役所の方が国と違って現場というものが近くにあり、目の前に課題があって、対応していかなければなりません。国では、全国的な課題に必死に取り組んでいても、それが目の前で起きているという実感を感じにくいところもあります。「現場のことが分かっていない」と言われることも多々ありましたし、時間的な制約もあり苦しかったところもあります。
国に身を置けたことで、国と市どちらが良いとか悪いかということではなく、国と市それぞれの良いところも課題も気づくことができ本当に良かったなと感じています。

ー春日市に戻ってから、その経験をどのように活かされましたか。
現在は議会事務局ですが、戻って最初に配属されたのは、財政課でした。文部科学省では、全国の地域学校協働活動に対する補助金やコミュニティ・スクールの委託事業などを担当していて、財務省と予算の交渉を行うこともありました。各省庁の補助事業だったり、国の予算の流れや仕組みがよく分かるようになりました。

財政課では各所管の事業や予算をチェックしますが、例えば、とある部署の事業費について、国の補助金の活用を提案することができました。国の視点から地方自治体の財政を俯瞰できた経験を活かし、貴重な税金をより効果的に使えるようにするにはどうしたらよいかを意識しながら仕事に向かうようになったと感じます。

つながりが仕事を面白くする。文部科学省で一番ワクワクした仕事。
ー文科省で特に印象に残っている仕事は何ですか。
全国で開催されるフォーラムを企画・運営したことです。自分が教育委員会時代からこれまでに知り合った全国の面白い取り組みを行っている人たちを、フォーラムを通じて全国に紹介できる!とわくわくしました。
高校生にパネルディスカッションに参加してもらったり、春日市の自治会長に登壇してもらったりもしましたし、他にも、壇上にソファーを置いて雑談形式のセッションを行ったり、有名企業の新商品発表のような、パソコンや机、椅子を並べずに立ったままプレゼンしてもらったりと、様々な企画をかなり自由奔放にさせてもらいました。

ー文部科学省のイベントでもそんなに面白い企画ができるんですね(笑)
面白いことを企画し、面白い人たちを登壇させる。春日市の教育委員会時代から築いてきた全国の人脈と、文部科学省でさらに得た人脈をフル活用しました。全国規模のイベントを企画・運営するのは、本当にやりがいがありましたし、めちゃくちゃ面白かったです。本当に良い思い出です。この時の経験が今の自分の活動にも生かされています。
ー東京での生活で、仕事以外に楽しかったことはありますか?
業種を問わず全国の色々な方々に出会えたこと、公務員の仕事だけしていては出会えない学びに触れることができたことでしょうか。銀座で飲んでいたらたまたま隣の席にいた財務省の方と仲良くなったり(笑)、文部科学省内の若手研修会や総務省、経済産業省などの様々な研修に自ら積極的に参加していました。

他にも、せっかく東京にいるのだからと、大手企業の人事や人材育成を担当する方々が参加するような研修にも参加しました。そこでしか得られない学びと出会いがありましたね。当時はまだオンラインが主流ではなかったので、直接足を運んでいました。
ーどのようなモチベーションで自主的に研修に参加していたのですか。
一見仕事とは関係がないようなことにも興味を持ち、積極的に外に出て行くことで、新しい価値に触れることができます。このことが結果として、仕事にも生かせることになります。仕事が忙しい中で、やらなくても良いことはなかなか積極的にはやらない、そもそもやれないかもしれませんが、外に出て行くこと、雑談や余白というものがなければ、新しいことを生み出したり、視点を変えた別のアイデアを考え出したりはなかなかできないのではないかなと思います。

現在、文部科学省コミュニティ・スクールマイスター(CSマイスター)として活動を行っていますが、市役所の中の仕事だけしていても良い考えやアイデアは生まれないなと個人的には考えています。やはり、外に出て”つながり”を作っていくことが大切だなと思います。
ーCSマイスターとしては、どのような活動をされているのですか?
文部科学省では、全国でコミュニティ・スクールを積極的に推進する有識者をCSマイスターとして委嘱し派遣する立場でしたが、文部科学省での3年間の勤務を経た後、春日市に戻ってからは、なんと私自身がCSマイスターになりました。不思議なものですね。
都道府県や市町村の教育委員会等から講師として呼ばれ、年間30回くらいでしょうか、講演やワークショップなどを行っています。今年は特に佐世保市から呼ばれて、年間7回ほど訪問する予定です。先日は五島列島の最北端にある宇久島という人口1,600人ほどの島の小中学校に行ってきましたよ。

いろいろな自治体や学校を訪問することで、自分の知らなかった価値観や情報をインプットすることができます。私は服装に自分なりのこだわりがあるのですが、他自治体が通年で自由な服装スタイルで仕事を行っているなどの情報を知れることで、「春日市ではなんでしないのかな」とかに気付けます(笑)。全国には同じような考えを持っている人や逆に違う考えを持っている人がいて仲間がいる、このことが後ろ盾になり、自信を持って自分のスタイルを貫けるようになったりします。
話は少し変わりますが、春日市に戻ってきて、変えたいと思ったルールがあったのですが、その際は全国の学校事務職員の方々にFacebookで現状を問いかけ、その結果を元に新たなルールを提案することができました。全国に繋がりがあったからこそできたことですし、聞ける人が全国にいるというのは大変心強いことです。

目指すは100人の大人がいる学校?!子どもを救う、“斜めの関係”
ー今後この経験を活かしていきたいことや、やりたいことはありますか?
願望としては、教育委員会に戻って学校の授業改善などを通じて、学校の在り方を見直していきたいです。最終的には、不登校の生徒がいなくなり、誰もが通いたくなるような学校を作りたい、という想いがあります。
そう感じたのは、近年の不登校の増加や、コロナ禍で学校の活動が制限され、子どもたちの心身に影響が出ている現状を目の当たりにしたからです。先生方の忙しさも深刻な問題になっています。
毎日100人とか、地域の方々が多すぎるくらいに学校にいてくださるような学校を作りたいですね。理想論かもしれませんが、これだけ人が多いと、いじめや事件等は逆に起こらないのではないでしょうか。
そして、一番は多くの大人がいればいろんな経験をした人がいるはずです。「好き」を仕事にしてキラキラしている大人、社会を変えるために懸命に動いている大人、不登校だった経験を持つ大人、いじめを乗り越えた経験を持つ大人など、友人関係に悩んできた高校生や大学生、様々な経験をもった人が身近にいることで、子どもたち気軽に相談することができます。こういった経験者の存在は、子どもたちにとって大きな支えになります。いわゆる「斜めの関係」を築ける場所を作りたいんですよ。

これは、学校に限らず、もっと言いたいことが言い合える職場、人間関係を、市役所の中でも、学校の中でも、地域の中でも作っていきたい。それが、私の究極的な目標かもしれません。それは、いつどこにいてもできることです。だから、私はなるべくざっくばらんに、話しかけやすい存在でいたいし、なんか変わってる人がいるなと興味持ってもらえるような、そういう雰囲気、空気感をまとっていたいと思っています。
民間企業と迷っているあなたへ。市役所でしか得られない魅力とは。
ー最後に、受験生へのメッセージをお願いします。
今の時代は、比較的民間の賃金が高い中で、市役所の仕事の魅力は何かと問われれば、色々な人に出会えることだと答えます。地域の方々と直接話をし、様々な価値観に触れることができる。また、異動すれば180度違った仕事ができます。毎日が研修のようなものであり、学びの連続です。それが面白い。
民間企業では、その業種によるかもしれませんが、同じような内容の仕事しかできなかったり、同じ業界の人くらいしか関わらないことが多いということもあるかもしれません。これは、多くの人と出会ってきての個人的な見解ですが。役所では多様な分野の人々と仕事ができます。多様性という点では、市役所が一番かもしれません。
人として成長できる、良い学びと繋がりの場になる可能性があります。しかし、それも結局は自分次第です。当事者意識を持って取り組める人に、ぜひ来てほしいです。そして、入庁したらぜひ私に声をかけてくださいね。




