「公務員試験」と聞くと、何を思い浮かべますか?高い筆記試験のハードル、完璧に準備された志望動機……。しかし、愛知県岡崎市が求めているのは、少し違うかもしれません。
いわゆる「公務員試験対策」をしていなくても受験できる「SPIコース」や、成果物そのものだけではなく「そこに至るプロセス」や人物性をより重視するユニークな「自己PR試験」。岡崎市は、経歴や点数だけでは見えない「人」そのものと向き合おうとしています。
今回は、ご自身も岡崎市への熱い想いを胸に入庁した、人事課の榎津さんにインタビュー。岡崎市が求める人物像、選考で本当に見ているポイント、そして入庁後の手厚い育成体制や「まちをつくる」仕事のやりがいについて、詳しく伺いました。
「失敗してもいい」「リーダーでなくてもいい」。そう語る榎津さんの言葉は、これからのキャリアを考えるすべての人にとって、大切なヒントになるはずです。
- 岡崎市が求める「自律的行動型職員」と、選考で伝えるべきこと
- 「人を見る」岡崎市の採用試験とは
- 安心して働くことができる。充実の育成体制
- 「市役所のリアル」配属・キャリアとやりがい
- 地元愛と温かい人間関係。市役所で働く理由
- 求職者へのメッセージ。「まちをつくる仕事」に挑戦しよう
岡崎市が求める「自律的行動型職員」と、選考で伝えるべきこと
ー早速ですが、岡崎市では採用試験を実施するにあたり、どのような人物を求めているのでしょうか?
榎津:我々が求めているのは、ずばり「自律的行動型職員」です。自分で積極的にいろんなことに興味を持ち、自ら考えて責任をもって市民のために行動に移してもらう、ということです。
ーその「自律的行動型職員」というのは、何か方針等に基づいているのでしょうか?
榎津:「人材育成基本方針」というものもありますが、それ以前に「職員が良くなることで、市民も岡崎市もより良くなっていく」という根本の考えとして昔から持っているものです。
当然、時代は変化していますので、常に新しい視点を持つことも重要です。例えば、昔は道路や建物といったインフラを作っていくことが盛んでしたが、これからはすでにあるインフラやサービスをどのように維持、あるいは磨きをかけていくのか、場合によっては廃止や機能の統合なども検討していく必要があります。
これまで築き上げてきた考え方、働き方を引き継ぐことももちろん大切ですが、それ以上にこれからやるべきことを自ら考え、そしてそれを行動に移せるような方に来ていただきたいですね。
ー「自ら考えて行動する」となると「責任」も伴いそうですね。
榎津:「自分で考えてやった結果なんだから、自分で責任をとってくれ」なんてことはもちろんありません。組織である以上、最終的に責任をもつのは上司であり、組織です。
ただ、その行動に至るまでのプロセスや考えをしっかりと持つことや、それを自ら説明することはとても大切だと考えています。

ー「自律的行動型職員」であることをPRするには、どのようなことを伝えればよいでしょうか?
榎津:我々が選考の中で一番知りたいのは、「今まで何を考えて学んできたか、そしてそれを今後の岡崎市のためにどのように活かしていきたいか」ということです。そのため、過去にどんな考えを持って、どんな行動を起こし、それがどんな結果になったかを、まず自身の中で整理しておくことをお勧めします。
そうして整理した情報を基に、「この経験からこんなことを学びました」、そして「この学んだことを、岡崎市のためにこんなふうに活かしたいです」という流れで伝えてもらえると嬉しいですね。
面接では成功体験を語る方が多いと思いますが、結果は「失敗」でも全然構いません。大切なのは結果ではなく、そこから何を学んだのかだと思っています。
ー部長やリーダー経験などと紐づけてPRする方も多いと思いますが、やはりリーダー経験や功績などは大切になってきますか?
榎津:それは全く関係ないと思っています。
組織で働く以上、みんながみんなリーダーでなくていいんです。人にはそれぞれ得意分野がありますよね。リーダータイプばかり集めるのではなく、「縁の下の力持ち」タイプの人も必要です。それぞれの得意分野を活かし、不得意な部分を補い合うことで、チームとして一番大きな力を発揮できると考えています。
先程の繰り返しになりますが、目立った功績である必要はないので、自分が経験してきたこと、学んだこと、考えてること、そしてこれからどのように活かしていきたいかを率直に教えていただきたいですね。
ー続いて志望動機についてもお伺いしたいのですが、「本気度」はどのようにしたら伝わりやすいのでしょうか?
榎津:うーん、これは難しい質問ですね(笑)
例えばインターネット上によく載っているような、「岡崎市の仕事」や「岡崎市の魅力」みたいなものだけを伝えられると、正直、「調べたことをまとめただけかな」と思ってしまうと思います。なぜなら、その人自身の想いが見えてこないからです。
これは私自身の就職活動での話になりますが、私は中学校の頃、授業の一環で岡崎市を流れる乙川(おとがわ)の水質問題を調べていたことがあります。その際、市役所の方に話を聞きに行ったのですが、今でもよく覚えているくらいすごく丁寧に教えてくれたんです。その時のイメージが非常に良く、後に岡崎市役所のインターンシップにも参加し、入庁に至りました。
お手本となるようなカッコいいものではないかもしれませんが、自らの経験で「働きたい」と感じた、私だけの志望動機だと思っています。

ーなるほど。ご自身の原体験が志望動機になっているんですね。
榎津:そうですね。インターネット上で集められる情報だけではなく、実際に自分で体験したことを結びつけることで、自ずと本気度は伝わってくるものだと思います。
民間企業なら職種や企業の知名度で選ぶこともあるかもしれませんが、公務員は考え方が少し違うと思っています。「岡崎市をどういったまちにしていきたいか」を考え、実行するのが我々の仕事です。
根底には「この岡崎市をより良くしたい」という気持ちがあるはずなので、そういった熱意が見えるようにPRしてほしいですね。
ー「岡崎市を良くしたい」という思いがあれば、地元出身かどうかは採用に関係ないですか?
榎津:全然関係ないです。今では本当に市外出身・在住の方も多いですし、男女比率も大きな偏りはありません。むしろ最近は市外出身の方も増えてきていると感じますし、市外出身の方もすごく活躍してもらっている職場だと自信を持って言えます。
「人を見る」岡崎市の採用試験とは
ー続いて、岡崎市の採用試験の特徴について詳しく教えていただけますか?
榎津:一番ボリュームの多い一般事務職でお話ししますと、「SPIコース」と「教養コース」の二つがあります。
「SPIコース」は、より人物重視の採用試験です。いわゆる「公務員試験」の勉強をしていなくても受験でき、民間企業とも併願しやすいのが特徴です。特徴的なところで言うと面接試験の中に「Web面接」や「自己PR試験」が含まれています。
「教養コース」は、昔ながらの公務員試験スタイルですね。教養試験の勉強をしていただき、その後個人面接があります。
また、事務職などの一次試験では「録画面接試験」を導入しています。先ほど市外出身の方も活躍していると言いましたが、こういった試験方法を取り入れることで、市外や県外に住んでいる方も受けやすい体制を整えています。
技術職員の試験は「専門コース」になりますが、大学の授業+αで対策していただくだけで充分対応できるレベルです。
一般事務もそうですが、技術系の方も、「公務員だから難しい」と構えたり諦めるのではなく、ある程度対策すれば十分合格できる、入り口は広いという感覚で受けてほしいなと思っています。
ーSPIコースに含まれる「自己PR試験」とは、具体的にどのようなものでしょうか?
榎津:そうですね。直近の試験内容をベースにお話しすると、事前にご自身のPR内容をシートで提出いただき、それを使ってご自身の得意なことや、これまでやってきたことをお話ししてもらいます。
ーそれは面接試験の中で行うということですか?
榎津:そのとおりです。そのため、自己PRとは別に、通常の面接のような質疑応答もあります。
パソコンを持ち込み投影するようなことはできませんが、例えばプレゼン用の用紙や成果物を持参いただくのは構いません。
私は面接官を担当しているわけではありませんが、以前、私が面白いなと思ったのは、3Dプリンターで愛知県の形の模型を作ってきた方のお話しです。ご自身の得意分野を活かして作った成果物を持ってきて説明してくれたんです。
ー成果物を持ち込み、それを見せることはOKなんですね?
榎津:はい。ただ、我々は単純にその成果物を見ているわけではありません。そこに至るまでのプロセスや工夫などを伝えていただく必要があります。
例えばその模型を持ってきた方は、「自分が興味を持って、大学のこういう施設に自らお願いをしに行って作りました」と説明してくれたんです。てっきり、大学の授業や研究の一環で作ったものかと思っていたので、意外だったということもあり、とても印象に残っています。
自ら行動に移したということも、とてもよく伝わってきましたね。
ー単純な成果品ではなく、そこに至るまでの行動や考えが重要なんですね。
榎津:その通りです。だから、先ほど話に出たリーダー経験とか功績がある必要はないんです。
繰り返しになりますが、結局は「どんなことを考えて今まで生きてきて、どんな行動に移し、何を学んだか。そして、それを岡崎市でどう活かしていきたいか」という「自律的行動型職員」として働くことができる人材であるかどうか、というところに集約されますね。
安心して働くことができる。充実の育成体制
ー社会人になる、更には公務員になることに不安を抱える方も多いと思いますが、育成体制についても教えていただけますか?
榎津:これまでに勉強したことが、仕事ですぐにそのまま使えるとは限りませんので、不安に思う気持ちはとてもよくわかります。岡崎市ではその点をしっかりフォローする体制があります。
まず「チューター制度」です。職場でなるべく年の近い先輩が専属でついてくれて、仕事の仕方はもちろん、仕事で悩んだ時やそれ以外のプライベートなことまで相談に乗ってもらえる仕組みです。
それと、「グローイングアップ」という冊子を使った取り組みもあります。これは、チューターや係長と一緒に、月1回程度の面談を通して、半年間の成長の記録を作っていくものです。

ー手厚いフォロー体制ですね。
榎津:そうですね。岡崎市は育成をとても大切に考えています。チューター制度やグローイングアップのほか、部署によっては専門の研修も人事課とは別に用意されていますし、もちろん人事課としても、前期・中期・後期と研修を用意しています。
前期では接遇、マナー、電話応対、ほうれんそう(報告・連絡・相談)といった社会人としての基礎を学びます。
人事課が基礎能力をバックアップし、職場ではチューター制度やグローイングアップで成長を見守り、所属によっては専門研修も受けることができます。皆さんがきちんと業務をこなせるようにサポートしていく仕組みになっています。
「市役所のリアル」配属・キャリアとやりがい
ー入庁後の配属についても気になるところですが、希望を伝える機会はあるのでしょうか?
榎津:まず入庁前、内定者交流会を10月頃と12月頃の2回開催しています。その際に「どういった部署に興味があるか」というアンケートを取っています。そのアンケート内容や、履歴書に書かれた内容、ご本人の性格なども見ながら、なるべく希望を叶えられるよう配属を考えています。
入庁後も、年に1回、自分が興味のある部署を申告する「自己申告制度」があります。
もちろん、本人の希望だけでなく所属長の意見もありますし、最終的には組織トータルで判断するので、全員の希望が叶うわけではありませんが、職員がどんなキャリアを歩みたいかを確認する機会はきちんと設けています。
ー異動の頻度は決まっているのでしょうか?
榎津:岡崎市では明確なルールは設けていません。所属の人員配置や業務事情によって前後することももちろんありますが、一般的には若い頃は3年から5年程度で異動することが多いかと思います。
ーちなみに、榎津さんご自身はこれまでどのような部署を経験されたのですか?
榎津:私は、農務課と、保育課と、現在の人事課です。分野でいうと全然バラバラですね。しかも最初の農務課には8年所属していました(笑)
ー様々な分野を経験されてきた中で、公務員として働く「やりがい」はどのような点だと思いますか?
榎津:自分は、どの部署でもやりがいは多くあると思っていますが、その中でも特に最初の部署で、市民や事業者と触れ合うことが多かった農務課が印象深いです。相手が事業者の方や農家の方々だったので、皆さんと一緒に「どうすれば岡崎市の農業が良くなるか」を考え、政策を練り、時には一緒に現場で汗を流すこともありました。
そうすると、本当に高い頻度で「ありがとう」とか「助かった」と声をかけてもらえたんです。
人って、必要とされているとか、世の中の役に立っていると感じることに、一番のやりがいを見出すと思うんです。いわゆる動機付け要因というものですかね。人から感謝される、人のためになっている、という感覚は、農務課時代に一番強く感じましたし、それが大きなやりがいになっていました。
地元愛と温かい人間関係。市役所で働く理由
ーお話を伺っていると、榎津さんご自身が岡崎市で働くことを楽しんでいらっしゃるように感じます。職場の雰囲気はいかがですか?
榎津:雰囲気はとても良いと思っています。自治体に限った話ではありませんが、職場の空気はその自治体や企業により大きく変わります。岡崎市は、比較的アットホームというか、雰囲気良く働きやすい職場環境だと感じています。
もし興味がある方がいたら、ホームページ等の情報だけでなく、一度市役所に来ていただいて、職場の雰囲気を見てもらうと、人間関係の良さも伝わるんじゃないかなと思います。
ー職員同士の交流も多いのでしょうか?
榎津:そうですね。毎年一定規模の採用もしているため同期も多いですよ。事務職だけでも何十人も入りますし、もちろん同期には様々な職種がいます。技術職など職種を超えた仲間ができるのも魅力です。
職場のメンバーも本当に仲が良いので、働きやすい職場だと自信を持って言えます。
部活動も、野球、ソフトボール、マラソンといったスポーツ系が盛んですね。一方で茶道部もあったりして、和室で活動しています。仕事以外でも、旅行に行ったり飲みに行ったり、和気あいあいとしていますよ。

求職者へのメッセージ。「まちをつくる仕事」に挑戦しよう
ーこれから受験を考えている方に、「こんな楽しみが待ってるよ」と伝えたいことはありますか?
榎津:市役所の仕事は本当に幅広いです。希望の部署に必ず行けるわけではありませんが、どの部署に行っても、必ず面白いことや、解決すべき課題が見つかります。そこに、きっとやりがいが生まれてくるはずです。
法令等に沿った仕事をメインにする部署もあれば、全く真逆の、ゼロから物事を考える部署もあります。
市役所には何千人という職員がいますが、みんなで協力して「どうすれば岡崎市が一番良くなるか」をトータルで考えていく仕事です。人も部署も多いからこそ、みんなで協力して一つの物事や仕事を作り上げていくことに、ぜひ楽しみを見出してほしいなと思います。
人間関係が上手じゃなくても、その人が輝ける場所、例えば裏方で支えるような仕事も必ずあります。
岡崎市をより良くするために、みんなと一緒に協力して働ける人、そこに楽しさを見出せる人を求めています。
ーとても心強いですね。あらためて、求職者の方々にメッセージをお願いします。
榎津:職種に関わらず、市役所では「まちをつくる」という、民間企業ではできないスケールの大きな仕事ができます。
そして、公務員だからといって試験のハードルが高いわけでは決してありません。岡崎市では色々な状況の人が受けやすい試験も用意していますし、思い立った時からでもきちんと対策をすれば必ず合格できます。「公務員だから難しい」と決めつけず、まずは興味を持って、話を聞いたり、試験を受けてみてほしいですね。
人事課のホームページには、インターンシップや「就活サポートミーティング」等の説明会等の開催や就職説明会への参加予定等の情報も掲載していますので、ぜひチェックしてください。
もしそういったタイミングに合わないという場合も、人事課に電話やメールをいただければ、お話しさせていただきます!
ー本日はありがとうございました。
ご自身の原体験を交えながら、終始和やかに、そして熱意を持って岡崎市の魅力を語ってくださった榎津さん。そのお話から、「人」を大切にする岡崎市の温かい眼差しが伝わってきました。
特に印象的だったのは、「失敗しても構わない、そこから何を学んだかが大切」という言葉です。採用試験では「成功体験」を語ることに必死になりがちですが、そこに至るまでの悩みや試行錯誤のプロセス、さらにそれを今後どう活かすのかをこそが、その人自身を形づくるもの。岡崎市は、その「あなただけの物語」に、真摯に耳を傾けてくれる場所なのだと感じました。
「アットホームな職場」という言葉通り、一人ひとりの個性を尊重し、チームで「まちをつくる」仕事を楽しむ。そんな素敵な未来が待っている岡崎市役所に、ぜひ一歩踏み出してほしい。そう背中を押してくれるような取材でした。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年10月取材)



