「公務員」と聞くと、どのようなイメージが浮かびますか? 「堅実そうだけど、少し堅苦しいかもしれない」「若いうちはなかなか裁量を持てないのでは?」 そんなイメージを軽やかに覆してくれるのが、愛知県岡崎市役所の働き方です。
入庁1年目から「SDGs未来都市計画」の改定作業といった重要な業務の「主担当」を任される。 しかし、それは決して「丸投げ」ではなく、チューター制度や先輩・上司の手厚いフォロー体制に支えられています。
今回お話を伺ったのは、大学進学で上京した後、地元愛からUターン就職を選んだ、企画課の山﨑さん。なんとまだ入庁してから約半年です。「対策はほぼしなかった」というマイペースな就職活動、若手の意見も否定せず耳を傾ける職場の雰囲気、そして「都会田舎(とかいなか)」と語る岡崎市の魅力まで。 「堅苦しさ」とは無縁の、フランクで風通しの良い職場で、自分らしく挑戦を続ける山﨑さんのお話は、これからのキャリアを考えるすべての人に新しい視点をくれるはずです。
- 入庁半年。社会人生活と「企画課」の仕事
- 1年目から「主担当」。若手にも任せる風土
- 裁量があっても「丸投げ」じゃない。手厚いサポートと相談しやすい環境
- 「ずっと岡崎に住みたい」。Uターン就職とマイペースな就活
- 「都会田舎」の魅力と充実のワークライフバランス
入庁半年。社会人生活と「企画課」の仕事
ー山﨑さんは今年の4月入庁ということで、入庁から約半年、仕事には慣れましたか?
山﨑:そうですね。だんだん仕事のバランスがわかってきたところです。忙しい時期と、今のような落ち着いている時期の波が掴めてきました。
役所の仕事はスケジュールが先に決まっているものが多いですが、企画課はきまっていることが少ないイレギュラーな部署なので、自分でスケジュールを建てながら進める必要があります。日々追加されていく予定に重軽をつけて「ここまでにこれをやっておこう」とマイルストーンを置く作業に徐々に慣れてきましたね。
ー社会人生活についてはいかがですか?生活リズムが変わり、大変ですか?
山﨑:生活リズムについては、実はあまり変わっていないんです。もともと学生時代に派遣のアルバイトをよくしていて、朝5時に起きて夜まで働く、みたいな生活をしていたので、むしろ学生時代よりも朝が遅くなって、「今までよりもゆっくり寝られる」とポジティブに捉えていました(笑)
また、入庁前の2ヶ月、別の部署でアルバイトをさせてもらっていたんです。そこで役所の雰囲気や時間の流れをなんとなく把握できていたので、他の人よりはスムーズに社会人生活に移行できたのかなと思います。

ー準備万端だったのですね。現在配属されているのは「企画課」とのことですが、配属が決まった時の率直な感想はいかがでしたか?
山﨑:配属を知ったのは入庁の1週間前くらいでした。「企画課」と聞いても、「何をやるんだろう?」というのが正直なところでしたね。
「企画」という文字面だけ見ると、イベント運営などをイメージしていたのですが、そういったイベント系は別の課が担当していました。じゃあ企画課の「企画」って何だろうといろいろ調べていたら、「計画」の意味合いが強いとわかったんです。
市のすべての計画の基本となる総合計画など物事を進める根幹を考える部署だと知って、「難しそうだな」と思っていましたね。
1年目から「主担当」。若手にも任せる風土
ー市の「計画」を担うというと、まさに中枢の部署ですね。1年目からそのような部署で働かれてみて、率直に「裁量が大きい」と感じたことはありますか?
山﨑:それはありますね。既に主担当で任されているものがいくつかあります。一番大きいのは「SDGs未来都市計画」ですね。
岡崎市はSDGs未来都市に認定されているのですが、今年がちょうどその計画の改定年で、改定作業のメインを任されています。今までの計画や他の部署の計画を見比べて、「こういう書き方がいいんじゃないか」と自分で比較表を作ったり、係内で何度も打ち合わせを重ねて、課長や部長に確認してもらいながら進めています。

ーいきなり計画改定のメイン担当というのはすごいですね。他にも担当しているものはありますか?
山﨑:もう一つ、東海財務局さんと岡崎市の若手職員で連携して行う勉強会があるのですが、その企画も任されました。
年4回開催するうち、岡崎市が企画する2回の勉強会のグループワークや講演の内容を考えるのですが、「山﨑くんよろしく!」という感じで任せていただきました。
ー勉強会の企画といっても、基本的に参加者は山﨑さんより先輩になるわけですよね?
山﨑:そうなんです。2年目から7年目くらいの方が10数名参加されます。その勉強会の内容について、まず「何を学んでもらうか」から考えて、講師の依頼もしました。
グループワークも、時間や難易度、進め方まで大枠は私が考えて、先輩に手直ししてもらいながら形にしました。当日は、相手方の部長やこちらの課長もいる中で司会進行もやったので、なかなかのプレッシャーでしたね(笑)
今思えば、この勉強会の企画がこの半年で一番難しくて悩んだ業務かもしれないですね。

裁量があっても「丸投げ」じゃない。手厚いサポートと相談しやすい環境
ー不安も大きかったと思いますが、「丸投げ」のような状態ではなく、サポート体制はしっかりとしていたのでしょうか?
山﨑:丸投げされていると感じるようなことは全くありませんでした。基本的には係長が「このぐらいの時期にこの形ができていればOK」とマイルストーンを振り分けてくれるので、それに沿って進めていきます。
「ここまでできました」と、こまめに先輩や係長に確認をお願いしていて、それこそ時間があれば資料やデータを持って、具体的な内容をすぐに相談しに行きます。
先程「調整が難しかった」というお話をしましたが、常にフォローしてもらえる環境にあったため、不安を抱えたままずっと考えていたといったことは全くありません。メイン担当となりつつも、先輩方と一緒に進めることができた、という感覚ですね。
ー1人で抱え込む環境ではなかったんですね。「こうしたい!」といった意見も言いやすい雰囲気なのでしょうか?
山﨑:そうですね。雑談レベルでも、何か思いついた時には「あ、私はこう思います!」と気軽に言えます。
まだまだ実現性まで深く考えられていないということもあり、自分の意見がそのまま通ることはあまりないのですが、決して否定されるようなことはなく「なぜそれが難しいのか」といった視点でしっかりと教えてもらうことができます。
ー入庁後の研修やサポート体制はいかがでしたか?
山﨑:入庁して最初の1週間に集合研修があり、社会人として、公務員としての基礎はそこで学ぶことができます。その後は「チューター制度」があって、職場内の先輩が1対1で指導役としてついてくれます。
このチューターの存在は私にとって本当に大きかったですね。ありがたいことに、私のチューターは年齢も近くて、しかも高校が一緒だったので、最初から打ち解けやすくて、雑談まじりに仕事の進め方やシステムの操作方法まで気軽に聞けました。
半年間は月1回面談もあって、前の月にやったことの確認と、その月の目標を2人で決める、ということもやっていただきました。

「ずっと岡崎に住みたい」。Uターン就職とマイペースな就活
ーそもそも山﨑さんが公務員、そして岡崎市を選んだきっかけを教えていただけますか?
山﨑:実は、中学生や高校生の時に学校でやる「職業診断」で、いつも「公務員が一番向いている」と出ていたんです(笑)
その時は「ふーん」くらいにしか思っていなかったのですが、なんとなく頭の片隅には残り続けていました。
その後、大学受験で東京の大学に進学したのですが、人の多さや満員電車がどうも自分には合わなくて…遊ぶには楽しい街だけど、住むのは少し違うなと考えていました。漠然とではありますが、大学を卒業したら「地元で働きたい」という思いが強くなっていましたね。
ーそこでUターンを考え始めたのですね。
山﨑:はい。名古屋市内で民間企業への就職も考えましたが、やっぱり地元岡崎に帰りたいと思うようになったんです。岡崎市内にももちろん民間企業はあるのですが、転勤などで地元を離れる可能性もあります。
「ずっと岡崎に住み続けたい」と考えた時に、市役所であればそれが実現できるなと思い、受験することを決めました。職業診断の件も覚えていたため、きっとやっていけるだろうと根拠のない自信をもっていました。
ー「地元愛」が決め手だったのですね。ちなみに、試験対策はどのように進めたのでしょうか?
山﨑:あまり参考にならないかもしれませんが、対策という対策はほとんどしませんでした(笑)
3年生の4月には公務員になると決めていたのですが、試験対策は「最後1ヶ月で詰め込もう」と後回しにしていました。周囲にはインターンシップに参加している友人もいたのですが、地元ということもあり私は参加しませんでした。
ただ、こればかりは今思えば参加しておけばよかったなと思いますね。試験対策というよりも、職場環境や雰囲気を知る上ではとても大切な機会だと思います。
ー面接対策についてはいかがですか?
山﨑:よく聞くような、面接の模擬練習や、回答案の作成などは全くしていませんでした。近隣市も併願していて、面接が岡崎市よりも早かったことから、実践で練習を積ませていただいたイメージですね。
そこで「こういうことを聞かれるんだ」と傾向を掴んで、岡崎市の面接に活かそうと思っていました。ただ、対策をしたというよりは、エントリーシートの内容と齟齬がないように、聞かれたことに率直に答えることだけを意識していました。
実際に面接で聞かれた内容も「なぜ志望したか」「学生時代に何をしてきたか」が中心でしたので、用意してきたような文章ではなく、その場で思ったことを正直にお話ししました。

ー実際の面接はどのような雰囲気でしたか?
山﨑:そもそも公務員というものに対して「堅い」というイメージをもっていたので、面接もシーンとした雰囲気で進むのかなと思っていたのですが、率直な感想としては「意外とフランクだった」と思っています。
実際に働いてみても、業務上は確かに例規に縛られる部分も多く、固く感じることはありますが、働いている人自体は気さくな方が多く、決して堅苦しい職場ではないですね。
「都会田舎」の魅力と充実のワークライフバランス
ーワークライフバランスについてはいかがですか?働きやすいと感じますか?
山﨑:まだ経験が浅いため「今の部署」でのお話になりますが、休みも取りやすく、すごく働きやすいと思っています。
本当に「明日休みます」ということが可能ですし、それこそ午後の予定が落ち着いた時であれば当日の午前中に午後休をお願いすることもできます。
係長からも「仕事が落ち着いて余裕があるなら、どんどん休んでね」と言われるので、若手だから休みにくいという雰囲気は全くないですね。先日も有給を組み合わせて6連休をもらい、プライベートで北海道に旅行に行くこともできました。
ー話が少し変わりますが、山﨑さんが思う地元・岡崎市の魅力を教えていただけますか?
山﨑:一言でいうと「都会田舎(とかいなか)」なところですね。市街地には生活に必要なものは何でも揃っていますし、少し車で走れば自然を感じることもできます。
特に私が岡崎で一番好きなのは、市街地の真ん中に大きな川(乙川)が流れている風景なんです。街としてとても発展しているのに、すぐそばには広い河川敷があり、そこで散歩を楽しむことができるんです。
東京にいた頃も、実は多摩川の近くに住んでいて、河川敷で日向ぼっこをしたり、野球少年たちをぼーっと眺めたりしてリフレッシュしていたので、やっぱり自分にはこういう街と自然が身近にある環境が合っているんだなと思います。

ーでは、公務員として働くやりがいはどんなところに感じていますか?
山﨑:私の部署は市民対応がほとんどないので、窓口業務でよく聞くような市民の方からの「ありがとう」を直接いただく機会は少ないです。
ただ、市職員として地域を支えるという大きな目標に変わりはないので、いち職員として自分が作った資料や企画を、先輩たちに褒めてもらえたり、「いいね」と認めてもらえたりすることにやりがいを感じています。
これからもっと色々な仕事を任されると思いますが、プレッシャーを感じつつも楽しんでいきたいですね。
ーでは最後に、未来の仲間へメッセージをお願いします。
山﨑:就職活動で参考になるようなアドバイスはあまりできないのですが、あまり準備をし過ぎるよりも、「どこか縁があるところには受かるだろう」くらいの楽観的な気持ちでいることも1つのポイントだと思います。
愛着を持って働くことが一番大切ですし、愛着があれば面接でも気持ちに偽りない回答ができるのではないでしょうか。
また、社会人になる時、一番不安なのは人間関係だと思いますが、岡崎市役所は同期も先輩も本当にいい人ばかりで、困ったことがあったらすぐに話せる環境があります。そういった部分では、とても恵まれた職場だと自信を持って言えます。
皆さんと働くことができる日を、楽しみにしています!

ー本日はありがとうございました。
「職業診断でいつも公務員と出たんです」と、笑いながら話してくれた山﨑さん。その自然体でマイペースな語り口からは、「ずっと岡崎に住みたい」という純粋な地元愛もじんわりと伝わってきました。
入庁半年でSDGs計画の改定や勉強会の企画を任される。言葉だけ聞くとプレッシャーに満ちた日々に聞こえますが、山﨑さんの表情はとても穏やかです。それはきっと、「丸投げじゃない」手厚いサポートと、若手の意見を「いいね」と受け止めてくれる先輩たちの温かい眼差しがあるからなのでしょう。
「愛着があれば、面接でも気持ちに偽りなく回答できる」。 小手先の対策ではなく、自分が大切にしたい想いを素直に伝えること。山﨑さんの姿は、キャリアを考える上で一番大切なことを教えてくれたような気がします。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年10月取材)



