愛媛県内子町で地域おこし協力隊として活動する大川民恵さんのインタビュー記事です。
ニュージーランドに移住し、さらには永住権まで取得したという大川さんが、なぜ日本に帰国し、内子町に住むこととしたのか。内子町で活動する中で感じた魅力、そして協力隊を通じて実現した夢について伺いました。
好きを仕事にすることの大切さが良く伝わり、とても羨ましくなるような内容です。
ーまずは自己紹介をお願いします。
大川:出身は愛媛県松山市なので、内子町とは比較的ご近所ですね。 短大を卒業後、県内の広告会社に5年ほど勤務していました。その後、現在の夫と出会い、ワーキングホリデーを利用してイギリスでの生活を満喫したり、世界自転車旅行に挑戦したり、ニュージーランドに移住などもしていました。
帰国後、内子町の地域おこし協力隊となり、現在に至ります。本来は3年の任期なのですが、私が着任したときはコロナ禍だったということもあり、特別措置で1年間延長し、現在4年目となります。実はこの3月で任期を終えるんです。

ーご主人はイギリスの方なんですね?出会いはどちらだったのですか?
大川:夫とは松山で出会いました。当時、彼はワーキングホリデーで松山に住んでいて、英語教師をしていました。夫の家族はイギリスで自転車屋を営んでいて、彼自身も自転車が大好きなんです。私は結婚するまで、自転車といえばママチャリしか乗ったことがなかったのですが、彼と出会ってから スポーツタイプの自転車にも乗るようになりました。


ーイギリスでの生活はいかがでしたか?
大川:人生観が大きく変わりましたね。イギリスで初めてサイクリング観光を体験し、すっかり魅了されました!その後、夫と「自転車で世界旅行に挑戦してみよう!」ということになり、自転車で日本からニュージーランドまで旅をしました。
そのままニュージーランドに移住し、8年間生活して永住権も取得することができました。

ーニュージーランドで永住権まで取得されたのに、なぜ内子町に移住しようと思ったのでしょうか?
大川:ニュージーランドでの生活が6年目を過ぎた頃、夫と今後のことについて「このままずっとニュージーランドで暮らすか、それともどちらかの祖国に戻るのか。」といったことをよく話すようになっていました。
最終的に私の母国である日本に帰国することとなったのですが、せっかくならサイクルツーリズムを通じて地域に貢献したい!と考えるようになりました。愛媛県はサイクルツーリズムに力を入れていると聞いていたので、活動の場が広がるのでは?という期待もあったんです。
帰国前に何度か日本に出張する機会があり、そのタイミングで愛媛県内の自治体に移住相談などをしました。内子町にも実際に足を運び、ゲストハウスに宿泊して町の様子を見学していました。内子町は自然豊かで静かな街なので、都会の喧騒はあまり好きではない私たち夫婦にはぴったりの環境でしたね。
早い段階で内子町が移住先の候補としてあがっていたのですが、移住の決め手となったのは、内子町の人の温かさです。何度か訪れるうちに、移住者同士のコミュニティが活発で、温かく迎え入れてくれる雰囲気を感じました。若い移住者も多かったため、私たち夫婦も「ここでなら自分たちのやりたいことに挑戦できる!」と確信し移住を決断しました。

ー地域おこし協力隊のことはどのようにして知ったのでしょうか?
大川:サイクルツーリズムで貢献したかったということもあり、最初は起業支援の相談のため役場を訪れていたのですが、そこで地域おこし協力隊という制度を教えていただきました。
協力隊として地域に根差した活動をしつつ、起業に向けた準備をすることもできるということだったので、まさにこれだ!という感じでしたね。今になってみれば、いきなり事業を始めてしまわなくて本当に良かったと思っています。
ー現在、地域おこし協力隊としてどのような活動をされているのですか?
大川:内子町の観光振興を目的とした活動をしています。面接の際に「自転車観光振興をしたい」と希望していたこともあり、サイクルツーリズムに特化した活動をしています。
着任当初はコロナ禍の真っ最中だったため、観光客誘致もイベント開催も難しい状況だったのですが、まずはできることから始めようと、地域に根差した活動をしていました。ニュージーランドでよく参加していた「コミュニティライド」を参考に、月1回のペースでサイクリングイベントを開催してみたんです。最初は役場のサイクリンググループに声をかけ、5人程度でスタートしたのですが、徐々に町内外の自転車好きが集まるようになり、今では町外からの参加者の方が多いほどです。
このイベントを通して、内子町にサイクリングが根付き、町にサイクリストが増えていく風景を見てもらうことが、地域活性化の第一歩だと考えています。
また、夫はマウンテンバイクが好きなので、町有林を整備してマウンテンバイクトレイルを作る活動もしています。役場の方にも興味を持っていただき、年に1〜2回、地域の方やマウンテンバイク好きと一緒に整備をしています。
一方で、内子町には観光資源がたくさん眠っているにもかかわらず、町並み保存地区以外には観光客がほとんど訪れていないことが課題だと思っています。観光客の滞在時間が短く、多くの観光客が道後温泉などを拠点として、日帰りで内子町を訪れて帰ってしまいます。自転車で周ってもらえれば、魅力的に感じてもらえる場所はまだまだあるので、是非内子町での滞在時間ももっと長くしてもらえるような仕組みを作っていきたいですね。


ー協力隊として活動する中で、やりがいや魅力を感じる瞬間を教えていただけますか?
大川:地域の方と協力して作ったサイクリングマップを、海外からの観光客、特に欧米の方が喜んで使ってくれているのを見た時は、本当に嬉しかったですし、この仕事のやりがいを感じましたね。「自分の国でサイクリングしているみたい!」と言ってくれた方もいて、とても感動したのを覚えています。
このマップがきっかけで、石畳地区のような車がないと行きにくい場所であっても、自転車を活用して行っていただける観光客が増えたと聞いています。石畳地区で一人でサイクリングを楽しんでいる外国人観光客の姿を見かけた時は、地域おこし協力隊として、とても嬉しく誇らしい気持ちになりました。


ーもうじき任期満了とのことでしたが、任期を終えた後も内子町との関わりは続くのでしょうか?
大川:実は夫と二人でここ内子町に「We Ride Japan」という会社を立ち上げました。訪日外国人向けに広域サイクリングツアーを企画・運営するような会社です。多くは10日間ほどのツアーで、しまなみ海道を通って四国から九州まで走ったり、尾道から高知まで走ったりと、色々なコースがあるのですが、どのコースも内子町には2泊程度滞在する行程にしています。
町に少しでも長く滞在してもらい、且つ自転車で町内を回ってもらうことで、内子町の魅力に気づいてもらい、次の観光客のために魅力を発信してもらえればと思っています。より多くの人が内子町に訪れることで、地域活性化にも貢献できると嬉しいですね。


ー大川さんにとって、内子町はどういった点が魅力なのでしょうか?
大川:内子町に移住した一番の理由は、先程お話ししたとおり「人の暖かさ」です。また、私達にとって「ちょうどいい」町でもあります。自然豊かで落ち着いた環境でありながら、活発な移住者コミュニティがあるんです。内子町が好きで、もっと盛り上げたいと考えている移住者や地域の若者が多いと思います。
松山市にも近く、高速道路も通っているので、内子町以外の場所にもアクセスしやすい。そして何よりも、自転車で楽しめる道もたくさんあります!普通のサイクリングマップには載っていないような、素敵な道がたくさんあるんです。
ー最後に、地域おこし協力隊に興味のある方にメッセージをお願いします。
大川:内子町は、先輩方が築いてくれた地域おこし協力隊の土壌があり、地域の方も移住者を積極的に受け入れてくれるような環境です。地域おこし協力隊として、本当に活動しやすい場所だと思っています。
何か困ったことがあっても、相談すれば親身になって一緒に解決策を考えてくれる人がたくさんいます。自分のやりたいことがきっと実現できると思いますので、「やりたい」「変えたい」「チャレンジしたい」という思いのある方は、ぜひ思い切って一歩踏み出してみてください!

ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年2月取材)