長野県伊那市で、保健師として地域に暮らす人々に寄り添う松澤さん。大学病院の看護師から保健師へ、そして地元・伊那市へのUターン。その決断の裏には、どんな想いが紡がれてきたのでしょうか。伊那市での保健師の仕事、風通しの良い職場、そして豊かな自然に囲まれた暮らしなどをお伺いしました。
- 看護師から保健師へ。大学病院での学びを胸に、地元・伊那市へUターン
- 一人ひとりの人生に寄り添う、仕事。保健師のやりがい
- 市民の健康と地域の暮らしを豊かにする仕事
- 「ほどよく人がいない」だから、心地よい。のびのびとした暮らしと子育て
- 自分らしく、やりがいのある仕事を
看護師から保健師へ。大学病院での学びを胸に、地元・伊那市へUターン
ーなぜ看護師から、公務員である保健師を目指されたのでしょうか?
松澤:学生の頃から、人々の暮らしを支える「公務員」という働き方に、漠然とした魅力を感じていました。その後、看護の道を志して4年間学ぶなかで、看護の専門知識を活かしながら地域に貢献できる「保健師」という仕事に、心を惹かれるようになったんです。ただ、当時は保健師の募集が少なかったので、まずは臨床の現場でしっかりと経験を積もうと考え、大学病院の看護師として4年間勤務しました。
ー数ある自治体の中から、地元である長野県伊那市を選んだ決め手は何でしたか?
松澤:やはり、いつかは地元に帰ってきたいという思いが一番強かったですね。自治体の保健師は大きな異動がなく、一つの地域にじっくりと根を下ろして住民の方と向き合える。それがとても魅力的でした。また、伊那市の「ちょうどいい」人口規模感も決め手の一つです。大きすぎず、小さすぎず、住民の方々の顔がある程度見える距離感で、でもプライベートはきちんと守られる。このバランスが、私には心地よく感じられました。
ー病院での臨床経験は、現在の保健師の仕事にどのように活きていますか?
松澤:とても活きていると実感しています。病院という治療に特化した非日常的な空間での患者さんとの関わりを学ばせていただきました。急性期が主の病棟では、小さなお子さんから最期を迎えられる方まで、本当に幅広いライフステージの方と関わらせていただきました。その経験の一つひとつが、今、地域で暮らす多様な方々の生活背景や価値観を理解し、その方に合った支援を考える上で、大きな支えになっています。

一人ひとりの人生に寄り添う、仕事。保健師のやりがい
ー伊那市での保健師の具体的な仕事内容を教えていただけますか?
松澤:伊那市では主に、高齢者の方、成人の方、そしてお母さんと赤ちゃんで担当が分かれています。私自身、入庁当初は7年間、高齢者の方々の健康づくりや生活のサポートに携わりました。現在は成人分野で、循環器健診の運営を担当して、どうすればもっと多くの方に健診を受けていただけるかな、と考えながら仕組みづくりをしています。
生活習慣病予防、重症化予防のために、まずは自分の体のなかを知ることができる循環器健診を受けていただきたいですね。がん健診や、住民の方からのご相談に応じてご自宅を訪問したり、健診結果説明会を開いたり、業務は多岐にわたります。
ー仕事の進め方について教えてください。チームでの連携はありますか?
松澤:お一人おひとりのご相談には、基本的に地区の担当者が向き合いますが、決して一人で抱え込むことはありません。伊那市ではいくつかのエリアごとにチームを組んでいて、チームの仲間とはいつでも「こんなとき、どうしたらいいかな?」と気軽に相談し合えるんです。分野ごとのグループリーダーもいるので、専門的な視点からのアドバイスももらえます。みんなで支え合いながら、一番良い方法を一緒に探していく、そんなあたたかい雰囲気があります。
ーこのお仕事の一番のやりがいは何ですか?
松澤:住民の方との関わりを通して、自分一人の人生では決して経験しきれない、本当にさまざまな方の人生に関わらせていただけることです。そこで一緒に悩み、考え、乗り越えた経験が、また別の方への支援のヒントになる。そうやって経験が繋がり、広がっていくことに、この仕事の奥深さと面白さを感じます。
そして、私たちの関わりによって住民の方がその方らしい生活ができたり、ポジティブな反応でなかったとしてもデータが改善したり、困っていた状況が改善されたりすると、関わってよかったなと感じます。
市民の健康と地域の暮らしを豊かにする仕事
ー公務員の職場というと、少し堅いイメージを持たれる方もいるかもしれません。実際に働かれてみて雰囲気はいかがですか?
松澤:とても風通しが良くて、あたたかい雰囲気だと思います。もちろん上下関係はありますが、部署内はもちろん、部署の垣根を越えた横の繋がりがしっかりしているのが伊那市の良いところですね。組合活動や消防団活動を通して土木や事務の職員など、全く違う分野のプロフェッショナルたちと知り合えるのがとても刺激的です。色々な視点を持つ仲間と関わることで、自分自身の考え方も柔軟になりますね。
市全体で行うお祭りやイベントを手伝ったりもします。住民の方は、健康のことだけを考えて毎日を過ごしているわけではありませんよね。だからこそ、私たちも「健康がすべて」という視点に凝り固まらず、暮らし全体のことを考えられる広い視野を持つことが大切だと感じています。最初は少し戸惑いもありましたが、今ではさまざまな経験ができることを、自分を成長させてくれる貴重な機会だと感じています
ーワークライフバランスについては、どのように感じていますか?
松澤:とても良いバランスで働けていると思います。看護師時代は夜勤もあって不規則でしたが、今は平日昼間の勤務なので、生活リズムが整い、心穏やかに過ごせています。たまに残業もありますが、毎日遅くまで働くのが当たり前という雰囲気ではありません。私が参加している消防団の活動にも職場はとても協力的で、「頑張って」と快く送り出してもらえます。仕事も、地域活動も、そして家族との時間も、どれも大切にできる環境です。

「ほどよく人がいない」だから、心地よい。のびのびとした暮らしと子育て
ー子育て環境としてはいかがですか?
松澤:本当に子育てしやすい環境だと実感しています。我が家には子どもが3人いるのですが、大きな声で騒いでいるので都会のアパートだったら…と想像するだけで冷や汗が出ます(笑)。伊那市は家と家の間にもゆとりがあって、子どもたちが思いっきり走り回れる公園もたくさんあります。周りの目を気にしすぎることなく、子どもをのびのびと育てられるのは、親として何より嬉しいことですね。
自分らしく、やりがいのある仕事を
ー最後に、これから就職活動や転職活動をされる方にメッセージをお願いします。
松澤:伊那市は、仕事もプライベートも、自分らしく、やさしい時間を大切にしたいと願う方にはぴったりの場所だと思います。特に保健師という仕事は、地域の方々の人生に深く寄り添う、本当にやりがいのある仕事です。風通しの良い職場で、多様な仲間たちと力を合わせながら、一緒にこの伊那市で働いてみませんか。豊かな自然と、温かい人々に囲まれて、あなたらしい充実した毎日が、きっとここで見つかるはずです。

ー本日は、ありがとうございました。
穏やかな口調で、一つひとつの質問に丁寧に答えてくださった松澤さん。その言葉の端々から、看護師時代の経験を大切にしながら、地元・伊那市で保健師として働くことへの真摯な思いが伝わってきました。
特に印象的だったのは、「病院とは違う、行政ならではの多様な職員との関わりがおもしろい」と語られていたことです。保健師という専門性を大切にしながらも、その枠にとらわれず、さまざまな視点を持つ仲間との連携を楽しむ。その柔軟な姿勢こそが、住民一人ひとりの多様な生活に寄り添う、伊那市のあたたかい地域づくりの源になっているのだと感じました。
仕事と暮らし、そして地域活動が豊かに調和する伊那市。松澤さんのように、自分らしいバランスを見つけながら地域に貢献したいと願う人にとって、ここは本当に魅力的な場所なのだと、改めて感じた取材でした。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年8月取材)



