「人の役に立ちたい」という純粋な想いを胸に、地元の歴史を未来へ繋ぐ。教員への道から一転、地元・和歌山県の田辺市役所で働き始めた磯﨑さん。
世界遺産・熊野古道の景観を守り、最新のデジタル技術で文化財を後世に残す――。新採用職員としての不安をどう乗り越え、どんなやりがいを見つけたのか。
田辺市ならではの歴史的ロマンと、温かな職場環境の魅力を等身大の言葉で語っていただきました。
- 夢から新たな志へ。田辺市役所を選んだ「縁」
- 緊張の面接から始まった、新社会人としての第一歩
- 歴史的ロマンを次世代へ。世界遺産・熊野古道の景観を守る使命
- 「事務職」の枠を超えた挑戦。最新技術で挑む文化財の保存
- 等身大の自分でいられる。アットホームな職場と充実した日々
夢から新たな志へ。田辺市役所を選んだ「縁」
ーまずは、磯﨑さんの簡単なご経歴について教えてください。
磯﨑:和歌山県の太地町出身です。大学は京都の大学に進学し、4年間の一人暮らしを経験しました。
大学では歴史学部という少し珍しい学部に所属していて、歴史の勉強に明け暮れていましたね。実はお寺へのフィールドワークに行ったりと、かなり専門的に歴史を学んでいたんです。
ーそこからなぜ、自治体職員を目指されたのでしょうか。
磯﨑:もともとは社会科の先生になりたいという夢がありました。でも、教員採用試験に落ちてしまって…。
進路を考え直した時、根底にあった「誰かの役に立ちたい」「市民の方と密接に関わりたい」という想いを形にできるのは市役所ではないかと考えたんです。公務員の安定したイメージも、背中を押してくれました。
ー数ある自治体の中で「田辺市」を選んだ理由は何だったのですか?
磯﨑:大学時代、京都から実家に帰省する際はいつも電車を利用していたのですが、両親が車で迎えに来てくれる場所がいつも田辺市だったんです。
何度も田辺に足を運ぶうちに、活気ある街並みや豊かな自然に惹かれ、「いつかここで、この街のために働いてみたい」という淡い憧れのようなものを抱くようになりました。
そんな時、両親から田辺市の採用試験の情報をもらったのが大きな決め手になりましたね。

緊張の面接から始まった、新社会人としての第一歩
ー採用試験の時のエピソードを教えてください。最終面接はかなり緊張されたそうですね。
磯﨑:はい、本当に緊張しました!1次試験はテストセンターでの基礎能力テストでしたが、2次・3次の面接が山場でした。
特に最終面接は、市の幹部の方々が並んでいらして、入室した瞬間に空気が張り詰めるような感覚がありました。
そんな中、私の緊張を察してくださったのか、面接官の方が場を和ませるような一言をかけてくださって。おかげで肩の力が抜け、自分らしさを出すことができました。
もちろん、想定していなかった質問もありましたが、飾らずに自分の言葉で答えることを意識しました。
ー内定後の心境はいかがでしたか?
磯﨑:合格の連絡をいただいた瞬間は本当に嬉しかったです。でも、入庁日が近づくにつれて「私に本当に公務員が務まるんだろうか」という漠然とした不安が膨らんでいきました。
配属先も仕事内容も、入庁初日まで分からなかったので、ドキドキと不安が混ざった複雑な気持ちでしたね。
ー実際に入庁して、その不安は解消されましたか?
磯﨑:はい、充実した研修制度のおかげで、少しずつ自信を持てるようになりました。
入庁してすぐ、4月に2日間の集中研修があったのですが、その後も2〜3ヶ月に一度のペースで定期的にフォローアップの研修が用意されているんです。
他市町村の職員と合同で行う研修もあり、名刺の渡し方といった基本的なビジネスマナーから、公務員としての心構え、人権、セキュリティ、会計処理の手順まで、実務に直結する内容を基礎から幅広く学びました。
特に、2年目の先輩職員から「こうやって進めるといいよ」と直接アドバイスをいただける時間があり、実体験に基づいたお話を聞けたのはとても参考になりました。
研修を通じて部署を超えた同期との絆も深まり、不安はいつの間にか「よし、頑張ろう!」という前向きな力に変わっていました。

歴史的ロマンを次世代へ。世界遺産・熊野古道の景観を守る使命
ー現在担当されている「景観の保全」というお仕事について、具体的に教えてください。
磯﨑:田辺市には、「熊野古道」という世界遺産があります。私たちの仕事は、その世界遺産の価値を損なわないよう、周辺の景観を守ることです。
具体的には、景観保全区域内での工事や作業の申請を受け、建物の高さや面積、そして「建物の色」などが条例の基準に合っているかを細かくチェックしています。
業者さんだけでなく、一般の市民の方からも「家の壁を塗り替えたい」といった相談をいただいた際は、「この色だと少し派手すぎるので、もう少し落ち着いた色で調整いただけませんか?」といったお願いをすることもあります。
ー市民の方への説明は、難しそうですね。
磯﨑:本当にそうなんです。景観を守る大切さを理解していただきつつ、どう納得していただくか。専門用語を並べるのではなく、いかに噛み砕いて分かりやすく、相手の立場に立って説明できるかを常に模索しています。
まだまだ苦労の連続ですが、「私が調整した一つひとつの判断が、未来の田辺の景色を作っている」という実感が、大きな責任感と誇りに繋がっています。
ー仕事の中でやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?
磯﨑:申請を受けてから工事が終わり、最終的に「完了届」が提出された時です。
そこに添えられた写真を見て、田辺の景観に美しく馴染む建物が出来上がっているのを確認すると、ホッと安心しますね。
自分の関わった仕事が形になり、未来に残っていく。その実感こそが、私のモチベーションになっています。

「事務職」の枠を超えた挑戦。最新技術で挑む文化財の保存
ー最近取り組まれている「デジタルツイン」という活動についても教えてください。
磯﨑:これは建築課と連携して行っているプロジェクトなのですが、文化財をデジタルデータとして精密に保存し、後世に伝えていく試みです。
具体的には、山の中や人里離れた場所にある古い石塔や社などに足を運び、スマホのカメラを使って、文化財を360度さまざまな角度から撮影し、3Dデータを取得します。
ー実際に現場へ行ってみて、いかがですか?
磯﨑:大学時代に本の中でしか見ていなかったような歴史的価値のあるものが、目の前に実物として存在していることに毎回感動します。
「こんな場所にも大切な文化財があったんだ!」という発見もありますし、スマホ一つで最先端の保存活動に参加できるのがとても楽しいです。
事務職だからといってデスクワークに限定されるのではなく、自ら現場に赴き、その空気を感じながら田辺の歴史に触れられるのは、この課ならではの贅沢な経験だと思っています。

等身大の自分でいられる。アットホームな職場と充実した日々
ー職場の雰囲気はいかがですか?
磯﨑:入庁前は「市役所は堅くて厳しい場所」というイメージでしたが、実際は正反対でした。とにかく皆さんが優しくて、アットホームなんです。
私の上司はちょうど父と同じくらいの年齢なのですが、本当にお父さんのような温かさで相談に乗ってくださいます(笑)。若手からベテランまで風通しが良く、分からないことをすぐに聞ける環境に救われています。
仲の良い同期や課の先輩とも一緒にご飯に行くなど、公私ともに充実した日々を過ごせています。
ー働きやすさや、ワークライフバランスについても教えてください。
磯﨑:残業はほぼなく、毎日定時で帰れています。仕事とプライベートのメリハリがしっかりついているので、リフレッシュして次の日の仕事に臨めていますね。
夏季休暇も5日間あり、全日しっかり消化しました。「休みづらい」という雰囲気は一切なく、むしろ「しっかり休んでね」と声をかけてくれる文化があります。
ー最後に、これから田辺市役所を目指す皆さんにメッセージをお願いします。
磯﨑:田辺市役所は、広大な面積と世界遺産、そして新庁舎という素晴らしい環境がある場所です。でも何よりの魅力は、そこに住む市民の方々と温かな職員たちだと思っています。
最初は不安も多いと思いますが、周りがしっかり支えてくれます。誰かの役に立ちたい、地域に寄り添いたいという真っ直ぐな想いを持っている方と一緒に、田辺の未来を作っていけるのを楽しみにしています。
勇気を持って、一歩踏み出してみてください!

ー本日はありがとうございました。
曇りのない笑顔が印象的だった磯﨑さん。大学で学んだ歴史への情熱は、田辺市の景観を守るという誇り高い仕事へと繋がっていることでしょう。
「自分に務まるかな」という不安を抱えていた一人の学生が、新庁舎の清々しい風の中、今では立派に地域の未来を背負っています。
伝統と革新が共存する田辺市で、彼女のような温かな感性が、また新しい歴史の1ページを紡いでいくのだと感じる、優しい取材の時間でした。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年1月取材)



